帝王院高等学校
加速度的に反抗期が深刻化します
割れた窓硝子の向こうを構わず覗き込み、躊躇いなく叫ぶ背中を見ていた。

いつからだ。
いつからこんな事でこんなにも、苛立つ様になってしまったのか。

「助けて下さいよー!」

形振り構わず、どうして。
そうも素直に一つの見栄なく、縋る事が出来るのだろう。いつからだ。腹の奥底に幾つもの言葉の墓標を積み上げて、本音を言えなくなってしまったのは。


「…羨ましい」

何も彼もが羨ましい。
それが何故なのかは知らないまま、多分。



知りたくないからだ。

















傾いだ体躯が落ちていく様を、淡い夜の光がささやかに照らしていた。無意識に伸ばした手は躊躇わずその黒を捉え、引き換えに敬愛していた男を手離したのだ。


どさり、と。
背後の音に振り返り、愕然とした。


「あたた…何だい、何でこんな真っ暗なんだ…?」

心臓とは、斯くも鼓動を響かせられるのか。
闇に慣れた視界、腕の中で身動いだ黒髪の隙間、閉ざされた瞼が開いていくのをただ、見ている。
自分とはただの一つとして似たところなどない、闇に融ける艶やかな黒髪、同じ闇色の睫毛で縁取られた瞼。

「…おや?照明が落ちていますねぇ。停電でしょうか」
「その声は二葉君、居たんだね。悪いけど灯りをつけてくれるかい」
「ええ」
「………眩しい」

世界に色が生まれた刹那。
網膜は二葉でも山田大空でもなく、ただ。両手に抱き止めた男だけを見ていた。

言葉通り眩しそうに目を細め、顔を手で覆ったまま起き上がった黒髪が手の中から離れていく。


「俊」

名を呼べば、目元を覆っていた節張った手が離れていった。何処から見ても明らかに男の指先を目で追いながら、ゆっくりと、双眸へと視線を向ける。

「…?イチかと思ったが、違った。君は何故、俺の名前を知っているんだ?」

怪訝げに首を傾げた男の黒髪が流れた。
注がれていた意思の強い眼差しは緩やかに背後へ移りゆき、

「ああ、何処かで見た顔だ。…ご機嫌よう、貴公子先生。お前はまたイチを苛めに来たのかな」
「何の話をなさっておいでですか、天の君」
「ソラノキミ?変な事を言うな、この間は『キリスト』と言ったじゃないか」
「…え?」
「ああ、そう。織田信長とも言われた」

肌が。
生まれて初めて、肌が。ぷつり、ぷつりと、粟立っていく感覚を知った。

「明智光秀、ジューダス、ブルータス、躾のなっていない犬。俺はお前を記憶した。俺の可愛いイチを苛めた、お前の事は決して忘れない」
「………ああ、成程。漸く正体を明かしましたか、カイザー。そう威嚇なさらないで頂けますか、一年Sクラス遠野俊君」
「?…どうして君まで俺の名前を知ってるんだ?イチ…ああ、そうか。ピナタから聞いたのか。それなら仕方ない」

ひたりひたりと光の下、凄まじい威圧感を纏うそれは戸口に最も近い二葉へ真っ直ぐ、近寄っていく。

「俊」
「…何だ?心配しなくても何もしない。どうして君は、そんなに悲しそうな顔をしているんだ」
「俊、行くな」
「行くな、と、言われても…。そもそも此処は何処なんだ?また迷子になったなんてイチにバレたら叱られる。そうだ、健吾と待ち合わせをしてたんだ。明日は健吾の誕生日だから」

離してくれと、静かな声が鼓膜を震わせた。
ぷつぷつと肌は絶えず粟立ち、どくりどくりと嫌な音が体の奥底からやけに響き渡る。
どうして二葉はそんな奇妙な顔で見つめてくるのか。どうしていつか父と呼んだ人は青冷めているのか。


