オカシナ学校
一とうとうこの日が来てしまった。
森下千恵子は今朝からもう何度目になるか分からない大きなため息をついた。
季節は春。
通学路には桜の花が満開に咲き誇り、行き交う人々は皆、楽しげで光り輝いて見える。
本来ならば、千恵子もその中の希望溢れる1人であったはずなのに、人生とはまったく予想もつかないものである。
足下にあった小さな小石を苛立ち紛れに蹴ると、膝上15センチのプリーツスカートが揺れた。
私立清涼高等学校の制服は最高にオシャレで可愛い。深みのある赤色のブレザーと同色のプリーツスカート。胸元には黒のリボン。
男子の場合はネクタイを結ぶ。
さすが私立というべきか、有名デザイナーに作らせたものらしく、この辺りではちょっと有名だ。
せめてもの救いはこの制服かな。
千恵子はそう思うことにして、重い足を一歩一歩動かし始めた。
のろのろと歩く千恵子の側を同じ制服を着た少年・少女たちが追い抜いていく。
この時ばかりは永遠に続けばいいと思っていた道もいつの間にか途切れ、目の前に大きな門と小綺麗な校舎が見えた。
仕方なく玄関で上履きに履き替え、通学カバンのポケットを探る。
「南校舎、調理科製菓Aクラス…」
右下に小さなクマが描かれたファンシーなメモ用紙に、走り書きされた文字。
その教室が、これから三年間、千恵子が通うべき場所。
決して望んだわけではないのだけれど一。
はぁー。
もう一度大きな大きなため息をつき、顔を上げた。
あー、もうなるようになれ!
半分やけくそで、ズカズカと廊下を進む。
しばらく行くと、調理科製菓Aクラスと書かれた札を見つけた。
「ここかぁ…」
一つ深呼吸をし、気合いを入れてから、千恵子は教室のドアを一気に開けた。
一ガラガラッ。
「あー、…オハヨウゴザイマス」
教室の中には5人の同級生たち。
千恵子は緊張した面持ちで空いている席へと急いだ。
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