帝王院高等学校
抜かりなく!強く切なく抱き締めてダーリン!
気配は先程からずっと、近くに。
効きが悪かったな・と、他人事の様に呟きながら脱がせた服を剥ぎ取れば、ばさりと。
肩越しにブランケットが落ちてきた。


「どうして、貴方がこの男にそこまでしてやる必要があるんですか」
「朝飯に睡眠薬ぶっ込んだ罪悪感、っつったら?」
「…俺は本気で聞いているんですが」

ベッドの上、元プリンセスは今や見事なまでの王子様へ変貌し、誰もが焦がれる。数多の誘いを全て受け入れ、然し全て拒絶して、今。
迎えを待つ、眠り姫の様に。

「いつから俺に気付いていたんですか?」
「さぁなぁ?俺はお前の先公でも保護者でもねぇ。ちったぁ、自分で考えろ、祭青蘭」
「最初から、ですか」
「全部、じゃ、ないな」
「全部?」

立ち上がり、ほんの僅かに自分より下にある眼差しが縋る様に見上げてきたので、仕方ないとばかりに手を伸ばした。がしがしと頭を掻き乱す様に撫でれば、細い割りにしっかりとした毛並みはサラサラと流れるばかり。

「悪いな要。俺の所為で叶に目ぇ付けられたんだろ」
「…」
「でも、それすら俺にゃ、どうでも良かったんだ。お前や他の餓鬼共、そうだなぁ、隼人以外は根っから信じちゃ居なかった。だがな、それだけだ」
「どうして隼人なんですか。アイツは総長に…ユウさんが作ったカルマに、喧嘩を吹っ掛けて来たんですよ」
「だからだろ」

起きているかも知れない、と。
金に縁取られた瞼を一瞥したが、それならそれで良いとキッチンへ向かう。
曲がりなりにも中央委員会エリアにまで侵入した要を誉めてやりたい気もあるが、今はそれすら面倒だった。

「何か、料理すんのも面倒臭ぇな。余った冷飯で炒飯でもすっか」
「俺はマジェスティの庇護から離脱しました。戻ってきて下さい」
「お前だけじゃねぇだろ?ルークは…義兄様は容赦なんざしねぇ。何に対しても、だ。興味があろうと、なかろうと」
「え?」
「杜撰だっつってんだよ。叶が企んだにしてはテメーは、例えるならトロイの木馬だ。つまりハリボテっつーこった」

冷蔵庫の中身は何もない。
卵が欲しいと呟けば、眉を寄せる要の背後からにゅるりと伸びてきた黒い手が、白い卵を差し出してきた。

「オーケイ・マスター、ワラショクの卵で良ければ」
「コーチンは」
「朝献上したのが全部です」

気配に気づいていなかった要は目を見開いたまま、背後から自分の肩の上を伸びている腕を凝視している。

「黄金炒飯、ってな。ケチな貧乏料理、名前が変われば立派なご馳走だと思わねぇか」
「イエス・サー」
「お前はメキシカンの癖に堅ぇんだよ。まぁ良い、ありがとな」
「ベルハーツの息の根を止めておきますか?英国公爵如きが、自由を謳う神子のマスターに対して度重なる無礼の数々、最早目に余ります」
「セカンドの従兄にか?」
「承知の上」
「くっく。判ってんだろうな、コード:ディアブロの意味を。ステルスじゃ叶を、こっちじゃその『公爵如き』を呼ぶんだ」

チャチャチャ、と、軽快に割り落とした卵を溶き解す音が響く世界。決して狭くはなく、けれどその程度の音が支配するのは容易いシンクの、小窓から差し込む青い光が横顔を照らしている。

照明は初めから、落とされたままだ。

「右元帥の俺と左元帥のサブマジェスティを、戦争させるつもりかよ?」
「…失言でした。お許し下さい」
「ま、高坂が寝てたとして起きねぇ所を見ると、テメーに殺意がないからだろ。下らん雑談に一々キレる程、奴は馬鹿じゃねぇ。左右戦争を回避したけりゃ、つまんねぇ考えは捨てとけ」
「Yes Sir, ANGEL」

