帝王院高等学校
違和感に恐怖と怒りのスパイシースムージー
「あ、」
「「あ」」

車の鍵に繋がったリングに指を通し、くるくると回しながら向かった先の駐車場で。
今正に黒塗りのカールスロイスから降り立った男とその傍らの秘書と遭遇し、声を上げた。

何が驚いたと言えば、見慣れた男の格好が、余りにもいつも通りだったからだ。

「さ…嵯峨崎会長、さん?」
「そうよ。何よその目は、失礼しちゃうわね」

ぷくっと頬を含ませたサラサラストレートの赤髪を持つ男、嵯峨崎嶺一。
その2番目の息子を先程見たばかりだが、改めて見比べてもやはり、良く似ている。まるでクローンだ。

「何でこんな日まで女装なのかなー、とか、思わなくもないんですがねー?」
「うっさいわね、ゾンビの癖に」
「あはは、こりゃ手厳しい」

返す言葉がないと巫山戯つつ、こちらもまた、顔の作りは父子良く似ているが中身は全く似ていない、見た目は弁護士か官僚かと言う風体の長身を見やる。

「どうも、小林さん。先日は色々とお世話になりまして」
「ふむ、どうやら山田社長は根に持ってらっしゃる様で」
「いいえー。僕はともかく、守義先輩が『あのカスは必ず寿命まで生かしておけない』って、毎日Facebookとかで呟いてましてねー」
「おやおや、近頃の若者は何かとSNSとやらに泣きついて、感心しませんね。携帯依存は社会現象ですよ?」

片や、女関係が余りにもだらしなく結婚生活が続かなかった男と、片や、人生で交際した人数一人・入籍した人数一人と言う、真面目な人生を貫いている男。
これが親子かと心の中で他人事の様に感心しつつ、無意味な会話を断ち切った。

「先輩は高坂さんと一緒に来るのかと思ってました」
「まぁね。『あちらさん』から良く思われてない私が、自分の母校にすら警護を付けずには歩けないって、満更大袈裟じゃない事実だけど。…そっちこそ、こんな所に居て良いの?」
「だからこんな所に居るんですよー、だ。小林…うちの専務から連絡がありましてね、奥さんが外出したってんで、」
「成程、見つかる前に逃げるって?」
「その逆ですよ」
「はぁ?」

怪訝げに首を傾げた男に、さもあらんと唇を吊り上げる。何が何だか判らないのはこちらも同じだが、今、言えるのは一つ。

「憎んでいた相手が、キングじゃなかったんです」
「何よそれ、どう言う事?」
「…ロードって名に、聞き覚えはありませんか?」

ビンゴか。
目を丸めた男を認め、がりがりと額を掻く。

「やっぱり先輩、知ってて黙っていたんですね…。どうして教えてくれなかったんですか?僕はともかく、秀皇にまで黙ってるなんて幾ら何でも、」
「な、何で、アンタがそんな事を知ってるの…?!機密中の機密なのよ!」
「と言われても、確かにこの耳で聞いたんですよ。とても信じきれない話ですが…」
「聞いたって、誰に?!」
「誰って、キングに」
「は?!」
「此処から離れましょう」

薄暗い地下駐車場に、幾らか車が入ってきた。素早く嵯峨崎会長へ肩を回した秘書の台詞に、否はない。
聞かれては不味い話だ。

「何で…こんな…一般人に話してしまうなんて…」
「考え事は車内でお願い出来ますか。会長、急いで下さい」
「あ…ごめんなさい、コバック」

だが然し、それにしては彼の顔色は悪かった。


乗り込んだロールスロイス、走り出す車体。
彼らに気づいたものは居ない。


「着きましたぜ親父。ワシらは此処で待機しとります」
「ああ、頼む。どうだアレク、降りれるか?」
「…いや、慣れないヒールなど履くものではないな。すまないひま、手を貸して貰えるか」
「おう、そのまま俺を掴んでろ。折角のドレス姿じゃねぇか、お前をエスコートしたい」