「俊君、まさか、君…!」


どうして。
どうして。
どうして、今。



『アンタが産まれて来た所為で私は!』

何故、今。
それを思い出すのか。



「此処か、ナイト」

視界の端に煌めく黄金が移り込んだ。
二葉さえ気配に気づかなかったのか目を見開き身構える気配を肌で感じながら、何故。

「迎えに来るのが遅れてすまない。無事か」
「…それは俺に聞いているのかな?迎えも、俺を?」
「そうだ。ルークの近くに居たとは、迂闊だった。探知が遅れた。許せ」

自分とまるで同じ顔をした別人の手が、俊の肩を抱いているのだ。



「その手を離せ、メイルーク」

怯えた表情の自分が見える。
違う、あれは、自分とは違う、別人だ。

「唯一の肉親であるそなたを私が、殺す前に」
「…くどい!貴様を俺の兄とは認めないと言った筈だ、カイルーク!」
「ならば失せろ。私にはもう、お前への興味はない」

いつか産まれてこなければと良かったと喚く女を見た。
いつか赤い赤い、血文字で一面染められた白い部屋を見た。


「陛下!」
「や、やめなさい、神威!」

誰かがやめろと唱えたのだろうか。
見開かれた黒眼を視界の端に、忌まわしい顔を砕こうと力を込めた手は、燃えるほど熱い。


何故。


「…我々に非があるなら謝罪するから、手を離してくれ。この人は俺を迎えに来ただけなんだ」

慣れた視界の狭さだ。
まるで仮面を被っている時の様に今、他人の手で覆われた眼前に、無表情で見据えてくる黒曜が在る。静かに、罪人を見るように、真っ直ぐ。

「何故、そんな目で俺を見るんだ、俊」
「そんな目?」
「お前は俺を淘汰したのか、サラの様に」
「?」
「何故これを庇う。義兄だからか?」
「義兄?違う、目の前の暴力を見過ごす訳にはいかないだろう。手を離してくれないなら、俺は君に手紙を送らなければいけなくなる」

これは、右手だ。
顔を掴む凄まじい握力を込めた俊の右手は離れる気配がなく、指の隙間から見える意思の強い目は一瞬も反らされないまま、空いた左手の親指を鋭い犬歯で噛み切る光景を見ている。


「君は知っているか、レッドスクリプトを」

滴る赤は指先から。
力を抜いた手を自分と同じ顔をした男からゆっくり離せば、微かに眼を細めた俊はまるで見知らぬ誰かを見るような目で淡々と、同じように右手を離す。

「…ああ、良く知っている」
「有難う。今日が新月じゃなくて良かった。月が出ている時の俺は、暴力を好まない」
「俊」
「…悪いが、夜に名前で呼ぶのはやめてくれるか。イチに怒られる」

耳障りな甲高い声の女を思い出した。
ソファーの上でごそりと動いた気配に無意識で振り返れば、短い髪をがりがりと掻く人が怪訝げに首を傾げている。

「何だァ?何処だここ」
「っ、母上!」

自分と同じ顔をした他人が叫ぶ声を聞いた。
まるで雑踏の様に判断がつかないその言葉は、呪いの如く。


「何が、どうなっているんです、か?」

二葉の呟きに答える者はない。


ただ、脳だけが。



『夢見がちな子だった。…単純に言うと、幼い子だったわ。あの子は子供だったのよ。とても、幼い子だった』

確信に近い推測を勝手に弾き出してしまった、それだけの話だ。

「セカンド」
「はい」
「サラ=フェインの享年が幾つだったか、そなた記憶しているか」

この世に慈悲などない。
救いを求める者は皆死に果てるだけと、知っていたのではないか。

「彼女は僕達と同じ歳だった筈だ。…僕達が居なくなってすぐに亡くなったんだろう?」
「…私が三歳の頃です」
「だったら二十歳になるかならないか………って、まさか…」

