帝王院高等学校
黎明に帰依る刹那の回帰録
隠れんぼしましょ。
見付けたら皆がハッピーエンド。





見つからなかったその時は、闇から鬼が迎えに来る。









カオスシーザー、闇の皇帝が。


















生み落ちた日。
魂は破滅へと廻り始めた羅針盤の音を聞いたのかも知れない。

生み落ちたあの日、初めて光を映した網膜は母親の顔ではなく終焉を見つめていたのかも知れない。



初めて呼吸を覚えた日。
細胞が初めて酸素に犯された日。
刻一刻と飛び越えていく一秒に、赤子は絶望して泣いたのだ。







初めて空を見上げた時から、絶えず。







いつかお前を絶望させる日がやってくる事に、私は気付いていたのかも知れない。





























『帝王院神威。
 生徒会長。その隠された素顔は無駄に美形と言う噂。佇まいがもう神々しい。普通の人間は見たら目が潰れるらしいが、未確認。多分攻め』

『高坂日向。
 ワイルド系セレブ美形。大人の男の色気に男女問わず発狂。雄々しいにも程がある彼を抱きたい勇者はまず居ない。ギガ攻め』

『叶二葉。
 麗しい系、儚げ美形。立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は白百合様。但し中身は腹黒系超悪肉食男子、本領発揮で雄フェロモンが吹雪く。バリ攻め』

『嵯峨崎佑壱。
 ワイルド系ヤンキー美形。イケメンなのに強面、雄の色気もあるけど外見のインパクトが強すぎてケバいお姉さま以外にはハードルが高い。ワンコ攻め疑惑』

『藤倉裕也。
 ワイルド系フェロモン美形。年の割に色気が凄い。但し無気力なので普段はノンフェロモン。話し掛けても高確率でシカトされる。きっと攻め』







「ふぇ」


頭の中のモニターに、カチカチと打ち込んだ文字を目で追う、そんな夢を見ていた。
確かに自分の手がキーボードを叩いているらしいのに、それがまるで他人事の様に感じる。萌えそうだけど萌えきれない、何とも切ない状況だ。






此処は何処だ。
暗い。いや、…明るい?


ざわざわと、大勢の気配がする。
けれど話し声は聞こえない。ざわざわ、ざわざわ。






「カルシウム定着確認。骨折箇所は正常に構築されています」
「………配合結果、α…99%、β…99.8%、γ…93.1%」
「シナプスオールクリア。適合率の低いγは除外、補正します」
「シンフォニア、停止していた脳波を覚醒します」
「エラー。被検体、主人格に10%程度の亀裂を確認」
「プラン2、展開」
「エラー」
「プラン3、展開」
「エラー」
「全てのプランが弾かれました」



ざわざわ。
遠くで、誰かが沢山、喋っている。



「…院長、これ以上は危険です」


ざわざわ。
ざわざわ。
近いのではないかと思うけれど、とても、とても遠い。


「移植した部位を再度摘出するか、人格シナプスに仮想メモリをバイパスし、主人格をバックアップするしか方法はありません」
「転落時に負傷した部分は生命活動に支障を来たす可能性が極めて高い。摘出すれば、最悪、昏睡状態も有り得ます」
「………適合率の高いβをメインに、人工回路をセカンドデバイスにすれば、どうだ」
「…成程、有り得るかも知れませんね。では再構築します。シンフォニア被検体、大脳移植を開始します」
「メインブレインにβ移植、………適合率43.4%…100%の人格崩壊」
「そんな馬鹿な!そこまで下がるとは…!」



何を話しているのだろう。
眠い。眠い。でも起きている。なのに瞼はどんなに足掻いても開かない。



「何か…何か手はないか?何でも良い、全ての可能性を試してくれ。この子の命がある内に…」
「メインブレイン、全ての交配をシミュレートします。……………結果が出ました!」
「適合率120%、驚異的な組み合わせが確認されています!」
「…αとβを共に40%、これにγを15%を直列に繋いだ場合、セカンドバンクに影響なく被験者に適応します」
「だがそれでは数が足りんぞ。残りの5%は何だ」
「通常人間が使用していない部位から支障のない回路を採取し、充てがってみてはどうでしょう?ただでさえ個体に三種の遺伝子を交配しています、これ以上は…」
「あい判った。頼む、始めてくれ」












誰か。
自分は此処にいる。









「被験者覚醒完了」





気付いて。
気付いて。
気付いて。





「今の所、不具合は確認されません」
「目が覚めるまでに一般病棟へ移します。宜しいですか、院長?」
「…ああ、助かった。この事はくれぐれも他言無用で頼む」
「勿論です」













