帝王院高等学校
堅っ苦しいお式はなるべく短めに!
「あれれ〜?開会式、出なかったノ?」

笑いを含んだ独特の口調は、嫌に聞き覚えがあった。

「折角、健常者なのにネ」

あちらから話し掛けて来る事など殆ど無かっただけに、僅かばかり気味が悪い。差別しているつもりはないが、そう思われても仕方がないだろう。
悪口なのか否か、その呼び方をやめろと言えば、叩かれるのは自分だと判っている。そんなヘマはしない。

「ぶひゃ。オメーも出てねぇじゃんよ、今更不良デビューか?(´Q`*)」
「僕は良いんだヨ。2度も留年した身で、それこそ今更じゃなイ?新歓祭なんてサ、新入生の為のものデショ?」
「なーる」

隣から放たれた凍える程の殺意、目に見えて青褪めていく視界の男はじりじりと後退り、話し掛けて来た時の奇妙な晴れやかさが嘘の様に去っていった。

「うっわ、だせ(; ´艸`) 今アイツ転けてなかった?w」

幾らか気は晴れたが、隣を見れば既に殺意などなく、ボリボリと頭を掻いている。裏表の激しい奴め、などと妬ましく一瞥すれば、目があった。

「アレ、最近遭遇率上がってんじゃねーか。うぜー」
「コミュ障っつー病気は、そりゃ面倒臭ぇもんっしょ。つかオメーも他人事じゃねぇかんな?」
「どーでも良い奴とコミュニケーションなんざ取れっか、面倒臭ぇ」

裕也の中での『どうでも良くない人間』が何人居るのかは、考えるだけ無駄だ。元々、そう、子供の頃からこの男は今のスタイルだった。
初対面では睨まれた覚えがあるだけに、感慨深いものがある。

「然し、俺の身内とは思えねーな(´Д`) 暗い。心底暗ぇやっちゃ(°ω°)」
「は、オメーも一々相手してんじゃねー。後一秒でぶっ殺してたぜ」
「うひゃwこっわw優しくしてやれよ(・ω・) アイツ、昔からユーヤにビビってっかんな(*´∀`*) …や、どっちかっつーと、」
「終わったぜ」

ざわざわと、遠くから喧騒が近付いてくる。
式典が終わったのだと認識するのと同時に呟いた裕也は既にいつも通り、眠たげに欠伸を零した。

「ケータイ」

昨日から着替えていない所為か、辛うじて引っ掛かっている程度の乱れたネクタイを何となく見つめていると、視線に気付いたらしい。
面倒臭げに呟きながら、結び目そのままに引き抜いたネクタイを差し出してきた。

「ぶっ壊したからよ、適当なロム頼んどいて」
「おま、またかよ!( ̄□ ̄;) 貴重なガラケーをぽんぽん壊すなっつったろーが!」
「あー、今回SIMカードは生きてたぜ?キノコの生命力感じた」
「んな問題か!これを期にスマホにしろ!(ヾノ・ω・`)」
「そもそもオレは、携帯なんざ要らねーし」

反抗期か、と。
苦々しく呟けば、腰に巻いたブレザーのポケットが小刻みに震える。

「シロップからSOS来た(´°ω°`)」
「は?」
「マーサがぶち切れて、副長に下剋上ってよ(´°ω°`)」
「意味判んねーぜ、何でそこに榊が出てくんだ」
「おい、何処行くんだよぃ?救難信号無視っスか?」
「オレには来てねーし」
「そらお前が携帯ぶっ壊したからだろ!」

お前の血は青いな!と怒鳴れば、肩越しに振り返った藤倉裕也と言う男は握ったままのネクタイをもう一度、差し出してきたのだ。
つまり、巻けと。そう言う事らしい。


「…はぁ」

折れたら負けだと判っていたが、気休めにならないだろう。

「蝶々結びにしてやっか?(*゚∀゚*) 」
「副長がキレねー奴なら何でも構わねー」
「はいはい」

面倒臭いとばかりに近寄れば、真顔で頬に吸い付いてくる気配を感じ間一髪で避けた自分を誉めてやりたい。
開き直ったのか鋭い舌打ちを零した裕也を顎を持ち上げ、大きな欠伸を一つ。

