帝王院高等学校
ギリギリアウトコースを疾走中
「李?」
「っ、王…」

この男が息を乱しているのは珍しい。
騒がしい喧騒から離れ、鳩を裏庭で遊ばせていた祭美月は耳に当てていた携帯を下ろす。

「此処へ、天の君は来なかったか…」
「ナイト様は見ていません。吾は式典に出ていませんが、何があったのです?」
「話が違う」
「筋道を立てて話なさい。汝は優秀が故に、頭の中で自己完結させ過ぎる」
「すまない」

凄い汗だ。

「電話をしていたのか…」
「ええ。遊び呆けている朱雀へ一斉考査対策の進歩を確認すると共に、社長からの定期連絡を」
「…そう、か」
「少し休んでいなさい」

開け放したドアを潜り、室内からタオルを運び出す。芝の上へ崩れる様に腰を下ろした男は被っていた毛を剥いで、染めた金髪を露にした。

「謝々」
「ナイト様…お父上様はどうしました?」
「式典前にお会いしたのみだが、お二人は別行動を取られている様だ。だが馬鹿な俺には解せない。18年も経て今頃、和解するなど有り得るのか」
「キング=ノヴァですか。吾も少々引っ掛かっていた所です。詳細は語っておられなかった故に、尚の事」
「…俺の体に、あの方の血が流れていると言うのは、真実だろうか」

ぽつりと。
恐らくそれは独り言に近かったのだろう。問い掛けの様で、それにしては声は余りにも小さかった。
タオルを被ったまま座り込む男の胸は未だに喘鳴し、およそ高校生とは思えない体躯を包む制服のシャツとスラックスは酷く扇情的だ。


ぺろり、と。
舐めた下唇。

立てば身長差などないに等しい為に、その旋毛を見るのは久し振りではないかと。考えた瞬間に、手は迷わずタオルを剥ぎ取る。


「汝が誰の子であろうと、吾には何等意味なき事。憎らしいルークの実弟であれ、吾が汝を責めた事などありましたか?」
「不是(ない)」
「なれば何を苛むと言うのです。汝のその愚かな頭の中に、吾以外の悩みなど在ってはならないと知りなさい」

緩く顔を上げた男の顎を掴んだ。
逃げる気配に目を細め、無言で逃げるなと命じれば、聡明にして美しい男は動きを止め、

「…上香、」

愛している、と。囁きながら屈み込めば、唇が触れるより早く、



「ぶふっ」

鼻から盛大に赤いものを吹き出した男は、芝生の上に大の字で倒れ込んだのだ。



祭美月18歳、その美しい美貌へ鼻血を浴びせられた男は鳴り響く携帯に無言で応対し、

『おい祭、今すぐ大阪に来い。一斉考査範囲の国語がまるっきり判らん。お手洗いだ』
「…死ぬまでトイレに籠ってなさい、馬鹿など根絶やしになれば良いのです!」
『種絶やしだと?!テメェ、関西の種馬と呼ばれたこの俺に喧嘩売ってんのか!』
「何年日本に住んでいるのですか汝は!お手上げと根絶やしくらい覚えなさい、馬鹿が!」

八つ当たり宜しく未来の上司からの電話を、叩き切ったのだ。
















「早ぇ!ありゃもう人間じゃないっしょ(*/ω\*)」

偶然見掛けたワカメ頭を追えば、裏庭に辿り着いた。ひょいっと覗き込めば、目的とは違う男が立っている。
高野健吾は慌てて頭を隠し、ばくばく騒がしい左胸を押さえながら匍匐前進でその場から離れ、誰の気配もない事を確かめて息を吐いた。

「ひゃー…未来のカナメ」

腹違いの癖にそっくりな兄弟だ。
幾らか男っぽさが残る要以上に、その兄の美月は女性的だ。隼人より背が高くなければ、誰が見ても女性だと思うだろう。

「はー。可笑しいな、総長マジで逃げ切ったんかね?(;´Д⊂) 途中まで追い付いてた筈なのに…」

アンダーラインの真上を貫く様にヴァルゴ庭園の裏の森へ入るまでは、確かに俊とそれを追う長身を視界に捉えていた。
然し手入れされていない原生林の雑木林は天然の迷路で、時折木々の隙間から見えるスコーピオの時計台が見えなければ、方向すらあやふやになる。