この世に慈悲などない。
興味を失った背が自分と同じ顔をした他の男と去っていく光景を止められないまま、


「セカンド、ソファーに残る毛髪ないし皮膚片を、取り急ぎ調べて貰いたい」
「…畏まりました。李のDNAと単純比較で宜しいでしょうか」
「ああ」
「直ちに調査し速やかにご報告を、」
「…いや、」



『文字通り、あの子は全てが幼かった』








「遠野俊江とメイルークの血縁関係が認められた場合のみ、知らせれば良い」

















「何だあれ(´°ω°`)」

青ざめた男が逃げるように去っていく後ろ姿を見送り、高野健吾は首を傾げた。割れた硝子片を片付けに来たらしい業者から注意を受けた山田太陽は覗き込んでいた窓辺から離れ、何やら耳元を押さえ呟いている神崎隼人を仰ぎ見る。

「おい、オレらここにいたら邪魔だろ。飯、行くかよ」
「あ?あー、そうだな。…色々ありすぎて腹は減ってねーけどよ(°ω°`)」
「あ、じゃ俺も!おーい、パヤティー。俺もうお腹ペコペコだよー、置いてくよー?」
「うわぁ!」

何やら震えている隼人の背中に太陽が声を掛けるのと、静かに作業を進めていた業者が窓枠を外した瞬間悲鳴じみた声を放ったのは、ほぼ同時だった。
健吾と裕也、目を丸めた太陽が声の方向を見れば、窓一枚分ぽっかり空いた枠の中に山吹色の甚平を纏う男が挟まっている。

「「「?!」」」
「よう、助けに来てやったぞ。敵は何処だコラァ」

高さだけなら三階に相当する時計台の、ここは二階だ、と。
青ざめた太陽は声もなく唇を震わせたが、どうやら壁を登ってきたらしい佑壱と言えば、驚いている業者を華麗にスルーし、どさっと廊下へ飛び降りた。

「何かあったみてぇだな。健吾、裕也、テメーらが揃ってて何だこの様は。…コラァ!テメー、逃げんな隼人!」
「ち、ちが、カナメちゃんから呼び出しなのお!行かないと借金が膨らんじゃうから離してえ!!!」
「あ?俺にンな言い訳が通じると思ってんのか?!少し目を離したら調子乗ってやがる!テメーはいっぺん拳で、」
「あわわ、イチ先輩!パヤティー…じゃなくて神崎を苛めないで!打たれ弱いんで!」
「ちょっとお、フォローが台無しなんですけどー?!」
「打たれ弱いだと?!それがカルマの犬か!隼人!行きたきゃ、俺を倒してからにしやがれ!来いやぁあああ!!!」

あ、死んだ。
神崎隼人は近年稀に見るマジ切れの佑壱から殴り掛かられ、死を覚悟した。
然し後ろから頭を鷲掴まれ、ぐいっと引っ張られるままスッ転べば、顔面に叩きつけられる筈だった恐ろしい拳骨は、節張った手にしっかりと握られていた。

「…行事中に次期陛下が暴力沙汰起こしてんじゃねぇ、両腕叩き折るぞテメェ」
「高坂ぁ、テメー邪魔するつもりか!隼人を狙ってんじゃねぇ!」
「え?!隼人君ってば、うっかりオージに狙われてんのお?!やだー、飢えたヤクザから掘られちゃうよお」
「おい、糞餓鬼。嵯峨崎にヤられんのと俺様に助けられるの、同じ屈辱ならどっちを選ぶ?」

立っていれば目線は変わらない日向から見下された隼人は眉を吊り上げたが、今は選択肢がない。1分1秒無駄に出来ないのに、もう何分ロスしてしまったのか。
どっちにしろヤられるなら、限りなく命の無事が保証されない佑壱より、日向の方がマシだ。隼人は怒り狂う佑壱からそっと目を逸らし、ぴたりと日向に張り付いた。が、鬱陶しいとばかりに引き剥がされた。

