camellia - カ メ リ ア - 02. 結局、夜通しそこにうずくまっていた。 ポリバケツの上の全然可愛くない猫は、いつの間にかどこかに行っていた。 一睡も出来ずに、俺は白み始める空をぼんやりと眺めていた。これからのことなんて、何ひとつ考えていない。 夜が明けたら、何をしようか。どこへ向かおうか。 硬くて冷たいコンクリートに座りっぱなしの尻は、悲鳴をあげている。こんなんだったら、もっと大怪我をして入院が長引けばよかった。それか、死んでしまえばよかった。そんなことばかりを考える。 白み始めた空が徐々に熱を持ち始める。 俺が見ている空の反対側から人の気配を感じて、俺は再び膝の間に顔を埋めた。 「おい」 「はい」 頭上から聞こえる男の声に、顔を上げずに返事をする。 警察かも知れない。面倒くさい。事情を話したら、家に返されるのだろうか。拳を振り上げる父親が、容易に想像できた。 くそ、制服なんかさっさと脱ぎ捨てるべきだった。金はたくさんあるのに。 「どうした」 男は俺の横に膝をつく。 細いストライプの入ったスラックスと、焦げ茶色のピカピカの革靴が横目に入った。どうやら、警察じゃないらしい。 顔を上げると、二十代後半と見られる男と目が合った。スーツは立派だが、前髪は長くて目にかかってるし、ネクタイは緩くて不真面目そうな雰囲気だ。 「どうした、ケンカか?」 男は表情を変えず、俺に問いかける。 「あ、大丈夫です」 この人、警察じゃなければ、きっと面倒な大人だ。 「誰かに殴られたのか」ほら、やっぱり。 「殴られました。 けど、大丈夫です」 元気です、と俺は続ける。男は怪訝な表情をした。頭のおかしい奴だと思われただろうか。 「病院、連れて行ってやろうか」 なんだこいつ、他人を構うのが趣味なんだろうか。 「いえ、昨日退院したばっかなんで。行くと気まずいんで」 男は更に眉を顰める。 頭のおかしい奴だと思って、早く見捨ててくれ。座りっぱなしの尻が、そろそろ限界だ。立ち去ろうと脚に力を入れる。電流が全身を駆け巡るような痛みがあった。骨は完全に繋がったはずなのに。 [*前へ][次へ#] [戻る] |