短いブロンドに花飾りを付けた美女がベンツから降り立つと、埃臭く薄暗い地下が華やいだ様だった。

「何なら脱ぐか?ずっと抱いててやるぞ」
「冗談だろう。去年少し竹刀を振るってぎっくり腰になった事を忘れたのか?腰を痛めるぞ」
「…お前なぁ、そこは嘘でも『うん』って言えよ…」

白いワンピースで抜群のスタイルを飾った妻を満足げに眺めた男は、真っ直ぐに地上へのエレベーターを目指す。

「なぁ、ひま。本当に…似合っているか?ヒラヒラして落ち着かないんだが、本当に、可笑しくはないか?」

心配げな妻の台詞に、高坂組を背負う男は鷹揚に頷いた。常に剣道着である袴か、着物か、スカートに慣れない妻の、滅多にない狼狽えた表情は中々良いものだ。

「こんな出で立ちは日向の入学以来だ。どうも落ち着かない…」
「綺麗だぜアレク。くくっ、日向に見せたら腰抜かすんじゃないかぁ?」
「そ、そうか?日向がグレてしまったらどうすれば良い?40手前でこんな、こんな破廉恥な衣装を着た母親に、あの子は愛想を尽かしてしまうんじゃないか?」
「んな訳あるか、この世にお前よりイケてる女は居ねぇ」
「ふん、そもそも女より男の方が好きだったろうに」
「…コホン。可愛い息子にも会いたいし、トシや嵯峨崎とも会うかも知れないだろ、今更帰るとかナシにしようや。な?」

渋々頷いた妻に肩を撫で下ろした男は、そのままエレベーターへと消えていった。



「報告します。クリス、アビス、共に確認。ですがアビスは日本人2名と共にパーキングエリアより退出しました。…追跡しますか?」

幾つも並ぶ車の一つから、その光景を終始見つめていた男達が居た事には、ついぞ気付かずに。


「了解しました、マスター。」













「お疲れ、俊。何かさー、今日は立派だったね。さっきの挨拶、自分で考えたの?」
「そーよ。カイちゃんと一緒に考えました☆」

隼人が差し出した棒キャンディーを頬張りながら頷いた俊に、山田太陽は奇妙な顔で「そっか」と呟いた。

首の裏側がチクチクする。
嫌な予感、と言うよりは、形容し難い違和感だ。説明しようがない。

「あのさー、俊」
「なァに、タイヨー」
「お前さん、その、いつから気づいてたの?てっきり、俺、知らないんだと思ってたから」
「ふぇ?」
「ボスー、知らないひとからお菓子貰ったんだけどさあ、チョコっぽいのー。食べるー?」
「きゃ!頂きますとも!」

隼人はいつも通りで、変わった様子はない。
やはり自分だけなのかと微かに眉を寄せて、ファンからの差し入れだと言うチョコレートを俊に手渡した隼人の腕をそっと叩いた。

「神崎君、ちょいとこっち来て」
「はあ?何?」
「いいから…」

俊はいつもの様にチョコを頬張り、誰も聞いていないであろう来賓挨拶を眺めている。
神帝自らが滅多に晒さない素顔を晒したとあって、静かに興奮している生徒らはどれを見ても夢見心地と言う雰囲気だった。

「ちょっとサブボスってば、何処に行くつもりー?」
「静かな所」
「ボスはどうすんの?」
「だからっ、」
「ねね、喧嘩はおやめ下さいまし」

ぞくり・と。
背を這った冷たい恐怖は、跳ねた心臓と共に呑み込んだ。


ぎぎぎ、と。
静かな廊下に出たばかりで振り返り、椅子に座っているのを確かめた筈の俊が立っているのを認め、意味もなく首を振る。


「け、喧嘩は、してないよー?」
「あらん?僕ちん、勘違いしちゃったみたいざます。ごめんあそばせェイ」

にこっ。
口許に笑みを浮かべた俊に、詰めた息を吐いた太陽は、ひそりと額に浮かんだ汗を拭う。どうしてこんなにも緊張しているのか、自分自身が判らない。

「お式サボっちゃったわねィ。どうしましょ、隼人きゅん」
「ん?ボスがどっか見たいならあ、隼人君もついてってあげよっか?」
「わーい、しおりチェックしてました!」

付箋だらけの行事案内を何処からか取り出した俊に、へらへら笑いながら顔を近付けている隼人はやはり、いつも通りで。
差し入れと共に貰ったのか、見覚えのない可愛らしいリボンで金色の髪をさっと結んだ隼人は、ああだのこうだの、しおりを指差している。