「オージサンがどうしてもってゆーなら、助けられてもあげてもよいよ?ねえ、略してオッサン」
「神崎、お前さんはそれが頼む態度かい。すいません光王子、後で俺がこやつめを精神的に痛めつけておきますんで!」
「あ?」
「ちょっとお、それどーゆー事なのお?」
「どうか、同じ副会長の肩書きに免じてここは寛大なお心で許して貰えませんでしょうか!ほらイチ先輩!うちの子がご迷惑掛けてるんですから一緒に頭下げて下さいよ!」
「はぁ?!何で俺が高坂なんかに、」
「ちょいとお耳を拝借」

ピンっと爪先立ちで佑壱の耳元に口を寄せた太陽は、届かない現実に目を見開いた。ギリッと歯軋り一つ、チリチリ波打っている派手なポニーテールを鷲掴み、

「テメッ、」
「…かくかくしかじかで俊がセレブデビュー」

ぼそぼそと佑壱の耳元でこれまでのあらましを囁いた太陽は、日向から何とも言えない目で見つめられている事に気づいたが、すでに隼人の姿がない事にも気づいた。どうやら隼人に色々と同情したらしい日向が、とっとと逃がしたらしい。

「………それは俺もさっき知ったが、じゃあ何か、お前も帝王院の一員っつー事かよ」
「…みたいですねー。血は繋がってませんけど、俊と俺は従兄弟みたいなもんだって事です…」
「…」
「いつまでこそこそやってやがる」

日向に睨まれた二人は揃って愛想笑いを浮かべ、

「山田、叶の調教はうまくいってんのか」
「ハニーって呼ばせてます」
「ふ、…実はお前が最強なんじゃねぇのか。やるな俄か総長」
「そっちはどうなんですか」
「順調に嫌われてる」
「進展なしってか!あんだけ大口叩いといて!」
「スんません」

佑壱はチラッと裕也へ目を向けた。
空気を読んでいたらしい健吾も佑壱の意思を汲み取り、微かに頷く。

「交響曲第22番、『光の都市』!」

佑壱が叫んだ瞬間、太陽以外が動いた。
素早く立て続けに日向へ襲い掛かった裕也と健吾を横目に、太陽を小脇に抱えた佑壱が走り出す。

「おい、何処に行くつもりだ嵯峨崎!」
「ひょわっ、えっ、えっ?!」
「悪いな、ちゃんと戻るから!見逃せ!」
「ごめんよぃ、光王子さんよ(*´Q`*) 若さをもて余した俺らの相手してくんね?」
「先輩、オレら可愛い一年生だから手加減し、」
「「おい!」」

ぐらりと崩れ落ちた裕也に、日向と健吾の声が揃った。

「ちょ、ちょちょちょ、イチ先輩!」

太陽を抱えている為に階段で逃げようとしていた佑壱は一部始終を見ていた太陽に呼ばれ振り返り、青ざめたのだ。

「裕也?!おい、どうした、裕也ぃ!!!」
「うぷ!」

ぽいっと投げ捨てられた太陽が床とディープキスを果たす中、今正に逃げようとしていた日向の元へ走り戻った佑壱は日向から抱えられている裕也を半泣きで覗き込み、

「うひゃひゃ…これ、ガチの熟睡っしょ(°ω°)」
「う、あ?!」
「糞重ぇ。…ち!俺様目掛けて寝こけやがって。どうなってやがるテメェん所の犬共は、躾がなってねぇぞ嵯峨崎」
「寝、寝てるだけ、か?マジで?」

元々高くない鼻を打ち付けた太陽が鼻を撫でながら近寄れば、藤倉裕也はそれはそれは安らかな表情で爆睡していたのである。

「ほ、ほんとに寝てる?え?何で?こんな脈絡なく寝ちゃうもん?確かに授業中良く寝てたけど、こんな酷いレベルだったのかい?!」
「まさか(;´Д⊂) 酷いのは最近からっしょ(°ω°A)」
「え?高野君は原因に心当たりがあるの?もしかして、何かの病気?」

