帝王院高等学校
頭痛の種はどこにでも転がっています
何がどうなっているのだ、と。
傍らで同じく言葉を失っている要を見やったが、明確な答えは期待出来そうもない。指定されたエレベーターに乗り込んで数分、招かれた先は笑えない部屋だった。



何故、屋内にプライベートビーチならぬプライベート砂丘があるのか。



「あ、待ってたよ二人共。こっちこっち、今から妨害電波がどうのこうので、別の場所に移動するらしいからドアはちゃんと閉めてねー」

砂丘に生える芝生…まるで田んぼの様な一角に座っている男が手を振り、要と目を見合わせた隼人は行こうか行くまいか悩んで長い足を持て余した。バルコニーから湧き出ているらしい緑色の液体が流れる水路は部屋の中央まで伸び、その傍らで急須から注いだ湯呑をお盆に乗せている男は近年稀に見る笑顔だ。
怖い。もうこんなもの本気で怖いとしか言えない。

「おやおや、どうなさいました神崎君、錦織君」
「にっ、錦織、君?!」
「あは、あは、あは…」
「どうぞ中へいらっしゃい。若い子が遠慮などするものじゃありませんよ。ああそう、旅行先で買ってきた美味しいお茶菓子があります。お茶を煎れましたからお上がりなさい」

ひっくり返った声を出した要に罪はないだろう。腰が抜けかけた隼人も同じく、だ。
にこにこ湯呑と菓子折りを運んできた男は芝に腰を下ろし、甲斐甲斐しく皿を並べている。

「先輩、テーブルが欲しいね。卓袱台みたいなのとか。あと座布団も」
「配慮が足らず申し訳ありません。近い内に用意しておきますので」
「どーしたの、神崎?錦織君も変な顔して」

何が起きているのか。
呑気な太陽は首を傾げつつ茶を啜り、「あちっ」と言う小さな悲鳴に慌てる眼鏡の男はどう見ても叶二葉だ。信じたくはないが。しかも太陽の首筋の痣はなんだ。ベタベタベタベタ、病気の様に広がるそれは何だ。
キスマークだとは信じたくなかった。

「ああ、不甲斐ない私を許して下さい。この部屋には冷蔵庫がありません。従って氷もなければ、セキュリティを敷いてしまった為に運ばせる事も出来ません…」
「ん?あー、こんくらい大丈夫だって!」
「あーんしてごらんなさい。ふむ、舌に異常は見られない様ですが…念の為、私が舐めておいた方が」
「舐めんでいい。そんな事より先輩、ほんとに他の役員からバレたりしない?」
「勿論です。この私に不可能はありません。そんなに」
「えー、ほんとかなー」

いちゃいちゃしておる。
平凡と鬼畜眼鏡がいっちゃいちゃしておるぞ、と。痙き攣った隼人が判ったのはその程度だ。
いつの間にそこまであの白百合を篭絡したのかは知らないが、何と言う事だ。我らが左席副会長、佑壱を差し置いてカルマ総長に上り詰めただけはある。とんでもない21番だ。その恐ろしさがやっと判った。痛感した。

「な…、何、何がど…どうして、ややや山田君、君は洋蘭に何をしたんですか…?!」
「えっ?カトレアって、二葉先輩のこと?」
「ええ。昔の話です。ちょっぴり中国で弾けていた時代がありましてねぇ」
「ちょっぴり、ですと?」
「貴方に出会う前の話ですよ、ハニー」
「「ハニー?!」」

青冷めた要と隼人の声が重なった。
饅頭をもごもごしているチビをぎゅむりと背後から抱き締めた男は誰だ。あの、鼻の下が伸びきった眼鏡は。誰だ。

「サ、サブボス…。もうやめた方がよいと思う、よ。ちょ、やり過ぎ…!幾ら表向き付き合ってるからって、そこまで誘惑しろなんて言ってないでしょっ!モノには限度ってもんがあるのっ!ゲームはやり込めばよいってもんじゃないのっ!そこそこの妥協も必要なのお!」
「洋蘭…いえ、白百合!後日改めて詫びに来ます!逃げません!ですから山田副会長を離して下さい…!」
「あらー。…ネイちゃん、今まで二人にどんな事やってきたのかなー?まー大体判るけど…」
「お恥ずかしい」