現れた時とは真逆に足音を響かせて玄関から出ていったしなやかな背中を無言で見送る要を横目に、笑いながら「睨むな」と呟く。

「本物のバイスタンダーだ。あれがランクB、12人のランクA『ABSOLUTELY』に従う、文字通り神の犬だな」
「…」
「そんなステルスにたった一人しか居ねぇ、唯一神がランクS、これぞ文字通り『SINGLE』がカイザーマジェスティルークだ。そんな男がお前一人手放した所で、」
「ユーヤと、ケンゴですか」
「…誰から聞いた」

失敗した。
決して馬鹿にしていた訳ではなかったが、気付くとは思わなかったからだ。賢い弟分、だがそれは、学生と言う枠組みの中でのみ、真価を発揮する代名詞だった。

だからこそ、コンロに乗せたフライパンへ点火しようとした手が止まった瞬間、自分は失敗したのだ、と。

「俺がハリボテで、だとすれば中身はあの二人。俺は囮…この場合は目眩ましの方が、適切でしょうね」
「………はは、そうか、大方、隼人辺りだな」
「自分が情けない限りです」
「良い。あの警戒心の高さを、総長は見込んだんだ」
「どう言う事ですか?初耳です」
「大体、族潰しなんざ馬鹿げた遊びに興じてる死にたがりな餓鬼を、わざわざホームに引っ張り込む物好きが何処に居るっつーんだ。ンなもん、それこそ俺らの唯一神だけだろう」
「…」
「Because, We are(そう、俺らは)」
「Kings pet dogs.(王の犬)」
「Excellent.(正解)」

飴色の胡麻油を一匙、じゅわりと気泡を発てたフライパンから香ばしい匂いが立ち昇り、


「要。俺にはもう、戻るも戻らねぇも、ねぇんだ」
「何、で。もう俺達は要らないからですか?ユウさんの興味がなくなったからですか?う…裏切ったから、許して貰えないんですか…!」
「違う。…おら、泣くなよ。男だろ、チンコ付いてんだろうが」
「付いてますよ!見ますか!」
「切り落とすぞ」

使い道のないマイ包丁を突きつけ、黙った要を余所に卵を落とし込み、ご飯を放り込んだ。後はささっと混ぜて、万能な手作り醤油を一瞬振り入れ、シンプルに塩で味を整えるだけ。

「…言ったろうが。お前らが何であれ、俺にとってはどうでも良かったんだ。敢えて本音そのまま言わせて貰うがな、相手にしてなかった。所詮、お前らが束になろうが俺のが強い」

こんなもんか、と。
火を落とし、棚から適当な皿を漁る。二葉が揃えたと言う食器類はどれも、そこそこセンスが良かった。
普段着がスーツか浴衣と言う、それこそ極道の様な生活をしている割りに、こんなもののセンスは良いのかと感心したが、そんなつもりはないのに勝手に思い浮かんできた山田太陽の私服は、酷い。一昔前にアメリカで流行った様な漢字Tシャツを幾つか見たが、色も組み合わせも最悪だ。

「…コホン。裕也にせよ健吾にせよ、端から疑ってねぇとは言え、隼人や北緯、獅楼にしてもだ。鯨に対して鰯で挑んでる様なもん、っつったら判るか?」
「そうだと思います。貴方が勝てない相手なんか、そう居なかった。俺が知る限り、総長と、…あの人くらいですよ」
「だから睨むなっつってんだろ、喧嘩っ早い奴だ。誰に似たのか」
「ユウさんに似たんです。俺は物心付いてからこの方、貴方以外に母親の記憶なんかないんですから!」

手にした皿へほかほかの炒飯を丸く盛り付ければ、怒鳴った要の手が伸びてきた。
がっと掻っ攫う様に奪われた皿、ガチャガチャと食器棚を漁りレンゲを掴んだ要は眉を吊り上げたまま、ビシッとレンゲを突き付けてくる。

