帝王院高等学校
突撃!それぞれの朝ご飯☆じゅるり
「寝坊助さん、朝ご飯が出来ましたよ」
「ん…?」
「帝都さんは起きてますよ。さぁさ、早く顔を洗ってらっしゃいな」

覚醒し切れていない寝ぼけ眼で小さく頷いた男は、無表情で歯磨き粉を顔に塗りたくっている金髪を視界の端に捉え、一気に起床した。

「…随分キリッとした面で寝ぼけてるね、義兄さん」
「あら、やっぱり寝ぼけてるの?」
「多分。判ってやってると思いますか、あれ?」
「嫌だわ、帝都さんったらいつも同じ表情なんですもの」

この数日で幾らか若返った様に思える母は、少女じみた微笑みを浮かべながら皿を並べている。
ひょこひょこ足を引きずりながら、けれど表情は快活だ。

「母さん、執拗いけど無理しないで下さいよ。まだ本調子じゃないでしょう」
「大丈夫よ。帝都さんが手配して下さったお医者様に診て貰ってから、本当に身体が楽なの」

生まれつき身体が弱かった帝王院隆子は、無理だと思われていた出産後、辛うじて一命は取り留めたものの軽い風邪でも肺炎を起こすほどに脆くなった。

「俺が居ない間の有耶無耶はある程度聞いてるんです。本当なら父上も俺も、傍で支えるべきだった」
「つまらない誤解だったのよ。過去を悔いても仕方ないわ。今は先を見据えましょう」

息子が失踪し数年を待たず大病を患い、その後遺症で日常生活の大半を車椅子とベッドの往復で費やす事となる。

「…グレアム直属の医師ならある意味安心、か」
「龍一郎ほどではない」
「ええい、暑苦しい奴だな」

漸く目覚めたらしい長身が背後から抱きついてくるのを肘鉄で振り払い、懐かしい味噌汁の香りに鼻を鳴らした。

「母さんの味噌汁、だ」
「何言ってるの、昨夜も食べたじゃない秀皇さん」
「いや、…うん。何回食べても、懐かしいよ」
「ふふ。さぁ、今朝も貴方のお話を聞かせて頂戴」

昼から夕方まで診察を受けている人は、漬け物を盛り付けた器を手に着席する。

「義母上、テレビを付けても良いだろうか。目覚ましテレビが始まる」
「嫌だわ帝都さん、私の方が年下なのにその呼び方はやめて下さいな。一気に老け込みそうよ」
「…あんまりはしゃがないで下さい、と言っても無駄でしょうね、母さん」
「ふふ、シエさんのお話はまだまだ尽きないんでしょう?ピーターパンみたいな人よねぇ、憧れるわ」
「隆子、辛子を取ってくれ」
「嫌だわ帝都さん、若い旦那様が出来たみたいで照れますねぇ。はい、どうぞ。沢山召し上がって下さいな」

歯磨き粉を塗りたくっていたとは思えない美貌で納豆を混ぜている金髪の隣に腰掛け、手を合わせた。

「…ジジイ相手に頬染めないで下さい。いただきま。」
「もう、秀皇さんったら。帝都さんの食欲はお祖父ちゃんじゃないわよ!」
「隆子、お代わり。納豆と味噌汁も良いか」

穏やかな毎日、とは言い難い。
















「おはようございます、光王子!」
「ああ」

朝っぱらから煩わしい事この上ない、とは微塵も顔には出さず、ブランドジャージ姿の長身はスポーツドリンクを煽った。

「とうとう祭典ですねっ。僕、今日の為に一週間もエステに通っちゃいましたぁ」
「閣下、後夜祭のダンス相手はもうお決まりになりました?」
「駄目だよっ、抜け駆け禁止!」

きゃあきゃあ騒がしい親衛隊らを苦々しく片目に、男がエステなんざ通ってどうすると痙き攣る。

「協賛たぁ名ばかりで、実際西園寺がゲストだ。何かあれば学園問題になる。楽しむのは勝手だが、羽目を外し過ぎるなよ」

面倒臭いがある程度は構っておかないと、何処で何をするか判らない。見た目は無害そうに見えて、中身は野獣ばかりな過激派ばかり。
俊や太陽らに地味な嫌がらせをしているのは把握しているが、本人に直接的な被害が及ばない程度までは見逃す方が得策だ。過度な束縛は暴発に繋がる。

