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4◇治せないココロ



4◇治せないココロ


まさかの奴隷宣言をされてから何回か講義あったけど…




『空港から大学に直行するから迎えに来い』



だなんて先週別れる時、唐突に言われた。え?、だなんて聞き返してしまったのは当然のこと。どうやら、医師として内戦下の国に行くらしい。具体的な国名は伏せていたけど、BBCを見る限り予想はできる。

でも、いくらロー先生の下でバイトしてるとはいえ、授業外で労働するとは…
しかもまさかのお出迎えの役割。

単にレジュメ配布したりパワポ片付けたりするだけだと思ってたのにな…




あれ、私、絶対荷物持ちやらされんじゃん!



…さっと血の気が引いたが、正直、先生に授業以外で会えるのが嬉しくて、現に先生が入国審査を終えるのを今かと待っている。


なんて乙女なのかしらワタシ。



丁度、ヒースローからの便が到着して人がどっと押し寄せた。
先生確かこの便だよね、いつもみたいにパーカーだろうとパーカーイケメンをキョロキョロ探していたら…スタスタとこちらに歩いてくる男性。


黒いスーツをビシッと着こなした姿に思わず目で追ってしまう。



うっわー、すごいかっこいい人だなあ、
…ってアレ、



「ローせんせーっ!!」

『うるせー』



至極だるそうに答えると、荷物を私に押しやる。くそ、持てってか?!、てゆか…




「ロー先生!スーツ超絶かっこいいですっ!眩しすぎて直視できませんっ!」

『あー、パーカー血で汚れた』

「っ、……」



苛立っている先生に驚いた。だっていつもは感情なんて無いほど冷めてるのに…

出張先で何かあったのだろうか。
ロー先生の疲れきった顔を見ると何故だかこっちまでも辛くなる。



(っ…。)




長い沈黙。


なんて返していいか分からずただ黙って先生の後を着いて行くと、すっとキーを渡された


『運転頼む。俺、爆睡するから』

「え、私、免許ないですよ」

『はっ?』

「電車かと。スカイライナーとか、」

『おいおい、お前呼んだ意味』

「す、すいません!!」




先生がぐはっと悶えながら唸るようにぶつぶつ何か言っている。
ろ、ロー先生大丈夫かな…とりあえず車庫に大型キャリーを積み上げるとトランクを閉める





『で、お前は大学まで乗っていくのか?』

「あ、はい、」

『おいおい、お前呼んだ意味!』




再び悲痛な叫びを上げながらも、助手席のドアを開けてくれる。何だかんだ言って優しいんだよね、こういう所は。お互い車に乗ると先生がエンジンをかけて出発した。今の時間なら授業開始の一時間前には着くだろう



「ロー先生、疲れてるのに運転させてしまい申し訳ないです…、私、本当使えないヤツですよね…」

『気にするな。今に始まったことじゃないぜ』

「いやいや、そんなどや顔で言わないで下さいよっ!」




さっきまでの不機嫌さは無くなり、話して見た感じ普通に戻る。でも何かが違う。私と話しているのに何処か違う所にいる感じだ。心ここにあらず的な…




「ローせんせ、」

『あぁ?、』

「お疲れ様でした、」

『…。あー、』


先生の瞳が揺れた
どうでした?だなんて突っ込んだ話は何となく出来なかった。聞いちゃいけないような雰囲気だったし、何よりも先生が辛そうだったから、






「成田発ヒースロー経由マリ着」

「…はい、」



途中赤信号になり車が停車する、先生が急に話し始めたので自然と先生を見つめてしまう



「治した奴より俺の腕の中で死んでった奴の方が多かった、」

「……、」

「治安悪化により、避難勧告。無視してたら強制退去。皆殺しだよ、俺もあいつらを殺したんだ、」

「…、」

「悪り、」

「…先生、」




重苦しい雰囲気が私たちを包む、
言いたいことは沢山あった。

救えなかった生命だけでなく救えた生命の事も考えて下さい、とか、
先生がいなければもっと被害が拡大していた、とか。


何も知らない人間が口を挟むことではないのは十分承知。でも何も知らない人間だからこそ言える言葉もある。
私が何か言ったことで先生が少しでも気分が晴れるのなら何だって言おう…

だけどロー先生自体がそれを拒絶しているようで。



私はただ先生の話を黙って聞いていることしか出来なかった。





治せないココロ


(私が治したい、だなんて傲慢だけど…)





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あきゅろす。
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