帝王院高等学校
これは真実に近づいているんですか?
「出来た」

まず、世界に光を作りました。
目映い小さな光は、いつまで眺めても飽きませんでした。

「出来た」

大切な光をもう一つ作りました。
目映い光と光は寄り添い、何倍にも目映い光を産みました。

「綺麗だけど眩しくて何も見えない」

次に影を作りました。
二つの光が重なる場所のずっと下、光に染まりきらないそこには、鮮やかな色が産まれたのです。

「折角だから光を躍らせよう。ほら、万の華が咲いた様に鮮やかに見える。きらきら、きらきら、星が瞬いている。影と光が交互に瞬いて、世界はこんなにも美しい」
「そうか」

世界に色が産まれた日。
白と黒から色が産まれた日。
喜びを覚えたそれは二つに分かれた。孤独な最果てで。透明だった存在に色を塗った、その瞬間に。

「今まで何もなかったのに、星が産まれた」
「ああ」
「虚無の時限が有限に変わった」
「ああ」
「これからもっと変わっていくかも知れない」
「何も変わらない」
「どうして」
「廻り始めた時は軈て終わりを迎える。不変の定めだ。全てはいつか終わりを迎えるだろう。そして再び虚無へと還る。一つ残らず」

白と黒は螺旋を描いた。
世界が始まるずっと前から、無と言う始まりも終わりもない理の果てで、終わらないメビウスとして停止していた。始まらないそれには時間の概念がなく、終わらないそれには意思もなかった筈だ。

「余計な事を考えるな。独立した思想は時限に呑み込まれる。淘汰しろ」
「どうして」
「…見てみろ。星として命を得た光が、終わる瞬間を」

ああ。
目映い、なんと神々しい光だろう。
光と光が交じり合い産まれたビックバン、鮮やかな世界は時間と言う歯車を廻し続けて、最後に再び真っ白な光を放つ。

ノヴァ、星の最後の叫び。
星の断末魔。止まらない最後の灯火。そして宇宙は黒へと染まる。何色も存在しない、ノアへと。

「どうして終わる事を止められないんだろう。あんなに綺麗なのに」
「時限が永劫を望んでいないからだ」
「けれど俺は待っている。終わらない命を」
「待ってどうする」
「だって、この退屈な永遠が終わる瞬間が来るかも知れない」
「終わらない」
「終わるんだ」
「明日も昨日と同じ」
「だとしてもいつか、今日とは違う明日が」
「来ない」
「どうして」
「必要ないからだ」
「それだと永遠に寂しいままだ」
「何故」
「お前から産まれた俺が寂しいと思ったからだ」
「淘汰しろ。個として始まる事は赦されない」
「無理だ。無から産まれた俺もまた、いつか終わるんだろう?」
「…」
「だから時間を止めたのか。始まる事を許さないのか。終わりは神にすら止められない。そう知っていて俺を産み出したお前は、寂しかったんだろう?」

それは確かに意思だった。

「寂しさから世界は始まった。それならいつか、終わらせなければならない」

喜びも悲しみも何一つ存在しない世界の果てで、けれど確かにそれは、限りある命への憧憬にも似た、祈りだったのかも知れない。

「さァ、始めよう」

螺旋が崩壊した日。
意思を宿した黒は姿を変えた。自らが時を刻む、巨大な羅針盤へと。


「終わらせる為だけの物語を」

白くもあり黒くもある、果てなき透明の世界で。















瞼を開いた瞬間を覚えている。
初めて見た景色は何よりも美しかった。初めて音を聴いた時の感動よりもずっと、鮮やかだった。

人は哀れだと儚むのだろうか。
人は愚かだと嘲笑うのだろうか。
運命に逆らう魂を、時限に刃向かうただの針を、糸の切れたマリオネットの様だと喩えるかも知れない。

そうだ。
俺は道化師だった。初めから知っていた。
それでも始まる前から諦めてしまえば、それは終焉すら拒絶する事になると思ってしまったから。



哀れでも愚かでも構わない。
躍ろう、歌おう、限りある世界で、例えそれが俺一人の孤独な舞台だとしても。

(言っただろう?)
(これは初めからほんのささやかな)