太陽がそう尋ねながら健吾を見やった瞬間、佑壱と日向が同時に息を呑んだ事に気づいた。日向は表情こそ平然としているが、佑壱と言えば最早顔に血の気がない。

「あーれま。…これはまた見事に、全員ビンゴかい」

チクチク、うなじを刺す痺れに似た微かな違和感に一度目を閉じて、太陽は佑壱の頬を軽く叩いた。

「な、」
「そんな死にそうな顔するくらいなら、とっとと戻ってきたらどうですか?」
「何だ、と!これは元はと言えばテメーがっ、」
「俺はアンタに、神帝に尻尾振って中央委員会会長になれなんて言ってない」

言葉が見つからないのだろうか。
吊り上がった切れ長の瞳を限界まで見開いた男の紅の双眸をまっすぐ見据えたまま、胸ぐらを掴まれ爪先が浮いている太陽は唇を吊り上げた。

「っは、…あれがアンタら程度にどうこう出来ると思ってんですか?誰にも、そう、神帝にすら無理でしょうねー」
「テ、メ…!」
「平凡に暮らせればそれでいいなんて一度でも考えたら、お先真っ暗ですよ。どうしたってあれは俺を引きずり出したいらしいんで」

掴まれているのは、シャツだけだ。
誰が先に動くだろうと考えながら右手を伸ばし、強者故に油断している男の顔を鷲掴む。


お前さん如きが俺に気安く、

成程。想定外だ。
吹き飛ばされていく体、視界はスローモーションで流れていく。
呆然としている佑壱が見えた。同じく、裕也を抱えたまま驚いた表情の日向も見えた。

「その顔、人間らしくていいねー、高野」
「…汚ぇ手で副長に触ってんじゃねーべ、部外者が」

一切抵抗する余裕はない。
佑壱に掴まれたままの姿で戦い慣れた男に蹴り飛ばされれば、派手に吹き飛ぶのも無理はない話だ。太陽は床で強かに打ち付けた後頭部をさすりながら起き上がり、肩を竦める。

「ほらね。イチ先輩、高野ですら怒ってるんですよ?神崎だって、さっきは何か焦ってて行っちゃいましたけど、打ち合わせの時、アンタが中央委員会側に座ってたの面白くなさそうでした」
「お…お前、大丈夫か?今、おま、受身…」
「あー、大丈夫です大丈夫です。赤が黒に変わってる内は俺、無敵なんです」
「何を意味の判んねぇ事ほざいてんだ馬鹿野郎!健吾!テメー、今の手加減してなかっただろ!」

佑壱に怒鳴られた健吾はそっぽ向き、何もない廊下の床を蹴った。いつの間にか業者らの姿はなく、太陽の周りをぐるりと見回った佑壱は、元気そうな太陽に一息吐くと健吾の頭を鷲掴んだ。

「とりあえず、謝れ。判ってんのか健吾、山田は」
「うっせーしょ!俺は認めてないもんね!(´Д`) 俺らの総長は総長だけだし!何でユウさんもハヤトもコイツに慣らされてんの?!可笑しいっしょ!あの白百合がただの一年生を追い出せなんて言う訳ねぇし!(ヾノ・ω・`)」
「あはは、癇癪起こした子供みたいだねー。いいねー、どんどん吐き出しちゃいなよ高野君」
「お、おい、健吾…」
「その餓鬼黙らせろ嵯峨崎、頭が痛ぇ」
「大体!ユーヤがこんな目に遭ってんのだって…っ!ちきしょっ、タイヨウ君のチービ!チービ!ハゲ予備軍!(´・э・`) 余計な事してんじゃねーべ!お陰で何か俺、超ダサいじゃねーかよ!(;´Д⊂)」
「後で覚えとけ、病ます」