今にも口と口が近付きそうな距離で会話する二人に、隼人が泣いた。ちょびっと泣いた。要はもう今にも死にそうな表情で震えている。平気そうなのは太陽だけだ。

「えっと、とりあえず後でゆっくり話すからさ、そんな警戒しないで落ち着いてよ二人共。…や、無理だろうけど。うん、無理だろうね、判る。痛いほど判るけど、今日は噛まないから」
「どう言う意味ですかハニー」
「えっと、さっき溝江君達の事を相談したら、先輩が何とかしてくれるって言ってくれたんだよねー」
「ええ、中央委員会役員であるこの私の手に掛かれば、懲罰棟の一つや二つ軽々プリズンブレイクですよ、ええ」
「だから皆に言おうか悩んで、二葉先輩が言うなら神崎にしろって言うからさー。っつーか絶っ対、他の中央委員会と風紀委員会にはバレないでよー?俺いやですよ、懲罰棟に入れられるの」
「貴方が入ると仰るなら私も一緒に入ります。ハニー、悪しき風紀委員の苛めになど私は屈しません」
「つーかアンタが風紀委員長やないか〜い」

何がどうなっている。
メールで知らされていたとは言え、どうしたらこうなるんだ。何処で何が発動してこうなった。

パネェ、ゲーマーパネェ。
隼人が放心状態で心から感心していると、要がふらりと動いた。


「何の、茶番ですか、これは」
「錦織君?」
「良いんですよ放っておけば。あれは目に見えるものを許容出来ず、混乱しているだけです」
「っ、貴様…!」
「わあ、落ち着いてカナメちゃん!ドードー、相手は眼鏡のひとだよお?!隼人君とケンゴ二人掛りでちっとも歯が立たなかったんだからあ!死んじゃうよー!」
「え…、先輩そんなことしたの…?」
「おや、残念ながら記憶にございません。濡れ衣ですよ山田太陽君、彼らは可愛いふーちゃんを陥れようとしているんです。どうぞ騙されないで下さい」
「騙してんのはアンタでしょーがあ!アンタ隼人君のじーちゃんが生きてるとかゆってえ、嘘ばっかじゃんかー!サブボスっ、騙されてるよお!仕組まれてるよお!あたた、カナメちゃんっ、引っ掻くのタンマ!」

太陽と言えば、暴れまわる要を羽交い締めにしながら顔を引っ掻かれている隼人に同情しながら、ぐりぐり頬擦りしてくる男の鼻を摘む。

「神崎のおじいちゃんって誰?」
「ひりうふでふ」
「あ、ごめん。もっかい」
「シリウスです」
「シリウスって誰?」

鼻から手を離してやるとまず要が先に反応した。大人しくなった要に安堵した隼人は、



「保健医の冬月龍人です」

けれど目を見開いて動きを止める。

「何か二人共びっくりしてるんだけど。確かその先生はイチ先輩の家で会った、気がする。若かったよ?」
「確かに彼はドクターというよりマッドと言った方が良いでしょうねぇ。ですが終戦前後の生まれの筈です。サーバーにデータがあるのを見ました」
「ふーん。じゃ、カイ庶務が神帝なんだよね?」
「ノーコメントです。…ハニー、誘導尋問とは世知辛い事を。そこまで知りたいなら早く思い出して下さいね。それまで私は誰の命令も聞きません」
「けーち。引っかかれよ、ちくしょー」

要と目を見合わせた。
何がどうして、一体どう言う魔法のチートを行えば魔王が勇者をハニーと呼ぶのか。どんな恐ろしいハニートラップなんだ。今プニプニと太陽の頬をつついている男に聞いてみたいものだが、やはり声にならない。腰が抜けたとしか。

「お茶が冷めませんかハニー?新しいものを入れ直して来ます。ああ、君らは冷めたものでも飲んでいなさい」
「懲罰棟の中に部屋ごと突入するのはちょっと無理みたいなんだけど、エントランスゲートのエレベーターを繋げるのは出来るんだって。あ、勿論だけど俺には無理。二葉先輩がやってくれたわけなんだけどー、二人共聞いてる?」
「あ…あは、一応、聞いてるよお…一応…」
「…君は本当に何者なんですか、山田君」
「うーん、何者って言われてもねー」
「そんなもの決まっているでしょう」