「お前らが頼りだ」
「頑張りますぅ!」
「きゃーっ、任せて下さぁい」
「光王子の為なら、何でもしますっ」

とは言え、山田太陽に対する嫌がらせの半分は、比較的大人しいと言われている二葉の親衛隊によるものと、数は少ないが根強いFクラスファンによるものだ。
白百合親衛隊の大半は風紀役員である為、表立って事を荒立てる馬鹿はしない。また、Fクラスの平田兄やらエルドラドやらを従えていると言う噂が広まっている為、実際のところ太陽は安全牌だった。

「俺様に迷惑だけは掛けんな。良いか」
「「「はーい!」」」

万一、本人に何かあろうものなら、私情絡まりまくりの職権乱用上等で、魔王が魔王らしい処罰を執行するだろう。


「ちっ。警戒しておくのはシュンの方だな…」

頼られたと勘違いし軽い足取りで居なくなった親衛隊にも頭を悩ませながら、今夜帰ると宣っていた二葉を思い出した。

「アイツが戻って来たら一応打ち合わせとくか…」
「閣下!」

走り寄ってきた風紀役員に眉を寄せる。基本的に、今の風紀は自由時間だ。表向きは仕事で外出中と言う事になっているらしい二葉の代理は、影の薄い副委員長である。クラスメートでもある目の前の男だ。
弓道部元主将だった男だが、二葉に惚れ抜き引退を待たず退部した。

「何だ」
「朝食をお持ちしたんですが、何度呼び掛けても紅蓮の君が出て来て下さらないので…」
「ああ、今度はそれか…」
「今度?」
「何でもねぇ、こっちの話だ」

いつも職務放棄しまくる神威は珍しく無駄な早さであらゆる仕事を片付け、執務室で引きこもっている。いつもは真面目な二葉は職務放棄。
煩わしい親衛隊の面倒、夜に控えた行事の最終打ち合わせと来客のエスコート、しまいには駄犬の餌やり。

「俺様の部屋のスペアキーは渡してあるだろ。何処に閉じこもってんだ?」
「それが、御自身の部屋に籠もられてるんです」
「あー…、判った。俺様が行く。面倒掛けたな」

副会長権限で開かない部屋は会長部屋だけだ。が、次期会長にしてグレアムの血族である佑壱の部屋だけは、面倒な事に日向のカードでは開かない。
いやまぁ、恐らく自セキュリティーを掛けているだろう二葉の部屋も開かないかも知れないが。

「プライベートライン・オープン、短縮1」
『…ただいま留守だコラァ』
「んなドス効いた留守番応答があるか。いつまで寝てんだ」
『煩ぇ、どっかの誰かさんみたいに朝っぱらから筋トレとかオッサン臭ぇ事やってられっか。年寄りの冷や水』
「犯すぞ早漏、口も早けりゃ下も早ぇとかいっそ尊敬するぜ」
『い、言って良い事と悪い事があるんだぞ!謝れっ、謝れコラァ!』
「はいはいすみませんでした。飯食いに行くぞ、用意しろ」
『ぐすっ。…あ?監禁中じゃねぇのかよ』

現在、中央委員会寮エリアから出られない佑壱は、日向の部屋と自分の部屋くらいしか行動範囲がない。佑壱カードに神威が直接ロックを掛けているので、実のところ日向にも佑壱を解放する事は不可能だ。

「下に降りられねぇだけだろ。下が駄目なら上がある」
『上ぇ?』

屋内庭園ばかり知られているが、実は寮最上階にも温室を兼ねた庭園がある。
無頓着な神威は時折昼寝と言う名の職務放棄に利用している様だが、それ以外では誰も使っていない。

「好きなもん運ばせっから、屋上で喰うぞ」
『あのよ、俺…屋上からなら逃亡出来るぜ?』

ああ、そうだ。野生児め、校舎の最上階から飛び降りる男だった。

「ああ…逃げたら、テメェがハイウェイスターだって噂が流れるたけだが?それで構わないなら、」
『Go to the hell!』

叩き切られた通話に肩を震わせ、真っ直ぐ屋上を目指す。


何もせずとも腹が減る年頃だ。







「はァ」

切ない溜め息、ではなく湯気を発てる豚汁鍋一杯で眼鏡を曇らせた男が、腹を撫でながら爪楊枝で歯をシーシーしている。

「具沢山でお出汁も効いてる大変美味しい豚汁でございました。…71点」
「ちょ!前半の評価と後半の採点の差が激しいよっ、何で?!」
「量が物足りないにょ」
「鍋が足りない…っ」

がっくり肩を落とす加賀城獅楼は何故かレースのエプロン姿で、食堂を賑わす生徒らを凍らせていた。

「元気出せシロ、普通に美味いから」
「アンタに誉められても全く嬉しくないんだけど、おれ!」

最上学部の零人がモーニングコーヒー片手にエプロンを宥めたが、キッと睨まれて沈黙する。
その向かい側に、お握りを頬張る、ぷにぷに。

「俊君、何処にさっきのご飯が入ってるのぉ?ぃつも思ってたんだぁ」
「ふぇ?だってまだ豚汁と唐揚げ定食しか食べてないなりん。まだまだこれからざます」
「ふぁ〜。それで太らなぃの、羨ましぃなぁ」

ぺたぺたと俊の腹に触れまくる桜が感心げな溜め息、隣でモーニングプレートのトマトを苦々しく眺めていた男は目元に笑みを滲ませる。

「桜は好き嫌いはないが、少食じゃないか」
「ぅ〜ん、でもまた太ってたんだよぅ、セイちゃん」
「そうか?俺は気にならない。これから身長が伸びるんだろう。気にしなくて良い」
「はァ」

再び溜め息を零した俊に、二人の世界を築いていた桜と東條が首を傾げた。

「世知辛い世の中ですょ。地味平凡ウジ虫がチャームポイントな僕の前でイチャイチャイチャイチャと、何たる仕打ち!」
「えっ、えぇ?!イチャイチャだなんて、そっ、そんな事…っ」
「時にマフィア先輩、あっちの桜餅はどんな感じなんです?優しさの中に時折タイヨーを凌駕する腹黒さが見え隠れする桜餅ですが、トーサクじゃなくてサクセイだったりすんですか?」
「倒錯?作成?天の君、申し訳ないが意味が理解出来ない」
「せっ、セイちゃん!気にしなぃでねっ?もぅ、俊君っ!朝から嫌らしぃ事ばっか言ったら駄目だよぉ!」
「はァい、末永くお幸せにしたらイイにょ。僕は草葉の陰からハァハァしてますょ。けっ」

オタクがやさぐれている。
徹夜で行事準備に駆り出されている隼人、要、健吾が目の下に隈をこさえてやってきたが、喋る元気もないらしく、食事を前に半分意識を飛ばしていた。

「はっくん、おはよぅ。藤倉君はぁ、どぅしたのぉ?」
「あー、ユーヤなら第三講堂で寝てるよお。パイプ椅子2000個並べた途端、死んだみたいだねえ」
「にっ、2000個?!」
「ハヤト、椅子の数えは『個』じゃなく『脚』だろう。馬鹿だな」
「細かい事ゆっちゃって、やだねえ。そんな隼人君に負けてるカナメちゃんはあ、何なのかしらー?」
「おいおい、朝飯っから喧嘩すんなよ(´_ゝ`) 飯が不味くなる」
「ハヤトさん、カナメさん、ケンゴさん!おれが作った豚汁もあるっすよ!」

ヒラヒラ、レースエプロンを翻る獅楼に三人は沈黙し、そっと目を逸らした。ガブガブ豚汁をドリンク代わりに、まさかのミックスフライ定食を食しているオタクには、食堂中の生徒の視線が突き刺さる。

「それにしても、ユウさんが見当たりませんね」
「んー、俺も朝になったら戻ってると思ったんだけど(´ー`)」
「つか、うっさいジジイ居なくても困らないし」
「ユーさん、昨日から会ってないっす、おれ」

箸を咥えた行儀の悪い姿勢で携帯を開いたオタクは、眼鏡を押し上げる。

「メールの返事もないにょ。全く、何処でナンパしてるやら!ぷりぷり」
「ナンパされてる、の間違いじゃないっスかねぇ(*´∀`*)」
「それはそれで羨ましいにょ」
「猊下、授業はどうしますか?四限目に、伊Tの屋外がありますが」

進学科と普通科のみ通常授業があり、体育科は準備が終わり次第夜まで休憩時間だ。
国際科は明日以降のイベントに備え現在就寝時間らしいが、浮かれたムードに誘われてちらほら国際科生徒の姿が伺える。滅多に敷地内から出て来ない生徒らだ。

「この前テストだったからあ、今回はマナーだよねえ。何とかパスタと何とかピッツア?」
「ふん、ピザに作法なんかないでしょうに」
「Sクラスってたまに無駄な授業あるっしょ、昔から(`・ω・´)」

ガタンと立ち上がったオタクがボサボサ頭を掻き毟り、一言。

「タイヨーもイチもカイちゃんも、リア充病で苦しんだらイイにょ!」

タバスコ買ってくる!と叫び光の早さで居なくなった所を見ると、授業には出るらしい。

←いやん(*)(#)ばかん→
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