ばちり。
笑顔の太陽の周囲でダークなマター的なものが弾け、流石の日向も後退さる。
ひしっと抱き合った佑壱と健吾は見えない尻尾を股の間に挟んでいるが、グーと言う腹の音を響かせた佑壱に気づいた太陽が黒い笑みを消すと、揃って安堵の息を吐く。

「俺のサイドエフェクトが温かいお蕎麦だって告げてる。とにかく夕飯にしませんか、もう何か面倒臭いんで高坂さんもご一緒にどうぞ」
「…あ?何で俺様が、」
「俺のサイドエフェクトが高坂さんが何か隠してるって告げてるんですよねー。ね、そうでしょ、イチ先輩」
「あ、へ、は?!いや、まぁ、確かに…」
「何がサイドエフェクトだ雑魚が、泣かすぞ一年坊主」
「うっせーな、四の五の言うと二葉先輩にある事ない事チクるぞ、金髪ぅ」

にこり。
太陽が平凡な笑顔で宣った台詞で高坂日向は凍りつき、カルマの狂暴な二匹はその場で正座した。

「藤倉は寝るし高野は反抗期だし、幾ら俺が寛大な男でも限界はあるんですよー?え?器の広いA型だからって何でもかんでも擦り付けられたら堪りませんよ、判ってんですか?」
「A型ってどっちかっつーと細かい奴ばっかっしょ(;´Д⊂)」
「あーん?何かほざいたかい、高野君。そうだね、君に蹴られて打ち付けた後頭部にタンコブが出来て腫れ上がった毛穴から髪が数本抜けてたら一本辺り一億円の損害賠償を請求する様な男さ、所詮ね。それともアレかな、他人の髪なんかどうでもいいのかな、大雑把なO型さんはよ、ああん?」
「誠にスイマセンしたm(__)m」

日向に負けず劣らず鋭い舌打ちを響かせた太陽が健吾から目を離し、沈黙しているO型二匹を見据える。笑っているが笑っていない、恐ろしい平凡のデコがきらりと煌めいた。

「こんな時にお腹が鳴っちゃうなんてO型ですよねー、イチ先輩。いいですねー、O型。おおらかで空気読まなくて何でもアメリカン振れば許されると思ってんでしょ?所詮日本人はアメリカに従っとけよみたいな昭和の風習が根づいてんでしょ?」
「そ、そんな事は…」
「落ち着け山田、テメェ支離滅裂過ぎんぞ」
「はっ、ハーフで長身だからって勝った気になりやがって生粋の日本人を馬鹿にすんなよー、介錯すんぞコラー」
「健吾!テメーの所為だぞ、どうにかしろ!」
「ごめん!タイヨウ君、俺が悪かったっしょ!ここは一つ、ユーヤをボコボコにして良いからよ!(;´Д⊂)」

はたり。
落ち着いたらしい太陽は日向に近寄り、ビクッと怯んだ日向に構わず豪快な鼾を発てた裕也の頭を撫でた。チクチク掌に刺さる固い髪に『タワシは抜ける』と呟き、満足げだ。

「ったく、こんな事してる場合じゃなかった」

呟いた太陽に、お前の所為でややこしくなってんだと言う言葉を、気遣いの出来るO型三人はごきゅっと飲み込む。空気を読むスキルが生まれつきないB型は健やかに鼻提灯をパチッと割り、日向の腕の中にも関わらず寝返りを打った。