太陽には満面の笑みで、要と隼人には虫でも見るかの様な表情で。最早太陽以外へは愛想笑いさえも放棄したらしい男の台詞と言えば、



「私の愛しいハニーですよ」


流石にこれには太陽すら呆れた表情だ。





















































自室から炊飯器と米を小脇に抱え、靴を挟んでおいたドアの隙間に片足を突っ込んだ時だ。
聞き覚えのある甲高い声が廊下から入り込んできた。変な猫なで声で騒いでいる。


「珍しいねっ、閣下から二人同時にお声が掛かるなんて!」
「どうしよう、柚子姫様に内緒で来ちゃったけどっ、これは僕達二人の秘密だよっ」
「勿論だよ…!誰でもいいからすぐに、なんてお声が掛かったんだもん…っ」
「居なかった姫が悪いんだよっ。僕らは悪くない、そうだよねっ」

中央委員会フロアに一般の生徒は入れない。許可がなければ、だ。
見覚えのない小柄な生徒らだがおおよその見当はつく。二人が真っ直ぐ向かう先、それは今し方まで佑壱居た部屋に違いなかった。


ガツン、と。
激しい音を発てて開いたドア、たった今、通り過ぎたばかりの二人が足を止め、瞬時に振り返る。



「…おい餓鬼共、テメーらここが何処だか判ってんのか?」
「ぐ、紅蓮の君…っ?!」
「ぼ、僕達は光王子様に呼ばれ、」

投げつけたのは炊飯器の方だ。幾ら重い10kgだろうと、お米様を投げつけるわけには行かない。

「あん?へぇ、高坂が何だって?…もっかい言ってみろよ、おい」

派手に蓋が外れた機械の残骸を蹴り飛ばしながら近付いて、大分低い顔を覗き込む。赤くなったり青くなったり忙しい二人は声もなく震え、ぱくぱくと喘ぐばかり。広まっている筈の噂を知らない訳ではないだろうが、それでものこのこ此処までやってきたのは大したものだとは思う。

「俺が誰だか判ってんな?知らなかった、で、許されると思ってんのか?」
「…っ」
「ひ…」
「それを踏まえてもう一度ほざいてみろよ。それが出来れば認めてやっても良い」

確かに自分は暫く戻らないと言った。シャワーを浴びているらしい男へ『自分の部屋に戻る、もう帰ってこないかもな!』などと捨て台詞を残して逃げてきたに等しい。だからと言って、それからまだ十分経つか経たないかだ。もう連れ込んでやがるのか、と。

呆れ半分、あんな奴の為に握り飯を握ってやるつもりだった自分が情けなくてならない。


「それが出来ねぇなら、…とっとと失せろ」

転がる勢いで去っていく背中と慌ただしい足音。
完全に壊れてしまった凹んだ炊飯器を仕方なしに拾い上げ、飛び散った外蓋と破片は廊下のダストシュートへ放り込む。

「…ふん、雑魚が。あれで何が過激派だ、笑わせてくれるぜ。プライベートライン・オープン」
『おはようございます。コード:ファースト、ご用件を』
「おう、ディアブロの部屋にガスコンロ持って来い。あと卵と味噌と鯖の切り身。なけりゃ北寮3階の別部屋から持ってきても良い」
『了解』
「…お、中身は無事か。良かった良かった」

壊れた炊飯器の内蓋を外せば、研いだ米は少し水を零しただけで何とか生きている。一回目は試し炊きだと2合しか研がなかったのが功を奏したらしい。一升研いでいたら大惨事だ。今頃レッドカーペットが水没している。


「圧力鍋持っていくか…」

再び部屋へ戻りガシっと圧力鍋を捕獲。
それと同時にエレベーターからやってきたバトラーが二人掛かりでコンロを抱えているので、片手で米と圧力鍋を抱え直し、斜向かいの部屋のドアを開けてやる。まだシャワーの音は続いていた。


心得た従者達は素早くガス栓に接続したコンロを並べ、テールコートから味噌の袋を取り出した。
彼らが出て行くのと同時にやってきた包帯だらけの男はニヤニヤした表情で、パックそのままの卵を差し出してくる。


「マスター、丁度俺らTKGするつもりだったんだよ〜♪名古屋から取り寄せたコーチン、いかが?」
「何がTKGだボケ。…テメーら最近見なかったと思えば、何やってたんだ。あ?」
「マスターの命令で遠野さんの周辺洗ってたら、何でか16年前に居なくなった男に辿り着いてね〜。…ソーリー、まっさか陛下にバレるとは…」
「…んだと?」
「俺ら死にかけてんのに、マスター遊園地に行ってた〜…っと、雑談はこの辺で。一般客に紛れてますんで、御用があれば呼んで下さい」

