帝王院高等学校
中等部、時々高等部、ところにより恐怖裁判
「おはようございます。自治会役員、それぞれのクラスから選ばれた皆さん。こんな早い時間の集合になってしまって申し訳ないです。今から一般入場の補助に関する資料を配布するから、判らない事があれば質問して下さい」

Sバッジを付けた白いブレザー姿の生徒を前に、興奮げなネイビーブルーの生徒らは元気な返事を一つ。憧れの高等部進学科を目にした事で、早朝にも関わらず元気が良い。

「…と、言った感じかな。入りが多そうな時間帯は僕ら高等部からもヘルプに入りますので、大体の入場が終わった頃合を見計らって解散して下さい。あ、でも困ってる人を見かけたら解散後も出来る限り助けてあげて下さいね?掲示板に僕ら自治会に繋がる緊急ボタンが設置されてるから、困った時は連絡して下さい」

満足げに頷いた自治会役員の男が皆の手元に回った資料を開き一通りの説明を終えると、中等部生徒らはまたも俄かに興奮を見せた。

「あ、あのー、すいません…」
「はい?何か判らない事があったかな?」
「そうじゃないんです。あの、俺インフルエンザで入院しちゃったクラス委員の代わりなんですけど、代理でも良いですか?」
「あらら、それは大変だったね」
「あの、這ってでも行くって言ってたんですけど…3日も40℃の熱が下がらなくて。俺らルームメートには奇跡的に移らなかったんですけど」
「お大事にとお伝え下さい。一般のお客さんを誘導したり、困っていたら声を掛けてあげる役目なんだけど、その辺りは大丈夫?」
「は、はいっ。入院する前にしっかり怒鳴られ…説明してくれましたからっ。でもどこに行けばいいのか聞いてなくて」
「ああ、それじゃ困ったね。一応中等部自治会役員が巡回する予定だから困った事があれば助けてくれると思うけど、担当する範囲は事前のくじ引きで決まってて、えっと…君のクラスは?」
「三年Bクラスですっ」
「じゃあグランドゲートから並木道までだ」

学園の総合玄関からすぐ大きな広場に出るが、迷路のような遊歩道を抜け寮の集まる施設を横切る形のヴァルゴ歩道までは、昨夜まで準備に勤しんでいた生徒らによって花が植えられ各地に看板があり、表向き迷子になる事はない。然し通常部外者の立ち入りを許していない学園の、それも男子校であるから、ミーハーな一般人が立ち入り禁止区域に入ってしまったり、詰めかける人混みで道先案内を見失ってしまったりが予想される。

「あそこは特殊技能学科有志の尽力で、あちこち綺麗に飾り付けられてるから退屈はしないと思うよ」
「ほー、そーなんですかー」
「そうだ忘れてた。解散後にカードを掲示板で照会すると、学園内の幾つかの施設で使える特別優待のクーポン券を発行してるから貰い忘れないでね。また集合の時間になったら中等部自治会から説明があると思う」
「ふわ、ありがとうございますっ。頑張りますっ」

その為に中等部自治会を筆頭に、中等部全生徒から選抜された数十人が施設内各地に配置され、迷子や事故などのトラブルに対応する事になった。とは言え、施設中配備されているの警備員や用務員の補佐の様なものだ。

「でもここ一番人が多くなりそう…」
「ああ、ガーデンスクエアが広いからねぇ。でも道が一つしかないから、途中でスコーピオやアンダーラインへ迷子になり易いフラワーガーデンよりはマシ、かな?」

本来ならば最上学部または高等部の自治会役員も参加すべきなのだが、見た目が派手な生徒が余りにも多く、高等部以上となると見た目は大人と大差ない。万一、一般客の女性に手を出したり逆に出されたりなどと笑えない状況になれば厄介だと、各自治会の話し合いの末、苦肉の策である。
これによって一般公開の間は中等部生徒らにも施設内解放する事になり、喜んでいる様ではあるが。

