帝王院高等学校
誤解が誤解を呼びまくるスーパー三隣亡
「おはようございます、神帝陛下」

執務室へ向かう道すがら。
声を掛けられる度に、傍らの男はクスクスと肩を震わせた。

「ふふ。陛下。アメリカでも日本でも、やっぱり陛下は陛下なんですねぇ」
「…何が可笑しい」
「いーえ?こうして高校の中を堂々とを歩けるなんて、夢みたいなので」

喰えぬ人間だとは思うが、大した問題ではない。何を企んでいようと、興味がないからだ。

「何にも聞かないんだ、マジェスティ。僕がいきなり訪ねても怒らないし、初めましてなのに判ってて突っ込まないし、今までずーっと隠してたのに、やっぱり何にも聞かないなんて、面白い人だなぁ」
「そうか」
「ふふっ。判り易いって言われるでしょう?関心がないものは徹底的に無関心で、どうでも良いって感じ」
「…」
「返事をするのも面倒臭い、って?うふふ。違うか。単に僕には興味がないんだよね、カエサル。でも気を付けて。ブルータスは、すぐ近くにいるかも知れないよ」

クスクスと。
笑う男は何処から見てもありふれた高校生にしか見えず、誰もが違和感など感じていない様だ。外見だけで人間は皆、こうも容易く騙される。

「それより、ねぇ、陛下。左席会長には会わないんですか?ご機嫌を取っておかないと、中央委員会の役員は立場が弱いんでしょう?」
「何が言いたい」
「うふふ。オニオンコンソメ味のポテトチップスを用意してますよ。後でお茶を淹れてあげます」

成程。
確かにあの男の姉を名乗るだけはある。但し、老若男女問わず擬態する人間の自称など、信頼するには値しない。疑う理由も興味もない、それだけだ。

「あれ?陛下、マスターファーストも居るんですか?」
「ああ」
「じゃあ僕、ご挨拶してきますねぇ」

執務質のドアを潜るなり佑壱へ近寄っていく後ろ姿には構わず、怪訝げな目で乱入者を見やる日向を認め、口を開く。

「判らんか高坂。そなたも良く知っているだろう」
「…誰だアイツ。知る筈がないだろうが」
「ジェネラルフライア、組織内調査部の部長らしい」
「あ?らしい、だと?」
「ああ。他に説明のしようがない」

佑壱が腰掛けている会長席ではなく、ソファに腰掛けると同時に、抜かりなく茶を運んできた役員へ片手を上げた。

「コード:ジェネラルフライア。セントラルサーバーには記載はあるが、架空の人間だと思っていたが、実在したらしい」
「アンタが素性の知れん野郎を野放しにするなんざ、どうにも納得出来ねぇ話じゃねぇか、帝王院」
「何、帰国前に煩わしい害虫を処理しておこうと思った。それだけだ」
「…成程、あれが例の残りの一人って訳か」
「確証はないが、恐らく間違いないだろう」
「俺様の好きにして良いんだな」

佑壱と共に度々命を狙われた記憶がある日向が聡明な頭で弾き出した結論に頷けば、納得したらしい日向は内心の怒りや不信感など一つも見せる事なく、自ら相手へ近付いていった。
止めても無駄である事は、明らかだ。

「ああ。好きにしろ」

獰猛な獅子が狩りを始めたらしい、と。同情の余地など微塵もない。あれの正体を敢えて言わなかったのは、ヴィーゼンバーグの処理はヴィーゼンバーグに任せた方が効率的だと思ったからに過ぎなかった。



「…良い天気だ。茶菓子は良い、コーラを用意出来るか。赤ではなく黒いラベルのものだ」
「コーラ、ですか?畏まりました、只今お持ちします」

立場が弱い、か。
と、呟いた声は余りにも密やかに。

「なれば一度や二度罷免された程度では、赦されんだろうな」
「何か仰いましたか、陛下?」

確かに単純な、判り易い雄。
ただ一人の為ならば躊躇する事なく森羅万象を手駒にする、哀れにして欲深い、脆い一匹の雄。

「そなたに頼みがある。最終日の催しを、適当に考えてくれるか」
「最終日の、と仰られますと、左席猊下が提案した例の戯れ言を?畏れながら自分は、賛同しかねます」
「良いのだ。それともそなたは、天皇に逆らう逆賊として、中央委員会の罷免を望むか?」
「そ、その様な事は決して…!申し訳ありません!」
「内容は何でも良い。好きに構想し、手配せよ。私に出来る事であれば、何なりと指示してくれて構わん。承知してくれるか」
「はっ!お言葉、しかと賜りましてございます、マジェスティ」

勝つも負けるも興味がない。
どうせ初めから、勝てる見込みのなどない、勝負だ。





















「お待ち下さい陛下!このままでは余りにも、余りにも報われません!」
「…」
「早急に円卓を開き他の手だてを、」
「オリオンが、生きている」

つかつかと淀みなく進む背中を追っていた秘書は足を止め、表情の一切を失った。足を止めた長身が緩やかに振り返り、久し振りに、能面じみた美貌へ奇妙な笑みを浮かべるのを、ただただ。

「私は今にして初めて、不可視である真の神の存在を信じているぞネルヴァ」
「騙されては、なりません。遠野龍一郎は死にました」
「そうだ。だから私は神に縋っている。龍一郎の遺体は、シリウスが自ら確かめたのだ」

真っ直ぐに。
揺らぎなく歩を進める足は滑らかに、職員棟へと近付いていく。最早言葉もなく追い掛けるしかない今、頭の中は真っ白だ。
死んだ人間が甦る筈はない。そんな魔法は神でさえ、そう、神でさえ許される筈はないのだ。


途中、金髪の生徒と擦れ違った事にも気付かずに、ドアを解放している保健室へと足を踏み入れる。
窓際のデスクに疲れた表情で腰掛けていた白衣の男は顔を上げ、首を傾げた。


「どうなされた、陛下。式典前に、ネルヴァ卿も揃って」
「許せシリウス。今日を以て、私の円卓は閉じる」
「…何と。それでは、とうとうルーク坊っちゃんに喰われましたか」

想定内じゃのう、と。
揶揄めいた笑みを浮かべた男は、けれど静かに首を振った雇用主を認め、眉を潜める。

「カイルークから、…この国から手を引く」
「どうなされた、陛下らしくもない。幾ら現ノアとて、打ち砕く手段ならば幾らでも、」
「あれの手の内に、龍一郎が在るのだ」
「な」

とうとう、12柱で最も冷静であると名高かった男の顔が、崩れた。常日頃は内面を決して悟らせない鉄壁なまでのポーカーフェイスで、優しげな笑みを崩さない、そんな男が。
身内を手に掛けて尚、一切後悔しなかった無慈悲な子供の成れの果てが、崩壊したのだ。

「我らは長きに渡り用意をしてきた。いずれナイトの銘を以て新たな円卓を構築し、その席に、リヒト、並びにそなたの孫を据え、遠からず爵位を継承せし秀皇の子、俊へその一切を委ねる日の為に」
「…そう、でしょうとも。そうでなければ儂は今まで、何故この手で隼人を幾度も殺し掛けたのか、判らんではないか…」

物心付かない内から毒を飲ませ、人を疑えと言い聞かせ、強くあれと突き放し、小学校にすら通わぬ内にたった、一人にしたのだ。全ては、未来の為に。

「師君の罪を贖う為に儂は!可愛い孫を贄にしたのだ!判っておるのかナイン!それを今更、今になって手を引くだと?!」
「やめろシリウス!」
「控えよネルヴァ。良い、シリウスの怒りは尤もだ」
「龍一郎は死んだ!何を言い含められたか知らんが、斯様な若造一人に何を世迷うておるかっ、愚か者が!」

ああ。
確かにこれは、冬月龍一郎の双子だ。ビリビリと部屋中に響いた恫喝を、久し振りに身を以て浴びた二人は声もなく、眼尻を吊り上げている男の威圧に晒された。

「貴様が尻尾を巻こうが、今になって儂は退かんぞ!戯言を抜かしおって、意味を判っておるだろうな!」
「頼む、龍人。後生だ。…私は、龍一郎に会いたい」
「やめよナイン!死んだ者は生き返りなどせぬわ!」
「見たのだ、この目で。龍一郎を」
「ええい、まだ戯れ言をほざくか!」
「あのカイルークが、意味のない事をすると思うか、友よ」

私ならばしない、と。
囁く様に呟いて、服が汚れる事も構わず腰を落とした男は、頭を下げる。

「…龍一郎は自ら姿を消したのだ。それならば全ての疑問が解ける。あれが本気で逃げれば、この私でさえ、探し出す事は不可能だ。そなたにもそれは判っておるだろう、龍人」
「もう聞きたくもないわ。戯れはそこまでにせい。…この年まで生きて、下手な期待はするだけ無駄だと知らぬ訳ではあるまいに」
「僅かで良い。私の話を聞いて欲しい。疑念は一つ二つではなく、裏を返せば、肯定に足る確証こそ余りにも少なかった。…違うか?」
「………有り得る筈がないだろう。兄者が死んだにしては確かにつまらん死因だと、思わんでもなかったが…。だがのう、儂はこの目、で」
「真に、見たのか?」

そうだ。
見たのだ。だからこそ確信は揺るがず、今更、生きていると言われても、信じられる筈はない。

「そなたらしくもない。冬月は、人間の記憶を操る手管に長けていたと記憶しているが」
「…見た、筈だ。この記憶が間違っているとしたら、最早儂は、己すら信じられん」
「秀皇がこの件に関して、隠しているとは思えん。…確める必要があると、思うのだ。龍一郎が何を企んでいたのか、何故、あの娘を傍に置いたのか」
「娘?それは俊江の事か?」
「違う。貴葉と名乗った。陛下を前に怯む事なく、な」

漸く口を開いた秘書の言葉に、保険医は目を見開いた。聞き覚えがある名だ。

「タカハ、叶貴葉ではあるまいな?18年前に戦争を目論んだ、ネルヴァ。師君が壊滅させた組織の手により起きた、初めの犠牲者を覚えておらんか?」
「ああ。…私も先程、思い出した所だよ。唯一我らステルシリーの力が及んでいなかった日本に目をつけた奴らは、先に叶、次に大河に与した姉妹を葬った」
「…師君の妻と、大河社長の妻だの。二人の父親は、米国陸軍の将校だった」

大規模なテロを起こした彼らは、時同じくしてサンフランシスコのパーティをも爆撃し、大河と祭を狙ったとされている。然し彼らの目的は、そうではなかった。

「私の叔父が関与していた。大河のテロを起こした事で、疑いを逸らす材料になったからな」

だからこそ、不幸が続き妻を失った時までは、彼女らの家に恨みを持つ者の仕業と思われたのだ。

「先代から家督を継いだ私を憎んでいたのは知っていた。財産目当てだ。…先に妻と息子を狙い、私が一人になった所で屋敷へ入り込む目算だったのだろう。妻に不信感を持っていた執事を抱き込み、後継である裕也を屠れば、アウグスブルクの屋敷は事実上、あれのものになる」
「然し師君は真実を知り、手を打った。それこそ一連の事件が同組織の仕業だと知った契機だ。…だが、叶の娘が生きていたと言うのは、真実か?」
「判らん。ただ、本人を名乗る娘が、組織内調査部のマスターである事は恐らく間違いない。…陛下、ケイアスインフィニティと言うコードは、彼のものでしたね」

懐かしい呼び名だ、と。
怒りを手離した白衣の前で、前皇帝は緩く首を傾げた。

「ああ。父、レヴィ=グレアムがナイトに与えた、コードだ。夜の名を持つ黒髪の騎士、遠野夜人。ついぞ12柱に刻まれなかった、組織内調査部の真のマスターとしてその名は定められた」
「…懐かしいのう。ナイトが我が社の経営に口を出す事などなかった。そんな暇などなかったろう。レヴィ=ノヴァは常にナイトを傍に置き、いつも彼の自由にさせていた。儂と龍一郎、そしてナイン。我らを母の様に育て、いつだったか、幼いカミューを連れてきた」

その時の幼い子供こそ、その後のキング政権で第一秘書となった、ドイツ人だ。

「まだベルリンが二分していた頃だ。父と共に訪れたアメリカ大陸で、初めてアジア人を見た私は、満足に挨拶も出来なかった」
「おお、おお。ナイトは目付きが悪かったからのう。儂らより一回り若い師君には、大層恐ろしく見えたろう」
「ナイトよりもオリオンの方が余程恐ろしかった。覚えているかシリウス、私は彼に『ドイツ如きの神童など先が見えている』と睨まれたのだよ」

ああ。本当に、懐かしい。
還暦をとうに越えて、数十年経た今、幼い時分を思い出す事など殆どなくなっていたから、尚更に。


「…龍一郎は、本当に生きているのだろうかのう、陛下」
「逆に、あれの死を説明するよりは、容易に可能性を認められるとは思わんか。私には高らかな凱歌にすら思える。ネルヴァ、そなたはどう考える?」
「畏れながら、…当時IQ180を謳われた私を小僧と一蹴した特別機動部マスターオリオンならば、何が起きても不思議はありません」
「………よもや、兄者に邪魔をされるとはのう」

ぽつりと。
愚直る様に零した白衣は椅子に深々と腰掛け、甘かったかと、一言漏らした。

「儂でさえ、隼人を身を改造しようなど考えた事もない。可能な限り死から遠ざけようとはしたがのう、龍一郎は、己が孫を何度殺したのか…」
「あれから何か判ったのか、シリウス」
「幾らかの想定の元、調査は継続しております。判っている事は、ルーク坊っちゃんの毛髪は、天然のシルバーだったと言う程度ですな」
「そうか。では色素欠乏が起きずとも、ブロンドではなかったと」
「…まるで、レヴィ陛下の様ですね」

未だ過去の記憶に浸っていたのか、ぽつりと秘書が呟いた。これに反応したのは、呟いた本人以外が同時に。

「何で忘れておったのか…。そうだ、レヴィ陛下は酷く珍しい、AB型だった。軽度のアルビノにより肌は弱かったが、髪にも目にも、症状は出ておらん」
「待て、シリウス。カイルークはAB型で間違いない。だが私はO型だ。父の遺伝子を万一、あれが有していたとして、どう説明する」
「ああ、儂にもまだ判らんのう。だが龍一郎は常々、儂ら兄弟を羨ましいと言っておった師君の為に、何か出来る事はないかと、考えていた。遠い昔の話だが、のう」

取り残された秘書を余所に、痙き攣る白衣が慌ただしくパソコンのキーボードを叩く様を覗き込む金髪は目を輝かせた。この中では誰よりも賢く、恐ろしい想像さえ躊躇わない、神の領域にある男だ。

「随分、突飛な考えに至ったぞシリウス。カイルークは私の子でもロードの子でもなく、私の弟であるかも知れんと言う仮説が成り立つ。ナイトを義弟と呼ぶよりは容易に説明可能だ」
「奇遇ですな、キング=ノヴァ。いや、理事長。儂も正にそれを疑っておる次第で」
「理事長職は解任された。今の私は、ただの隠居だ。縛られるものなどない、流行りのニートと呼ぶが良い」
「そうかそうか。儂も隼人に身バレした所じゃ、早々と隠居するとしよう」

朗らかな雰囲気に狼狽えているのは秘書ばかり。
ろくでもない自称ニート老人らはどんな事を考えているのか、次へ次へと会話を進めていく。

「シリウス、父の血液は稀なものだった。普通の探査ではAB型と定めるより他ないが、血糖質はO型のものと酷似した、ツインブラッドのキメラだ」
「斯様に危篤な遺伝子はそうそうないと除外しておったが、ルーク坊っちゃんがキメラでないと決め付けるのは、ちも早計だったわ」

カタン。
叩き付ける様にキーを叩いた男の前で、ディスプレイに示されたのは、100%の文字だった。


「どう、なっているんだ、シリウス?私にも判る説明を、頼めるか」

コード:レヴィではなく、コード:ナイト。
懐かしい男の映像と、100%の表示が浮かぶ、もう一人の銀髪は、亡き皇帝ではなかった。

「ネルヴァ。どうやら儂には、口に出来ようもないわ。…想像でさえ、神を冒涜する」
「陛下…?」
「カイルークは、ナイトの遺伝子を継いでいる事が示された」

そんな馬鹿な、と。
呟いた秘書へ、誰もが同調している。調べた本人でさえ、信じられないと言った表情だ。

「恐ろしい仮定を、するならば、だのう。子を成し難いレヴィ=ノヴァの遺伝子を元に、同じく危篤な血液型を有し、然しその他に異常が見られなかったナイトの遺伝子で、レヴィ=ノヴァの劣性箇所を補ったとする。それならば、どうかのう」
「何、だと?待ってくれ、それはどう言う事か、もう少し判り易く、」
「父とナイトを合成し産み出した、完全体。レヴィ=グレアムとナイトの遺伝子を有したシンフォニアを龍一郎が産み出していたなら、有り得ない話ではなかろう」

サラ=フェインは托卵されたに過ぎない、と。
囁く声音は余りにも無表情で、混乱している自分の方が可笑しいのではないかと思わせる。

「兄者がロードをキングと間違える筈はないと、儂は考えていた。外見はともかく、遺伝子を見れば違いは明らかだ。陛下に子供を作れんと言う事は、龍一郎兄が突き止めた事実だからのう」
「だが、私の記憶に残る龍一郎が約束を破った事はない。ならば秀皇の子を産まねばならぬと縋ったサラの望みに、必ず応えただろう」
「でしょうな。それならば、同じ母親から産み落ちた双生児の遺伝子が違っても、可笑しくはない」

未だ真実は謎に包まれたまま、判っている事は、一つ。

「これで陛下とルーク坊っちゃんのDNAが合致した理由が判明した、と言う事ですかな。随分と年の離れた弟をお持ちの様で、弟君に追放された師君はどの様に思われる、ニート陛下?」
「兄弟喧嘩ならば職を奪われても仕方ない。シリウス、これで李上香に会う口実は整ったと言えるだろう。恐らく秀皇が先に手を回している頃だ、式典に紛れ、事情を説明しようと思う」
「弱りましたな。よもや、こんな事になるとは…。実は先走ってしまい、姪を招待してしまったんじゃ」

頭を抱えた白衣は、然し揶揄めいた笑みを浮かべており、悪びれた様子はない。

「遠野俊江、か?然し彼女は…陛下、」
「記憶を失っている。秀皇には気付かんだろうが、行事を楽しんで貰う事が、詫びになるだろうか。こうしてはおられん、私はシエを探しに行くぞ。止めるなネルヴァ」
「いえ、止めはしません。私もご一緒します、陛下。天の君に致してしまった愚かな行為を、彼女にも詫びねばなりません」
「待ってくれ、その前に儂と隼人の仲を取り持とうと言う気概を見せて欲しいんだがのう?どうせ皇子らが勝手に動いて我らの策を台無しにしたんだろうに…」

我が身が可愛い年寄り達の意見は暫く交錯した。
ニート二人とニートの秘書と言う何とも頼りない三人は顔を突き合わせ、妖しげに密談し、とうとう大人げない喧嘩に発展して、各々、勝手にしろと、それこそ勝手に動く事にしたらしい。



「頼もう。保険医の冬月龍人だ。本日限りで辞任したい。そこで教頭、物は相談なのだが、高等部への編入試験を受けさせては貰えんだろうか。当然だが帝君希望だ」
「は…?落ち着いて下さい冬月先生、何でまたそんな事に…?」
「決まっておろうに、星河の君と仲良くしたいんじゃ!可及的速やかに家族になりたいんじゃー!!!」

職員室へ怒鳴り込みにやって来たイケメン保険医の魂の叫びで、職員室に待機していた幾らかの教師は凍り付き、仕事でやって来ていた東條清志郎と手伝っていた安部河桜は足早にその場を離れると、人気のない所で囁きあったのだ。

「た、…大変だよぅ、セイちゃん!はっくんが、はっくんが狙われてるみたぃっ。ぼ、僕、どぅしたら良ぃ?はっくんのぉ尻を封鎖してきた方が良ぃ?!」
「大丈夫だ、俺に任せておけ桜。自治副会長として風紀へそれとなく伝えておく。心配するな」
「セイちゃん!有難ぅ…!」

鼻の下が伸び切っている図書委員長は、手を振る幼馴染みに見送られて風紀室のドアを叩き、



「あぁ!教師と生徒だなんてぇ、僕っ、ドキドキしちゃう!…はっ、こぅしてられなぃ、早く太陽君に教えてあげなぃとぉ!きゃっ」

ティーンズ向けの恋愛小説好きが祟り、BLに抵抗なく浸かっていた左席委員会のお茶汲み係は、部屋でダサいシャツをひっくり返していたルームメートの副会長に飛び付き、小柄な太陽を壮絶に吹き飛ばしつつ、迸る萌えを語ったのである。


「太陽君!僕っ、いけなぃ事だって判ってる!でもっ、でもっ、冬月先生とはっくんを家族にしてあげたぃって、どぅしても思っちゃうんだぁ…!どぅしよぅ!葛藤しちゃうよねぇっ!」
「あ、あはは、あはははは、さ、桜、まずは俺から降りてくれないかな、何かエロい構図だからさー。…あ、あふっ、そ、そんなに揺すられると…おぇ!」

素っ裸で死にかけた山田太陽は、神崎隼人の心配よりも、ダサ柄のパンツを穿くよりも先に、桜には決して逆らうまいと固く誓ったのだ。



第77期、一年Sクラス。
これから長く語り継がれる伝説の77代進学科は、徐々にその頭角を現しつつあった。

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あきゅろす。
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