「早くしろやケンゴ。眠気が増すぜ」

殴ってやろうか。













拍子抜け、した。
ポカンと間抜けな顔を晒している自覚はある。傍らの隼人もまた似たり寄ったりの表情で、風紀委員の腕章を付けた生徒らもまた、随分面白い表情だ。

跳ねる様に壇上を降りていく黒縁眼鏡と入れ替わりに、つかつかと階段を登りマイクの前に立った銀髪を目にしてもまだ、山田太陽の表情は戻らない。

「俊が普通の挨拶してた」
「してた、ねえ」

辛うじて音になった掠れた呟きは、直ぐ様、痛いほどの静寂に上書きされた。神、と言うおよそ一般の高校生に与えられるものではない銘を許された、その囁きで。

『過日に例のない、此度は初の試みたる宴だ。周知の通り、我が帝王院財閥並びに西園寺財閥は日本国経済を長きに渡り牽引してきた企業であり、その多くは双方の学園より輩出した先駆者の功績である』

改めて、真っ直ぐに。
ともすれば無意識で背を正してしまいながら。

『今日まで引き継がれてきた各々の高名を今を以て統合し、幾久しく未来永劫、切磋琢磨し支援し得る友好関係を樹立せん事を、帝王院財閥傘下帝王院学園総代として宣言すると共に、心より望む』

冷え渡る静寂が告げている。
誰もが彼に呑まれ、誰もが崇拝めいた陶酔に痴れている事を。誰一人、その声に逆らう者など存在しない事を。
反逆よりも服従する事を拒絶する方が、難しいとさえ思う。

『帝王院学園47代中央委員会生徒会長、帝王院神威の名に於いて、』

その手が仮面へ伸びる光景すら、絵画の様だった。
その声が紡ぐ全ての音がオーケストラの様だった。



『心行くまで、謳歌せよ。』


人間味を感じさせない仮面が剥がれた瞬間、神と呼ばれた男が作り物めいた笑みを唇へ張り付けた、数秒後。

呆然と背凭れに崩れた太陽の鼓膜は、大地を揺るがす歓声に支配されたのだ。













『声が、聴こえる。
幾つもの命が奏でる不協和音だ。



これは喜劇か。
それとも悲劇に涌く罵声か。
答えはない。誰もそれを求めていない。須く、脚本のままに。


悔しい、の、だろうか。
約束は永久に果たされない。簡単に契約した哀れな子供は騙されていた事に気付かないまま、いつか死ぬ日までつまらない毎日を送るのだろう。全ては、脚本通りに。



遠くから人々の声がする。
幕引きに涌く舞台が瞼の裏側にさえ、浮かぶ様だ。

壊れた楽器は戻らない。
喝采とも罵声ともつかぬ段幕の向こう側へ、燃え尽きた演者は何を思うのか。全ては、想像するより他はなかった。


目を閉じて世界の奏でる音を愉しむ。





ああ。
この一時が、堪らなく好きだ。』








「…ふん」

耳の穴を小指で穿り、冷めた表情で背を向けた嵯峨崎佑壱は横目で乱れた黒髪を一瞥した。慣れない装具はとうの昔に外し、名も知らぬ誰かに押し付けている。幸か不幸か、あのみっともない仮面のお陰で持病の緊張は発症しなかったが、だからこそ頭の中は頗るクリアだった。

隼人と並んで座る太陽は呆けた風体で壇上を見つめたまま、今更、相手が悪いなどと考えているのだろうか。そもそも彼は何故、こんな下らない争いに加わったのだろう。


友情?
流されて、仕方なく?
どれもこれも、理由としては弱い気がする。


どうでも良いかと軽く頭を揺すり、風紀委員に囲まれている男を見た。
分厚い眼鏡は前髪に隠され、その目元は僅かも窺えない。薄い唇にはニコニコと言わんばかりの幼い笑み、鼻歌を歌わんばかりに拍手する光景は、疑う余地がなかった。見事なまでに。

