帝王院高等学校
こちら庶民愛好会部室兼左席執務室!
「くたびれたあ」

左席委員会執行部、と煌びやかなイラスト入りスケッチブックにサインされた四畳半に、バフンと倒れた長身が匍匐全身で冷蔵庫ににじり寄る。

「おー、お疲れさん。レモンスカッシュとココアがあるで、好きなの飲みやー」
「爽やか希望ー。今はココアなんて甘ったるいのお断りー」
「ハヤト、俺もレモンスカッシュ(*´∀`)」
「ウーロン」
「靴くらい脱いで上がりなさい、三人共」

ふらふら炬燵に潜り込んだ健吾に続き、半分寝ている様な表情の裕也は畳の縁に座り込み眉間を揉んだ。
疲れた表情ながら呆れを滲ませた要が隼人の尻を踏みながら、奥の窓辺に腰を下ろす。

「あー…生き返るねえ。つか、狭いっつーの。何なの?四畳半にこの人口密度」
「同感(`・ω・´)」

スマートフォンを見つめていたジャージ姿の東雲が顔を上げ、隣に座っていた桜が痙き攣ったまま顔を伏せた。

「しゃーないやろ、先生も色々大変なんやで?一気に色んな事があり過ぎて、にっちもさっちも行かへんのや」
「それもう何回目っスか?先生がどうなろーが、俺らの知ったこっちゃねぇっしょ(*´艸`)」
「高野、お前が俺のクラスやったら通知表オール0やで」
「職権濫用だぜ」

欠伸を発てながら呟いた裕也はそのままバタンと倒れ、額をゴチッと打ったにも関わらず、炬燵の角でそのまま寝息を発て始める。

「で、アンタいつまで引きこもるつもりなん?(つД`) 」
「先生に何ちゅー事言うんや、お前は。引きこもっとんとちゃうねん、これでも色々忙しいねんて」
「一日中スマホでゲームやってんじゃん、おっさん」
「神崎、お前の今季の通知表オール0や。覚悟しとけ」
「ユーヤ、ンな所で寝んな、邪魔っしょ(´`)」

どうやら裕也は本気で眠かったらしく、座る所が無くなった健吾は情け容赦なく裕也を蹴り退かし、うつ伏せ寝している裕也の背中に座った。

「あー…マジ疲れた。疲れ過ぎて飯が喉を通りませんよボクチン(´_ゝ`) つか焼き芋しか喰ってねーし」
「ハヤト、もう少し退いて下さい」
「やだー、あっちに座ればいいじゃん。隼人君はあ、三日も寝てないんだよお」

暴走モードの俊を抑える為に、佑壱、裕也、隼人の実力派メンバーはほぼ不眠不休だ。

「お前が向こうに座れば良いでしょう?邪魔です」
「やーだー」

交代要員の要と健吾は持久力の面で先の三人より劣るので、食料調達や俊が寝ている間の監視が主だった。

「錦織ぃ、イジメはあかんよ?」
「はぁ?何の話ですか東雲先生」
「お前のが後輩なんやから、席は譲らなあかん」
「意味が判りません」
「ぼ、僕っ!向こうに座りますからぁ、錦織君がこっちに座ったら良ぃんじゃなぃかな?」

立ち上がった桜が素早く上靴を履き、シミュレーションゲームの前にある椅子に腰掛ける。
沈黙した四畳半組は、一人が死んだ様に爆睡し、一人がその上に座り、一人がレモンスカッシュを寝転がった姿で飲み干し、一人が経済新聞を開く…と言った、カオスな状況だ。

「あーあ、いきなり人数増え過ぎじゃね?何だっけ、庶民愛好会だっけ?(´・ω・`)」
「やっぱ最低8畳は要るんかいな。部費出たらリフォーム考えまひょ、部長に相談して」
「左席委員会執行部なのに、タイヨウ部長のオッケー出なきゃ無理なんスか?(´・ω・`)」
「のびちゃんと山田、どっちが有権者かによるんとちゃう?」
「(´・ω・`)」

東雲の目に映るこの状況を打破出来る人間は、最後の一人しかいないだろう。


「…紅蓮の君は、何処に?」

漸く口を開いた最後の一人、この場に居る筈がない男、東條清志郎の声に要の眉が寄る。

「ユウさん?そう言えば、見てねぇっしょ(´・ω・`)」
「…言っておきますが、清廉の君。俺は未だに貴方を信用していません」
「カナメちゃん、何か負け犬っぽいからやめときな」
「お前は黙っていろハヤト!」