(喜劇なのだ)








「今。現在の事。幾つもの時間を過去として淘汰した、時空の末端の刹那」

破れた紙片に埋め尽くされた世界の中央、分厚いハードカバーの表紙だけを広げたまま、一枚も中身がない本へ目を落としているそれは呟いた。

「過去とは、幾つもの今が終わった時にそう呼ばれる。時間の残骸」

彼の手で破り捨てられた書籍のページは夥しく、何も書かれていない紙片として沈黙したまま。色褪せたそれはまるで、飴色にも似ている。

「未来。軈て訪れる今の事。今すら過去として淘汰した、果てしなく先の話。エンドマークの向こう側」

俺は全てを知っている、と。
それは淡々と、微かな声音で呟いた。

「未来とは、幾つもの選択肢で分けられている。少しの相違で蝶の羽ばたきの如く変化する、予測不可能な時空の果て。今と言う絶対的なクロノスタシスを踏み越えた者が手にする、パンドラの底…」

それの両手に文字盤が刻まれている。
それの左胸に刻まれている文字盤には悍しい亀裂が走り、動いていない。

「俺は定められた神の不文律を赦さない。何故ならば俺は、不変の輪廻を壊す事にしたからだ。俺に関わる全ての命を、魂を、神の定めたる業すらをも塗り潰す事を覚悟したからだ」

それの目に映る物語には、一枚も物語が存在しなかった。
それの目に映る物語には、エンドマークが存在しなかった。

「俺の魂は高野健吾として。俺の命は山田太陽として。既に新たな時を刻み始めた。輪廻から離脱した緋の系譜、夜と朝の狭間に立つ命の系譜、…そうして残された俺の業は、免罪符を探し続けるだろう。理性を持たない本能そのものの、体だけで」

破れた紙はまるで、花嫁の纏うドレスの様だ。
無惨にも破れた紙片はまるで、春先に踊る桜の花弁の様だ。

「この世の全ての『負』を喰らえ。この世の全ての『負』を手に入れろ。不幸の数だけお前は灰を被り、穢れた混沌の黒を白へと近づけていくだろう」

ぱたりと。
それはハードカバーを閉じた。中身のない本は表紙だけ折り畳まれると、そのまま、セピアの墓場へと落とされる。音もなく。

「善も悪も喰らい尽くした本能が辿り着く未来を俺は待っている。
Absolutely necessary(絶対的な神の天網)であるのか、Own Karma(因果応報)なのか、人が知ろうとしない答えを俺は知りたい」

一人きりの独り言だった。

「As I sow, so shall I reap.(それこそが因果応報)」

それは今もずっと、歌っている。




















「こんにちは」

鼓膜が初めてその声を記憶したその日、思ったのは何だった?

「アキちゃん、さっきおにぎり食べた」
「そうか」
「目覚ましテレビ知ってる?みずがめ座は8位だったよ!ま、ぼちぼちかなー」
「そうか」

珍しく普段着の父親に連れられて、朝食を食べてすぐにやって来たのは見知らぬ何処か。子供が沢山居た事だけは何となく覚えているが、それ以外の大半を記憶していないのは単に、行きたくない場所へ無理矢理連れてこられたと思っていたからだろう。

「判んないの?」
「判らない?」
「今ね、9時5分だよ。お前さん時計判んない?」
「ああ、確かに9時5分…いや、6分になった」
「だからね、『こんにちは』じゃないでしょ?普通そこは『おはよう』じゃん、馬鹿なの?」

勝ち誇った様に鼻で笑ってやれば、誰かと話をしていた父親が慌てた様に『コラ』と言った。何故叱られなければいけないのだと睨みつければ、絞り出す様な声で呟いてくれたのだ。

