camellia - カ メ リ ア - 06. 「坊っちゃん、とてもよくお似合いですわ」 まるで七五三みたい、とエティは続ける。 「七五三って、それ全然褒め言葉じゃないんですけど」 やっとの想いで見つけた服は、スキニージーンズとタンクトップ、そして若干ダボついた薄手のカーディガンだ。結局、約束の時間までに見つかった「まだマシな服」がこれだった。 バッグは黒の本皮を、エティがどこからか探して持ってきてくれた。その中に携帯電話と、ベッドのサイドチェストに入れっぱなしだった現金を入れる。親父から投げ捨てられた現金とは言え、裸のままバッグに詰めるのも忍びなかったから、獅子雄が買ってくれた財布(財布だけでも五つくらいあったから、その中のひとつを選んだ。)に入れて、バッグの中に放り込む。 そうこうしている内に、携帯が鳴る。バッグに仕舞ったばかりの携帯を取り出し、通話ボタンを押す。 「獅子雄様ですか?」 うん、と頷き電話を続けると、もう門の前まで来ているとのことだった。 「獅子雄、もう着いたって。 行ってくんね」 電話を切り、それをポケットに捩じ込む。車まで見送ると言うエティを断り、俺は部屋を出た。 ふう、と長く息を吐く。 意図せず獅子雄の顔が脳裏に浮かび、強く頭を振る。 静まれ、静まれ。 二度、大きく深呼吸をして、俺は獅子雄の待つ車へと向かうと、時永さんが扉を開けて待っていてくれた。 「ありがと」 車に乗り込むと、銀縁眼鏡はかけていないものの、整った顔全開の獅子雄が脚を組んで座っている。その膝の上にはノートパソコンが置かれていた。俺には目もくれない。 「発進しますね」 いつの間にか運転席にまわっていた時永さんの声を合図に、車は静かに発進した。 「よくお似合いですよ、坊っちゃん」 視線を前に向けると、バックミラー越しに時永さんと目が合った。 「ああ……ありがと………」 別に女じゃないんだから、服装とか褒めなくてもいいのに。 隣の獅子雄はお得意の無言無表情を決め込んでいるから、俺は窓の外を眺めた。久しぶりの景色だ。 (変なの………) 窓に反射する獅子雄を見る。 傍にいないと獅子雄のことを考えるのに、一緒にいるとイライラする。変だ、こんなの。本当に変。 顔を窓側に向けたまま、ゆっくりと目を閉じた。視界が遮断される寸前に、窓越しに獅子雄と目が合ったけど、きっと、俺の気のせいだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |