Arabians lost
1◆


1◆mysterious



「やーっとみつけたぜ、間違いねえな!」

「ああ、おい、女ァ、死にたくなきゃ大人しくしてな、」


それは余りにも一瞬のことで。
叫ぶ間もなく私は数人の男達に取り囲まれた。



ーー自分がこういった生死に関わるシチュエーションに遭遇するなんて…、


身体と心が余りにも乖離しすぎている。
嫌でも冷静になる。
ああ、これは夢かも知れない。しかし、掴まれる腕の痛みや、埃臭さ、やまない怒号、劔に反射する光のすべてが夢であることを否定する。




ーー何が、何で、どうして?!




何故自分がここに居るのかわからない。不思議の国のアリスみたいに穴に落ちたとかなら穴に入った行為が原因。でも私は違う、急に場面が変わってここにいる。一寸先は闇っていうけどこんな突然未来って変わるものなのか。



ーー辺りを見回してる内にあれよあれよと追われる身に。
しかもどうやら私の持つ“何か”が欲しいらしい。
男たちはしきりに「見つけた、見つけた!」と喚いている。


ーーわけがわからない、
ケータイで自分の現在地を確認しようにも手を押さえられてて身動きが取れない。ただ、ここが日本じゃないってことは解った。私がいた季節とこっちの温度が違う。建物の造りや服装からして中東地域だろうか。でも日本語通じるし…。



突然、カチリ、と無機質な音が耳元に響いた。生命を救うのではなく、無慈悲に奪い去る音。
恐くて涙が出るんじゃなくて、恐くて涙すら出ないのだ!こんな状況になったことなんて一度だってない。だって今の私は、頭にピストル、首元に三日月のナイフを突きつけられているのだから。





「おい、女!シャーク様が直々にお会いになりてえそうだ!いくぞ、おらっ!」



やっと全ての脅威から開放されたと思ったら別の男にぐいと腕を上げ掴みあげられる。
何すんのよ!離せ!‥口にする勇気も力もない。無力とは言葉さえも奪うのだろうか。



路地裏のまた裏にある武器庫みたいな所に引っ張られ、地面に叩きつけられた。
ああ、痛い痛い痛い!夢であっても痛みって感じるのだろうか。夢でないことを感じながらも、最後の足掻き。
死んだ方が楽ということもあるんだと考えてると目の前にいた男に引き上げられた。





「女、ギルガタールの人間じゃねえな」



シャークと呼ばれた男が鋭く私を見た。
粗野で下劣な野郎かと想像していたが、意外にも普通な人で驚いた。それに若い。私を珍品でも眺めるように見やるが、その瞳に感情はなく、人間を見る目ではないのは確かだった。まるで私自身がモノのように鑑定されてるようだった。




「あんたがどこの国出身でも構いやしねえよ…死にたくなかったらそいつ寄越しな」



唸るような声で私を睨み、首元の“ネックレス”を掴む。
こいつらの狙いは、どうやら私の身につけていた“ネックレス”らしい。
なんでこんなモノが欲しいのよ…、





「こ、ここはどこ!?、あ、あなた、誰なんですか?」


1番聞きたかったことが口から飛び出す。
周囲にいた男達が互いに顔を見やると馬鹿にするように笑い出した。




「狂ったか、女!ここは犯罪大国ギルカタール!それに大商人であるシャーク様を知らねえとは!、」



くそ、腹立つ!なんなんだこいつら!てゆかギルカタールなんて国、こっちこそ聞いたことがない。カタールならあるけどさ。とりあえずこの場をなんとかしのがなきゃ、大使館いこう、外交的保護を求めよう!日本に帰るのはそれから考えるとして、さて‥どうするか……



この場にいる男達の顔を盗み見た。
ああ、直感でわかる!私はどのみち殺されるのだ。ネックレスを渡した直後か、それとも奴隷として酷使させられて死ぬか。単に死のリミットの違いだろう。恐らく、否、確実に生きて帰れるというハッピーエンドは用意されていない。


(行きつく先は死。だったら…!)



私はシャークと呼ばれる男を見やるとニコッと笑い、





「私も貴方に依頼します」




一世一代の勝負にでた。






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あきゅろす。
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