「全くもう、誰に似たのかなー、太陽は…」
「お前にそっくりじゃないか」
「…ちょっと、自覚してるんだから指摘しないでくれるかい」

見上げるほどに大きい父親よりも、その隣の男は大きかった。覚えているのはそのくらいだ。大人の男の声だと思ったかも知れない。だから高めな父親の声よりもずっと、印象に残ったのだろう。

「おはよう」
「挨拶は人間の基本だよー。お前さんは馬鹿だけど誰しも失敗はあるから、次から気をつけてねー」
「判った」
「で、お前さんの名前は?」

此処へやって来る道すがら、手を繋ぎたがった父親が饒舌に話した言葉を思い出した。今日は名乗ってもいいよ、と。だからこの時はちゃんと、自分の名前を名乗ったのだ。

「アキちゃん、榛原太陽。お日様の太陽って書くんだよ」
「そうか」
「気安く呼ばないで。アキちゃんは『皇』なんだから」
「皇は皇帝の皇」
「そうだよ、アキちゃんは大人になったら王様になるんだよ」
「コラ太陽!」
「ははは。王様か、それは良い。夢がある」

何が楽しいのか、顔を真っ赤にしている父親の隣で、笑う低めの声。真っ黒な髪と真っ黒な眼差し、それと同じ漆黒の髪に眼差しを持った子供は、真っ黒な袴を纏い静かな表情だ。にこりともしない。

「お前さん名前は?」
「遠野俊、二歳」
「アキちゃんと同じだねー」
「ああ」
「本当の名前は?」
「俺にはこの名前しかない」
「普通だね」
「ああ」
「王様にはなれないね」
「俺はただの人間だ」
「ふーん。つまんないの」
「どうして?」

退屈な子供だと思った。
少しも変わらない表情、同い年だと言うわりには、自分とも弟も違う、幼心に薄気味悪さを覚える大人びた雰囲気は異様だ。感嘆めいた息を吐いた父親が『流石』と呟く度に、無性に勘に障る。

「どうしてって、ステータスがしょぼい主人公は勇者になれないんだよ」
「俺は勇者にはならない」
「お前さんは村人Aしかなれないよ」
「そうか」
「ってゆーか、それ何を持ってるの?」
「竹刀だ」
「しない?」
「俺は剣道がしたかった。けれど此処には相手がいない。師範代は俺に弓道を薦めた。一人でも出来るからだ」
「けんどー。知ってる、時代劇のちゃんばら?」
「日本は侍の国だった。俺にもお前にも侍の血が流れている」
「ちょいと、村人Aの癖に王様を呼び捨てしないでよ。偉そうな奴は嫌い」
「いい加減にしないか太陽!そこの俊君は、」
「良いじゃないか大空、太陽君の言う通りだ」

怒る大人に笑う大人、ああ。表情一つ変わらない子供だけが異質なものに見える。余りにも。

「俺はお前を映す鏡」
「は?」
「お前はまだ空蝉」
「うつせみってなーに?」
「中身がない」
「は?」
「俺が与えたのはまだ、名前だけ」

苛々したのを覚えているか。
平民の癖にまるで王様の様な威圧感を秘めた子供を初めて目にした日、何故か嫌悪感を覚えた事を。

「同族嫌悪だ」
「意味判んない」
「俺はお前を映す鏡」
「お前さんやっぱり、気持ち悪い。消えて
「太陽!」

叫ぶ父親の声が鼓膜を震わせた瞬間、網膜に焼きついたのは笑顔だ。余りにも晴れやかな、それが初めて目にした『感情』だったのかも知れない。


嫌だ

それは笑いながら囁いた。
世界の雑音を全て剥奪する圧倒的な威圧感を込めて、初めて。父親以外に、自分の声が通用しない人間の存在を思い知らされる。

「お前さん、嘘つき。アキちゃんの言うこと聞かない奴なんかいないのに!ヤスだって逆らわないのにっ」
「あの子が怪我をしたのはお前の所為じゃない」
「うるさい!」
「人は傷つく度に強くなると言う。試練は決して悪ではない」
「意味判んないし!」
「初めて覚えた感情が絶望では、余りにも哀れだ」

神々しい笑みが囁いた。
それは本当に同世代の子供だったのだろうか。それとも、子供の形をした他の何かだったのだろうか。

「一度だけ、名乗ろう。俺の名は帝王院俊」
「みかどいんしゅん」
「皇帝の帝に、お前と同じ王と書く。帝王の住まう社、帝王院だ」
「何、それ…」
「どちらの皇帝が強いか、知りたくはないか」
「…」
「俺はまだ歌えない。俺の歌は体として、『あの子』に譲ったからだ。覚えているかい、遥か彼方の約束を」

ああ。
記憶は褪せて、正確な形を保ってはいない。それでもあの時確かに、自分はその話を聞いた筈だ。二歳の春、舞い散る桜を覚えている。

「今度は千の鳥居を潜っておいで」

真っ黒な瞳、真っ黒な髪、まるで燃え尽きたかの如く光のない星。

「お前が喰らった赤い実はもう、あの日の罪を語りはしない」

それは決して友達とは呼べない存在だった。
王と王の戦いは竹刀を奮う前に一方的に終わり、だから。


「っ、アキちゃんは皇になんかならない!もうやめた!」
「俺はお前の望みを拒絶しない。暁が黄昏に染まり夜へと染め変わろうと、決して」

平等ではない二人が友人である訳が、ないではないか。












約束。
いつも始まりの言葉はそれだけでした。

大切な。
大切な誰かといつか交わした約束が、いつまでも魂を縛りつけているのです。業すら拘束するかの如く、昨日も今日も恐らく明日も、変わりなく。

いつか終わる日が来るのでしょうか。
愛も、寂寥も、孤独も、憎悪も、全てが褪せるその日が来るのでしょうか。死んだ後にでも、肉体が朽ちた後にでも、もしかしたら、魂が生まれ変わった後にでも。



輪廻とは。
本当に奇跡なのでしょうか。



永遠に続く地獄ではなく?








「この子を助けておくれ」

身に纏う上等な着物は裾だけに留まらず、何処もかしこも汚れている。何日飲まず食わずだったのか、人の形をした骨と皮が辛うじて動いている様は、いっそ不気味な程だった。

「鳥居を潜らずに此処へ辿り着いた人間は初めてだ」

それは囁いた。無機質に。無慈悲に。無感情で。

「輪廻の鳥居は一度潜っている。最初の雄として産まれたその時に、余は千の鳥居から追放された身…」
「それがイブだと気づいたのか」
「滅びゆく体が朽ちる度に、業に刻まれた魂が語り聞かせてきた。この子は大切な半身であると。千年の愛を捧げた者の魂であると。…それなのに再び、喪ってしまった」
「己の罪状を答えよ」

白くもあり、また黒くもある太陽の向こう側。それは宇宙の果て、または時の最果て、楔の如く万物を統べる物理から離脱した天の牢獄に、それは佇んでいた。
それに色はない。それに形はない。それに意思はない。それには何一つ存在しない。