「身内の方なら本人に連絡したり迎えに来て貰ったりするだろうし、念のための手配みたいなものだから…時間も長くて三時間くらい。そんなに気張らなくて良いよ」
「で、でも…やっぱり緊張してきましたっ」
「あらら。君、一人で大丈夫?近くの担当の子に僕から声を掛けておこうか」
「うぅ、多分大丈夫です、心配だからうーちゃん…友達と一緒に来たんで。あそこに居ます、あっ、にやにやしてる!」
「ふーむ。…綺麗系意地悪受けと元気お馬鹿攻めとはこれまた侮れないじゃまいか…ああでも僕は山田君を舐めるように見守るつもりで…はぁはぁ」
「あの?先輩様、どっか痛いんですか?」

晴れやかな朝はまだ、明けたばかりだ。











































「…?」
「いつまで入ってやがる。長風呂たぁ渋い奴だぜ」

焼き魚の良い匂いはとうの昔に換気扇に連れていかれ、鍋の中の味噌汁もそろそろ怪しいなと舌打ちしたい気持ちを捩じ伏せた時、漸くやってきた男はタオルを被ったまま不思議げに顔を上げた。

「ふ、シコシコやってたんじゃねぇか?くんくん、あー?何かイカ臭ぇぞ」
「…煩ぇ馬鹿犬、テメェ部屋に戻ったんじゃねぇのかよ。何処までも巫山戯けやがって…」
「あん?戻りましたけど?」

どんっ!と、先程まで蛇口しかなかったシンクに新たに加わったコンロから圧力鍋を運び、鍋敷きの上へ。

「じゃなきゃ、こんなん用意出来るかハゲ」

ついでに再度コンロの火を点けてきた味噌汁、皿に盛っていた塩鯖は全寮共通設備であるレンジの中へ任せれば、若芽しか入っていない酢の物と切り分けた玉子焼きの小鉢しか運べるものはない。

「ぼーっとしてんじゃねぇ、着替えろ。当店はタオルを腰布にする変態様はお断りしております」

数秒で軽快な音を発てた電子レンジの戸を開け、どうも温め足りない気もしたが妥協する。昔はレンジすら使えなかったのだから大した進歩だ。オーブン機能もあるらしいがオーブンはやはり窯に限る。
誉める様にレンジの側面を撫でてやれば、バチッと火花が散った様な気がした。

…見なかった事にしよう。

「あ、やべ、味噌汁沸騰しそ」
「朝から手が込んでんな」
「普通だろ?寧ろ少ない内だ。…くっそ、この俺とした事が手抜きしちまった。唐揚げの仕込みもやってねぇとか、総長に向ける顔がねぇ」
「朝から唐揚げかよ。…そう言や、あの人好きだったな」

タオルドライだけの湿った髪を掻き上げて、真新しいシャツとスラックスに着替えた男の声が追い掛けてくる。日向の部屋のクローゼットは勝手に使わせて貰った事もあり、ストックされている私服の数が少ないのは薄々気付いていたが、昔は洒落た出で立ちだった覚えがあった。あざといカッコ可愛いファッションで、図々しく獣耳がついたヘッドホンなども見た事がある。

「…あー、いきなり背が伸びて間に合わなくなったのか?忍びねぇ」

食器類だけは揃っているシンク脇のチェストから取り出したお碗に注ぎ、持参したしゃもじと茶碗と共にトレーへ。
新品の箸は購入したパッケージの中に入ったままで、他に箸はない。

「おい、茶碗蒸しの器まであんのか。大根持ってこれば良かったぜ、おろし金まであるとは…」
「あ?…ああ、その辺に置いてるのはいつだったか、二葉が置いていった奴だ。部屋で飯なんか殆ど喰わねぇのに」
「奴は何を考えて生きてんだ?効率的な拷問ばっかか?とんでもねぇ眼鏡だな、眼鏡を掛けるとドイツもコイツもあんなんになんの?」
「本人に聞け。…俺様が知りてぇ」
「やだね。叶なんざ近寄って堪るか。あんなんに喜んで近寄ってくのは総長と山田とくれぇだ。…ん?つーか叶の血液型何だった?」
「B型」
「…知らなきゃ良かった」

湯気を放つ圧力鍋、しゃもじで豪快に混ぜ解して茶碗によそう。味噌汁を凝視している日向を一瞥し、やはり若芽だけの味噌汁は不味かったかと思いつつ、知らん顔。
喰わせてやるだけ有り難く思え、料理人は恩着せがましいくらいで良い。働かざる者食うべからず、人の料理に文句を言う様な馬鹿はハゲろ。嫌なら自炊せよ、喰わせて貰う身でお礼以外は口にするな。