要の不機嫌理由がこれだ。
ただでさえ俊の正体が日向に知られ、日向自身は口外しないと約束したものの、いつ皆に知られるか判らない。

『本当のカルマは、47人じゃねぇんだ』

だと言うのに、つい先日、佑壱の召集で集まった要達は、自治会役員でありABSOLUTELY幹部でもあるこの男を紹介された。

『メンバー総長を抜いて、47人。…意味、判るか?』

その場に居た日向は、特に何も言わなかった。佑壱が同席を許しだのなら、要達に文句を言う権利はない。

「今までABSOLUTELYだと思って来た相手を、今更仲間だなんて…認められる筈がない」
「そうだろう、正しい反応だと思う。俺も、君の意見に賛同する」
「よーするに、仲間外れにされてムカついてんだよねえ、カナメちゃんはー」

もぞりと起き上がった隼人が空き缶をゴミ箱へ放りながら、ニマニマ要を覗き込んだ。

「…適当な事を言わないで下さい。別に俺は、」
「隼人君だってえ、初めは知らなかったよお?」

今の左席委員が発足する以前、中等部編入当時から委員長代理を務めていた隼人は、同じく副会長代理だった東條と面識がある。
殆ど連絡を取り合う事はなかったが、まるで接点がなかった要からすれば、大きな違いだ。

「ま、聞いたっつーより、気付いたって感じだけどさあ。たまたま、ユウさんと話してるの聞いちゃったからあ」
「だったら教えろ!俺が知らないのにお前が知ってるなんて…!」
「カナメ」

炬燵の上で頬杖ついた健吾が静かに要を呼ぶ。

「何年一緒に居んだよ俺ら。ソイツはさぁ、石橋どころか鉄橋も叩いて渡る様な奴ぞぇ?(´p`)」
「…は。俺よりハヤトを理解している、そう言いたいんですか?ケンゴ」
「だぁら、誰がンな話してんだよ(つД`) ふてくされんなw」
「誰がっ、」
「…猿ウザいのは同感だけどねえ。じゃあカナメちゃん、もしその話してたとして、信じるわけー?」

口を閉ざした要を横目に、今度はココアのプルタブを開けながら笑った隼人は、桜を手招きつつ、

「信じない相手にわざわざ確証のない与太話言うのも面倒だし、言ったってどうせ信じないし。言わなかったら言わなかったで、今みたいにねえ?」
「わぉ、チャラい見た目で手厳すぃー(((´д`)))」
「はっくん。もぅ、やめなょ」
「はあい」

黙り込んだ要に追い討ちを掛けていた隼人へ、近寄った桜が小さく呟いた。素直に意地悪モード終了を宣言した隼人は、そのまま自分が座っていた辺りをポフポフ叩く。

「さっちん、耳掃除してー」
「ぅえ?」

無言で肩を震わせた東條が、元々切れ長の眼差しで鋭く隼人を見やった。

「隼人君ちょー頑張ったんだよお?やあっと、いつものボスに戻って安心したとこなんだからあ、労ってよねえ」
「でもぉ、昨日もしたよぅ?」
「昨日、も?」

凍える声で呟いた東條に、桜がビクッと肩を震わせる。無理矢理、桜に膝枕させ寝転がる隼人が無言で肩を震わせたが、桜とは違う意味の震えだろう。

「えー?何か言ったあ?セーレンの君ー」
「いや。何でもない」
「はー、さっくんの太股はモチモチだねえ」
「きゃっ!やだぁ、くすぐった〜ぃ」
「あは。低反発ボディーの僕っ子、ちょっとオジサンとイイコトしなーい?」
「やだなぁ、はっくんセクハラ親父だよぅ、それぇ」
「こーんな、イケメン親父が居たらあ、世界中のマダムが虜になるでしょー?このやろー、モチモチの癖にー」
「ぁはは、やめろー、くすぐったぃ〜」

きゃっきゃ騒ぐ二人に、女子の群れの幻覚を見た健吾がしょっぱい眼差しで烏龍茶を啜り、男らしい鼾を発てた裕也の脇腹に拳骨を落とす。

「ぐがっ。………んぁ?…痛ぇ。つか重ぇ…あ?」
「煩ぇユーヤ、ヒロナリの癖にイビキ掻くな(*´∀`*) 俺に謝れw」
「あー…悪ぃな。つーか退け、何でオレを座布団にしてんだテメーは」

背筋で健吾を吹き飛ばした裕也が烏龍茶を掴み、グビグビ一気に飲み干して再び寝入る態勢だ。
薄い座布団を二つに折り、その下に自分の右腕を敷いて眼を閉じている。左腕は無意識なのか、健吾の細い腰に回された。

