帝王院高等学校
ハニーのワガママ具合が男の甲斐性
「Hey U'know the meaning of words, I wanna your like if so little U'say very funny. i think so! Do not flying anywhere, becouse we're walking animals everywhere.」

昔、暇潰しがてら作った曲を口ずさめば、隣で着替えていた男が一瞥をくれてきた。
ダサいと言わんばかりの冷たい眼差しを鼻で吹き飛ばし、抱き締めていた枕を投げつける。すぐさま避けられたが、想定内だ。

「相変わらず無駄な事する奴だ。まさかたぁ思うが、照れてんのか?」
「畜生、ど腐れホモサピエンスが。人のチンコ全力で握り潰しやがって!見てみろッ、擦り切れてる…。痛々しいマイサン、よちよち」
「それがグレアムの端くれの言葉か」
「はん。所詮バロンですからねぇ、プリンスであらせられる高坂様には粗末なチンコでしょうよ」

死語を連発すれば、呆れた表情の日向がリビングの方向を見やった。

「何か携帯が鳴ってねぇか?」
「んぁ?………本当だ、誰の着うただこれ」

日向の携帯は枕元に置かれている。洋楽の着うたで統一している佑壱のものとも違う音は、恐らくこの部屋ではない所から聞こえてきているだろう。
防音なのに聞こえるのが不思議で、開けていた窓辺に近付いた。

「あ、俺の部屋から聞こえる」
「偉ぇ、はっちゃけた音だな。…あ?何かのアニメで流れてた様な」
「うっわ、高坂の癖にアニメなんか見るわけぇ?気色悪ぃ」
「犯すぞテメェ!俺じゃねぇ、二葉が見てんだよ」
「冗談抜かせ、あれがアニメなんざ見るタマかよ」
「…主人公の幼馴染みが中分けのデコ広い餓鬼なんだ」

言いにくそうな日向をガン見し、吹き出すのを片手で防いだ。
何だその理由は、まさか、いや、そんな健気な事があの叶二葉に!

「笑うなら笑え。その代わり死ぬぞマジで」
「ぶっ、ぐふっ!…じゃあ何か?平気で人を殺す様な魔王様が、すこぶる平凡にしてメリット皆無の山田に、本気だっつーのか!」
「筋金入りの十年以上だっつーの。何の為にアイツがうちの親父をけしかけたと思ってんだ…」
「あぁ?」
「ヴィーゼンバーグから俺様を連れ帰らせたのが、二葉の仕業だっつってんだよ」

曰く、日本に行きたくて行きたくて堪らなかったらしい二葉は、手っ取り早く保護対象である日向を日本へ向かわせる事にしたらしい。
だが、折角高坂組長を動かし日向を日本へ送ったのに、グレアムの副社長と言う肩書きの所為ですぐには身動きが取れなかった。

「マジっスか」

悪知恵だけは素早く働く魔王は、遂に神威を日本に追いやる事にしたと言う。

「キングに直接、帝王院の学園生活を駆け寄ったんだ。あのまま子供らしい生活を知らずに育てば、今以上に人格崩壊していずれ自殺する、とか何とかほざいたらしい」
「マジか阿呆か、どうしたらルークが自殺するんだ、本気で爆笑すっぞテメーこの野郎!ギャハハ」
「キングも面倒になったんだろ。卒業までを期限に、帝王院に辞令を出した。それが日本滞在のキッカケだ」
「はっ。そもそも本人は、日本なんざ来る気もなかったってか」

興味なげに吐き捨て、気怠い体に鞭打ちながら隣の部屋へ向かう。ワンフロア借り切っているので何も気にせず、裸のまま向かえば背後から舌打ちが付いてきた。

「まさか発端が、あの山田が原因だったなんて…笑えねぇぜ」
「せめて下半身くらい隠せや」

ああもう、極道の癖にジェントルな男だ。

「あれ?音しねーな」
「窓開けっ放しじゃねぇか、不用心な…」
「誰が最上階まで入って来るんだよ。良いじゃねーか、別に」
「誰が空き巣の話をした。テメェ、一応グレアムだろうが」
「ふ。右元帥にして対外実働部の局長ですよ僕ぁ、目障りなボディーガードがわんさか付き纏ってんだ。誰が命なんざ狙うか…ん?」

無駄に大きなベッドサイド、目覚まし時計の隣でイルミネーションを灯す携帯がある。佑壱と同じ機種だが、ジャラジャラ煩わしいストラップもなければ、ラインストーンのデコレーションもない。

「総長のケータイだ」
「あ?んでシュンの携帯がンな所にあんだよ」
「昨夜の集会でルークと鉢合わせたら、山田の写真を撮れっつって渡されたんだよ」
「はぁ?」
「俺のケータイのカメラ機能、買って3日もしねぇ内にぶっ壊れやがってよぉ」

痙き攣った日向の脳裏に、嵯峨崎一族の機械音痴が思い浮かんだ。零人もそこそこ酷かったが、それ以上の帯電体質である佑壱はまだ酷いと聞いた事がある。

「ちょっと待て、触るな」
「大丈夫だっつーの。何でか知らんが、総長から渡された機械は絶対に壊れない」
「嘘臭いにも程がある」
「マジだっつーの、総長はオメェ、壊れた電子レンジ直すんだからよ」
「…マジか?」
「ま、たまーにだけどな」

勝手に俊の携帯を開いた佑壱が、ボリボリ襟足を掻きながら振り返る。羞恥心と言うものが欠落しているらしい佑壱は尻を向けたまま、顔だけ振り返った。

「知らない番号だ」
「人の携帯見るなよ。マナーがなってねぇ、マナーが」
「何だぁ?テメー、浮気するタイプかよ。俺は見られても平気だからな。男は常にオープンスタイルだろ」
「股間までオープンだからな…」