これが世の摂理だ。最近の若者は礼儀を知らない。
俊なら運ばれてきた皿に髪の毛が入っていても美味しく召し上がり、お代わりまでする。何たる男気、何たる広い器。

「良し、喰え。俺は総長の様に広い器を持った男だ、遠慮すんな鯖以外お代わり許可」

俊の茶碗よりは遥かに少な目に盛り付けたつもりだったが、何度も瞬きながら炊きたてのご飯を見ている日向の箸が上がる気配はない。

「あ?何だよ、和食嫌いとかほざくなよ」
「これ、何処から箸付ければ良いんだよ。崩れそうじゃねぇか…」
「んなもん、こう、ガッと箸突っ込んでガッと掻き込め。育ち盛りが遠慮するもんじゃねぇ」
「遠慮の問題じゃない…」

嵯峨崎佑壱、餓えたカルマメンバーに慣らされて盛り付けが豪快だ。喜ばれる為には採算度外視の傾向がある。自分は食べずとも子供達には食べさせてあげたい、戦時中の母親の心を持っているオカンだった。
然し盛り付けが豪快にも程がある。無駄のないしゃもじテクでがばっと盛るのは勘弁して欲しい。

「飯の食い方で悩むな阿呆、こっちと替えてやろうか?」
「…有難う」

仕方なく普通量の自分の茶碗と取り替えてやり、手を合わせて頂きます。

「健吾も隼人もこんくらい盛ってやらねーと、すぐ腹減った腹減った喚きやがるかんな…」

丼茶碗にもりもりよそわれた艶やかな白米、見ているだけで心が安らぐ。玉子焼きに箸を付けた日向は傍らの醤油には見向きもせず、ガッとご飯を掻き込んだ。

「やれば出来るじゃねーか」
「…これまだあるか?」
「良し、持ってきてやる。ご飯のお代わりはセルフサービスだ」

玉子焼きを嫌う育ち盛りはいない。あっという間に空いた茶碗にいそいそとお代わりをよそう男の気配を背後に、余った玉子焼きと二個だけ余らせた生卵を持っていく。
期限切れの酢の物と鯖で豪快に食べ進めていた男の汁椀も、見れば空だ。

「ほらよ。おい、味噌汁は?」
「貰う。…悪ぃ、飯なくなった」
「そうか。とりあえずこの卵をこの皿に割って、この出汁醤油掛けて混ぜとけ」
「だし?」

お代わりの味噌汁を再び運んでくると、醤油の瓶を凝視している男を見た。ご飯にそのまま掛けたそうにしているが、葛藤しているらしい。

「ふ、俺お手製の出汁醤油に陥落したか。しょうがねぇ、その醤油は店で出してるもんと同じもんだ。商品化してくれって頭下げに来る企業も居る」
「…」
「テメ、指に付けて舐めんな!これをこうして、卵掛けご飯にしろ」

山並みに盛られた佑壱の茶碗に、とろりと掛けられた卵と醤油のハーモニー。

「ふ。俺の醤油と名古屋コーチンの濃厚な黄身が混ざった代物よ。見ろ、茶碗の脇から大洪水」
「…」
「頂きます」

減ってない特盛ご飯を卵液が滑り、茶碗から滴り落ちる前にカッカッカッと素早く掻き込んで行く佑壱は、ハフーと満足げな声を発てて悠々と鯖へ箸を伸ばした。

「焼き鯖って奴は罪深いおかずだぜ、二合じゃ米が足んねぇ…と見せかけて、実は二つ目の圧力鍋がそろそろ」
「…」
「おい高坂、長風呂で冷め切ったそれじゃなくて、炊きたてほっかほかの飯にぶっ掛けてみるか?オカマの面にぶっ掛けるより興奮すんだろ?」

くらりと目眩を覚えたらしい副会長は無言で鯖を掻き込みご飯を腹へ納めて、三杯目は今までで一番のボリュームを記録したと言う。



デザートはアンダーラインお取り寄せのジェラート(ミルクセーキ味)だったと追記しておこう。
汚れた茶碗と圧力鍋二つは、暫くゲップが止まらなかった副会長が洗ったと言う話は余り知られていない。































