Arabians lost
5◆
5◆tricker
負けた、ボロ負けだ、完敗。賭け金だけでなくユウ以下省略に換金してもらった金すらなくなった。たったの数分で全てが無くなり、全てに裏切られた。無に帰するところかむしろマイナスだからね。
「ああああ〜!あー!あー!」
私が絶望の果て怒り、唸り、呻いている側でケラケラ大笑いする男。
「あはははははっ!本っっ当、笑いがとまんないねー、最高」
私の姿を見て至上の悦に浸っている男を恨めしくキッと睨むと更に笑い出す始末。
ありえない、最悪!
客A「文無しだとよ、あのねーちゃん」
客B「相手ロベルト・クロムウェルだろ?」
客C「あいつにイカサマしかけられたらまず見抜けねえ」
ざわ、ざわ‥
何?‥‥‥イカサマ、だと?
私たちのゲームを見ようと何重にもなった野次馬たちが哀れみの視線を向け、この場から掃けて行くときに聞こえた一言で私はブチ切れた。
「ち、ちょっとー!!イカサマなんてずるいじゃない!!」
??「ずるいだと?見抜けなかったアンタが悪りい。俺はロベルト・クロムウェルだぜ?」
「はあ?なんなん??ドヤ顏すんなし!アンタなんて知らないわよ!あー、シャークに殺されるー!」
ロベルト「‥シャーク?」
涙を流しながら笑っていた男が急に私を鋭く睨んだ。この空気の変わりように一瞬どぎっとする。何か私気に障ること言った?!なんなのよ、もう!一々凄むのはやめてもらいたい。
ロベルト「アンタ、シャーク・ブランドンと知り合いなのか?」
「知り合いというか‥」
知り合いというか‥家に住まわせて貰ってます(病院だけど)だなんて言えない。
いや言っていいのだろうか。
シャークと金髪男の関係が悪ければ、知り合いと言った瞬間私の命はないだろう。しかし、少なからず敵対関係ではなければ、知っていると答えた方が殺されずに済む。
この世界では、会話の節々に出てくるyesかnoの選択肢を誤るだけで命のあり方が変わってくるのだ。
チラリと金髪男に視線を向けると、ん?だなんて不思議そうな目で私を見やる。
ああ、もう、!
「‥‥シャークには良くして貰っているわ」
ロベルト「ふーん。アンタもシャーク・ブランドンの顧客ってわけだ?」
「まあね。頻繁にではないけど。」
抽象的で当たり障りのない言葉を発すると、金髪男はなぜか気を良くしたらしく、「昨日俺も頼んでいたモノが届いた!」だとか「夜通し読んでいたから眠い」など嬉々としながら話してきた。
ロベルト「……でよー、主人公の男が最期、女を取るか、カジノ王への道をとるかっつー究極の選択肢を突きつけられてさ「あ・の・っ!、」
このままだと永遠に話続けるんじゃないかっていう位のめり込んだ金髪男を制する。
「私、帰らなきゃ行けないんで。失礼します」
全財産を搾り取られた相手に対して帰りの挨拶など不要に思われたが、勝手に1人でしゃべらせ続けるのも不憫に思えたので、とりあえず金髪男に声をかける。
ロベルト「おいおい、今いいとこなんだぜ?聞いてけって!」
(アァん‥‥……、?)
私が一睨みすると、やれやれといった面持ちで椅子から滑り降りた。スラリとした身体に皺一つないスーツがよく似合う。あれ、よく見たらめちゃめちゃこの人かっこいいじゃん!なんて不覚にも財産を毟り取られた相手にぽぉっとする。
目の前の男は自身のシルクハットの鍔を直すと、うやうやしく片手を胸に当て、ひらりと軽やかにお辞儀をした。
ロベルト「ようこそ。我がカジノへ。俺はオーナーのロベルト・クロムウェルだ。また遊びに来いよな」
そう言うと襟をぴしゃりと正して、ざわめくだだっ広い店内へと姿を消した。
(な、オーナー…だと‥…‥?)
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