「あ、ワリ、ユーヤ。屁ぇしたw´∀`」
「ぐー」
「くっさ!ちょ、高野?!この異臭はお前が犯人かいな?!あかん、先生ほんま耐えられへん」

無言で窓を開け放し換気扇を回した要の足元で、鼻を摘みながら笑い転げる東雲のダサいジャージ。
綿毛付き耳掻きで隼人の耳掃除を一心不乱にやっている桜と、あっあっいやらしい声を放っている隼人は、健吾の毒ガスによる被害はないらしい。

「お、東雲先生もこちらでしたか」

そこに、教師らしき男が顔を覗かせる。部屋の左奥、四畳半コーナーに固まる面々に怯んだ表情を見せながら、戸口でキョロキョロ部室を眺めていた。

「どうしました、国際科学年主任」
「いやぁ、最近、理事長が中々お見えにならないでしょう?土曜日の最終打ち合わせで、今夜各学年の教諭を集めようと思っているんですが」
「あー、ご面倒掛けます」

人の良さげな初老の教師は、ペコペコ頭を下げながら戸口で小脇にしていたパンフレットを持ち上げる。

「進学科教諭は時間がマチマチですから、東雲先生から皆さんに集合掛けて貰えませんか?申し訳ないんですが」
「構いませんよ、任せて下さ、」
「ストップ(・∀・)」

尻に裕也を貼り付けた健吾がまたもや尻を浮かせ、プフンと毒ガスを撒き散らしつつ、立ち上がろうとした東雲を遮った。

「センセー、こっち来たら良いじゃん(`・ω・´) はいはい、此処此処、清廉の君の隣!(・∀・)ノ」
「え?ええ?わ、私がかい?!」
「センセー国際科なんしょ?つーか国際科ってかなり謎じゃん、色々聞かせてよ(´∀`)」
「いやいや、進学科に比べれば国際科なんて何の面白味もない学科だよ!」
「ふーん?ま、俺Aクラスだから良く判んね(*´∀`) ハヤト、いつまで喘いでんだよテメェwキモいw」

教師からは見えない奥でハァハァ喘いでいた隼人が気怠げに起き上がり、無言で眉を寄せている東條を横目に戸口の教師を手招く。

「ふわあ。さっちん、ご苦労であった」
「いえいえー」
「センセー、青春は何で青い春って書くのか隼人君に教えてえ?」
「ななな何でっ、せせせ星河の君まで!」

二年御三家の一人、東條はまだ良い。二年御三家唯一の優等生であり、全ての教師から愛される真面目な性格だ。教師が行う『息子にしたいランキング』上位陣でもある。因みに一位が東雲で二位が神威、教師は面食いが多い。

「耳掻きって、快感と恐怖の表裏一体だよねえ。信頼がないとさあ」
「あ、いや、あ」

だが一年御三家となると、『担任になりたくないランキング』上位陣の不良多々。特に中等部時代まともに授業出席していなかった隼人は、全ての教師から煙たがられる存在だ。


「青春とは…性が躍る青臭い春!」

ゲームコーナーの一角から響いた第三者の声に、戸口で青ざめていたオジサン教師も、四畳半でまったりしていた一同も耳を疑った。

「今の声…」
「あは。そんな馬鹿なあ」
「ちょっタンマ、また屁が出そう(´`)」
「けんちゃん、さっき焼き芋食べてたもんねぇ」
「ちゃうやろ、アイツは西園寺と打ち合わせ中やろ?」

無言で立ち上がった東條が機材だらけのゲームコーナーを一周するが、先程聞こえた声の主は居ない。

「え?え?何、何が起こったのかね?」

キョロキョロと辺りを見回している教師が、何事だと益々青ざめていくが、

「国際科にも萌えはありますか先生。勉強ばっかりの進学科よりダンスパーティー三昧の国際科の方が濃密なラブがありますか、先生?!」
「わあああああ!!!」

いきなり背後から囁かれ、哀れ気弱そうな教師は腰を抜かす。
顔を覆う四畳半メンバーを横目に、唯一冷静な東條が教師へ手を差し出しながら、

「…天の君、その被り物は何かの余興だろうか?」
「ふふん、お流石です。マフィアは眼の付け所が違いますわね!生徒会の話が難し過ぎて逃げてきたにょ!」
「逃げ…」
「何か楽しそうだから、僕も仲間に入れてちょーだいまし☆」

唐草模様の眼鏡を押し上げた怪しい生き物は、虹色の派手なほっかむりを頭に巻いた泥棒スタイルで、軽やかに親指を立てた。

←いやん(*)(#)ばかん→
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