抜け足、差し足、忍び足。
こそこそとアンダーラインの非常口から姿を現した人影は四つ、内二人はコソ泥の様に身を屈めていたが、それを塩っぱい表情で見ている残りの二人は堂々としたものだった。

「…どうだいユリコ、敵の影はあるかい」
「想定通り無人ですアキナ」
「ふ。だろうね、魔王メモによると近くのダクトから懲罰棟の内部に侵入可能って書いてある。ユリコ、こんな機密メモをどこの宝箱で見つけたんだいお前さん、怖かったろ」
「貴方の為なら魔王やラオウの一人や二人」
「天晴れ、伝承者よ…!」

ひしっと手を取り合う二人を半開きの目で見ていた神崎隼人は「てめーが書いたんだろー、自前の走り書きだろー」と呟いたが、ひっきりなしに眉間を押さえている錦織要はツッコミを放棄した。

「ユリコちゃん、何かあの二人元気ないね?死にそうだからザオリク掛けてあげよーよ」
「おや、ザラキですか?」
「あはは、殺す気か!」

ゲームの話は通じないらしい二葉の台詞で笑い転げた平凡。然し魔王から死の呪文を掛けられそうになった隼人と要はやはり無言で、テンションの高いゲーマーは唇を尖らせた。

「…もー、ノリ悪いよー、二人共。神崎は何せ二回目なんだからさー、こう言う侵入っぽいの。何かコツとかない?裏技とか。こう、クロノスライン的なマル秘テク」
「んなもんないっつーの。…あー、靴下は脱いでおいた方がよいんじゃない。滑るから」

処分中の三人は一人ずつ監禁されているらしいが、内部のどの位置にいるかは残念ながら判らない。曰く、動いているらしいと言う事は北緯が兄を脅しパチってきた資料に書いてあった事だ。初めから三組に分かれて捜索するつもりだった太陽が二葉に言われるまま隼人を呼び、要はそれにおまけで付いてきた形だった。

「いまいちクロノススクエアの使い方が判んないんだよねー」
「大丈夫ですよハニー、後で私が教えてあげます。使えると便利ですよ」
「今度は分解したりしないでねー、落ちちゃうから。あの時は神崎が落ちかけて大変だったんだから」

ケラケラ笑っているバカップルにメラっと怒りを燃やしつつ、要までもがそっぽ向いて肩を震わせている為に無言を貫いた神崎隼人の垂れ目が若干吊り上がっているが、誰も気にしていない。いつもの優しげな雰囲気が精悍な武士の様に変化しているだけだ。寧ろ今の状況では頼もしい。

勇者ひろあき、ならぬアキナを筆頭に、仲間にすら死をもたらす魔王ユリコ、最近遊んでないのに遊び人ハヤト、おまけのカナメ。勇者のレベルが21だとしたら、隼人と要は99に違いないが、魔王は最早測定不能だ。大体、中央委員会三役の二葉ならば、佑壱と同じく、懲罰棟に堂々と入っていける。こんな回りくどい真似はしなくて良い筈だ。
要の入手した情報によると、開会式前に理事会役員が集まる会議があるらしい。高等部二校合同交流会である今回は特別に恩赦が認められるのではないかと言う思惑で、どちらにせよ何もしないでも何とかなると要は言う。

然し二葉曰く『あの上院がそんな些細な事を気にする訳がない』、らしい。含みのある言い方だったが、二葉が言うのであれば信憑性は高かった。

何より、ダンジョンだリアルダンジョンだと目を輝かせている太陽の前で「堂々と表から入ろう」とは言えない雰囲気である。白百合は空気を読んだ。その白百合の空気を隼人と要は読んだ。そして今に至る。

「言いだしっぺの俺から入った方がいいよねー。…んー、暗くてあんま判んないけど、上と下どっちにいけばいいのかなー。下は怖いからやっぱ上からかな」
「ハニー、内部は最下層の廃棄物処理施設の各ブース毎に全ての管が繋がっていますので、どちらからでも通じますよ」
「つーか滑って転んだら処分場に真っ逆様だよお。ま、こんな平凡一匹いなくなった所で誰も困んないけどねえ」
「神崎、俺の心は傷つきましたよ。後で俊にチクるからー」
「ちょ、ずっこい!」
「知略的と言って!」