「食べ物系は明日の方が充実してるよねえ。今日はどっちかってゆーと、展示系が多いかなあ。あ、お化け屋敷だってー、面白そうだねえ」
「楽しみですん!」
「怖くなったらあ、隼人君に抱きついてよいからねえ、ボスー」

考え過ぎらしいと自らを戒め、凝り固まった肩を幾つか揉んだ太陽は、そこで見慣れた男二人を見付けたのだ。

「おーい!高野君、藤倉君!遅いよー、今頃来たの?」
「おひょ?(°ω°) タイヨウ君じゃん、おっはー。つーかハヤト、そのピンクのシュシュやめい、似合い過ぎw」
「うっせ猿、てんめーの毒々しい頭と違ってえ、隼人君は似合ってるからよいのー。モンキージェラシーはやめて下さーい」
「…はよす、殿」

何とも心強い。
相変わらずニコニコしている健吾は隼人と軽口を叩き合い、裕也もいつも通り眠たげだ。

「今から施設回りするんだって盛り上がってるんだけど、二人も一緒に行かないかい?色々話もあるし」
「話?」
「え?やー、改めて聞かれると有り過ぎて何とも言えないんだよねー…。まずはカイ庶務のこと、かなー」
「山田」
「ん?」
「や、何でもないぜ。気にすんな」

がしがしと、頭を掻き回された。
撫でられた、と言うよりは、髪をグシャグシャにされたと言う方が良いだろう。
ぱちぱちと瞬き、暫し呆然と裕也を見つめていたが、眠たげな眼差しは何処を見ているのか、再び大きな欠伸を発てた。

「タイヨウ君はどっか行きたい所は?(・∀・)」
「えっ、俺?!俺は特にない、かな」
「そ?(°ω°) 遠慮すんなや?」
「や、今更遠慮なんかしないけどねー」
「なら、その辺からチラホラ見てくけどそれでOK?(・ω・ )」
「あ、うん、オッケー、あいた!」
「はあ?」

頼もしい健吾に頷いた太陽のふくらはぎを軽く蹴った隼人が、ずぽっとポケットに両手を突っ込んだ。
健吾よりも遥かに高い位置にある垂れ目を眇め、腰を曲げて顔を近付けている。最早チンピラにしか見えない。

「何てんめーが勝手に仕切ってんのお、お猿。今すぐ山に帰りなさいー、ヒラヤマ山脈にー」
「ちょwお前wヒラヤマってw何処wわざと?わざとなん?本気で間違えたん?ヒマラヤ山脈だろw(´艸`*) せめて存在する山にしてwww」
「はあ?猿なんざヒラヤマで十分だっつーの」
「あー、平山温泉かよ。猿っつったら温泉だしな。流石だぜ、ハヤト」
「「は?」」

一人、裕也のマイペースな発言に声を揃えた健吾と隼人は揃ってポカンと口を開けたまま、

「藤倉君や。平山温泉って聞いたコトないんだけど、どこにあるの?」
「城も温泉もある、オレベスト3に入る熊本県だぜ。覚えといた方が良い、熊本城は素人にもプロにもオススメだしよ」
「あ、そ、そう…ありがと」
「山田には彦根城も似合うと思うぜ。いつかいっぺん行ってみろ」
「ひ、彦根城?似合ってるって、そのお城が、…俺に?」
「ああ」

