シスコン☆プリンス
3
「ちぃ兄!ご飯出来たよ!」
「要らん。」
「えっ…でも。」
「さっさと行け。」
風間はあの後からずっと機嫌が悪い。いつもならカステラを出せば直るのに、今回は全く効果を持たなかった。
風間は天龍を追い出すとカチャンッと鍵を閉めてしまった。今までに無かった接し方である。
『ちぃ兄がうちに怒るなんてよっぽどの事があったんだな…。』
天龍は今まで何をしても風間に叱られたこともなかった。風間の大切にしている酒を土方達に捧げても、どんなに暴言を吐こうと、いつも許してくれた。
それが千姫の話題を出すだけで睨み、他の二人に聞いても知らないの一点張り。仕方無く天龍は一人居間に向かった。
「ちぃ兄ご飯要らないって〜。」
「まぁ…ほっときゃいいじゃねぇか。」
「全く…仕方がありませんね。これはラップに包んでおきましょう。」
天霧が慣れた手つきで風間のおかずにラップをかけていく。天龍は小さく溜め息をついて定位置に座ると、いつもと違うことに気づいた。
「今日…誰か来るの?」
「ん?あぁ…まぁ、な。」
「我慢してくださいね、天龍。」
「?うん…。」
二人が暗い。天龍は出来るだけ明るい話題を考えながら箸を手に取った。すると、客人らしき足音がして襖が開いた。そこには意外な人物が立っていた。
「お千ちゃん!?」
「こんばんわ、天龍ちゃん。お昼ぶりね。」
「初めまして、島原女子高で家庭科教員をしていました。君菊と言います。よろしくお願いいたします。」
千姫と君菊が席につくと、いよいよ天霧と不知火の表情が暗くなる。と、千姫が天龍と向き合った。
「私達、帰国したばかりだから住む場所がないの。だから当分同じ屋根の下でお世話になるわね!」
「よろしくお願いいたしますね。」
「はっはい!!」
驚きながらも辛うじて返事をする。まさかこの家で一緒に住む事になろうとは…。ん?ということはそれだけ親しいっていうことか?
天龍は食事を終えてから思いきって聞いてみることにした。
「ねぇ…お千ちゃん。…お千ちゃんはちぃ兄…私の兄と仲が良いのですか?」
そう聞くとピシリッと空気に亀裂が入った感じがした。恐る恐る二人の方に顔を向けると、あーやってしまいましたね的な目で天龍を見ていた。そっそんなに悪い事しましたか!?
天龍が狼狽えていると、千姫が一言一言慎重に言葉を選んで答えてくれた。
「その名前で呼んでくれるって事は…覚えているのかと思ってたわ。」
「えっ…止めた方がいいかな?」
「駄目よ!ずっとお千ちゃんって呼んでね!」
「うん!」
天龍が答えると、千姫は嬉しそうに微笑みながらまた続けた。
「私は正直貴方のお兄さんと仲が良いわけではないわ。風間家と親交があるだけなの。」
つまり…個人的には仲良くないと。
「それに、そうね。天龍ちゃん。私達前に会っているのよ。」
「―…えっ!?」
千姫がそこまで言うと今まで黙って聞いていた不知火が急に立ち上がった。
「もうその話はやめようぜ。」
「風間が天龍ちゃんに話したらやめるわ。」
「なら話してやる。」
「ちぃ兄!!」
突然襖が開き、風間が入ってくると、有無を言わさず天龍の腕を強引に引っ張り廊下に引きづり出した。
「痛いよッちぃ兄!!」
「風間―ッ!」
「天霧…客人の相手をしていろ。」
風間はそう言い残すとすぐに自室に向かった。
*****
「…ちぃ兄。」
「……。」
部屋についてから一言もはっさない。こんなにだまりこむ風間は初めてだった。
とりあえず何もする事がないので外を眺めていた。真っ黒な空にいくつもの星が瞬いている。と、風間が口を開いた。
「…あいつの事を…覚えていたか?」
「ううん…。今日初めてだと思ってた。」
素直にそう言うと、そうか…。と呟いてまた黙り込んだ。この間が一番辛い…。
「……天龍。お前にいつか話さなければと思い続けてはいたが、どう説明すればいいか分からなかった。」
「…うん。」
「…正直に言おう。天龍、お前は俺の本当の妹ではない。」
「……―えっ。」
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