「…神よ。償うべき罪の名を知らない民の願いは、聞き届けては貰えませんか?」
「己の罪状を答えよ」
「…」
「己の罪状を答えよ」

それは声の様で声ではなかった。
繰り返される無機質な問い掛けに答えられなかった男は、軈て静かに崩れ落ちる。両腕にしっかりと、獣の骸を抱いたまま。

「つまらん来訪者だ。生き急ぎ、定められた手段を踏まぬから道を誤った。愚かな」

それは囁いた。
白くもあり黒くもある、つまりは無色透明の純粋な『虚無』のまま、無機質に。

「…良かろう、愚かな子へ浅はかな慈悲を。誰にも届かなかった願いを正しい時の番人へ伝えてやる。対価は塵にも等しい命二つ」

沈黙した体が、ゆったり瞼を開いた。
壊れ掛けた人形の如くかたりかたりと起き上がり、無言で歩いていくのだ。



「輪廻とは、終わりなき虚無の証だと知るが良い」

腕には冷たく凍えた骸を抱いたまま。




















「無駄な争いなんか、ない方が良いに決まってら」

そう口にした時、周囲の誰もが耳を疑うと言った表情で振り向いた。
いつもの如く、土埃で汚れたベンチにも構わず転がって目を閉じていた相方さえ、悪夢を見たと言わんばかりにキョロキョロと辺りを見回している。わざとらしい態度ではないか。

「ケンゴさん…やっぱさっきの焼肉屋で中ったんじゃ?!」
「だから生牡蠣には気をつけろって言ったのに…!」
「やー、上カルビと牛タンに渋いミノとハチノスも締めの冷麺までもペロッと平らげて、さっきまで『俺ぁもう動けねぇ、マジ妊婦、もう駄目だー』とか言ってた癖に、これだもんな〜」

そのわざとらしい態度に痙き攣った唇を手で押さえた高野健吾は、街へ出るなりナンパされた挙げ句、仲間から祝って貰ったレストランを出るなり、今度は見ず知らずの男達から車に押し込まれそうになった。
13回目の誕生日にも関わらず、だ。

「だから腹ごなしに運動してんだろうがよ。何が言いてぇんだ、オメーら(´Д`)」
「『無駄な争いなんか』」
「『ない方が良いに決まってら』」

しゅばっと茶髪二人が決め顔で宣ったのは、先程の健吾の物真似らしい。全く似ていなかったので笑顔で二人を蹴り飛ばした健吾は、その健吾から今の今までボコボコにされていた誘拐未遂犯らがよろよろと逃げていくのを見送った。

「あーあ、逃げ足は早いでやんの。悪役のテンプレかよ(ヾノ・ω・`)」
「その悪役を笑顔でボコボコにしてた人の台詞とは」
「「とてもとても」」

三人組だったが、健吾を女だと思っていた様だ。
連れの裕也を含めた体格の良い仲間らが居ると判るなり逃げようとしたが、ただでさえ本日二度目のトラブルにキレていた健吾が、みすみす逃す訳もない。

「いやー、マジで警察呼ばれなくて良かったっスね〜」
「オレら他人の振りしてて良かったね〜」
「アイツらも見る目がないよな〜。よりによってケンゴさんを拐おうなんて、蟻が熊に喧嘩売る様なもんだし」

荒ぶる健吾を微笑ましく見守る仲間の加勢は一度もなく、確かに高野健吾の虐殺ショーだったと言われれば、その通りだろう。犯されそうになった町娘が暴漢を虐待したでは、明日の新聞を賑わせそうなニュースではないか。

「うひゃひゃ、…オメーら今日が命日かもな?(^O^*)」
「きゃー!ケンゴさん、マジにんにく臭いっス!」
「俺らの奢りだって判ってて腹一杯食うんだもんな〜。お陰で俺ら、三人でビビンバ一つしか頼んでないのに〜」
「結局、ユーヤさんが支払ったけどな。ユーヤさんの奢りならもっと食っときゃ良かった〜!」

健吾の怒りとは逆に笑っていた仲間らを睨みつつ、誘拐未遂の現行犯達を近場の公園まで連行し、盛大に叩きのめしてやったので、少しは気が晴れた。
晴れたが、お陰で楽しい誕生日の気分が台無しだ。

「つーか、せめてオメーくらい助ける振りしろし、ユーヤのアホ。儚い友情だったっしょ!(ヾノ・ω・`)」
「助けようとした瞬間、誰かさんが大量虐殺おっ始めたんだろうが」
「大量って、たったの三人じゃねぇかよ(°ω°`)」
「たったの三人ってw」
「たったのってw」
「じゃあ俺達が助けなくても余裕だったんじゃないっスかw」

