帝王院高等学校
萌えとマッチョで鼻血フィーバー!
これを目にする全ての人々へ詫びよう。
いや、詫びて済む問題ではないのだろう。今から諸君らの貴重唯一の時間を、私の自己満足で奪う事になるのだ。


世に生きる、我こそ勝者と臆面なく宣える者。
世に生きる、我こそ最も不幸だと底も知らずに嘆く者。


全ての人々へ告ぐ。
これは創作でも現実でもない。常世のものと思ってくれ。


私は生きながらに逝く者。
際限なくただの自己満足として、我が総てを宙に遺そうと思う。



ああ。
我が総てを埋葬するには、なんと狭い宇宙だろうか。













「閣下も困った人だ」
「だな。幾ら陛下からの勅命だからと言って、ああも紅蓮の君を特別視なさるとは…」
「だが紅蓮の君は次期会長候補だろう?陛下が来季には引退すると専らの噂ではないか」
「それは…此処だけの話、名目上帝王院学園イギリス分校からの昇級と言う話だが、陛下が学園へ通い始めたのは来日してかららしい」
「そうなのか?」
「聞いた事があるぞ。陛下と白百合閣下は共に某大学をスキップ卒業なされた後、経営者として活躍されていたそうだ」
「だったら何故…」
「学園長が倒れたから、…にしては、遅過ぎたからなぁ」
「光王子、白百合、陛下の順だったな」
「そうだ、祭美月がそれまで帝君だったんだ。常に満点で、白百合閣下も同点か僅差だった」
「それを考えれば、陛下の知能はどれほどなんだろうか。祭美月でさえ、180オーバーと言われているのだろう?白百合は数学に関してはそれを越えるのだろうが、」
「いやいや、面白いのは光王子の方だろう」

「どう言う意味だ?」

「お前、気付いていなかったのか?知ってる奴には有名な話だぞ」
「考えてみろ、光王子は『毎回』白百合と一点差なんだ。まるで、白百合が何点取るか知っていたかの様に、必ず次点なんだ」
「そんな事が有り得るのか?」
「有り得るてるんだよ、今までずっと!」
「一回、二人の話を聞いてた親衛隊の人員が話してたらしい。考査直後に、『お前はあの問題で間違えただろう』、光王子が白百合に指摘していたそうだ」
「本当かよ…。眉唾ものだな…」
「それが本当なら、態とらしいと思わないか?毎回一点差で、決して首席にはならない、そんな事があるだろうか」
「何だか気持ち悪い…」
「白百合だろうが光王子だろうが、凡人には考えも及ばないレベルの住人だ」
「数学以外は満点の紅蓮の君が可愛く見える」
「陛下の脳構造はどうなってるんだ…」
「満点で足りないんだからな…」
「ああ、それならもう一人居るじゃないか。風紀は勿論、Fクラスですら警戒してる男が」
「…過激派が何やら企んでるそうだが、風紀は動かないのか?」
「ふ、その程度でくたばるならそれまでと言う事だろう。局長からの命令は、左席で最も弱い立場である山田太陽と安部河桜の警護だけだ」
「入学当初から奴にはカルマが懐いているそうだが、丁度良い。お手並み拝見、だ」










その日は、母親と言う生き物の命日だった。

真夏を襲った激しいスコールの中、濡れるに任せ佇んでいたその背に呼ばれた気がしたのを覚えている。
彼は私を見るなり、その漆黒の艶やかな眼差しを眇め笑った。笑顔には程遠い、その嘲笑は酷く寂しげだった様に記憶している。


油断した。
何の前触れもなく殴られた。
けれど怒りなど涌くはずもなく、去っていく背を叩き付ける雨の中ひたすら見送るだけしか出来ない私は、数日間無為に過ごす事になる。


ある者は言った。
物思いに更けている様は恋する乙女の様だ、と。
また、ある者は言った。
そんなに気になるなら、会いに行けば良いだろう、と。


悪魔と同じ顔をした私は、己の姿形を嫌っている。だからこそ少しの差異を求め伸ばし続けてきた髪を切った。
皆の驚愕に染まる顔が愉快だった様にも思うが、つまらぬ話だ。


悪魔から産まれた癖に悪魔と謗られ捨てられた事を儚んだ愚かな私は、固執していた髪を捨てる事により、暫くは悔いていた。
今だから明らかにする話だ。他には誰も知らないだろう。


髪を切ったその足で、私を嘲笑い殴り逃げた存在に再会すべく動いた。
早くも、あの日、母の命日から半年が過ぎていた。


一通の封筒。
煌びやかな便箋一杯に言葉をしたためて、彼は姿を消した。まるで、私が赴く事を知っていたかの様に。そんな事ある筈もない。


ある者は嘆き悲しみ、またある者は怒り狂い…私は、何を考えていただろう。

逃げられたとは思わなかった。
それまで、あの夏の日以外では何の接点もなかった相手だ。私にとっての彼はあの日が全てで、彼にとっての私は『裸の王様』。


今ではあの時の言葉が理解出来る。
私は何一つ万能などではなく、何一つ足りては居なかったのだ。それは人して、男として、何も彼も。



あの時の彼に尋ねてみたい。
今の私は、あの頃とどう変わっただろうか。






「ふぅ。中途半端な所で終わってんなァ」

パチリと閉じた携帯をポケットに突っ込み、ハンカチで磨いた眼鏡を掛ける。
所用があると去っていった黒ずくめオススメサイト。一通り目を通し、唯一の連載作品である小説を最後に読んでから息を吐いた。

「宙への埋葬…か。多分、宇宙の事」

俊とは違う、リアリティとファンタジーのどちらとも取れる作品は、淡々としたものが多い。
開設したばかりと言うわりにはアマチュア離れした短編が幾つかあったが、短いながら纏まっている。

「拍手も掲示板もないなんて、どんだけ恥ずかしがり屋さんなんでしょ」

サイト運営自体が若葉マークだと判るそっけないデザインはコンタクトを取る手段が皆無で、あるのは作品だけ。創作作家であれば、作品の優劣は二の次に、何らかの評価を求めるものだ。
カウンターもない。更新履歴もない。ツイッターでは『毎日気付いたら増えている』と言う噂で、中には更新を確認した人が更新の代理報告をつぶやいている。

更新履歴の書き方を教えてあげたい、ツイッターに参加して欲しい、プロフィール上げなきゃ悪用されちゃう、などなど、このサイトに対するツイートに専用タグが付けられ、新設とは思えない広まりを見せていた。

波に乗り遅れた感がある俊がサイトに対するツイートをした途端、フォロワーからリツイート通知が来たくらいだ。

「とりあえずブクマしとこ。でもエッチの表記が凄まじくやらしいにょ。軽くR20じゃないのかしら…」

どことなくもじもじ足を揺らしたオタクは、意味もなくキョロキョロと辺りを見回す。
すると、怪しげな雰囲気のガチムチ系ペアが耳元で何やら囁き合っていた。
眼鏡がレインボーに光り、オタク離れした運動神経で近場の木の上に飛び乗る。

「最終日のダンパ、相手決まってるか?」
「ばか、俺なんか誘う奴居ねぇよ…」
「馬鹿はそっちだろ、俺には滅茶苦茶可愛く見えんだもん」
「ば、ばかっ」

すいません、鼻血が垂れました。
ガチムチの「もん」と、「ば、ばかっ」に鼻血を耐えられませんでした。だから二滴。
どっちも二人の頭に落ちたが、幸いにも彼らは気付かなかった様だ。

「…ダンパって何かしらん」
「心配だ。頼むから、誘われても断ってくれよ」
「だから誰も誘わねーから。どうせ、御三家とか親衛隊付きの奴らに群がるっつーの」
「今年は怖ぇんだよ。白百合も光王子も、本命が出来たとか何とか噂になってんだろ」

これは聞き捨てならない。
ダンパに興味津々だった俊の眼鏡が怪しげに光り、声を潜める二人に両耳がダンボになる。

「それチラッと聞いたんだけどさ、マジなわけ?」
「こないだ星河が放送してたろ、白百合と左席の奴が婚約でどうとかよ。ま、冗談だろうが、白百合本人が見て見ぬ振りってのも変な話じゃん」
「うーん。左席相手で分が悪いとか…」
「あの白百合」
「…だよなぁ」

誰よりも美しく品が良い二葉だが、ガチムチからも恐れられている様だ。流石としか言えない。
だが残念ながら、ご主人公に調教されつつあるオタク犬には、太陽の方が遥かに怖いのだ。絶交されたら生きていけない。カビが生えるくらいには落ち込むだろう、ジメジメと。