出て行った男と入れ違いに、食材を運んできたバトラー。使い慣れた調味料ではない所を見ると、寮の食堂かアンダーラインの食料庫から取り寄せたものだろう。でなければ早すぎる。

がりがりと頭を掻いて、とりあえず中身を移した圧力鍋を火に掛ける。タイマー付きとは洒落ているな、と、他人事の様に頷いて、もう一度頭を掻いた。


「…ルークの奴、いつから気付いて…じゃなかったら何であの人の家なんかに、アイツが…くそ、全然判んねー」

判らない事を考えるだけ無駄だ。
然し長いシャワーだなと振り向いて、もしかしたなら先程の親衛隊らは風呂まで呼ばれていたのかも知れないと考えた。成程、ベッドシーツが乱れていれば自分は気付くだろう。同じ男だ。避妊具が捨ててあれば当然の事、幾ら広いとは言え部屋の中に篭った情事後の匂いに気づかない筈がない。匂いには敏感だ。

片手で割った卵をボールの中で手早く掻き混ぜて、同じくタイマー式らしいグリルの中に水を張る。換気扇を回し火をつけて、身振りのいい鯖の半身を半分に切ってから並べた。


「良し。味噌汁と卵焼きはすぐ出来るから後で良いとして、」

賞味期限が一ヶ月ほど切れた乾燥わかめをポケットから取り出し、捨てるつもりだったがやめた。あんな下半身ゆるゆる俺様野郎には、期限が一年切れたものでも惜しいくらいだ。食わせてやる。どうせ死にはしない。



しゅんしゅんと音を発て始めた圧力鍋を背に、気前良く部屋で着替えてきたばかりのスウェットを脱ぎ捨てる。
念の為に首輪も外して大切に置き、結い上げていた髪を解いた。後ろから見ればデカイ女性に見えなくもない、筈だ。いつだったか、銭湯でボケた年寄りに姉ちゃんと呼ばれた事もある。然しその直後、股間を崇めるように拝まれた事はこの際忘れよう。色黒は生まれつきだ。
まぁ、しっかり使い込んでいるのは否定出来ないとして。



だが然し、腐っても男・嵯峨崎佑壱、彼女がいる時は不義密通などしていない。
物凄いサイクルで告白されては振られてきたが、浮気だけは一度としてやった覚えはない。そんな暇なく振られてきた。口煩いだの愛が足りないだの、理由は実に様々だったが。




「光王子様ぁ、お背中お流ししますぅ」
「…ああ、遅かった、………な…」

ぼーっと突っ立っている男の背中へ自己最高の甲高い声を放ちながらドアを開けば、ゆるりと振り向いた男はそのまま動きを止めた。その目だけが佑壱の上から下まで素早く彷徨い、思考回路がパンクした様だ。

そりゃそうだろう。
呼んだ筈のちびっこオカマ達ではなく、いかついロン毛がソープ嬢が如くバスタオルを巻いてやってこれば、そうなっても仕方ない。されたのが自分だったら躊躇わず殴り返していたに違いなかった。だがオカマ役は得意だ。何せ身近にデカいオカマが居る。あの完成度の低さを真似すれば良い。

「やだぁ、お客さんアタシのこと見すぎぃ。つーかガン見し過ぎぃ」
「…」
「タオルの中が気になってたりしてぇ、スケベー。…あ、タオルの長さが足りてねぇ、はみ出てた。ごめんごめん」
「…」
「えー、もしかしてぇ、お客さんこーゆーとこ初めてなのぉ?だったらサービスしちゃうかもー」
「…」
「いやん、緊張してるぅ、かーわーいーいー♪」

キャピキャピ入ってくる佑壱がボディーソープを掴み、しゃこしゃこ泡立てながら宣おうが、麗しい副会長は沈黙。

「やだん。うちのお店ぇ、ヤーさんな刺青はお断りしてるんだけどぉ。でもアタシも入ってるからオ・ア・イ・コ・ね☆」
「…」
「うふん、じゃあまずお体お流ししますぅ。ああん、気持ちよくても動いちゃダ・メ・よ。でも〜、アタシのテクが凄すぎたらご・め・ん・ね?」