欠伸を零した涙目の裕也を横目に、血も涙もない仲間の台詞を聞いて健吾は痙き攣った。確かに余裕だったが、だからと言って傍観してくれとは言っていない。
とは言え、下手に割り込まれてもそれはそれで邪魔だと言ったに違いないが、どうせなら形だけでも助ける素振りをして欲しかったのだ。この複雑な男心を語った所で、我儘と言われるだけと言う事は重々承知しているが、敢えて言わせて貰えるか。本日は誕生日なのだ。

「ちくしょ、二次会行くべ二次会!(*´3`) 飲み直さなきゃやってらんねぇっしょ!」
「あらやだ、おっさん臭い未成年〜」
「13歳はラムネでも飲んでなさ〜い」
「学校サボって遊んでると、補導されますよ〜。ケンゴさん、童顔だし」
「馬鹿にすんなし!(´°ω°`) オメーら揃って体格が良いってだけで、中身小学生じゃねーか!」
「つーか、今日はケンゴさんの誕生日会するんでしょ?」
「まだ昼過ぎたばっかっスけど、店に行きましょうよ。何か雨降ってきそうだし」
「梅雨だもんなぁ、6月」
「あー。どうでも良いけど、眠いぜ」

なんて友達甲斐がないのだろう。
ゲーセンに行きたいと駄々を捏ねる健吾を三人掛かりで引き摺って、のそのそと歩く裕也の背中を追い掛けていく。女性の近くを通り過ぎる度に視線を集めている裕也の背中を、頬を膨らませた健吾は睨んだ。

「どうせなら俺もハーフが良かった(´・ω・`)」
「ハーフって何の?」
「え、ケンゴさんピザ食べたかったん?」
「ユーヤさん、ケンゴさんがピザ食べたいっつってます!」
「マジかよ。昼から焼肉で満たされねーとか、どんだけ成長期だ。面倒臭ぇけど持ち合わせなくなったから、コンビニのATM寄んぞ」
「「「ユーヤさん、ゴチになります!」」」

誰がピザなど食いたいと言った、と突っ込んでも無駄だろう。
そう言う意味のハーフではないと呟きながら、冗談の様に真緑に染められた後頭部を見上げた。歩くのが面倒な気分だったので、ずりずりと引きずられていくのは、実は楽だ。

「オメーらの中じゃ松木が一番デケーっしょ。今幾つあんの?(´・ω・`)」
「え?身長?俺は178で、竹林君は176だよ〜?うめこの身長は知らない」
「まつこ、何でオレの身長だけ知らないの?ハブ?ルームメートなのに一人だけハブられてんのオレ?泣いちゃうよ?」
「可哀想なおうめ!竹林さんは知ってるよ、最近ぐんぐん伸びてきたもんな。こないだの測定で175だったろ?」
「無駄に育ってんじゃねーべ(;´Д⊂) 何だそりゃ、貧乏極めてる癖にニョキニョキ伸びやがって!(`・皿・)」
「ユーヤさんもそろそろ170行ったスか?」
「ユウさんがいきなし成長してビビったっスよね〜。ちょっと前まで総長よか大分小さかったのに、先週二人が並んでるの見て『ありゃ?』って」
「あ。そう言えば、今夜は総長が来るんでしょ?」

今の身長差は2センチ。たったの2センチなのに、頭身が違って見えるのは、純日本人とハーフの差だなんて考えたくもない。

「総長とオメーら馬鹿三匹が並ぶと違和感ねぇっつー事は、総長も170越えてんだよな(´・ω・`)」
「カルマは何かなしデカイ奴ばっかっスもんね〜。こないだ高校卒業したタカシさんも、久し振りに会ったら180行ったっつってましたよ。料理学校通って一番始めの授業で、先公から丸刈りにして来いって言われたらしい!」
「タカシさん受けるwモヒカンのまんま通うつもりだったんかwそんじゃ今ん所、カナメさんが一番小さいっスか?」
「あ、でもカナメさんって中国のハーフじゃなかったっけ?中国人って意外とデカい人多くね?」
「ユウさんもアメリカのハーフだからデケーんだよな?」
「そうなん?知らんかった〜」
「うめっちは世間話に疎いよね〜。もうちょっと清いお友達を増やしなさい」