そう、見た目だけ、なら。


「イチ先輩っ、カイちゃんってば文句なく格好イイざます!ハァハァ!」
「…格好良い?」
「ふぇ?」
「『萌え』じゃなくてか?」

きょとん、と首を傾げた男の肩に手を置いて、顔を近付けた。鋭い牙があれば躊躇なく喉を咬み裂いてやったものをと考えていたから、笑みが滑り落ちたのだろうか。

「下手な芝居はやめとけ」

囁く様に吐き捨てる。
近寄れば益々顕著になる違和感は、鼻腔に。薄い薄い白檀の香りを認めて、確信へと変わった。

「ついでに、気安く呼ぶんじゃねぇ。俺をそう呼べるのは、テメェなんかじゃない」

返事を待たず手を離し、喝采の止まない大講堂の脇を突っ切る。人気の疎らな廊下へ出てすぐに、大講堂を映している掲示板が目に入った。
西園寺学園の代表挨拶は賑わいに掻き消されており、哀れなほどだ。

化粧臭い。
苛立ちを噛み殺し、鼻先を拳で擦る。嗅覚が麻痺した気がした。


「ドイツもコイツも無駄に息しやがって、ファッキン煩ぇ」

馬鹿共が、と。
固めた拳を叩き付ける。

ひび割れた掲示板が火花を散らし、歓声は背後へ遠退くばかり。
臭い、と声もなく喘いだ唇と手の甲で押さえ、すぐ真上の鼻を塞いだ。

線香の匂いがする。まるで葬式の様に。
拭っても拭っても、消えそうな気がしない。



「お前かァ!」

耳を劈く様な怒号に振り返れば、すぐ間近に、凄まじい形相で殴り掛かってくる子供が見えたのだ。










「陛下、お疲れ様」

にこにこと、幼稚な笑みを浮かべる口元が音もなく囁いた。

「…廉価。違う、劣化か」
「カフスをお預かりします、陛下」
「ああ」

冷えた金属で顔を隠し襟元を寛げ、近付いてきた二葉へ左手を差し出す。揃って胸元に手を当てる風紀委員らに見送られながら、考えている事と言えば「煩い」だけだ。
式典時のみ使う、Sクラスを表す胸元のプラチナカフスを外した。二葉にしても日向にしても、どうしてこう、化けの皮が厚いのか。

「セカンド」
「はい?」
「少しばかり疲れた。暫く休ませろ」
「畏まりました、陛下」

いつもの笑顔で首を傾げた二葉の手には白い手袋。
背後には見えない様に引き抜いた指輪を渡し、瞬いた。賢い仔猫はそれだけで把握し、優雅に微笑むばかり。

蒼い片眼が歪む。


「畏れながら猊下、時の君がお呼びでらっしゃいますよ」
「あ、はァい」

邪魔者が去っていく光景。
にこにこと見送っている二葉の視線の先には左席会長の背中など、有りはしないだろう。
苦々しい表情の太陽がちらりとこちらを眺め、すぐに目を逸らす。勇ましい勇者もやはり、ただの子供だったと言う事だ。

「陛下、どちらでお休みになられますか?」

分厚い面の皮、色違いの眼差しは酷く無機質に。
叶二葉と言う人間を正しく理解している者は、この国には居ない。危険なものを己の最も大切なものの隣に置いて、一度に監視する。そう、無慈悲なほどに合理的な男だ。

だからこそ、この男が語る愛が如何なものか、興味があった。

「静かな場所であれば、何処なりと構わん」
「ふふ。単純な様で実に難しい事を仰いますねぇ」
「…あれから目を離さず、早急に俊の無事を確かめよ」
「遠野君が大人しく捕まるとは思えませんが、畏まりました。他の案件で人員を裂いておりますので時間が、」
「早急に、と。そなたには聞こえなんだか」