「お母さんの炒飯を間男にはやりません!」
「おい」
「これは俺が食べま、」
「煩ぇ。それは俺様が喰ってやる」

今度こそ、呆れた様な表情だった佑壱すら、目を見開いた。気配がなかった、なんてものではない。
いつ現れたのかさえ目で追えなかった佑壱と言えば、要よりずっと高い位置にある男が、くわっと欠伸を零すのを見つめたまま。


「人の部屋に無断で踏み込んでおいて図々しい餓鬼だ。…糞二葉、どんな教育をしてやがる」

暴れまわる要のレンゲを奪い、がっと掬った炒飯を大口で頬張った大人げない日向は佑壱が脱がしたまま半裸で、辛うじて下着を穿いているだけだ。

「あ、あ…ぁ、俺の、胡麻油…、が」
「そう言や、お前の好物だったな、胡麻油」

絶望的な表情で半分程なくなった炒飯を見つめた要にどう声を掛ければ良いか、頭を巡らせた嵯峨崎佑壱は然し、ガツッと顎を掴まれ、振り払う間もなく噛みつかれた。

「「?!」」

皿を落とした要の足元でガチャンと、黄色い米が撒き散らされる。陶器の皿は重い音を発てたが、魔王の呪いでも掛かっているのか、割れずに済んだ。

そんな事を考えている場合ではない。
ボクサーを穿いただけの男に、冷蔵庫へ押し付けられたまま口を塞がれている。

「む、ぐむっ、モガッ、むむ」
「判っただろう、味が薄い。テメェらしくねぇ失敗だなぁ、嵯峨崎」
「お、おま、だからって口移しするか?!それも要の前で!」
「だとよ。ママは間男と二人っきりになりたいっつってっから、マザコンは指咥えて外で遊んでこい、糞餓鬼」

声も出ない要を一瞥もせず、ぐいぐい佑壱を引っ張っていく日向はもう一度欠伸を発てたが、見た者は居ない。
ぼすっとベッドの上へ転がされたオカンは正に「まな板の鯉」だったが、その上にのっしり乗り上がってきた日向と言えば今にも閉じそうな瞼を何とか持ち上げ、


「ああ、…大人の遊びに興味があるなら見ていくか?」

完全に子供扱いされた要は慌ただしく出ていったが、バタン!と、部屋が揺れる程の衝撃を伴ってドアが閉まった瞬間、佑壱は顔を覆った。

「躾がなってない子ですいません」
「んな事より、テメェ、何か盛りやがったな…。意識は起きてんのに体が動きゃしねぇ」
「すまん。お前が寝たら顔に落書きしてやろうと思って、つい」
「…馬鹿か、よ、糞犬が…」
「即効性だったんだって、式典の間、屁ともなさそうだったから効いてないと思ってたら、まさか今頃効いてきたとか思わねぇだろ?」
「覚えてろ、後で必ず泣かす。…必ずだ」
「は、咥えてやるっつってんのに勃たなかった不能が笑わせんな。今なら俺がテメーを泣かしてやるぞ、あ?」

返事はない。
ずっしりと確かな重みが体にのし掛かり、無意識に、背中をポンポン叩いてやった。台所を片付けなければいけないと呟きながら、


「温けぇなぁ、お前はよ。マジで、名は体を現すってか…」

幼い頃に飼っていた、茶毛のウルフハイブリットを思い出した。



「日向」


ぎゅむりと熱を抱き締めた後の記憶は、ない。



















「あーもー、何で今の若い奴は事ある事に走り出すんだろうねー!」

などと、怒鳴り散らしながら加速した山田太陽は脇腹を片手で押さえた瞬間、派手に滑り転んだ。

ぎょっと振り返る者も居たが、見事なスライディングだった所為か、彼に寄ってくる者はない。


「痛いー…」

足は決して遅くない、筈だ。
公立小学校へ通っていた頃は運動会で一等賞になった事もある。まぁ、一年生の時の一度だけだが。


いつも通り突然走り出した俊を今日こそは逃がすかと追い始めたものの、にゅるりにゅるり、鰻か猫か、いつも以上に軟体動物じみた動きで破天荒に逃げ回る俊を捕まえられる者はなく、人で溢れ返る広場へ出てから人混みに紛れたターゲットを探すべく、手分けして散り散りバラバラ。
いつも通りだ。昨夜もそうだった。近頃の太陽は走ってばかりだ。

