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camellia - カ メ リ ア -
 08. ー side Shishio 


「電話は繋がりましたか」

時永の声は急いている。
「いや、椿は駄目だ。蛇岐も繋がらない。―――だがおかしい、見てみろ」
パソコンに映し出された地図を時永に向ける。

「蛇岐の位置が移動しない。もう自宅の前なのに」

もう百メートルほど歩けば蛇岐の自宅だ。きっと、いや確実に椿は蛇岐と行動を共にしているはず。そもそも蛇岐が椿から目を離すことは絶対にない。余程のことがない限り。悪い予感がする。

「椿くん、何かあった?」

気配もなく近付いたそれに、身体が反応する。振り返ればやはりそいつは亜鷺で、いつの間に部屋に入ったのか当たり前のようにパソコンを覗く。そして状況を把握したのか、ぴくりと顔を歪めた。

「獅子雄くん…ごめん……」
「……この状況で謝るのは、どういう意味だ」
「昨日、椿くんが僕の部屋に来たんだ」
「なんだと?」
「いや、初めは偶然会ったんだけど……少し興味が湧いちゃって、余計なこと言っちゃったんだ」
「何を言った」
「GPSで監視されていることと……僕が獅子雄くんの兄だってこと、もしかして隠してた?」

亜鷺は俺の顔色を窺う。しかし反省の色はない。むしろこの状況を楽しんでいる節さえある。盛大なため息が漏れた。蛇岐にしても亜鷺にしても、どうしてこいつらはこんなに勝手なことをするのか。だから椿と亜鷺を会わせたくなかった。蛇岐はともかく亜鷺は俺の指示に簡単に背き、事態を一層ややこしくする。苛立ちを抑え、ちらと蛇岐の居場所を確認すれば、やはり移動している様子はない。

「それと……」
亜鷺は更に続ける。後は何があるというのか。
「本当のことを、教えてあげようと―――」
意識するより早く身体が動き、気付けば亜鷺の胸倉に掴みかかっていた。

「おまえ、椿に何をした」
「何ムキになってるの?なあんにもしてないよ……まだ、ね」

更にきつく襟ぐりを絞めて引き寄せ、頭突きを一発お見舞いする。亜鷺は眉間に皺を寄せて顔を顰めただけで反撃はなかった。

「おまえも、蛇岐も、本当に余計なことをする」
亜鷺は悪びれる様子もなく、ふんと鼻を鳴らした。
「僕とやる気?蛇岐くんにも勝てないのに、僕に傷をつけられるとでも思ってるの?」
「おまえこそ、俺を殺るとどうなるか分かってるのか?」
お互い微動だにせず睨み合っていると、その間に時永が割って入った。

「下らない兄弟喧嘩をしている場合ですか。落ち着きなさい」

あまりにも的を得た正論。舌打ちをし、乱暴に亜鷺を開放する。

「まあ僕も本当に余計なことをしたって反省してる。で、どうするの獅子雄くん、今度こそきみの指示に従う」

俺は三たび液晶に目を向ける。蛇岐の場所が移動することなく十分、明らかに不可解だ。

「車を出せ、蛇岐の家へ向かう」

立ち上がり、指示を出す。急がなければならない、悪い予感が現実にならないように。



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あきゅろす。
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