太陽の子守唄 4 「うう〜ん…。兄上もう食べられませんよ…むにゃむにゃ。」 バシャッ 「うわッ冷たッ!!」 「いつまで寝ているつもりだ。一刻で支度をしろ。」 そう言って武蔵は桶を持って出ていった。太陽は寒さに震えながら立ち上がると、武蔵の消えた方を睨み付けた。今は春といってもまだ冬の寒さも多少残っている。なので朝は冷え込む。そんな中冷水を掛けられた。 「最ッ低!…信じらんない。」 普通の建物なら耐えきれるが、板が剥がれ、すきま風が通るこのボロ道場では耐えようがない。第一荷物も何もないのにどう支度しろというのだ。空を見るともう明るくなっている。と言うことはもう寅の刻下がりである。 「はぁ…本当に稽古するのか。」 ふと横を見ると、掛け布団と木刀大小、鉢巻きに男物の着物と藁草履が置いてあった。太陽は怪しみながらもそっとそれらを手に取った。 ***** 「おっ!ぴったり!」 着物の帯をきつく結ぶと木刀を手にした。宮本 武蔵と言えば何かしら悪い噂が付いて回るが、案外優しいのかもしれない。ただ我が儘を言えば昨日の時点で渡してほしかった。 「…仕方ない。機会が巡るまで稽古に付き合ってやるか!」 そう決意してからの太陽の成長は目を見張るものだった。さすがの武蔵も初めは気後れしていたが、慣れると本気で押し込んできた。 そんなある日。いつも通り稽古をしていると急に武蔵がにやりと笑った。 「ククッ…。」 「?何ですか。」 一度稽古を止めると武蔵は太陽の木刀を見た。 「流石兄妹だ。使う獲物も同じとは。」 「…続きをしましょう、武蔵。」 叫びながら突っ込むが、左手の木刀で止められ動けなくなったところにもう片方の木刀で追い討ちを掛けられた。 「さぁ、遊びはここまでだ。木刀を二本持て。」 太陽は言われた通り大小の木刀を持って稽古を続けた。 そんな日々が一ヶ月も続いたある日。武蔵が一日だけ来ない日があった。太陽は機会とばかりに外に行こうとするが、鎖が邪魔をする。 「…よし、ちょっと危ないけど…。」 太陽は両手で木刀を持ち鎖の上に持っていく。そして思いっきり降り下ろした。 ***** 「はぁ…はぁ!」 太陽は大小の木刀を腰に帯び、全力疾走で山を降りてきた。足に多少傷が残ってしまったが手当てをしている暇はない!太陽は路地裏を抜けると目の前の景色に目を奪われた。 「わぁー!これが京の都―!!」 兄の話に聞いた通り華やかな都である。綺麗な柄の布を売っていたり、団子のいい匂いがしたり、飛脚が縦横無尽に駆け抜けていく。江戸とはまた違う活気の良い町である。 「私…京も好きになれそうだよ!」 太陽は着物の裾で足を隠すと周りを見ながら人の流れに乗った。 [*前へ] [戻る] |