「おわっ」

尻ポケットに突っ込んでいたマナーモードのスマホが震え、屈んでいた健吾は飛び上がった。デリケートな場所をブルブルやられてはたまったものではないとスマホを引き抜いて、ディスプレイを見た瞬間、思わず舌打ちして己の口を塞いだ。

「…」

止まない。
止まない。
まるで出るまで切らないと言わんばかりに。

表示された番号はメモリに登録していない為、11桁の味気ない番号の羅列だ。けれどその程度の番号、覚えられないほど馬鹿ではない。


寧ろ、馬鹿だったら良かったのだ。



「はい」

網膜に、映り込んだ光景が信じられなかった。
いつの間にそこに居たのか、気付かないほど動揺していたとでも言うのだろうか。

何分無視し続けたか知れない震える機械が右手から、誰かの手に奪われていく。

「ご無沙汰してます、おじさん」

ゆっくり、ゆっくり、上へ上へと見上げた目は、見慣れたスマホを耳に当てる、それこそ見慣れた男の顔を捉えた。

「はい、ああ、居ますけど、手が離せないっつってんで。オレら今回模擬店やる事になってんです。なんで行事中、駆り出されっぱなしの予定でして。…そうなんス、はい。いえ、あざっす」

模擬店とは何だと本気で考えて、ああそうか、これが『上手い言い訳』と言うものかと、まるで他人事。
愛想の欠片もない声で、だからこそ変に格好付ける事がないので大人からは絶対の信用を受ける淡々とした会話で、通話は終わりを迎えた様だ。

「悪い、指紋ついた」
「あ、うん、オッケー。あのさ、親父…何か言ってた?」
「リオに居たんだってな」
「マジ?知らね(´ε`*)ゝ」
「昼着の便がエンジントラブルで遅れたらしいぜ」

だから昨日から何度も掛かってきたのかと、シャツの袖でスマホの画面を拭いながら、「ふーん」と鼻を鳴らす。
毎回毎回無視している訳ではない。何だかんだ毎月、一度は対応する様にしていた。進学科だった時は勉強が忙しいからと言えば、気遣っているのか、月に数回しか掛かってこなかったのに。

何処からか、普通科へ落ちた連絡が行った様だ。
母親は呆れたと言うよりは見放したのか、そもそも数が多くなかった電話は、近頃全く掛かってこない。
年度末に受けた昇級選定考査で落第してから、一度も。

「チャーターでLAまでぶっ飛ばしたけど、どっちみち日本には明日にしか着かないから、オメーに謝っといてくれだとよ」
「ちぇ、来なくて良いっつってんのに。何で来たがるわけ?そんなに俺の晴れ姿が見たいん?つーか模擬店なんかやんねーし、どうすんだよ(´°ω°`)」
「仕方ねーぜ、来たら来た時だ。その辺の屋台脅して店を奪や良いだろ」
「ユーヤ、天才じゃんw」
「まーな」

難しいものだ。
助けてくれて有難うとまでは言わないが、感謝はしている。だがそれはそれ、今は一人になりたい気分なのだ。

だから手分けする時に敢えて裕也とは別の道を選び、面倒臭い森の中を休まず駆け抜けてきたのに。

「総長探して来いよ(´°ω°`)」
「や、無理だぜ。今思い出したけどな、ハヤトよりオレのが遅ぇんだわ」

ふるふると頭を振った藤倉裕也は悟りを開いた表情で、確かにカルマ幹部でダントツ早いのは自分だと健吾は笑うのを耐えた。
後半伸びる中距離ランナーの佑壱や要も遅くはないが、隼人と健吾は明らかに短距離走で有利だった。その隼人に足りないものと言えば、

「アイツ体力ねーからマラソンなら楽勝勝てるけどよ、総長追っ掛けるとか三回転生しても無理な方に、千円賭けるぜ」
「千円かよ!安っ!(´°ω°`)」

自称、セックスには全力投球とほざくモデルの体力は幹部最下位で、喧嘩の最中に「疲れたあ」と宣い自販機で休憩している様を、度々目撃している。

最後の一人が白旗を振るまで暴れまくるのは佑壱と裕也くらいなもので、体力は恐らくこの二人がツートップだ。

「殿、何か変だったな」
「あん?総長が変なのは入学からこっち、毎日じゃね?(´°ω°`)」
「や、ハヤトが警戒してたろ。さっきも、殿を庇ったっつーより、山田を庇ったな。多分」
「いやいやいや、何の話?俺マジ判んねぇっしょ」
「とぼけてんのか本気で判ってねーのか、どっちだよ」