うわっ冷ぇ、と流れ落ちるシャワーの温度に飛び上がりかけながら、狼狽えたら負けだと変な意地を張るタオル男は素早く湯温を上げ、泡だらけの手で日向の太股を撫でる。
どう見てもセクハラだ。判っている。判っているが今更引くに引けない。何せ既に恥ずかしくて死にそうだから。沈黙が痛い。痛すぎます高坂さん。

「痒いとこはありませんか〜、あっても言えないのが日本人〜?やだー、奥ゆかしいぃ」

流石だ高坂、この状況をボケスルーするつもりとは鬼畜にも程がある。

「ところで光王子様ぁ、お手てでするぅ?お口にするぅ?それとも鍛え抜いたこの太股に挟んじゃうぅ?」
「…」
「あ、でも本番はダ・メ・よ☆お客さんイケメンだけどぉ、アタシもイケメンだからぁ、あんよではむはむはオッケーだけどぉ、ズコバコは勘弁してちょ。売れっ子だからそう言うとこ煩いの、ごめんなさいね☆」

何せこの鋼鉄の尻を前に歯が立たなかったこの男を、一度足と足で挟んだ事がある。
力を抜けと何度か怒鳴られた事も良い思い出だ。鍛え抜いた太股に手加減と言う言葉はない。

「でも出来れば出す時はお口の外にしてねン?アタシぃ、野郎のなんか一生飲みたくないっていうかぁ。あ、何ならこの胸筋…ゴホン、おっぱいで挟んじゃう〜?良いわよぉう、挟めるものならぁ」

ムチっとタオルでは隠せない筋肉の谷間を見せつければ、長い長い溜息が降ってくる。

「……………はぁ。テメェ、何考えてやがる…」
「えー?目の前に売れっ子がいるのにぃ、二人もヘルプ呼んじゃうんだもん。そんなに若い子が良いのぉ?佑壱きゅんだってピチピチむちむちの17歳なのにぃ。バカン、やきもち焼いたゾ☆」
「頭痛ぇ…」
「けっ。水なんか被ってるからだ、バーカ。…良し、雑菌塗れの汚物をこの俺がゴシゴシ洗ってやる、念入りに。寧ろ俺の為に」
「つーか何処触ってんだテメェ、マジで殺すぞ好い加減…」

男には同じものがついていると判ってはいるが、どうも素面では見るのも抵抗が有る。冷めた頭で何でこんなもん洗ってやらなきゃならないんだと舌打ちを噛み殺しているが、ここで放り投げるのはあれだ、負けた気がする。どうしても。

「おっかしーな、朝だっつーのに…オメー不能か?違ぇよな、痛い痛い言いながらこの俺の太股様でイったもんな、覚えてるか高坂Jr?」
「………何処に話しかけてやがる。ちっ、良いから手を離しやがれ!」
「あん?だから舐めてやっても良いっつってんだろうが」
「いつそんな話に、」

ビタリと動きを止めた日向は中々の見ものだった。
跪いたままゴシゴシといつまでも形の変わらないそれを素手で泡まみれにしながら、高い位置にある顔を見上げる。


「…んだよ、嫌なら良い。けっ、後からやっぱ舐めろっつってもやんねーかんな。後悔しても知らねぇかんな、淫乱不能野郎!ハゲて死ね!」

やはり負け犬の様に吐き捨て泡まみれで飛び出し、剥ぎ取ったタオルでゴシゴシ泡を拭う。
そのまま洗面台でこれでもかと手を洗い、苛々キッチンへ戻れば換気扇の音だけ。魚はとっくに焼き上がり良い匂いを漂わせており、圧力鍋も後は蓋が開くのを待つだけだ。

「あんにゃろー…!期限切れのわかめ多めに食わせてやる…!」

味噌汁の鍋を火にかけ、別のボールに水を張ってざらざらと海藻を放り込んだ。わかめの酢の物が一品増えただけだ。これでは何の仕返しにもならない。
ああ、苛々する。親衛隊には何をさせるつもりだったか聞きたくもないが、自分相手にはなんて態度だ。このカルマ副総長が直々にしてやると言っているのに、だ。いつか後悔させてやる、と考えていると圧力鍋のピンが音を発てた。怒りはそれと共に吹き飛ぶ。



「あー…俺のななつぼし、一ヶ月もシカトしてごめんな。今のお前は、どの米よりも輝いてるぜ」

いつまでも出てこない日向など、つまらない男のプライドなど。つやつやなお米を前にしては、ちっぽけなものだ。

←いやん(*)(#)ばかん→
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