視界の端、足早に立ち去っていく赤い髪を見た。
ノイズに紛れた溜息は短く、呆れよりは嘲笑じみた響きを込めて、



「Sure sir.(畏まりました) では総員を挙げて、至急探索します。」

密やかに歯車が狂った事を、何故、誰も気付こうとしなかったのか。












今の今まで何の気配もなかったと、目を見開くのと同時に、辛うじて避けられたのは奇跡だ。本能的と言って良い。
油断などしていなかった筈だ・などと、心で言い訳しても意味はなかった。呆れるほどに。

「お前で間違いねェ!覚悟しろ!」
「な、」
「っ、ちィ!避けんな死ねェイ!」
「な、何だテメー?!」

幻覚だと思うほどに、五感の情報が出鱈目だった。
どう見ても小学生、多く見積もっても中学生、網膜に映る拳は余りにも小さい。然し鼓膜を震わす音は風を切る刃の様に鋭く、掠めた頬に走る痛みは電流の様だ。

来る、と、目に見える情報で避けても間に合わず、何度か転び掛け、反撃する暇など一瞬たりともない。

「何だテメーだと?!お前に名乗る名など持ち合わせておらぬわァ!俺は遠野舜じゃボケェ!!!」
「は、あ…?!何、何が遠野俊だぁ?!ざけんな餓鬼が、それが誰の名だか判ってんだろうな…!」
「おわっ」

目の前が真っ赤に染まる程の怒りだ。
火事場の馬鹿力、と言った方が正しい。無意識に自分より小さい相手の懐へ潜り込み、胸ぐらを掴んで持ち上げた。見た目通り軽い体は容易に宙へ浮き、ぶらりと、爪先が視界の端を掠める。

「Shit, Don't get carried away!(舐めてんのかコラァ!)」

カッと目を見開いた子供の浮いた足が、躊躇なく腹を蹴った。痛みはない。吹き飛ばされ壁に背を打ち付けて漸く、全身を穿つ痛みがやって来たのだ。後から。

「日本人は日本語使え馬鹿野郎!」
「っ、Shit!」

何だこの餓鬼は、と。
今度こそ避ける気力なく、瞼は開いたまま。最早人間とは思えない動きで殴り掛かってくる光景をただ、見ている。



成す術なく殴られる事など、今まであっただろうか?
そう、彼以外、に。有り得ただろうか。

神威に触れられた記憶など皆無に等しい。
母親に触れられた記憶など最早覚えていない。

最後に惨めなほど無抵抗に、一切の抵抗を許さず触れられたのは、あの人しか居なかったのではないか・と。



『また』
「総長、」
『泣いてんのか、お前は』

まるで死にたがっているかの如く。
視界が他人の右手で埋め尽くされる刹那、目を閉じた。

こんな時に思い出すその声の主の台詞と言えば『唐揚げが食べたい』などと、危機感の欠片もない筈だ。
なのに今、頭の裏を駆けたその声は、別人のものだった。


『雑魚が、』

神威でも、俊でもない、ああ、笑い話だろう。


『俺様を女扱いしてんじゃねぇ、赤毛野郎』


鈍い音がした。
けれどまた、痛みはない。

視界は真っ暗なまま、思考まで闇に染まる。
追い掛けてくる痛みに捕まる前に、落ちていくのだろうか。ならばそれは、何処へ?



『家族の様だな』


こんな事が、いつかあった事を思い出した。
あの時は膝の上で、静かな寝息を発てる人を見ていた。
時折、派手に寝返りを打つ光景を一人笑いながら、空が明けるまで焚き火の炎を絶やさずに。

自作の歌だと下手な替え歌を振る舞う隼人に、珍しく機嫌の良かった要が拾ってきた流木で拵えた木琴とボイスパーカッションで応援して、健吾率いる馬鹿3匹の裸踊りは国籍不明の荒業、まだ獅楼は居なかった。
夏休み最初の七月末に隼人が買うと息巻いた小さな無人島、もう少し値切られると鼻で笑った要が脅した不動産業者は、子供相手に最初から強気だった。

即金で20億。
どう考えても高いと唸る隼人と要は暫く真面目に働いて、働いて、日を追う毎に窶れていく。

8月を迎え、その日が近付く毎に。
無理だと諦めたのか、酷く悔しそうだった。



懐かしい、夢を見ている。



即金で20億。
小切手はたったの一枚、当時のほぼ全財産を抱えて乗り込んだ不動産会社は哀れなほど浮き足立ち、子供相手に媚びへつらった。
お供の外国人に怯え、日本語で話し掛けても下手な片言の英語を投げ付けてくるほどには、混乱していただろうか。

「マスター、1週間ロンダリングしまくって折角増やした財産をあんな島にぶっ込むなんて、イカしてますね〜」
「ドルだったら無理だったと思います、良かったですね」
「頼って下さって有難うございます、マスター」

夢を見ている。
賑やかな笑い声、何故か一億と言う破格の金額で売りに出されていた島を目敏く見付けた隼人はパトロンにねだり、狡賢く手に入れた。
成金の要が建設業者を脅迫し、恐ろしい納期で建てさせたログハウスは新しい木材の香り。

小遣いを貯めていたと真顔で宣った裕也が買ったクルーザーは笑えるほど大きく、ボランティアで操縦を押し付けられた外国人は今度こそ、英語しか喋らなかった。
隼人も要も健吾も裕也も、片言の英語など喋らないからだ。

本当に、賢くて馬鹿で可愛い、自慢の弟達だった。
一度も言った事などないけれど。


「お招き有難う、皆」

白いスーツに赤いネクタイ、絵に描いたホストよりホストらしかったその人は小さな向日葵の花束を抱え、口元に笑みを刻んで。

「征こう、水平線の果てまで。」

不動産業者を怯えさせた外国人さえ呑み込む威圧感で、囁いたのだ。



『まるで家族の様だな、イチ』
『お前の作る暖かい料理で皆が、なんて幸せそうだろう』
『愛された記憶があるからこそ、愛してやる事が出来るんだ』
『判るか、お母さん』


『はは』


『何だ、照れてるのか。顔が赤いぞ』




あの時あの人は、どんな表情をしていたのか。



どうしても思い出せない。





「ぎゃ!」


壁に叩き付けた小さな頭が、哀れな程に鋭い悲鳴を挙げている。
片腕に抱き止めた紅色の長い髪を覗き込み、無意識で顔を近付けた。浅いが呼吸はある。

「You did it.(お前がやったのか)」

藻掻くブレザーが視界の端に、手加減などするつもりはなかった。

「はっ?!何、何だよお前!」
「お前がやったのか、っつってんだ、糞餓鬼」

後ろから伸びてきた手が手首を掴んだ。
振り返り、何処かで見た顔だと頭が認識する前に蹴り払う。踏みつけた男の顔はやはり、見覚えがあった。
けれど、それが何だと言うのか。

「…誰のもんに手を出したか、判ってんだろうな」

冷静じゃない。そんな事は判っている。
けれど左腕の中に抱き止めた佑壱の唇の端から滴る赤は、冷静であれと繰り返す理性を嘲笑うばかり。

ならばこれは、本能だ。
幾ら覆い隠そうと隠しきれていない、本性なのだ。

「ふ、副長ーっ?!光王子テメーコラ!」
「うちの副総長に何やっちゃってんの?!」
「何が誰のもんに、だ!誰のもんも何も、不死鳥はシーザーのもんじゃバッキャロー!」

騒がしい三人が飛び込んできた瞬間、脳裏を過った一人の男の顔に、覚えたのはやはり、痛ましい強さの嫉妬と羨望。


「…シュンの命令なのか、榊」

踏みつけていた男の名を呼べば、彼は二葉にやや似た理知的な笑みを浮かべ、首を振る。

「まさか。残念ながらこれは俺の企みです、若。アンタを敵に回すつもりはない」

急速に衰えていくアドレナリン、深く息を吐き出した。



冷静になれ、と。
幼い自分が嘲笑う声が、耳に。

←いやん(*)(#)ばかん→
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