静かな目に見据えられ、混乱した頭の中身を悟らせない様に曖昧な笑みを浮かべた。隼人が鋭いのは今に始まった事ではないが、相棒の言葉が何の話なのか、本心から理解出来ないのは余りにも情けない。

「ふーん、本気で判ってねーのな」
「…」
「テンパってんのかよ」
「知らね。今気付いたっしょ(ノД`)」
「オレの所為かよ」
「だから知らねって、」
「なら、上出来だぜ」

伸びてきた手が顎を掴もうとしている事に気付き、後ろへ飛び退けた。然し背後は建物の壁、背中と後頭部を打ち付けて悶えている間に胸ぐらを掴まれ、引き上げられる。

「オレをいつまで弟代わりにしてんだ、ケンゴ」
「んなもん、俺のが半年もお兄ちゃんだろうがよ(´Д`*) 誕生会はいっつも、朱雀、俺、オメー、カナメの順だろぃ」
「まだ諦めてねーのか、みっともねーな」

ピキッと、こめかみが軋む音を聞いた。
ぴくぴくと痙攣する右頬が、じわじわと痛みを帯びてくる経過。

「胃の25%、片方の腎臓、左肺の50%、肋骨2本を犠牲にして助けたカナメは、もう忘れてる」
「違ぇ、思い出したくねぇだけっしょ。忘れたのとは違うだろ」
「何であの時、助けたりしたんだ。オメーは関係なかった筈だぜ」

覚えているのは、沢山の音。
チェロ、ビオラ、バイオリン、フルート、ピアノ。
調整を済ませたピアノは、公演が終わるまで決して他人にはさわらせない母親が珍しく、簡単なスコアを持ってきたのを覚えている。


『この子と仲良くしてね』

下手ではないが所詮子供レベルのピアノ、緊張が旋律に乗って鼓膜を震わせた。必死で鍵盤を叩く黒髪の少年の隣で、鍵盤を覗き込みながら笑う子供の瞳はエメラルド。

「ケンゴ」
「さー、覚えてねーな」
「元神童が、か。ボケてんじゃねーか」
「かも☆(´▽`*)」
「そんなに好きかよ」

不貞腐れた声だな、と、掴まれた胸ぐらを見つめたままだった目を上げれば、わざとらしく頬を膨らませた男前。
顔立ちだけなら光王子にも負けないと親馬鹿じみた事を考えれば、迂闊にも笑ってしまったらしい。

膨れた頬をそのままに、尖った唇が近づいてきた。

「ストーップ!」
「…駄目?」
「うひゃ、首傾げんなキショいw」
「傷ついたぜ。責任取れや、な?」
「に…肉!何か肉喰わせてやっから、な?!だから俺の肉体はやめとけって、な?!(;゚∀゚)=3」
「本気で言ってんのか?」

目が笑っていない。
冗談に決まっているではないか、と、いつもの軽口のつもりが地雷に触れただけだった。これぞ自滅だ。

「オレが元気になり過ぎて、困るのはオメーじゃねーのかよ」
「ひゃい(;´艸`)」
「いつも通り抜くだけで良い。目ぇ瞑ってりゃ、後は気持ち良くなるだけ、」
「あぁん?馬鹿ユーヤ、俺だってたまには本気で怒るかんな?(°≡°)」
「ケチ」

尖った唇をバシッと手で叩けば、プスッと頬に溜まった空気が抜ける。開き直りやがって…と怒鳴り付けてやろうかと思ったが、他人の前ではしないだけマシなのかも知れない。

「ケチって、な。あの馬鹿朱雀だって自分の立場は判ってんぞぃ?ホモなんか良い事ねーって。非生産的だろーが(º≡º)」
「そうとは限らねーぜ。殿を見ろ、生産しまくってんじゃねーか。山田も副長もいつの間にかホモに抵抗なくなってんだろ」

はたりと動きを止めた健吾は「確かに」と呟き、眉間に皺を刻んだ。確かに、ナチュラルヘテロの佑壱が太陽の策に乗ったのは、誰もが驚いた事だった。
太陽が二葉を落とすと言う余りにも無謀な計画は、最初から破綻している。そう考えた佑壱は、僅かにハードルが低い高坂日向へ目をつけたのだ。然し誰が落とすのかと言う話になり、満場一致で佑壱に決まった経緯がある。