生まれてこの方、都内から出た事が殆どない太陽は興味がない城の話に付いていけず、オロオロと健吾を見たが目を反らされ、隼人を見たが隼人もまた、意味が判っていない様な表情だった。
そう言えば、隼人の弱点は日本史・世界史と言った歴史関係だった事を思い出す。

「彦根城はァ、小さくて可愛いお城なり」

ぐりっ。
気配なく背後から抱きついてきた俊が、頬を擦り付けてきた。生暖かい鼻息が鼻先を掠め、いよいよ吐き気さえしてくる。

「ちょいと俊や、重いから離れてよー」
「…チビぶさちゃんの、何処が良いんだろうねぇ。」
「え?」
「うふふ。タイヨーにぴったりだって、言ったにょ」

ふわり、と。

「ぴったりって…彦根城が、かい?」
「うふ、うふふふふ。そーょ」

鼻を掠めた良い匂いは一瞬のものだ。モデルと言う職業の割りに香水の匂いなど殆どしない隼人とは違い、流行りのコロンの香りをいつも纏っている健吾の匂いに、直ぐ様、それは掻き消された。

「小さいって馬鹿にしてるのかなー?」
「ほぇ?何を仰いますやら、KAWAIIは正義ょ?」
「あっそ」

疲れた様に肩を落とした太陽は、それ以上追求する事を諦める。無意識にハイタッチの用意をしていた右手を力無く下ろし、やはり、違和感を得てならない。
今のやり取り、小さいと馬鹿にしてるのかと問えば、大は小を兼ね小は萌を兼ねる、とか何とか、持論を展開した俊に対して「やっぱ馬鹿にしてるんかーい」と返し、死語ギリギリのルネッサンスハイタッチで締めたのではないだろうか。

「…考え過ぎ?」

ちらりと目を向けた親友はいつもと同じ、もさっとした前髪に黒縁眼鏡。艶やかな黒髪は然し二葉の様に絹めいたさらさらではなく、しっかり重みを感じるものだ。
仕種も、声も、いつもと同じ。疑う余地などない。

昨日、武蔵野に代理を任せた時とは、まるで違うではないか。

「タイヨー、イイ匂いがするね」
「え、そう?」
「そう。…僕の大好きな、懐かしい匂い」

健吾と裕也、半歩遅れて気怠げに歩く隼人、何となく三人に置いていかれまいと足を早めても、歩は中々進まない。

「…何それ、失礼だねー。それじゃ何か、お祖母ちゃんの家の匂いみたいな感じってコト?」
「惜しい、お祖母ちゃんじゃなくて、お母さん?」
「えー?それはイチ先輩じゃん?いつもダウニーの匂いするよねー、イチ先輩」
「あァん、するするー。林檎か桃っぽい、甘い匂いですん」
「あはは、するする」

焦燥感に意味はなく。首の後ろはチリチリと焦げるばかり。

「神崎と高野は何であんなに仲悪いのかなー」
「さァ?喧嘩するほど仲良しさんなんじゃない?」
「説得力がないよねー」

言っても離れてくれそうにない俊に肩へのし掛かられたまま、校庭へ向かう健吾らの背をただ、必死で追い掛けた。













「閣下、どちらへ?」
「構うな」

酷い顔をしているのだろうか。
腕の重みなど感じていないかの如く軽い足並みは、真っ直ぐ自室へ向かっていた。

遠巻きに見つめてくる生徒らの中から、何名かが果敢にも話し掛けてきたが邪魔だとばかりに通り過ぎれば、執拗に追ってくる者はない。

尤も、追ってこられたら怒鳴り散らしていただろうと思うだけに、互いに、幸いだったのだろうか。


「王子」

然し、たった今、乗り込もうと足を踏み入れたエレベーター。
呼び止められて顔だけ振り返り、頭から冷水を掛けられた様な錯覚を覚えたのは、薄い笑みを浮かべるクラスメートを見掛けたからだった。

