Arabians lost
2◆


2◆transaction



何を言われのか理解出来なかったようだ。
シャーク様と呼ばれる男は悪人面を放棄し、怪訝そうな顔をして私をみた。



「私も貴方に依頼します。パスポートと日本国着の旅券一枚をお願いします」

「はあ?…ニホン?聞いたことねえな…。それにパスポートだと?」



え、何?パスポート知らないの?
まるで世界そのものが違うみたいだ。とにかく私を“追われている身”から、“シャークの依頼人”として位置付けを変えて貰わないと。
このままでは確実に斬殺される!




「貴方が知らなくても存在するんですっ!手に入れてください、」

「……アンタ金持ってんのかよ、」





上から下まで隈なく注がれる視線を無視し、私は凛とした態度で言う。



「今は持ち合わせていません。なのでコレを担保に」


(いまここで、私が所有しているうちに…)


首元にあるネックレスを握りしめ、目の前の男を見据えた。シャークはどうやらコレが欲しくて私を攫ったようだ。
だったらこれを金代わりすればいい。まだ所有権は私にあるうちに。




「担保だと?」



うざったそうに頭をかきながら私を上から睨みつけるシャークに言う。


「私が金を用意するまでの間、それを貴方にお渡しします。私が金を用意出来なければそれを差し上げます。シャーク様が手にいられないモノはない、でしょ?私の要求するものだって容易いはず。」




ニコリと笑いながら告げるのと同時に周囲が喚き出した。今直ぐ殺っちまいましょう!だとかぶっ殺す!だとか。
血の気の多い連中だが、こいつらは所謂、末端でしかない。なぜなら、この場の全てを仕切っているのはシャークと呼ばれる男だから。



(シャークに上手く交渉できるかでわたしの生死が決まる)



「……この状況で俺に依頼か?アンタ相当殺されてぇらしいな」




(ああっやば、怒らせたかもっ!)


刺し抜かれた劔になるべく目を合わせないようにする。
見ちゃだめ、見ちゃだめ、怖すぎる、!




「シャーク様は依頼人を殺しませんよね。出来ない依頼を持ちかけられる度に殺していたら、シャーク様の名は上がらなかったはず」




ね?だなんて笑っていうと、シャークは抜いた劔の行き先に困っているようだ。
暫し考え込むと突然笑い出す。




「いいぜ、のってやるよその依頼。‥‥アンタ面白え女だな」





周りの連中が唖然としている様子が何とも言えない空気でわかる。
なんで殺らない?囁き合う声が次第に大きくなるとシャークは、周りの連中に今日はもういいぜ、とだけ声を張って告げた。
シャークは私の手を取ると、殺伐とした路地裏から連れ出した。






ーー途端にぶっ倒れる、わたし。
ああ。
目覚めたら全て夢だと言えますように。
きっとそうだ。そうに違いない。
そう祈りながら意識を手放した。





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あきゅろす。
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