『あ?何で俺なんだ』
『イチ先輩が光王子と仲良しだからですよー』
『仲良しだとぉ?山田ぁ、何処に目ぇ付けてんだテメーは』
『え?眉毛の下についてますよー?』
『テメ…』
『え?でもイチ先輩だったら楽勝でしょ?光王子より強いんですよねー?』
『ふ、当然だ。大船に乗ったつもりでジェラート喰え』

隼人曰く、どっちもどっちな無謀さ。
誉められたら秒速で照れる素直な性格が災いしたのか否か、佑壱が今、四六時中日向の傍に居る事は噂で耳に入ってきた。

「あのユウさんを変えちまうなんて流石総長☆…じゃねぇ!Σ(ºωº ) だから俺の話を真面目に聞くっしょ!いつか結婚して後継ぎを、」
「あ?朱雀は銀行だろうが、オレん家は会社員だろーが。後継ぎなんざ要らねーよ」
「そうは行くか!オメーの親父さんに逐一聞き込まれる俺の身にもなれや!(°皿°`;)」
「…んだと?」

しまった。
人生最大の失敗だと、高野健吾は流石に青冷めた。笑える程に不機嫌な相方の顔は、今や男前ではなくただの犯罪者だ。人一人、確実に殺している様に見える。

「何だそれ、いつからだよ、ケンゴ」
「え、えーっと、男と男のひ、」
「秘密とか抜かしたら判ってんだろーな、ケンゴ?ゴムは勿論ある。男の嗜みだぜ」
「何で持ってんだよ!んなもん財布に入れとけや!(((ºロº)))」
「新しい女連れてかねーとヤらせてくんねーのはオメーだろ。一般客適当に引っ掛けときゃ良いと思ってよ」
「ユーヤって最低だね(ヾノ・ω・`)」
「毎日毎日オメーと同じ部屋で我慢しっぱなしなのに、手段なんざ選んでられっかよ」

これはピンチなのではないかと、尻の穴をきゅっと引き締めつつ、高野健吾15歳は笑顔の下、墓場へ持っていく覚悟の本音を強く、噛み締めたのだ。

「オレに隠し事すると反抗期が来るかも知んねーぜ、オニイチャン。」

俊や隼人さえ健吾の広すぎるストライクゾーンである恐ろしい事実は、恐らく山田太陽以外気付きようがないと思われる。
女は乳、男は腰。可愛い見た目の内側は、フェチの塊で出来ている事を誰も知らない。

「ホモは天誅ー!!!( ノД`)」
「っ。テメ、股間に膝蹴りとか最低だ、ぜ…!」
「じゃかあしい!俺は椎茸とエリンギは嫌いなんだよ!(;´Д⊂)」

高野健吾15歳、きのこの山より、たけのこの里派だった。
男の子だもの、掘られるより掘りたい。
















幻覚か、と、閉めたばかりのドアに張り付いたまま、嵯峨崎佑壱17歳(きのこの山派)は、大きく深呼吸した。

「叶が高坂を…?んな、馬鹿な…」

気を取り直してドアノブへ手を伸ばした男は然しへっぴり腰で、乙女座りのままだ。
音を発てないよう細心の注意を払い、そっと開いたドアの向こう。丸見えの広いリビング、最奥のベッドはその手前のソファーセットで辛うじて見えない。立てば見えるが、何せ腰が抜けていた。

そろそろそろり、県下最強の狂犬も、世界最強の魔王を前にはビビっても致し方なかったのかも知れない。
所詮ケルベロスなど、魔王の城の番犬だ。魔王を滅ぼすには、それこそ太陽をぶつけねばならない。

因みにこの場合、タイヨウだろうがヒロアキだろうが正解だ。

「うふふ、高坂君。君のしなやかな肌が私の手に吸い付いてきますよ」
「手袋に吸い付く様な肌なんざ持ち合わせてねぇ。退け」
「布一枚隔てた此処には、私に触って欲しいと期待に震える高坂君が隠れんぼ?今お兄さんが解放してあげますからねぇ」
「テメ、何処触ってやがる…!おいっ、二葉!」

見えた。
見てしまった。
ベッドの上で魔王が、暴れ回る王子のパンツを剥ぎ取ろうとしている、悍しい光景を。

(馬鹿猫!抵抗するなら本気でやれ!)