「どちらへ?」
「…お前が一人なのは珍しいじゃねぇか、柚子」

舌打ちを噛み殺したのは僥倖だ。今は、全てが失態に繋がりかねない、苛立ちの中にある。
然しこれで少しは冷静になれたと、己を納得させるのは骨が折れそうだ。一番会いたくない相手だった。今は。

「式典、ご苦労さまでございました。お疲れでしょう」
「ああ。上で休む。呼ぶまで待機していて貰えるか」
「御意。…所で、そちらは紅蓮の君ですね?ご気分が優れないのでしたら、王子のお手を煩わせる事はありません。我々がお運び致しますが?」
「いや、これは陛下の命だ。嵯峨崎はセントラルエリア監視下にある。逃げられでもすれば一大事だろうが。…面倒だが、俺様が連れていく」
「神帝陛下のご命とは知らず、差し出がましい真似を致しました。お許し下さい、王子」
「いや、悪かったな」

もう良いかと、エレベーターへ乗り込んだ。
パネルの開閉ボタンを押したまま従順に頭を下げた親衛隊長は、相変わらず見た目だけなら少女と見間違わんばかりに愛らしく、だからこそ、気持ちが悪い。

親衛隊は一人残らず、だ。

憎しみに等しい嫌悪がなければ、抱き捨てる様な真似などしない。イギリスだろうと、日本だろうと。


好きな相手には、好きだと叫ぶ事すら、躊躇うのだから。



「王子」

半ば無意識に、エレベーター内のボタンを叩き押した。左腕に抱え直した佑壱は顔色が悪く、貧血状態にあるのが判る。

然し閉まらないドア。
甘く、甘く、猫撫で声で囁いたドアの向こうへ目を向ければ、クラスメートはベッドの中の表情に酷く似た扇情的な色香を以て、ゆったりと微笑んだ。

「貴方の障害になるものは排除してきました」

外側のボタンを押したままだった細い腕が、離れる。

「貴方は僕を決して愛してはくれない。けれど誰のものにもならない。だから僕は、貴方に尽くす事が出来た」

キュイン、と。ドアが稼働するモーター音。
一拍置いて撓んだ左右の鉄の扉が、徐々に目の前まで近付いてくる。


「貴方だけ幸せに、」

無情にも、その言葉は鉄の向こうへと奪われた。
冷水を浴びた気分だ。己の心臓さえ凍ったのか、何の音も聞こえない。何が言いたかったのか、何を言ったのか、恐ろしい早さで頭を駆け巡るのは、嫌な想像ばかり。



「…野郎、舐めやがって」

咬み砕く様に絞り出した憎悪は覇気に乏しい。
今更停止出来ない方舟の中、守るのか縋るのか、無意識に、けれど確かに強く。


「頼むから俺を怒らせるな、雑魚共…」


抱えた大きな体は然し、こんな時でさえ、灼熱の様に。














「…楽しい・楽しいと、数多の声が謳っている。



 誰かを祝い、誰かと笑い、慈しみばかりの世界。然しそれでは、まるでパンドラの箱だろう。

 美しいものばかりのその奥底に秘めたそれは、何?目を塞いで見ない振りをしているものは、何?



 さて、悔いはないか。人の子。


 悩み、祈り、耐えられず願い、燃え尽きた果てに何を望む?


 そうか。
 お前が俺を呼ぶのなら、俺に抗う理由はない。」


開いた瞼。
漆黒の瞳は優雅に笑みを描き、誰も居ない世界で綻んだ。


「眠る間際に閉じた瞼はまだ、夢を見ているか。愛しくも愚かな人の子。何を求め何を与えたいと願う?何を遺し何を得たいと祈る?



 ゆっくり、考えろ。朝はまだ遠く夜は常に穏やかだ。それは瞼を開くまで続く、常世の骸。





 軈て開いた目を再び閉じる頃、






 俺と共に、終焉の先へ征こうか、…ルーク。」





呪文の様に紡いだその声を聞く者はなかった。
再び閉ざされた瞼はもう、開く気配を見せずに。

←いやん(*)(#)ばかん→
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!