「もし、白百合が左席の奴と踊るとしたら、今年は光王子がフリーになるんだよな?」
「紅蓮の君とねちっこいキスしてたっつー噂だから、どうだか…」

噴き出た。
ついにガチムチ二人が驚愕の表情で上を見上げ、鼻血を吹き出しながら枝にぶら下がっている俊を見るなり悲鳴をあげながら逃げていく。


仕方ないではないか。
佑壱と日向の最高級霜降り美形が、濃厚且つダイナミックなベロチューをカマしている光景をたった0.01秒想像しただけで、全身を駆け抜けた萌えが鼻から出てしまったのだから。


飢えた時、炊きたてのご飯を前に耐えられるのか。喉が乾いた時に水を前にして耐えられるのか。


「く…くっくっく…腐男子を倒すとは、中々やりよるにょ」

先程のガチムチも萌え、佑壱ら細マッチョも萌え。宇宙並みに幅広い俊の萌え領域は、駆け出し腐男子らしからず奥深い。

「ハァ、イチとピナちゃんなら、ピナ様の方が背が高いにょ。多分5センチくらい」

身長差スキーな俊の中ではピナイチ推奨なのだが、佑壱を何処に出しても恥ずかしくない「ワンコ系ギャップ萌え俺様攻め」として鍛えていく為には、涙をガブガブ飲んで日向を受けにせねばならないのだ。

ああ。
だがイチピナもそれはそれで美味しいと思う。美形二匹がイチャイチャするだなんて妄想しただけで喘ぎそうだ。

「あはん、ハァハァ、あふん、ハァハァ。けしからんにょ!イチ先輩が騎乗位で首輪の癖に光王子にお目隠しするなんて!」

光の速さで素っ裸にされた二人は、腐男子の脳内でSMワールドに放り込まれていた。二人が聞けば怒り狂っただろう。多分。

「ハァン!巨体丸めて寝てるワンコを背中から抱き締める俺様もイイ!逆もまたイイ!ハァハァ、ぶふっ」

鼻血が止まらない。
よじよじ木から降りたオタクはハンカチで鼻血を拭い、貧血気味にアンダーラインを降りる。
昼間は暑いので涼しいデパ地下…いやいや、フードコートを冷やかす魂胆だ。

然し、恐らく国際科だろう多人種の生徒らが犇めいている光景に怯み、華麗なるオタクターン、略してオターンを決め地上へ舞い戻ろうと試みる。

「Oh!アナータはー、ソラノチミではアリマセンか!」
「ほぇ!ななな何だチミは!」
「ノンノンノン、彼は天の君だよアルファード。チャオ、天皇猊下。僕は陽気なイタリアン、こっちは情熱的なフレンチ」
「ハイ!あたしは大らかなアメリカンよ!」

スキンヘッドな三人に絡まれた。厳つい三人は、至極フランクな口調と大袈裟過ぎる身振り手振りでビビる腐男子を囲い込む。
オタク…ではなく、オカン…いやいや、オカマ?!オカマが居た気がするのは何じゃらほい?!

「Oh、今夜はフェスティバルでごわーす。待ちかねたぞムサスィー」
「僕ら国際科の晴れ舞台!猊下、何卒ペルファボーレ!」
「あたしのセクシーお茶会は、東キャノン三階の特設会場で11時〜13時まで予定してるから、来・て・ね☆」

さっきのガチムチカップルよりもマッスルなオカマアメリカンに抱き締められ、オタクの背骨がポキッと砕けた様な気がした。
ハッハッハ、とフランクな笑い声を響かせて去っていくスキンヘッド三人をビビったまま見送れば、

「オーイエー、マンマミーア!」

茶髪天パな眼鏡がフランクに近付いてきた。アメリカンなのかイタリアンなのか、優等生なのかオタクなのか謎だ。

「ひっ、ヒィ、すいませんお金はありません!えっと、アイムノットマネー!オタクイズ、ボンビー」
「貧乏暇なしオッケーオッケー、世の中お金持ちばっかだったら誰も働かないからねー」

頭を撫でられながら、何処かで聞いた声だと鼻水を啜る。

「あ、あにょ?どちら様ですか?」
「ヒロキです」
「…ヒロシ?」
「やだなー、…蟹しゃぶった仲じゃないか」

耳元で囁かれゾワリと身震いしたオタクの前で、眼鏡をずらした彼は愉快げに笑った。
残っていたらしい鼻血がズビっと垂れた事を、最後にお知らせしておこう。

←いやん(*)(#)ばかん→
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!