薬を盛った張本人は、釘付けになった目を逸らせないまま、心の中で日向を罵る。ああ、二葉の右手がポイっと何かを投げた。

ぽすっ、と。
ソファーに落ちた布切れは、どう見ても日向が穿いていた黒い下着だ。

「っ、んの、糞が!好い加減にしねぇと犯すぞテメェ!いや、テメェなんざ犯すまでもねぇ!あの餓鬼を犯してやる…!」
「…あ?貴様、誰のもんに宣ってんのか理解してんだろうなぁ、日向ぁ」

チビった。
かも知れない。
きゅっと竦み上がった佑壱は無意識でバスローブごと股間を押さえ、再びドアを閉めようとへっぴり腰で後退さった。

「ふぅ、いつまで盗み見するおつもりですか。このままではか弱い私は、飢えた高坂君の餌食になってしまいますよ?」

何処が「か弱い」だ。
日向と佑壱の心の突っ込みが知らず知らず重なった所で、逃げ遅れた佑壱は渋々バスルームを後にする。
隠れているつもりはなかった、とは、盗み見と言われてしまった今、言い訳にならないだろう。

「あー、離してやれや。高坂、嫌がってんじゃねぇか」
「では君が私の相手をして下さると?」
「叶氏寝言は寝て言えシネ」
「嵯峨崎君、今さりげなく死ねと二回言いましたね?」

ぷいっとそっぽ向いた佑壱へ、二葉は麗しい笑みを浮かべながら首を傾げた。日向から佑壱へ狙いを変えた男はベッドから降りると、ソファーへ座り長い足を組んだ。
疲れた様に倒れ込んだ日向が零した溜息は、長い。

「まぁ良いでしょう、お話があります。高坂君は勿論、君にも知らせておこうと思っていました」
「はぁ?俺に何の話があんだよ」
「仲間外れにしない優しい先輩でしょう嵯峨崎君、どんどん広めて下さって構いませんよ」
「誰の何を何処に」
「私の優しさを世界に」
「助けろ高坂ぁ、この眼鏡にゃ言葉が通じねぇぞ」
「…今更か」

ずささささ、と、ソファーの周囲を素早く回り込み、布団の中に潜り込もうとしている日向の上へ飛び乗った。

「っ、重…!」
「あ、悪い、脇腹に膝…決まったかも」
「テメェ…は!」
「おや、お尻が丸見えですよ?」

日向の上へ馬乗り状態だった佑壱はその場で180度反転したが、今度は日向に尻を向けている事に気付いていない。
バスローブだろうが膝立ち大股開き上等、二葉へ睨みを効かせる佑壱の背後は隙だらけだった。何も彼もが。ひらひら、ぶらぶら。何も彼もが。

「良し、俺も男だ。話だけ聞いてやる。とっとと喋って魔界へ帰れ」
「魔界だなんて、失礼ですねぇ。…とまぁ、それはともかく、申し訳ありませんが貴方々に付けている警備を一時解除させて下さい」
「「あ?」」

声が重なった。
佑壱の「あ?」は、そんなもんついてたのかと言う驚きで、日向の「あ?」は、意味が違う。

「珍しい事もある。…おい二葉、何があったんだ」
「複数の要因が重なってしまいましてねぇ。消去法で、今現在最も貴方達の優先順位が低いと判断しました」
「はん。当然だ、この俺に警備なんざ要らんわ!ぺっぺっ」

気楽な佑壱の台詞に嘲笑めいた笑みを浮かべた二葉は日向を見たが、

「ああ、コイツはしょっちゅう狙われてんだっけ?ふん、仕方ねぇから俺が守ってやらん事もない」
「…は?」
「おや?」

然し、日向と二葉の想像を斜め45℃反れたオカンは、しゅばっとベッドの上で立ち上がり、横たわる日向から穴もエクスカリバーも玉までも丸見えだとは露知らず、

「これで思い残す事はねぇな?良し、とっとと成仏しろ叶、あの世にはお前の友達が沢山居るからよ」

珍しくポカンとしている二葉へ、合掌したのだ。


「南無阿弥陀仏、アーメン。」

呆然と頭上のぶらぶらを眺めていた男が弾かれた様に吹き出したのは、その3秒後である。

←いやん(*)(#)ばかん→
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あきゅろす。
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