「うちのお母さんがお腹空かしてんでしょーが、アンタ見て見ぬ振りするつもりですか?え?誉れ豊かな中央委員会副会長閣下は、後輩がお腹空かして泣いてるのに見捨てるおつもりですか?はっはー、こりゃリコールするしかないってか。クロノスライン・オープン!」
『コード:アクエリアス、サブクロノスを確認』
「今すぐ高坂日向をリコールし、」
「判った!ついていけば良いんだろうが、糞餓鬼ぁ!ぶっ殺すぞテメェ!」
「ひー、怖い…。強くてイケメンで料理も上手い男の中の男なイチ先輩、光王子が苛めます助けて下さいつーかシカトしたら叶二葉けしかけてしばくぞこんにゃろー」
「すまん高坂、山田が反抗期過ぎて流石の俺もチビる寸前だ。此処は穏便に頼む、本音は叶を敵に回したくない叶怖い叶怖いアイツは多分本気出せばお前も抱ける」
「…悪かった。判ったから、もう良いだろうが…」

疲れた表情の日向が裕也を佑壱へ放り投げ、舌打ちした後に壮絶に長い溜め息を吐いたのを見た嵯峨崎佑壱と高野健吾は遠い何処かを見つめる。

「何言ってくれちゃってんですか、二葉先輩は俺の腕枕でめちゃんこ可愛い寝顔をそりゃもう無防備に晒してたんですからねー。腕の痺れは男の勲章ですよ、ふふん」

判っていたのに忘れていたとは、恐るべき平凡顔、だろうか。
悍しい惚気を聞いた佑壱と健吾は顔を見合わせ、痙き攣った日向は「マジか…」と呟いた。二葉の無防備な寝顔など従兄である日向ですら見た事はない。寧ろあの男は眠らない新人類だとすら思っていた。
だからそれは狸寝入りだろうと思ったが、勝ち誇った表情の太陽にそれを言うつもりはない。これ以上聞きたくないからだ。

「良し、そうと決まったらどっか場所ありませんかねー?俺の部屋…じゃ、桜がビビっちゃうだろうし、誰にも邪魔されずご飯が食べられる所と言えば…どこだろ?」
「あ?あー…それだったら俺の部屋か、高坂の部屋、か?セントラルフロアなら入ってこれる奴は限られてるし」
「…巫山戯んな、何でコイツらなんざ俺様の部屋に入れてやらなきゃなんねぇんだ」
「あ、それなら二葉先輩の部屋でもいいですけど、俺、実は監禁されてたのに出てきちゃったんですよねー」

寝ている裕也以外が凍りつく。
笑顔の太陽はスタスタと正面玄関から外へ続く階段を真っ先に降りきると、途中に落ちていた溶けたアイスらしき棒を横目に振り返った。溶け掛けているそれが海老天の様な形だったからだ。

「もし逃げたのがバレたら光王子の所為にしちゃうかもー、なーんて。あはは」
「…テ、メェ…!」
「イチ先輩、今夜は温かいお蕎麦と天ぷらといなりがいいです。怖い白百合様に見つからない場所で、おっきなエビ天つけて欲しいなーとか、思ったり。後で神崎に写メ送って精神的ダメージを与える為に」

健吾は乾いた笑顔で佑壱に張り付き、ぶるぶる震えている。何せ全力で蹴り飛ばしてしまったのだ。チビとハゲも言った。言ってやったと満足感すらあった。

「………高坂、俺の部屋でも良いんだけどよ、下の部屋には叶の権限ほどのセキュリティーねぇから破られっし、上の部屋は…実は昨日、セキュリティーのパネルにうっかり触っちまって、な?」
「いっぺん首絞めて良いか」
「おい、流石の俺も死ぬぞコラァ」
「イケメン共、デカい図体でいちゃついてないでとっとと案内しろ」

ビシッ。
佑壱と日向の境、より日向の鼻先に近いすれすれを掠めたベルトに、二大組織の副総長と副総帥は揃って沈黙した。
いつの間にか太陽の足元で土下座している高野健吾の頭を撫でながら、目だけ笑っていない平凡は唇を限界まで吊り上げ、


を怒らせたら今度は泥団子じゃ済まないと思って下さいねー、サッカー馬鹿

瞬く嵯峨崎佑壱の隣で、高坂日向の顔色が消失した。

←いやん(*)(#)ばかん→
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