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シスコン☆プリンス
5
ようやく学校初日が終わり、平助達と帰り道を歩いていた。家の前で皆に「また明日」と挨拶をして、家に入ると、目の前に割烹着を着た天霧が立っていた。

「ただ今。九寿!」

「お帰りなさい、天龍。」

「ってか…九寿。帰ってくるの早いね。早退したでしょ?」

無言で微笑んでいる。と言う事はそうだと言っているようなものだ。
この家は風間家の物なんだけど、風間が親から譲って貰って悪餓鬼の溜まり場として使っている。

「ちぃ兄がいつも迷惑をかけて…。」

「大丈夫ですよ。慣れましたから。」

うわぁ…悲しいこと聞いたわ〜。兄貴早く解放してあげて!と、奥から兄貴の声がする。どうやら不知火もいるようだ。天龍は鞄を天霧に預けてから居間に向かった。

「匡、ちぃ兄、ただ今!」

「遅かったな!天龍!」

「俺を待たせるとはいい度胸だ。」

いつもの兄貴だ。ってか…

未成年が酒飲むなぁ〜!!

「もう成人している。」

「卒業してないだけなんだよ…。」

不知火が泣き声になって訴える。…お前ら最低二回は留年してんじゃん。

「もう…。匡はともかく、二人は学力あんのに何で授業出ないの!」

「おいっ!'匡はともかく'ってどういう意味だよ!!」

「そのまんまの意味だよっ!!!!」

…あーあ、じめじめきのこを生やして部屋の隅でいじけちゃったよ。後で謝っとくか。頭は駄目でも運動があるよって♪
そう思いながら視線を風間に戻すと、お猪口で優雅に酒を飲んでいた。

こらこらこらこらこらぁぁあああ!!それは料理用に買った酒なんだから!!」

「知るか。」

こいつ…。軽く殺意芽生えたぞ。と、風間は酒を飲みながら網の上でイカを焼いていた。しかも隣には七味の入ったマヨネーズを標準装備している。

「それ今晩のおかずぅうう!!」

「なら他の物を使え。」

「こいつ…。くそ兄「まぁまぁ…少し落ち着いてください。」

「これが落ち着いていられるかっ!よく九寿は耐えられるね!?」

「慣れましたから。」

慣れって怖いね。……慣れと言えば。

「今日学校に行ってたんだね、ちぃ兄。(自分で送り出しといて信用していない。)」

「お前に朝早く起こされて仕方なく演説をしてやったがな。」

よくこんな性悪が生徒会長やれてるな。校長絶対人選間違ってるよ。そこで、天龍は今日の不思議な行動について聞いてみることにした。

「でさ。うちのクラスに来た時妙に冷たかったね。」

「「「………。」」」

「慣れでさ、絶対邪魔しに来たんだって思ってたんだけど。…いつもあれぐらいだと嬉しいんだけどなぁ。」

そう言うと三人は黙ってしまった。…何があった?!

「えっ?!どうし「俺は確かにシスコンかも知れん。」

今さら?!

「だが…。いつかお前が胸を張って'風間 天龍'として学校に行くなら、お前がいる間はなるべく冷静になるよう努めよう。」

「ちぃ兄…!」

感動…。あのシスコンが今、まさに巣から飛び立とうとしている!!
天龍は嬉しくて今夜は赤飯だなとか思いながら溜まった涙を袖で拭いた。

「ちぃ兄…ありが「とでも言っておけばいいか。「…何?」

天龍が目を細めると、風間は口の端をつり上げた。その間天霧が勝手場で料理を作っている。匂い的に天ぷらだ。

「押して駄目なら引いてみろ、というがなるほど。確かにいつもは見れない顔が見れた。」

「……。」

天龍が黙っていると、風間が鼻で笑いながら続けた。

「俺がシスコンだと?下らん。俺はただ妹の身が心配で普通に学園生活を送れていないだけだ。」

「それがシスコンっつーんだよ!シスコン兄貴!!」

「兄様と呼べ。'風間 天龍'」

フツフツと煮え繰り返る兄貴への憎悪の想い。それはまさに天ぷらを揚げている油並みにアツい。
そして爆発した。ドォンッッ

フッざけんなぁぁあああ!!!俺が自然体であの学園にいられるように早く卒業しろぉ!!」

「もう卒業シーズンは終わった。」

シスコン卒業はオールシーズンじゃああ!!

二人でちゃぶ台を挟んで怒鳴りあっていると、天霧ができたての天ぷらを置いていく。

「さぁ、夕餉が出来ましたよ。二人とも席について。不知火、いつまでいじけているつもりですか。」

そう言って天ぷらの乗った皿を所狭しと並べていく。

「わぁ!おいしそう!」

九寿は料理上手だね♪と褒めると、風間はその夕餉を一瞥して

「俺は要らん。」

と、出ていってしまった。

「ちょっ…ちぃ兄!?」

「いいのですよ。……ただ妹の手料理が食べたかっただけなのでしょう。」

「ウザイの極まりないね。…はぁ、仕方無い。後でカステラ持ってくか。」

そう言って天霧と向かい合って座る。隣には復活した不知火が座っていて、本当なら天霧の隣に風間が座っている。

「「「いただきます!!」」」

「匡、さっきは言い過ぎたね…ごめん。匡は頭が無くても運動があるから平気だよ!」

「それ、フォローになってねぇよ。」

「何もないよりはマシですよ。」

「………」

不知火がまだ悩んでいるようだが、まぁ平気だろう。そしてふと、今まで疑問に思っていたことを口にしてみた。

「ちぃ兄ってさ〜…どうして留年してるんだろうね。」

「おや、知りませんか?」

天霧がご飯を食べる手を止める。

「理由なんてあるの?!単位の取り忘れとか、提出物出さなかったり。」

「違ぇよ!あいつ勉強は自力でやってんだよ。…学年でいつも上位だしな。」

「あっ!だから留年しても生徒会長やれてるんだね!…でも何で留年しちゃうの?」

「風間なりにあえて単位を捨てようとしているんですよ。」

「あえてっ?!」

馬鹿だ…。一体何の為に―?天龍は頭を押さえながら二人を見た。

「どうして…?」

不知火は横目で天霧を見た後、ニヤリと笑った。

「ど〜しても、お前と一緒に学園登校したかったんだと。」

「はぁっ?!アホか!」

「風間にとってみたら、真剣なんですよ。」

だから厄介なんですけど。と言って茶を啜る。天龍は納得いかず、ご飯を口に含んで頬杖をついた。すると、不知火はそういえば的なのりで「そういや…。お前と風間って何歳離れてるんだ?」と聞いてきた。天龍は両手を使って元々ない脳ミソをフル回転させた。

「えっと…三歳…だったかな?」

多分そのぐらいと付け加えると、天霧が不知火のつきだしたご飯茶碗にご飯を大盛で盛って返した。

「三歳も離れていると、中学、高校と片方入った瞬間に先にいた方が抜けますね。」

そりゃそうだ。…………。

「なるほど。私を待っていたのか。…一人で行けよ!九寿も匡もいるじゃんか!!」

「お前は根本的な事を忘れている。―…風間はミスター・シスコンだ。」

不知火にそう言われて何も言い返せなくなると、小さく溜め息をついた。

「…どうしてシスコンになったんだろ?」

昔の事を思い出そうとすると、天霧が天龍の茶碗にご飯をよそってから微笑んだ。

「原因は…。小学校でしたね。」

「そう言えば…。」



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