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camellia - カ メ リ ア -
 08. 


入浴を終えて部屋に戻ると、獅子雄はバルコニーで煙草を吸っていた。大きく開け放たれたその扉から、生温い風が入ってくる。

「獅子雄」

バルコニーの入り口から、聞こえる聞こえないかくらいの声で呼んだのに、意外にも獅子雄はすぐに振り向いた。そして俺の姿を確認すると、手に持っていた灰皿に煙草の火を押しつけた。

その獅子雄の姿を見ると、なんだか堪らなくなって、俺は室内履きのままバルコニーに飛び出して、獅子雄の隣に並んだ。

「髪が濡れてる。 風邪ひくぞ」

獅子雄の長い指が、髪にからむ。ほのかに煙草の匂いが漂った。

「………大丈夫、寒くないし」

八月も末間近、日中は残暑も厳しいが、夜はだいぶ涼しくなった。シャワーで温まった身体には丁度いい。
バルコニーの目の前には、隅々まで手入れの行き届いた庭が広がり、虫の鳴く声も聞こえた。街から少し離れているからなのか、心なしか空も近い。分厚い雲に覆われていて、星は見えないけれど。

空を仰いだまま、目を閉じた。
変な感じだ。こんなに穏やかになれたのは、いつ以来だろう。ただ一日が過ぎ去るのをひたすらに待っていたあの頃とは違う。毎日穏やかで、満たされていて、たぶん俺、幸せって言っていい。

獅子雄、

「椿」

口を開きかけた俺より先に、獅子雄が沈黙を破った。それと同時に、俺の髪を梳いていた獅子雄の指に力が込められ、強く引き寄せられる。そして何を考える暇もなく、次の瞬間には獅子雄の顔が目の前にあって、キスされる、と気付いたときには既に唇は重なっていた。




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