Arabians lost
4◆


4◆cajino


暫くは“入院”という形でシャークの病院にお世話になることになった。まあ、病院といっても悲しきかな、砂埃が入ってくる空き部屋みたいなものだ。なんとかしてカネを貯めて早くここからおさらばしなくては…。

私は現実を理解するために街へくりだした。







「おおゥ、!!なんて美しいんだ!!」



見たこともない変な生き物の店のショーウィンドに釘付けになっていた…というか、完全にドン引きしていた私に突如大きな荷物を抱えた男が話しかけてきた。



「ボクは、ユウゼドリアマナトナデナラドナ・フィオレントナグリア。これをボクに売って欲しいナ。」



(え、いきなりなんなんだこいつは。)


用件より名前の方が長えよ。
つっこむ間もなく男が私に詰め寄った。
しかもこんなモノを欲しがるなんて思いもよらなかった。恍惚な表情で見つめてくる姿からして、相当興味を持ったらしい。


とにかく今の私にはカネが必要。
さっき店に入った時、持ってるカードや現金も使えないと解った。世界のVISAなのになぜだ。
そんな上記のなかこんなモノをわざわざ売ってくれと言うんだから、これ程有難い話はない。
あとは如何にして高く売りつけるかが問題だ…



(よし、トルコのカーペット売り作戦でいくか!)




「……これは…、私の国では自身の存在を位置付ける非常に貴重なモノなんです。お売りすることはできません」

ユウ以下省略「そ、そんなァ…、」

「しかし、このモノの価値を、国を越えて理解できた貴方のその心に敬意を示す為にも…おゆずり致します」

ユウ以下省略「…本当?!、わあああ、嬉しいナ、3万Gでどう?」



あ、…やばい。ここの物価や貨幣価値が解らん。3万Gって高いのか、安いのか。
シャークが治療に1000万Gを要求してきたけど、あれは確実にぼったくりだ。あの強欲そうな顔を見ればわかる。だから基準にならない。
ああ、困った。でもカネはあるにこしたことはないよね…




「10万Gです」

ユウ以下省略「10万G?!うーン、チョット高いなァ…、」



ユウが渋るように唸っている。
あと一息!、頑張れ、ワタシ!




「あちらにいるお客様、…そうあの角にいらっしゃる男性です!実は先ほどこれを18万Gで売って欲しいとおっしゃってきたのです、」

「エエぇっ!?」

「しかしあの方は貴方のような敬虔な心をお持ちでない。私は貴方に譲りたいのです。あの方が提示した金額よりもお安くしていることからもお分かり頂けるでしょう!しかし、3万となると…、ああ!あの方がこちらにやってくる!さあどうしますかっ?!」

ユウ以下省略「買うヨ、買うヨ!はいっ、10万G!」

「ありがとうございます!さあ、それを持ってお逃げなさい!あの男は私から話しておきます!」

ユウ以下省略「わああ、アリガトウ!また何かあったら宜しく頼むよ!」




そう言うと、ユウ以下省略は大切そうに抱え、人ごみを縫うようにこの場を離れて行った。



丁度私の側を男が過ぎ去る。
ふふふ、この男はたまたまこっちを見ていたから利用させて貰っただけで、全く無関係な人物だ。



(よーし、我ながら完璧な嘘だ!)




私は気分良く金をバックに突っ込むと、煌びやかな通りへと足を進めた。


ーー


第一にやるべきことはカネ集め。

今はシャークに日本に帰る旅券やらパスポートの依頼費を担保代わりとして献上している。


(依頼費だけでも払わねばっ)



ユウ以下省略に自分の持ち物を売って稼ぐのもアリだが、容易く売るのは良くないかもしれない。



(あ、でもユウに売っちゃったんだ!腕についてた「輪ゴム」を……。いや、輪ゴムなら大丈夫、多分。)



仮に、シャーク達が必死に探していたこのネックレスに私がトリップした原因があるとしたら…?ネックレスは私自身がいた世界と通じるものかもしれない。
シャークにネックレスを売られてしまえばこの国から、(正確には「この世界」から)私は戻れなくなる。こんなホッブス的国家なんて願い下げだ。生まれる数より確実に死ぬ数の方が多いのによくもまあ人口が減らないものだ。日本が格別良い国だとは思わないが、今は一刻も早く家に帰りたい。自分のベッドでとにかく寝たい。断言する。



そんなことをうだうだ考えていたら突如目の前に佇む…



(カジノ‥?)



見上げると朝なのに光輝くネオン色。



(この国で唯一、誰にでも平等なものは運しかないだろうな)



ふと思うと、私はさっきユウから得た金を握りしめ、カジノへと向かった。


ーー


そして
私は‥‥
なぜか‥‥‥
‥‥‥、勝ちまくっていた。





とりあえず私は勝ちまくっていた。
カードゲームは嫌いじゃない。
やばい、楽しい。私こんな才能あったんだ!
賭博禁止の日本では決して開花し得ない才能にテンションが上がる。えへへーだなんてにやけ顏でテーブルにいると突然




??「景気いいねえ〜、俺と一勝負どう?」




シルクハットを被った金髪の男が私のテーブルに腰掛けてきた。





「お誘いありがとうございます。でも私「アンタが選んでいいぜ。何にする?」




シルクハットを被った男は私の話なんて聞かずに私の隣に腰を下ろすとキラキラと目を輝かせて自分の手元にカードが配布されるのを待っている。



(誰だよこいつ、本当困る!)



朝から居座って、漸くシャークに渡す金が揃ったっていうのに!
賭け金2倍から始まり、最期はなんと36倍まで上り詰めたのだ。ディーラーなんて18回も変わった。プレイ中は私の周りに野次馬が集まり、目標金額が達成された時は周りとつい抱き合ってしまった程だ。この涙ぐましい戦いをこの男との勝負で無碍にしたくない。





「私そろそろ行かないと‥。申し訳ありません、失礼します」



換金するためチップをかき集めようと手を伸ばした瞬間…






どすっ、

‥‥‥、






伸ばした指の隙間を縫うようにテーブルへ深く差し込まれた一本のナイフ。




「やるよ、な?」



ゆっくりとゆっくりと。まるでバターを切るかのように私の指の付け根に向かってナイフが滑る。


金髪男のにこーっと笑った顔を私は自分の溢れ出した涙で見ることが出来なかった。






(指さけるわ!?こ、こええええええええっっえ!!!)







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あきゅろす。
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