お陰様で腹黒大魔王に弄ばれるし、オレンジがゴロゴロ転がってくるし、学園長が渋い男前だったし、ああ、もう、現実逃避している場合ではない。
いい加減起きねば、死体と間違われる。

「ちくしょ、日本は冷たい国だよ。でもアメリカなんか行かない。英語判んないし…」

死にそうな表情ながら走っていった隼人は転んだ太陽には気付かず、黄色い悲鳴に見送られながら見えなくなった。
いや、気付いていたかも知れないが、敢えて無視した可能性も否めない。何故ならば奴が、神崎隼人だからだ。こんちくしょう。


「孤独に負けない、俺」

呟いて、キリッと眉を吊り上げた太陽は起き上がった。然し下がり気味の眉はすぐに定位置へ戻る。いつものパターンだ。
低い鼻を擦ったらしく、ひやりとしたので手で擦れば、赤い血が手の甲を汚す。

「うん、赤い。良し良し」

オーディエンスはモデルの隼人に釘付けで、太陽に構う者はなかった。転ぼうが血が出ようが挫けない、独身歴も友達居ない歴もそこそこ長い太陽は、ひょいっと起き上がり、キョロキョロと辺りを見やる。

相変わらず謎な行動に出たがる旅人の親友は、呼べば出てくるのではないかと思った。
半分、現実逃避だ。得意のRPG思考、とでも言おうか。

「おーい、俊やー、遠野俊君やー」
「はァい。呼んだー?」
「マジかい」

頬に手を当てて、庭園へ続く木陰の煉瓦道を歩けば、ものの数分で声が返ってくる。何処だと辺りを見回せば、ガサッと音がした頭上の木々から、スタッと降りてきたボサボサ頭。

「おわっ」
「あれ、驚かした?」

今度は尻から転んだ太陽と言えば、首を傾げながら覗き込んでくる俊を見上げ、ぱちぱちと瞬くばかり。

「な、んか」
「ん?」
「いつものお前さんじゃない気がする、ん、だけど」
「えー?僕、どっか変ですか?」
「変なのはいつも変だけど…」
「んー、良く判んない。はい、早く起きましょ」
「あ、ありがと」

差し出された手を借りて立ち上がろうとすれば、ぐっと後ろからの引力に体が流される。太陽の右手も俊の右手も伸びたまま、けれど二人の距離は目に見えて離れたのだ。

「おやおや、怪我をしたんですか?君一人の体ではないのですから、私の許可なく傷など付けないで下さいねぇ、山田太陽君。お仕置きしますよ?」
「…お前さんかい、白百合様。いつからついてきたんだい?」
「孤独に負けない君がスライディングした頃には追い付いていました」
「見て見ぬふりしないで助けてよねー!俺、盛大に転んだのにー!何がお仕置きだってんだい、馬鹿ー!先輩の癖にー!」
「おやおや、孤独に負けないのではなかったんですか?」
「ふ、女癖の悪い女顔の先輩でもいいから助けて貰いたい時もあるんだよー。溺れる者は魔王をも掴む」
「おや、悪いのは数学と英語の成績だと思っていましたが国語もでしたか。次からは国語も取り入れましょうね」

さらっと馬鹿にされた様な気になった太陽はしょんぼり肩を落としたが、にこにこと見つめてくる二葉は携帯している傷スプレーを取り出し、プシュプシュ鼻に吹き付けてくる。

これ染みるんだよなーと、太陽が涙目で耐えていると、何故かもう一度プシュっと吹き掛けられた。

「あいた!…ちょ、そんな大きい傷じゃないよね?何で三回も振ったの?何で?」
「念には念を」

じとっと睨めば、胡散臭い笑みが顔を逸らす。

「万一でも化膿すれば、大変でしょう?」
「化膿より叶の頭の中身が大変だよねー」
「これはまた、上手い事を仰る」
「ふ、もっと誉めてくれても構わないよ。こう見えて俺、誉められると伸びる男だから」
「長い足ですねぇ、山田太陽君」
「そこは伸びないよねー」

