帝王院高等学校
ほんとイベント前日は眠れないものです
口元もあらぬ所もぐちゃぐちゃの、どっろどろだ。

「ひぁっ」

触れた唇と唇の裏側、歯も頬の裏も舌までもなぞる他人の粘膜に翻弄されつつ、最早これで童貞と言えるのだろうかと甚だ疑問を抱かずには居られない、一皮剥けた分身は号泣している。
本当の意味でも剥けてしまったのだから、感動なのか哀愁なのか判らない涙が出そうだ。ピリッと走った痛みには本気で泣いたが。

いやいや、剥かれたのは旅館だった。それも早い内に。今や痛みはない。但し前より感じ易くなっている感は否めない。普通慣れるものではないのか?早さを極めてどうする、いや然しこんな高度な技術に慣れたくない。

高度な指テクで問答無用に攻め立てられながら、奇妙過ぎる光景を窺った。余裕がある様な言い方だが、恐らくただの現実逃避だ。
周りの景色が砂漠にしか見えないのも現実逃避による幻、だと、思いたい。例えしっかりと視界に映り込んでいたとして、だ。

何故、壁一面に空のペイントが施された海のない砂浜が、部屋の中に存在するのか。先程までは確かにエレベーターだった、筈だ。
煌びやかな廊下は、無言の男に抱えられ顔中舐められながら通り過ぎたので、殆ど見ていないが。


何せ15年生きてきて始めて、他人の精液を顔に浴びた日。
これを専門用語で何と言うのか、今度エロマスターである隼人に聞いてみよう。嬉々として誰に掛けられたのか聞かれそうだが。そこはもう、芸能人お決まりのノーコメントで。一応、彼も芸能人だから空気を読んでくれる、筈。説得力に欠けるが。


「ふぁ、ん…っ」

凄い声が出た。
慌てて口を塞いだが、いつもならばこれ幸いに皮肉を言う筈の性悪からは何の反応もない。

砂浜に敷かれたふかふかな布団の上、転がる幾つもの目覚まし時計に囲まれた現実のものとは思えない変な部屋は、緑茶の匂いで包まれている。まるで昔ながらのお茶屋さんの様だ。加齢臭ならぬ抹茶臭。何だこの部屋は、余りにも自分好み過ぎる。

上半身は辛うじてシャツを纏ったまま、下半身は片方だけ靴下を履いただけの無防備な状態で大股を開き、乳首やら鎖骨やら噛まれながら同時進行で一皮剥けた息子を揉まれている。
これは正しく、田舎から出てきた生娘が都会のイケメンに誘われ付いていって、とんだエロビデオに出演させられた、様なものだ。生娘ではないが。ただの童貞貴族だが。

「う…うー、馬鹿になったら、困るー」

およそ射精間近の青少年とは思えない台詞。
他人の手に吐き出した気まずさと言ったら筆舌に尽くし難い。
否、恥ずかしげもなく他人の顔にぶっかけた男にしてみれば、まだまだ赤子か。顔に掛けられた程度で騒ぐ子供と思われたくないばかりに平気を装ったが、あれは呆然としただけとも言える。

目の前であの美貌があんな所からあんなものを吹き出すなんて。ギャルだと思ったら男の娘だった、そんな気分だった。いや、確実にエロ経験値が足りない自分より、二葉の方が『雄』なのだろうが。

「…先輩」

吐精後の気怠さ、はぁはぁと息を荒げながら、未だ殆ど着衣している男に手を伸ばした。
太股の柔らかい箇所を噛まれ、竿ではなく玉を弄ばれながら、鍛えてはいないが太ってはいない平凡な腹筋でもそもそと起き上がり、見上げてきた男が伸び上がってくるのから避ける。

回避した筈の口付けは、首筋が対象に擦り変わっただけだった。急所とも言える敏感な所を舐められて、ぞくぞく皮膚を走る。悪寒なのか快感なのか定かではない。

「ひっ」
「鳥肌」
「ちょ…!や、めっ。…だからっ、俺も触りたい、の!」

眠れる平凡の真の力が解放されたのか、単に二葉が抵抗しなかっただけか。不埒な美形を押し倒し、布団に押し付けて馬乗りになった瞬間、鼻血を吹くかと思った。気絶するかと。
真顔でスケベを繰り返す秩序の欠片もない風気委員長が懲りず脇腹をまさぐってなければ、危ない所だった。

「こら!」
「ちっ」
「舌打ち?!今アンタ舌打ちしやがった?!」
「ケチビ」
「チビ…だと?」

恨めしげに見上げてくる男の両手をガシッと掴み、禁句に青筋を立てる。こうなれば開き直りだ。馬鹿にしてきた後輩が男だったと言う現実を、この箱入り御三家に思い知らせなければなるまい。

「恐れ多くも左席副会長に中央会計如きがチビっつったな?」
「言った。ケチビ。触らせろ」
「黙らっしゃい!いい加減我慢の限界、マツコさんも穏やかな山田太陽さんも怒り心党ですよー!こんにゃろ、犯してやる!」

腐っても男だからして、魔王のシャツを引き裂きがぶっと臍の下に噛み付いてから、もぎ取る勢いでベルトを引き抜いたスラックスに手を掛けた。


とりあえず今は、



「う、ぇ?」
「畏れながら時の君、私が間違っていました」

自分のものとは比べ物にならない腹筋で起き上がった男から再び押し倒されている意味と、余りにも色っぽい表情で唇を舐める曰く『女神』が、野獣にしか見えない理由を教えて貰えないだろうか。

「ま、間違い?…確かに男が自分以外のちんこ触ってる自体間違いと言えなくもないけども…今更?え?今更そこなの?」
「仰る通り、我慢は体に悪いですよねぇ」

尻の中に指を突っ込まれている気がするのは勘違い、だろう?
阿呆な西指宿じゃあるまいし、よもや叶二葉様とも在ろう御方が一介のチビ…いやいや後輩の尻になんて、そんな、まさか。


「せ、せせせ先輩、先輩?!」
「お気になさらず。貴方も我慢せずに喘いでいて下さいね」


まさか、ね?

















ゴツゴツとした固い何かが当たる。
振り払おうとして、身動いだそれが胸元に刷り寄ってくる感覚に動きを止めた。


「…ちっ」

眠い。
普段はそこまで寝汚いタイプではない筈だが、異常に眠たい。瞼が重い。
寝酒のワインを呑みすぎたのか、単に気疲れか。後者ならば己が哀れになってくる。

固いそれはけれど酷く温かかった。まるで猫でも抱いているかの様に。然し実家の飼い猫達はふわふわしている。此所まで固くはない。温かいけれど、柔らかいのだ。


ならばこれは一体何だ、と。
貪る様に撫で回し、さらりとした何かが手に触れた。絹糸の様にさらさらと、指に巻き付いては抜けていく。


「む…。むふ」

鎖骨の辺りから聞こえてきた声。
ああそうか、これは犬だと何処かで納得して抱き込み、再び意識を手放した。


しっかりと背中に回された腕の感触には気付かないまま、心音を聞かせる様にただ、逃がさぬ様に。

←いやん(*)(#)ばかん→
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!