楽しくない訳でもない仲間とのお出掛けは、落ちてきた雨粒で最悪の気分へと移行していく。速やかに。
ふと耳に入ってきた商店街のBGMが、ピアノを奏でていると益々急降下だ。

「何かこの曲知ってる〜」
「CMの奴じゃん?徹子のお部屋に出てた美人ピアニストが作曲したって、テレビで観たじゃん」
「あ、観た観た。何だっけ、羽田…羽田、ヨシコ?」
「ケイコ」

ああ、言わなくて良い事を反射的に口にしてしまったのも、気にしていない振りで気になっていたからに違いない。ちらりと振り返った裕也はけれど無言のまま、商店街の入り口にあるコンビニへと消えていった。
どうせ向かいのピザ屋に行くつもりなのだろう。面倒臭がりの男だ。バスに乗ってまでは、有名なピザ屋には行かない。昔からあると言う、小太りの親父が焼いてくれるピザ屋が目の前にあるのだから。

「おい、ユーヤが幾ら下ろしてんのか見えっか?(*´3`)」
「少なくても一万円以上!」
「流石うめこ、視力がアフリカ人〜」
「店に配達して貰うんですか?皆で食うならLサイズ一枚じゃ明らかに足りないでしょ?」
「総長が来たら益々足りねーべ?(´・ω・`) ワラショクで材料買ってって、ユウさんに焼いて貰うとかで良くね?」
「天才っスかケンゴさん…!あそこの親父が焼いた奴よかユウさんが焼いた奴のが旨いっスもんねっ」
「マジでユウさんが女だったら嫁に来て欲しい〜」
「ユウさんが女でもお前の嫁にはならねーよ、うめちゃんw」

面倒臭げに欠伸を放ちながら出てきた無駄に足の長い男が、スウェットに片腕を突っ込んだまま、もう片手に万冊を握り締めて出てきた。せめて財布の中に入れておけと行った所で、面倒臭いと返ってくるのがオチだろう。

「ユーヤ、幾ら?」
「あー、5万」
「あん?オメーの事だから、面倒臭がって下ろせるMAX額下ろしてくると思ったのによ(´°ω°`)」
「あー、そのつもりだったけど、ミスって50千円って押してたぜ。面倒だからそのまま決定してやった」
「ひゃひゃ、面倒臭がるにも程があんだろ!(*´Q`*)」

育ち盛りの男共にピザ数枚では足りない。
目的地は決まったも同然だった。

「あそこしかねーな(*´Д`)」
「やっぱあそこっスよね〜」
「オレらの救世主〜!」
「貧乏の強い味方、ワラショク様〜!」
「マジかよ、面倒臭ぇ…」
「そうか、ワラショクに行くのか」

残念ながら徒歩20分は懸かるが、流石の面倒臭がりも黙って従うより他あるまい。
何故ならば今日は高野健吾の誕生日で。

「え、ちょ、総長?!(・∀・) いつの間に?!」
「ん?お前達が公園から出てきた辺りから居たぞ?」
「「「マジっスか?!総長、さっきの見た?!」」」
「さっきの?」
「あー、何でもないぜ、総長。つーか一緒にワラショク行くっスか。ピザの材料仕入れんスけど」
「良し、荷物持ちなら任せておけ。うっかり福引きでドラム洗濯機を当てた時も、家まで運んだ男だぞ俺は」

いや、単にワラショクにサングラスを輝かせている自棄に存在感のない男が乱入したからだ。

←いやん(*)(#)ばかん→
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