帝王院高等学校
☆淡島様より
寂寞キャラと絡んでみたったー

-story/淡島 様-

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見知らぬ土地に足を踏み入れたのは最早運命だったのかもしれない。チーム内でのオカンとも言える人にだけ伝えて飛び出した夜の街。背中に届く叫びは静かに消えた。

財布と携帯に、スケッチブックと鉛筆。せめて見送りだけでもと叫ぶ犬の細やかな願いを叶えてやる為に姿は夜のそれだった。

「―――今夜も星は見えない、か」

声だけに感情を込めて、無表情のまま乗り継いだ電車で辿り着いた場所は何ら変わらない夜の街。優等生のような黒いカーディガンに薄地のパンツ。不良にあるまじき格好だが、如何せん出歩くのにレザーを着るのは抵抗があったのだ。

中学一年生が出来得る少しばかりの抵抗だとも言える。

人はあまり居ない場所がいいなといつもと変わりの無い路地裏を目指して歩みを進めて、少し後悔。良すぎた耳に届いた声。覗いた先には、ちょこんと座る黒猫が一匹。

「…猫、か?」

珍しい。ただその一言に尽きた。ちょこんと居座るその姿に少しばかり胸が踊る。「おいで、」と差し出した手をペロリと舐められて更に跳ねた心臓。

壁に凭れて見上げた。やはり星は見えない。月ただ一つ。己の名と変わらないそれを能面が見つめていれば、足音が複数。

視界を覆った金色は嘘偽りだ。黒猫を抱えたまま座り込み、顔を伏せる。「にゃおん」愛らしく鳴き声を上げた猫は、その複数の気配に気付いたらしい。偽りを被り、真実を着た己の腕を強く引っ掻いて走り去ってしまった。

「ほら、猫が居ただろう」

まるで全てを平伏させるような声に顔を上げる。

「初めて見る毛並みだが、アンバランスな組み合せだなァ。…飼い主でも見失ったのか?」
「…初めまして」

―――噛み合わない。そう思ったのはどちらなのか定かでは無いが、月の光を一身に浴びて此方に近寄る姿は闇夜を支配する王のもの。何処か自分と似ているようで、けれど自分より孤独に見えたのは間違いだろうかと引っ掻かれた傷をそのままに、能面を向けた。

「っ、」

誰かが息を飲んだ、気がした。そう言えば人を前にすると必ず怖がられていたなと思い至り、目の前の白銀色から目を逸らそうとして掴まれた腕。

「手負いの猫、か。手当てをしよう」
「要らない」
「おい、コラ!そこの金髪!総長になんて口利いてやがる!!」
「いい、イチ」

噛みつくように此方を睨む姿に同じように視線を返して、それを遮るように此方を覗き込んだ瞳はサングラス越しだからかよく見えない。

「総長〜、そいつどうすんの?(--;)」
「拾うとか言い出しませんよ、この状況だったら」
「オレには生意気な人間にしか見えないっす」
「ボスには隼人君が居るんだからー、そんな能面野郎はあっちに行けばよいよー」

目の前のサングラス越しの瞳を見据えて立ち上がる。「あ、」と聞こえた声に視線をやって、地面に置いていたスケッチブックを拾おうと美樹が伸ばした手より先に伸びた手の先には、自身を能面野郎と呼んだ男の顔。

「これは何ー?」
「ただの絵だ」
「ハヤ、俺に見せてくれ」
「はい、ボスー」

―――中身を見られて困る事も無い。ただ目の前の白銀が幼なじみが被るそれと似ているようで、今頃いつもの溜まり場で犬を相手にしているのだろうとぼんやりしながら思う。流石にこんな場所まで自身の名前やチームの名前が行き渡っている訳は無いかと息を吐いた。

白銀の男がスケッチブックを覗いている数分間。暇だなあと男の後ろに立っている複数の影を見つめる為に身体を傾ける。バチリと合った視線を、逸らすつもりも無かった。

己を取り囲むペット達と張り合えるような美形集団。従兄弟が見れば薄い本のネタになりそうだと思いつつ、香った匂いに空腹だった腹が鳴る。

「…今、目の前のオニイサンから腹の虫の声が聞こえたんだけど?(;´∀`)」
「化け物でも来たのかと思ったぜ」
「何かー、隼人君には獣の鳴き声に聞こえたー」

「……桃の匂い?」

ピシリと固まったのは総長大好きカルマ一同である。能面のまま首を傾げたのはアストルが総長である男だ。スケッチブックにお熱な総長に声を掛け続ける忠犬イチ公を見やり、更に空腹を理解した途端に止まらぬ鳴き声。

鳴き声を発している腹の持ち主は終始無表情だ。

「イチ、この建物を知っているか?」
「え、あ、…はい、つーか、会社の名前ぐらいですけど」
「猫カフェか……行きたい」

聞こえた声に目を瞬かせ、腹の虫が鳴いたまま再度白銀と灼熱の色に近寄る。「―――猫カフェ、来るか?」「ふぇ、」「は?」まともに話した己に、あまり変わらない背丈の男を見つめた。見つめ合うこの二人が年齢詐称気味の中学一年生だと誰が気付くだろうか。

『人と話す時は目を合わせる。男なら熱烈な視線を送ってフォーリンするのがラブだ!』と腐った世界に染まりきった従兄弟の言葉に従う為に、やけに高そうなサングラスに触れる。猫に引っ掻かれた
傷から流れる血が付着しないように、ゆっくりと。

その光景は、まるで神に今にでも触れようとするそれだと誰かが呟く。

「猫カフェは知り合いの会社の…子会社の店舗らしい。訳ありの猫を引き取っては育てている所だ」
「…だが、可愛らしい仔猫は直ぐに逃げてしまう」
「猫好きには懐く。猫が嫌いな奴には懐かない」

諭すように言えば、瞳の奥が何かを混ぜ込んだような色を滲ませる。何だかその瞳の色が誰かに似ていて、視線だけで人を射殺せそうだなあと呑気に考えて、表情筋があまり働かないので目だけで笑って見せた。

「…なあ、赤いの」
「テメェ、赤いのって俺の事か!?」
「名前を知らないからな。…お前も来るか?」
「…何言ってんじゃ?(゜ロ゜)」
「怪我の手当てのお礼は、猫カフェに無料御招待では駄目か?」

いつの間にかされていた手当てに目を見開いたのはダブル総長以外なのだが、当事者達は気付かない。

「ボスが誘拐されちゃうー、阻止ー、断固阻止ー」
「だったら全員で来たらいい。…オニかヨタに言えばどうにかなるだろうしな」
「総長!まさか行きたいとは言いませんよね!?」

叫ぶ青色を無視して、目の前の『総長』に囁くように、笑った。能面に埋め込まれた黒曜石が月の光に反射して、揺らめく。

「支店が確か近所にある。総長であるお前だけでもいいし、他の奴等を連れてきてもいい。ただ、礼をさせて欲しいんだ」

興味を持ったのだ。覇者のオーラを纏いながらも此方を見つめる持ち主に。酷く鋭い目の持ち主を真正面から見据えた。恐れを抱かない事に驚く周囲に気付かず、そっと、緩やかに美樹が細めた瞳は、

「―――飽きさせない一日を、お前に捧げたい」

真っ黒な三日月を描いていた。

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あきゅろす。
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