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camellia - カ メ リ ア -
 09. 

人通りの盛んな大通り。俺は頭の中が真っ白で、魂の抜けたように呆然としている。

「四月に事故にあったろ? あれ偶然じゃなくて、仕組まれたんだ。誰が仕組んだか分かる? 教えてあげるよ、俺の母親だ。おまえを撥ねた男、相当カネに困ってたみたいで、たった百万でおまえを殺すことを承諾してくれたんだ。だけどぎりぎりで怖気づいたんだろうね、馬鹿みたいにブレーキなんて踏んじゃって、おまえは大怪我だけで済んだ。でもね、それでうちの母親は半狂乱になっちゃってさ、おまえが生きているのがそれほど嫌だったみたいで。だからプロの殺し屋を雇ったんだ、誰だか分かる?」

溢れた涙が、瞬きと共にはらはらと流れて行った。どうして俺は馬鹿みたいにこの男の話を黙って聞いているんだ。さっさとこの場から逃げださなきゃ、じゃなきゃ蛇岐が死ぬかも知れない。早く獅子雄に助けを求めなければ。

そう思うのに足は動かなくて、俯いて拳を握りながら涙を垂れ流すことしかできない。早く獅子雄に助けを求めなければ。だけど獅子雄は―――

「業界一の腕利き、備前に頼んだんだ、おまえの殺しの依頼をね」

大切な何かが、音を立てて粉々になっていく。昨日までの日々が、嘘みたいに遠く感じる。獅子雄の顔が頭いっぱいに埋め尽くす。

「獅子雄は、そんなことしない……」

わずかに残ったプライド。そして本当に愛されていたことを、まるで自分に言い聞かせるように小さくそう呟いた。無愛想な表情も、ときおり見せる微笑みと望めば与えられた優しさも、すべて獅子雄の愛情だと思っていた。そう信じたかった。でもそれは、俺のみっともない勘違い。

兄さんは小さな俺の声を目ざとく見つけて、その身を屈めてまで俯く俺の顔を覗き込み、更に笑いものにした。その笑い声を聞きながら、奥歯を噛み締め涙をとめようと努力した。きっと獅子雄がすぐに来てくれる。俺がどこにいたって来てくれる。初めて会ったときだってそうだった。あんなに小さく隠れていたのに、獅子雄は見つけ出しくれた。だから今回だって、必ず俺を見つけ出してくれる。そう信じたいのに。

兄さんは一頻り笑うと、俺の髪を掴んで無理やり顔を上げさせた。皮膚を引っ張られる痛みに顔を歪めた。拓けた視界に、兄さんの冷たい色をした瞳があった。

「備前に拾われたのが偶然だとでも思ってるの?」



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