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ロゼクス-ファンリィ

 静かに、少女が男に銃口を向けた。
 少女の両手は震えている。
 でも、少女の目は男を真っ直ぐ射抜いていた。
 
 距離はゼロ。男の胸の上には、鈍く光るそれがあった。
 この距離で外すことはないだろう。
 後はただ、引き金を引くだけだ。

「僕を殺すかい?」
 
 男は、少女に問う。
 
「うん」
 
 少女は言った。

 
「逃げないの?」
 
「逃げる?どうして」
 
「だって、死んじゃうよ?それともあなたは、死にたいの?」
 
「…そうだな。死んでもいいとは思っているよ」
 
 少女は、よくわかんない、と眉を寄せて黙ってしまった。
 
 男は、また問い掛けた。
 
「殺すのが怖いかい?」
 
「怖く、ない」
 
「なら、どうしてキミは震えている?」

「怖いんじゃない」
 
 尚も、少女は言う。
 
 少女は、自分でも何故震えているのかわからなかった。でも、心の中にあるのが恐怖でないのは確かだった。
 少女は、その感情の名前を知る術を持たなかったけれど。
 
「殺していいよ」
 
 男が言った。
 
「うん」
 
 少女は、自分の中の疑問を捨て、両手に力を込める。
 
 距離はゼロ。
 たとえ震えが止まらなくても、外すことは有り得ない。
 後はただ引き金を引くだけ。
 
 
 
 そこは、古びた廃ビルだった。辺りは暗く、そこに月の光は届かない。
 男が、死んでいた。
 周囲を血で赤黒く染めて、冷たいコンクリの上に横たわっている。
 誰にも見つかる事はないだろう。
 男の事を知っているのはただ一人、震えながらも引き金を引いた、その少女のみだ。
 


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あきゅろす。
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