ゴスッと二葉の腹へ拳を叩きつけたが、太陽の平凡パンチは効かなかったらしい。それまで黙っていた俊が吹き出す音に、太陽は肩を震わせた。

すっかり二葉のペースに乗せられて、忘れていたのだ。

「仲良しだね、二人共」
「や、別にそんな事は、」
「ええ、ご覧の通り仲良しですとも。隅々まで互いを知り尽くした間柄ですから。ねぇ、ハニー」

だから、此処は並木道の脇から伸びる庭園への細道である。あちらこちらで一般客が写真を撮ったり休憩したりしており、生徒の数も少なくない。

「な、ななな、何を仰るんですかー、白百合閣下ー!」
「照れているのですか?うふふ、照れずとも良いのに」
「あ、あはは…」
「うふふ」
「照れてない、嫌がってるだけだ。」
「何か言いましたか?」
「…何でもないですー」

そんな所で何を考えたのかこの男、そう、叶二葉と言う最早疑うべくなく二重人格で性悪で陰険で鬼畜で良いのは顔と言葉遣いだけであるこの男は、

「全く、私が案内して差し上げますと言ったのに、どうして君は天の君と二人きりなんでしょうね?あんなに深く愛し合いながら、二人で一緒に楽しもうと仰ったではありませんか」
「な、そ、お、おま、な、え?!嘘、何を、やめ、」
「忘れたのですか?二人で共に過ごしたあの夜を」

何と思わせ振りな事をほざくのか。
大多数の人間で犇めく庭園は耳が痛いほどの静寂で包まれ、誰一人身動きしない。耳に全ての神経を集中している筈だ。

嘘ならまだしも、真実である。
だからこそ言わないで欲しいと思うのと、「くっそこれを期に自慢してやるかー!」と言う思いが混ざり、「死にたい」に収まった。

山田太陽、この世からの逃避を選択するのもそう遠くないかも知れない。

「二人で共に過ごしたあの夜って、どんなディープな夜だったんですかァ、二葉先生!」
「全校放送で婚約を公表した二人が、次に向かう所と言えば婚前旅行に決まっています」
「きゃ!ラブラブでしたか!きゅんきゅんします!」
「ええ、なので私達の邪魔をしないで貰えますかジェネラルフライア」

太陽の両耳をそっと塞いだ二葉は笑顔のまま、もじもじと体を揺らしている俊へ蒼い眼差しを注ぎ、

「5位枢機卿が2位枢機卿の言葉に逆らう事など、あってはならないでしょう?」
「ふぇ?何のお話ですか?」
「いえ、判らなければ宜しいのです」

ふわりと太陽の耳から手を離した二葉は、ひょいっと太陽をお姫様抱っこで抱き上げる。ぎゃー!だの、きゃー!だの、凄まじい悲鳴で包まれた庭園に、山田太陽は固まったまま、アーモンド型のやや吊り上がった双眸をぱちくり瞬せた。

「それではご機嫌よう、天の君。警護に風紀委員を数名手配しておりますので、安全に行事をお楽しみ下さい」

それが『監視』である事に気付かなかったのは、忙しなくぱちくりしている、太陽だけだ。



「…ふぅん、ふーちゃんはブスが好きなんだねぇ。お姉ちゃん、悲しいなぁ」

残された呟きを聞く者など居ない。
誰もが平凡な少年をにこにこ運んでいく美貌に目を奪われたままで、だから、



「あの子邪魔だよねぇ?
 …大丈夫だよ、全部僕が上手くやるから安心しててね、お母さん」

無機質な笑みもその言葉の意味も誰一人、知る事はなかった。

←いやん(*)(#)ばかん→
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