意気揚々とダサい靴下を脱いだ平凡勇者がダサいシャツの袖をまくり、にこにこと靴下をネコババした裸眼魔王と言えば上機嫌で、靴下事件を目撃した二人を目だけで脅している。
チクったら殺すぞ、と。

「あの時は陛下の元に放置したり少々揶揄って苛めてしまいましたが、怒ってらっしゃいますか神崎君。だからと言って手を抜いてご覧なさい、体から頭を引き抜きますよ」
「あはは。ユリコ、謝ってんのか脅してんのか俺ちょっと判んないなー。パヤちゃんは左席の大事な役員なんだから苛めないでくれる?」
「もうやだー、サブボス、隼人君だけ帰ってもよいですか?お祭り楽しんできてよいですか?白百合様の可愛いカナメちゃんは置いてきますんで…」
「…殺すぞハヤト」
「おや、確かに青蘭は私の母乳で育てたも同然ですがねぇ」
「えっ?母乳出るの?!」
「実は内緒だったんですが…試してみますかハニー?」
「「……………」」

明らかに減っている隼人と要の口数に反して、人格が変わったとしか思えない眼鏡のキャラ変わりは留まる所を知らない。何とか自分を納得させようと頑張っていたらしい要はぷるぷると頭を振って、もう考える事を放棄した。とっとと行ってとっとと帰ってとっとと俊を誘ってイベントへ繰り出そう、そうしよう。

ここに、二人目の開き直った二重人格者が誕生した瞬間である。


「…まぁ良いでしょう、猊下のお手を煩わせるまでもなくこの錦織要、左席会計として溜まったツケを精算します。山田副会長、本来ならば貴方如きに従うのは俺の美意識に反しますが、クラスメートのよしみで手伝ってやります」
「ありがとー、錦織」
「ふん、どんなつまらない美意識だか。この私の前で君如きが片腹痛い事を…。雑魚は引っ込んでなさい、目障りな上に存在そのものが邪魔です。おや、大丈夫ですかハニー。誰か中身を残したまま缶を捨てた不届き者が居ますね。滑るので気をつけて」

雑魚扱いに言葉もなく激怒している要の傍ら、発言を控えた隼人はダストシュートに入ろうとして滑り転げた最も足手纏いな平凡に甲斐甲斐しく手を貸してやる魔王を見た。もう何も言うまい。誇り高きカルマの四天王、『王響』『虚音』が揃っている場であっても、平凡贔屓の魔王…曰くユリコには勝てる気がしないからだ。勿論、要もそれが判っているから手を出せないでいる。

「………副会長、さっきユリコがポケットに盗んだ靴下を入れてました。しれっとネコババしてました」
「えっ?!ちょ、脱いだ奴は俺の尻ポケットに…あっ、ない!こらユリコ、返してー」

ちっ、と太陽から見えない所で舌打ちした黒髪左右非対称の双眸を持つ絢爛な美貌と、青髪青目の秀麗な美貌が睨み合う、第一回・ダサ柄くるぶしソックス裁判の幕は上がった。

「活該(ざまあみろ)」
「...Bloody, I feel a lot better that you say kick ass to me.(…ちっ。大変嬉しいですよ、私に対してそんな言葉を吐けるようになっていたなんて)」
「煩死了坏分子!(ほざけ犯罪者が!)」

証人兼検事とネコババ被疑者、睨み合う二人から勝手にイケメン弁護士にされそうな気配を感じ取った神崎隼人は素早く被害者山田太陽の後に続き、薄汚れたダクトへ入っていく。



かくして、裁判官も傍聴人も弁護士も居ない裁判は、隼人に出し抜かれた叶二葉が山田の尻を追いかけた事で閉幕し、第二回・山田の尻は俺のもの裁判が狭い管の中で開幕した。一番の被害者であった神崎隼人は後にこう証言する。


何度も何度も足を滑らせる平凡副会長の尻や足がボコボコ顔や頭を攻撃してくる度に、後ろから「死刑死刑死刑」と囁く狂気の裁判官があの中に確かに存在していた、と。

←いやん(*)(#)ばかん→
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あきゅろす。
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