此処に、居るのだ。































お前が連れ去られたと聞いた時、世界は全ての音を消した。
望まずとも、願わずとも、祈らずとも、そう、それが自分であろうと、自分以外の誰であろうと。





お前を再びこの腕へ抱く為ならば、どんな手段をも厭うつもりはない。





クロノス。時を司る神。
お前は羅針盤を背に、真っ暗だと言った。それを聞いた自分の視界こそ真っ暗だった事を知っているか。












「ねーえ、これかっこよいでしょー」


男はそう、擽る様な声音を転がした。
裂けた耳から滴る赤には一切構わず、クスクス呟く男の声をBGMに、盤上の王を追い詰めた駒は何だったか。


今はもう、思い出せもしない。




「ボスから初めて貰ったあ、隼人君の財産ー。死ぬまで大事にしてえ、死んだらこれと一緒に宇宙葬して貰うんだあ」

今にしてそれを思い出す。
数多の星が煌く闇、一切の雑音を許さず、一切の生命の活動を許さぬ真空に、けれど私達は確かに存在しているのだ。


「宇宙はよいよお、宇宙にはボスがいっぱいだよー。いっつも真っ暗でー、いっつもお月様が出てんのお。よいね、良過ぎるねー」




無機質に、けれど強く燃え盛る万物の神たる太陽よ。





「あーあ、隼人君はなんで男の子なんでしょお。おっきいチンチンより、おっきりおっぱいが欲しかったのです」




お前には見えるか。
お前には手が届くのか。
お前ならば、許されるのか。
小さき雄では夢見る事さえ罪と宣う摂理を、組み伏せるのか。








その気高き暗黒世界に抱かれ尚、決して屈する事のない、灼熱よ。























「私の罪は二つ。親友を二人も殺して、自分だけが幸福を与えられた事だ」

日本は真夜中だ、と。
撮影を観覧していたギャラリーに形ばかり微笑んで、サインや写真を求める声はSPに任せる。今から空港に向かっても開幕式典に間に合うか、怪しい所だ。長引いた撮影への憤りに監督を睨んでも意味はない。

「…亡き友サラ。そなたの代わりに私が、ルークの成長を見届けてきてやる」

胸元のクロスを握り締めて、懺悔と言うには感情の窺えない声音でひっそりと、


「クリス、エスコートのいないハイヤーが迎えが来たよ」

恰幅の良い女性マネージャーが片眉を上げ、今にもブレザーボタンを弾かんばかりの腹を揺らしながらやってきた。また嵩を増した様に見えるその腹は、お国柄によるものか、ストレスか。耳元に顔を寄せてきた人に『今度こそ食われるのだろうか』などと冗談半分、

「…良いかい、期間はきっちり二日だ。次はモナコで現地集合、遅れないでおくれ。幾ら君がレッドカーペットの常連でも、今回ばかりは相手が大物すぎる」
「その大物俳優に遠回しに口説かれているんだが、彼には妻も子供もいたな」
「そうさ三回離婚して四回目、ありゃ病気だ。大丈夫、レイの恐ろしさは奴も判っているよ。ハリウッド暗黙の了解、赤毛の枢機卿の妻に本気で手を出してきたりは…ああ、それと頼むからこの前みたいにいきなり居なくならないでくれよ?レイに睨まれるのは私なんだから」
「有難うマネージャー。ゼロの時は行けなかったから、一度くらい見てみたかったんだ。君には感謝しているよ」
「お友達の息子が今度卒業するんだったね。甥だったかね」
「そう。…多分、な」
「あぁ?多分だって?何だい、また変な事を言うね」
「息子に叱られたんだ。何でも間に受ける世間知らず、ってね」
「ただの親子喧嘩だろ?大体、親の脛齧ってる分際で舐めた事言う子だね。甘やかし過ぎなんじゃないかい?」

ジーザス、小さく呟いて十字を切る。不思議そうに首をかしげたマネージャーに背を叩かれ、吹き飛びそうになりながらストールを巻き直した。彼女の言い分は最もだとは思うが、



「エンジェルが私の脛を齧ってくれるものなら、幾らでも差し出すんだがな」


神父も牧師も居ない場での懺悔は、神に届くのだろうか。





















『全部滅びてしまえば良い』


そう吐き捨てたのは愛らしい子猫。
何故そんな事を望むのかと尋ねれば至極不愉快げに、生きるのが面倒だと宣った愛らしい生き物。


その時の私は、斯様に些細な望みすら持っていなかった。全てを壊して残るものなどありはしないと、判っていたからだ。


いや。
判った振りをしていただけ、だろう。




『何処が些細だボケ。世界崩壊っつってんだよ俺は』
『葬る価値が見出だせんな』
『─────は?』
『何故、斯様な些細な望みを抱く。…人間とは不可解な生き物よ』
『テメェだって死ぬのは嫌だろ』

だが今ならば、その無意味な行動にすら希望を抱く人の心が判る。
手に入らないならいっそ、壊してしまえと。望むのは何も、罪ではない。


『何故、生に拘るのだ。何故、生死を苦楽に分類しようとする。
 生で覚えた総て、死の間際に覚えた苦痛絶望、それら全て僅か一秒後には塵と消えるにも関わらず』

長い、人の一生とはこうも長い。
永劫を漂う宇宙の星々には一瞬の様な80年、されどその一瞬一瞬の時は全ての生き物に平等に与えられている。







何故、生に拘る、などと。判りきった事を。
生きているからだ。生まれ落ちたからだ。死ぬのは怖い。失うのは、怖い。
例え一秒後に死ぬ運命だとしても、人は生きている。
欲深い人は求めてしまう。


人は、どう足掻こうと愛を覚えてしまう。










愛される喜びを、知っているからだ。


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