camellia - カ メ リ ア - 04. 車を待たせている、と男は俺を担ぎ上げるように支えて歩き出した。 男のスーツを固く握りしめながら、案内されるままよたよた歩くと、目の前には黒塗りの車があった。 あれだ。車に詳しくない俺でも分かる。 あの有名な、メルセデス・ベンツってやつ。 着ているスーツといい、このおっさん、絶対に金持ちだ。 後部座席のドアの前には六十歳代くらいの、まさしく「執事」といったような男が待ち構えている。 おいおい、マジかよ。このおっさん、何者だ。 「どうぞ、獅子雄様」 執事風の男はドアを開けて、恭しく頭を下げる。 「乗れ」 身体が、質のいい革のシートの上を滑る。 最悪、このおっさん俺のこと投げやがった。怪我人なのに。寸でのところで、左脚は死守したけど。 体制を整え、シートの奥の方へ座り直す。俺の隣に獅子雄と呼ばれた男が、どかりと乱暴に座った。 (親切なのか、そうじゃないのか分かんねえ) 執事風の男はゆっくり丁寧にドアを閉め、運転席に乗り込むと、出しますね、と一言断り、ゆっくりと発進させた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |