帝王院高等学校
騒いで踊って森の熊さんと再会サンバ
「ふんふんふーん♪夢と現実〜、理想の、」
「あ…星河の君、おはよう」
「おっはー、眼鏡3号」
「眼鏡3号?」

蛍光灯とはまるで違う眩しさに顔を顰め、寮の裏に出た事を確かめた。校舎が遠い嫌な位置だと顔には出さず心中で嘆息した時、後ろから声が掛けられたのだ。

「あは。ごーめんねえ、隼人君ってばエキストラの顔は覚えらんないカリスマさんだからあ。眼鏡っ子はあ、左席会長だけしか覚えてないにょ」
「それは仕方がないね。あの…背中のそれって、宰庄司君?」
「背中のこれって、ショージ君。うちのサブボスがー、コイツのちんちん蹴っちゃってねえ。息してないのよお」
「え?!いや、息はしてるよ?えっと、サブボスって…紅蓮の君じゃ、ないよね?えっと、山田君、かな?」
「やだやだ、どっちのサブボスも暴力的で嫌になるわー」

ああ、と。
隼人はそこで印象の薄いクラスメートの名前を思い出した。覚えてはいたが重要性が低いと認知していた為に、記憶の引き出しの片隅に仕舞い込んでいたらしい。

「ねえ、今日はコスプレしないの?」
「あ…山田君に頼まれたらするかも、だけど」
「あは、やめときな。てめーじゃ、隼人君のボスにはなれないにょ」

彼、武蔵野を馬鹿にしたつもりはない。
浅知恵過ぎたのは太陽だ。カルマに憧れ衣装を真似るミーハーなど、街に出れば幾らでも居た。髪を染めて夜だろうが派手なサングラス、シーザーの名を騙って悪事を働く者も、少なくはない。

「あのカッコで悪さしたらあ、マジ秒殺すっからねえ。じゃーね、眼鏡3号君」

全て佑壱を筆頭に、四天王と呼ばれた幹部を含めたメンバーが、潰してきたのだから。

「あ!あの、待って。保健室に行くなら職員棟の方が良いよ。校舎の保健室は資材置き場になってて、保健委員が何人か待機してるだけだそうだから」
「そ。判ったー」
「あ、あの」
「なーに?」

まだ何か用か、と睨めば、言い難そうに言い淀むクラスメートの表情がさっと青冷めた。舌打ちしたい気持ちを何とか呑み込み、鼻唄を一つ。

「あの…天の君をお見掛けしないのだけど、大丈夫、だよね?」
「はあ?とーぜんでしょーが。誰だと思ってんの?ポテトサラダ8人前が前菜のボスよ?」
「そうだよね。変な事聞いてごめん」

何を馬鹿な事を、と。
軽快な鼻唄をそのままに肩を竦めながら頷けば、武蔵野は笑みを浮かべて去っていった。

「ボスは彷徨える旅人〜♪強くて優しくて謎過ぎるイケメン〜♪」

飼い主への挨拶よりまず先に、お使いを済ませねばならない。出来る犬は飼い主の名を汚す様な事はないのだ。















「お帰りなさい、旦那様」


久し振りに妻の出迎えを受け、言葉に詰まる。
元々体の弱かった人は記憶より一層細くなり、顔色も決して良いとは言えなかった。

「…長く、留守にしたな。お前には大きな迷惑を掛けた。許して欲しい」
「そんな事はもう良いのですよ、貴方。お体はもう、平気ですか?」

高々盲腸。
始まりはそれから、もうすぐ十年になるだろうか。逃げる様に仮病を続け、一度として学園へは戻らなかった。

「龍一郎亡き今、本来ならもっと早く戻るべきだった。私は弱い男だ」
「そんな事はありませんよ。いやだわ、謝ってばっかり。旦那様、式典の挨拶まで暫し時間があります。此処では何でしょう、先に屋敷へ戻りませんか」
「良い。お前も、屋敷へは戻っておらんのだろう」

敷地内の外れ、麓の街に程近い車で数分の距離に帝王院財閥の屋敷はある。冬臣を通じて、屋敷が半ば無人である事は把握していた。長年勤めてくれている家政婦数人、年老いた家老は数年前に暇を出したきりだ。

「…4年前から足が悪くなりましてねぇ、中々。それはそうと秀皇には会われましたか?」
「………よもや戻ったのか?何故だ、帝都が黙っておらんぞ」
「いいえ。案じる必要はないのです」
「何を暢気な、」
「だって旦那様、」

二人は仲直りしたのだから、などと。
朗らかに微笑む妻を網膜に映したまま、これか、と。呟いた声は掠れて、音にならない。



『この世に善などないわ。全てを疑え、若造』

今になって亡き友の言葉を思い出す。
どれが真実だ。どれが偽りだ。



『身内にとて、気を許してはならん』



ならばその友ですら、信じてはいけないのだろうか。
















「おい、何こそこそやってんだ、チビ」

スヌーピーが揺れるピアス、スヌーピー柄のベルト、スヌーピー柄のタンクトップ。新歓祭に全力でお洒落をしているエルドラド一同は、お日様マークのシートタトゥーを額や頬に刻み、勝手に見回り中だった。

合言葉は「ご主人様の快適なフェスタ」だ。
朝から一度も姿が見えぬ山田太陽左席副会長の非公式親衛隊スヌーピーズ、寝ても覚めてもドSの犬として、ドMレベルだけならカルマの犬共に遅れを取らない有様である。

「ちぃとみゃあ、待ったってちょ。こない小さい子に寄って集って怖い顔したらいかんでよ」
「平田!テメェはレジストだろうが!」
「レジストがしゃしゃってんじゃねぇ!失せろ!」
「何ぃ、仲間外れはいかんて。時の君が悲しむでな?高校最後のどえらいイベントだで、祭りの間くらい喧嘩せんと仲良うしたってちょーよ」

金髪の熊さんは隣で呆れている後輩を指差し、これうちの若手☆と白い歯を見せた。

「カリン、ご挨拶せぇ。ヤンキー業界にSクラスもFクラスもないでな」
「…総長、この状況でそんな下らない事を良く言えますね」
「がっはっは!高坂が怖くて不良がやれるかい!あ、でも白百合からは逃げないかんよ。叶は格下にも容赦ないでな、ええか?」

スヌーピーズは熊とネイビーブルーのブレザーを纏うお供を華麗に無視して、草むらから顔を出している小柄な茶髪を取り囲む。

「おいチビ、テメェ何年だ。Fクラスじゃねぇな」
「チビ、普通科の奴がこんな所でチョロチョロしてっとかつあげされんぞ。安全な所まで連れてってやっから、来い」

残念ながら、悪気はない彼らは人相が悪かった。総長であるフォンナート以外は非イケメンばかりで、剃り込みやじゃらじゃら煩わしいアクセサリーなどが悪い要素にしかなっていない。隼人や日向とはまるで違う、残念なスヌーピーだった。

「何?お主ら、この俺をかつあげするつもりかィ?」
「あ?」
「何か言ったか?早く来いって」
「面白いじゃねェか」

草むらから頭を突き出している茶髪は、手首を掴まれると同時にスヌーピーズの一人を投げ飛ばす。ぽかん、とそれを見ていたレジスト二人も、もう一人のスヌーピーが腹にボディーブローを一発受けただけで倒れ込むのを見るなり、身構えた。

「…おみゃあ、ただの餓鬼でにゃあな?」
「あん?つーか何語だよそれ、判んねーわ。日本語かドイツ語使いなさい」
「俺らとやるつもりならやめときゃあ、おみゃあじゃ相手にならんだに」
「判んねーけど、今お主、馬鹿にしたな?」

がさりがさりと草むらから姿を表した茶髪の髪には草や折れた枝、およそ強そうには見えない細身な体で、下っ端とは言えエルドラドメンバーを仕留めた強さだ。
ざわざわと戦闘モードへ高まる熊を一瞥し、Sバッジを素早く外したネイビーブルーは先に動き始める。

「おー、あらん?イケメン兄ちゃん、力強ェね」
「総長!押さえてますから、どうぞ!」
「よっしゃ、任せぇカリン!」
「しゅん!」
「はいよー」

熊がタックルする前に、木の上から降りてきた影が素早く飛び上がり、くるりと熊の首に足を巻き付けた。
茶髪を取り押さえたまま目を見開いたネイビーブルーの前で、ドシン!と音を発てて崩れ落ちた男は、微動だにしない。

「てんで弱ェじゃん。何こんな奴らに手こずってんだよー、俊江………トシ兄ちゃん」
「うっせ。早く助けなさい」
「オッケー」

見えていた筈だ。
けれど反応する事は出来なかった。腕の中から易々と奪われた人質は、ボサボサの茶髪をそのままに、黒縁眼鏡を掛けたもう一人の腕に収まっている。

「お前らさァ、かつあげとかダセー事はやめとけよ?今回は見逃してやっから、そこの熊にも言っとけ」
「いやん、舜ちゃんってばたまにイケメン」
「え?そう?」

ぽりぽりと頭を掻いた黒縁眼鏡の白いブレザーに、子供がつける様な名札が付いていた。

「とおの、しゅん?…君、いや、貴方が、遠野会長ですか?」
「へ?確かに俺が遠野舜ですけど?何で知ってんの?」
「あ!幼稚園の時の名札が刺さってるわょ!やだ、こないだスモックが出てきてねィ、縫い直して寝巻きにしたんだけどォ」
「え?入るの?」
「それが入るもんでねィ。それについてた名札の安全ピンが何かに使えるかもと思って、クローゼットの中の服に適当に刺しといたの忘れてたァ。ごめんごめん」
「相変わらず貧乏性だなァ、トシ兄ちゃんは」

朗らかな会話をしながら去っていく二人に、取り残されたネイビーブルーは足元を見やり、男三人の屍をどうすべきか悩んだらしい。





暢気な二人は堂々と、近所の呉服屋の奥さんに仕立てて貰った帝王院学園のブレザーを纏い、似た様な黒いシャツとスラックスで擬態している。
来賓客として私服で校門を潜った二人は人気のない草むらに入るや否や、持ってきた制服に着替えたのだ。

そんな時に、絡まれたのである。
こそこそとズボンを穿いていたおばさんの頭上で、こそこそとズボンを穿いていた甥。救出が遅れたのは、パンツ一丁だったからだと此処に記しておく。

「イイ?帝王院は男子校だから、俺の事はトシって呼ぶんじゃぞ。さっきポロっと言い掛けたろ」
「ごめんよー。でも姉ちゃ…トシ兄ちゃん、バレないもんだなァ。さっきの奴ら、完璧に男だと思ってたぞ。やっぱおっぱいがぺたんこだから?」
「死ぬか?」
「すいませんでした」

名札を取ろうと四苦八苦している甥を横目に、広い校庭へ辿り着いた茶髪はちらほら見える生徒らに目を輝かせた。

「く…!若い男の子ばっか!ハァハァ…この中の何人が彼氏持ちなのかしら…!ハァハァ!くっそ!萌え死ぬ…!ハァハァ!」
「トシ兄ちゃん、これ安全ピンが錆びてて取れねーんだけど、どうしたらイイ?引きちぎる?」
「そうねィ、付けとけば?」

生BL妄想でそれどころではないオタク母はスルー気味だ。

「え?!俺もうすぐ15歳なのに、恥ずかしいょ…」
「思ったんだけどさァ。それ平仮名だし、和歌が撮ってきた写メで俊が眼鏡デビューしてたからノリで伊達眼鏡を掛けさせたのもあるけど」
「ん?」
「背が足りないのは目を瞑るとしても、舜ってば俊と間違われてたんじゃない?ほら、和歌が言ってたじゃないの。俊ってば何とか会長やってるって」
「あ、兄貴がそんな事言ってた。え?じゃあ俺、もしかして俊兄ちゃんと間違われたの?!マジ?!」
「多分」
「ヒャッホー!この名札は死んでも外さねェよ!ヒャッホー!」

くるくるりん、弾けるターンを決めた馬鹿は校庭を躍り回り、驚いているギャラリーへ片っ端から「遠野俊です!」と声を掛けていく。

「今日はイイ天気だね!そこのお兄さん!」
「そ、天の君?お、おはようございま、す」
「おはようございます!実は俺が遠野俊です!」
「は、はい?知ってますけど…」
「ですよね!遠野俊を知らない奴はモグラだからね!」

それを言うならモグリ。
然し踊りまくる変態眼鏡は弾けたまま、周りをドン引きさせ続けた。風紀が駆け付ける程には。

「天の君…にしては、何か小さくないか?」
「然し見ろ、名札に遠野俊と書いてあるぞ」
「何故平仮名なんだ?」
「うーむ、来客にも判り易いとは思うが…」
「左席がまた何かやらかしたのか?」
「局長にお知らせした方が良いだろうか」
「だが時の君の姿はないぞ。局長は時の君以外の報告は余り喜ばれない気がする」
「むむ。だがいつまで回り続けるのか…。あのままでは目が回るぞ」
「うーむ、然し踊っているだけで猊下を拘束する訳にはいかんだろう。どうしたものか…」
「む!あれに見えるは、我ら風紀委員と、左席の役員ではないか!」

校庭で踊る眼鏡と、校庭で生徒らを凝視している怪しい二人を観察していた風紀委員らは、偶々通り掛かった後輩二人に一縷の望みを託す。

「そこの二人!あそこで騒いでいる猊下をお諌めして来い!」
「おや?これはこれは、風紀委員の先輩方。天の君が騒いでいるのは元気な証拠なのさ。で、我が君はどちらに?」
「この俺に面厚かましく命令するつもりですか、雑魚如きが」

めらっと怒りを露にした錦織要にビビって素早く逃げていった風紀委員を余所に、マイペースな元赤縁眼鏡は裸眼で瞬いた。

「ふむ?確かに踊っている少年が居るね。でもあれは、眼鏡を掛けていない薄情な僕には、どう見ても天の君には見えないのさ。君はどうだい、錦織君」
「…あんな子供をよりによって猊下と見間違えるなど、言語道断!」

怒り心頭の要が物凄い勢いで走っていくのを、溝江は止めなかった。

「ちわー!噂の遠野俊!お探しの遠野俊は何を隠そうこの俺ですよー!ヒャッホー!」
「へぇ、…誰が遠野俊ですか?」
「勿論、俺!」

くるくる機敏なターンを繰り広げている少年の頭を恐ろしい顔で掴んだ要が、易々と背負い投げられ崩れ落ちるまで、後一秒。


















「夢と現実、理想の朝♪油断の服着て覚悟は何処に♪」

見えてきた保健室、軽快な歌声の割りに足取りは重い。

「着実に近付くよ、今頃祈って何になる、希望と絶望のグラデーション♪飛〜び越え、」

行事に訪れる来賓客用の臨時案内、ドアは開いている。
歌いながら、跳ねる様にドアを潜って、


「ろ!」


すとんと着地すれば、中に居るのは保険医一人だけ。
テンションの高い来客に目を丸めた男を一瞥し、背中の荷物を雑に足元へ下ろせば、ほぼ脱げているスラックスを押し上げて、弛めのベルトを直す素振りくらいしか思い付かなかった。

「急患でーす。ピーポーピーポー」
「朝から元気で何よりだのぅ、星河の君。して、確かに急患の様だが、床ではなくベッドまで頼めるかな」
「…あのさあ、おっさん」
「ん?師君、儂に運ばせるつもりか?まぁ良いが」
「あのねえ、もしかしてえ、隼人君の母親にい、心当たりとかさー、あったりするー?」

深く深く、注意して監察しても、保険医には狼狽した様子はない。これはやはり二葉に騙されたのだと、心中で鈍く舌打ちし、踵を返そうとした刹那。


「…心当たりも何も、出来損ないの娘だ。呆れ果てはしておるが、忘れる事はないのぅ」

宰庄司を抱え、ベッドまで運ぶ後ろ姿を凝視する。
期待などしていなかった。初めから、信じていた訳ではない。ほんの少し、もしかしたら、と。少しだけ。ほんの、僅かに。疑う隙がなかった事もない、その程度だったのだ。

「何それ、笑えない冗談じゃん」
「察するに、触れ込んだのはネイキッド辺りか。流石は悪魔枢機卿だ。ネルヴァが息子に話しておるとは思えんからのぅ」
「…」
「お前に気付かれた時は、死ぬ覚悟が出来ておるよ。隼人」

どうして、と。
言ったつもりが、口からは何の音も出なかった。

冷たく暗い霊安室で、確かに見たのだ。
顔形の残っていない、けれど二人分の遺体を、たった、6歳の時に。

「田舎の病院など、小金を握らせれば喜んで芝居の片棒を担ぐんじゃ。言い聞かせておいたろう、目に映るものは須く疑えと」
「いやんなるくらい、覚えてますけどねえ」
「母親に報せておいたのは、失敗だった。あれがよもや、家を売るとは思わなんだのだ」
「………見たくない、って。要らないから捨てたのに、今更育てろって言われても困るって、言ってたよー」
「ふ。強がりを言う。その割りには数年前から頻りに連絡しておる」
「はっ。ババア、俺の名前を使って再起を図る魂胆だからだろ」
「師君は、そう思うか」

ああ。
ああ。
思い出してきた。医者だったと言う祖父はこうして、熱が出る度に手首を大きな手で押さえて脈を測り、固く絞った冷たいおしぼりを、何度も何度も、取り替えながら。

「それ以外にどんな理由があんだろー?ちょーっと賢い隼人君には判んないなあ」
「儂が何を言えた立場ではないが、あれはあれで後悔しておるのだ。再婚を考えている様だが、だからこそ…今更だがのぅ」
「再婚?へえ、何、落ちぶれてた間に男漁ってたわけ?ババアの癖にやるねえ」
「やはり、言っておらんか」
「あは、勝手にしたらよいんじゃない?おかーさんにも、おじーちゃんにも捨てられた隼人君は、この通り、ちょー元気ですからあ」

仕草は本人だ。けれど見た目が違う。どんなに似ていても、大好きだった祖父とは、違う。
母親に思う事などない。身内と思った事もなく、大した用でもないのに掛かってくる電話は、出たくなければ無視するだけだ。

垂れ目が嫌いだと言われた事がある。
好色で有名な西指宿議員が優しげな目元をしている事は、知りたくなくても子供の時に気付いた。


「じゃ。隼人君は色々忙しいのでー、それの手当てはお任せしますー。失礼しましたー」
「隼人」
「あのさあ、気安く呼び捨てないでくんない?」

戸口の仕切り線を跨ごして、両手をポケットに突っ込んだまま振り返る。離れれば離れただけ、他人にしか見えなかった。

「もーねえ、隼人君は大人なのよー。時給300万のカリスマモデルさんなのー」
「そうだのう、テレビでお前を見ぬ日はない」
「でしょー。あ、一つだけ聞きたいんだけど。ばーちゃんは?」
「…あれは、死んだ」
「いつ?お墓は何処?」
「お前が産まれるずっと前だ」

頭は混乱のどん底だ。
だからこそ表情は何一つ、変わらなかったのかも知れない。



「…そう。大人って嘘つきばっかだねえ。隼人君もだけどー」


朝まだ早い職員棟の廊下は無人だ。
かつかつと規則的に響く己の足音は、酷く滑稽だった。

←いやん(*)(#)ばかん→
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