呆れた様に溜め息を吐いた日向が、くるりと背を向ける。ぱちんと俊の携帯を閉じ、ちょろちょろついて行きながら、Tシャツと下着、ジーンズを掴まえた。

「ちょっと待て、何処行くんだ?まだ着替えてねぇんだぞ俺」
「…帰る。世話になったな」
「やだ。日曜日だっつーのに何だその甲斐性、このインポが!」

歩きながら着替えると言う芸当で、跳ねながらジーンズを穿いていく。苛立ちを露わに玄関先で振り返った日向が、寝癖で跳ねた髪を苛立たしげに掻き上げながら舌打ち一つ、

「ちっ。何なんだテメェは…」
「舌打ちとはこの俺様野郎、離婚するぞコラァ」
「結婚した覚えがねぇ」
「日曜日に!然もこんな晴れやかな日に!帰るとは何事ですか!帰るとは!先生、許しませんよ!」
「…何の先生だよ」

顔を覆った日向に張り付き、シナを作りながら上目遣いなどやってみた。鼻に皺を寄せ仰け反る日向の唇が痙き攣っているが、気にしたら負けだ。

「まぁまぁ、チンコ扱き合った仲じゃねぇか」
「テメェは喘いでただけだろうが、早漏」
「久し振りだったんだよ。自家発電なんかしねぇかんな、溜まってました。すいません」

ぐりぐり日向の頬に頭を擦り付ければ、仰け反った日向がドアで頭を打ち付けた。笑ったら怒るだろうから、耐えるしかない。

「いよっ、この色男。憎いねー、あの嵯峨崎佑壱君を呆気なくイカせちゃうなんて、流石プレイボーイ♪鍛え上げたホモテクでホモ初心者もメロメロですか、絶倫魔神!」
「うぜ」
「日曜日だぞ。…判ってらっしゃるのかこの野郎!」

顔を背ける日向の両頬を掴み、全力で自分の方に向かせる。頬まで痙き攣らせた日向が、汚いものを見る目で睨みつけてきたが、この程度で怒るほど短気ではない。

「何が言いてぇんだ、テメェは」
「いやん。皆まで言わせるなんて、ド・エ・ス☆」
「…他人の振りしても良いか、本気で」
「日曜日だもの!デートに誘え!」
「………は?」

遂には可哀想な子を見る目を向けてきた日向に、腕を組んで顎を突き上げる。こうなったら開き直るしかないのだ。何せ、自分も本当は嫌なのだから。
だが然し、手っ取り早く日向を落とすにはコミュニケーションしかない。今まで喧嘩三昧だったから、まずは接触からだ。

「良いですか日向君、我々は恋人同士デスヨ。日曜日、デート、当然ネ」
「何で片言なんだ」
「ミッキー!ミッキー!ミッキー!」
「まさか、…ネズミーランドに行きたいとか抜かすなよマジで」
「酷いっ。何なの?!アタイの事は遊びだったって言うの?!」
「キモい」
「うっうっ。やり逃げされた。うっうっ。淫乱にやり逃げされた。総長に仇討って貰おっかな…」

泣き真似しながら、チラッと日向を見やる。痙き攣る笑顔で拳を鳴らしている男に舌打ちを噛み殺しながら、こうなればヤケクソだ、と抱きついた。
油断していたらしい日向が息を詰め、もう一度ドアで派手に後頭部を打ち付ける。

「痛…ってぇな、馬鹿犬が…!」

喧しい唇を塞ぎ、持ち得る全てのテクニックを駆使してエロ過ぎるキスを展開した。

「…っ!や、め!」

ずるずる崩れ落ちていく日向に最後は馬乗りになったまま、濡れた唇を拳で拭う。


「やぁだ、お客さん慣れてないのね。かっわいー」

弾んだ自分の生暖かい息遣いに苦く笑えば、目を見開いたまま硬直している日向があどけない表情をしているではないか。

「俺が下手に出てる内に頷いとけよ?男相手はテメーが初めてでも、女相手ならこちとら三桁越えてんだからよ」

眉を寄せた日向が非難じみた視線を投げつけてきた。ファーストキスなんてものを後生大事に取っておく男には、軽薄に見えるのだろうか。

「責任取って結婚してやるっつってんだから、デートぐれぇ連れてけ。ベルハーツ様」
「…その名で呼ぶんじゃねぇ」
「日向」
「餓鬼が!」

反射的に殴ってきた日向の左手を敢えて避けずにいたら、何故か抱き締められた。


今頃、派手に鼻血を吹き出している筈なのに、と。ばちくり瞬いて、まぁ良いかと抱き締め返す。



「あのさぁ。総長が、デートはネズミーランドっつってたんだよ」

ぽんぽん背中を叩いてやれば、昨夜噛まれたのとは逆の肩を噛まれた。地味に痛いが、俊に殴られるよりマシだ。

「シュンらしいぜ」
「遅かれ早かれ、総長から見放されると思うんだ。総長にとって俺が必要であれ、必要なかったにせよ」

神威を陥れる。
神たる、至上最高の、愛する身内を陥れる。


大切な神様。
唯一の兄として、今の今でさえ、本心では尊敬している存在を陥れる。


「俺は、総長と一緒に寝た事なんてない。総長に一緒に風呂入ろうなんて言われた事もない。…総長から、一日に何十回も電話とメールされた事もないんだよ」

盗み見たメールボックス。エラーメールが何十件も続いていて、そのどれもが同じ宛先だった。
リダイヤルの最新ナンバーが示すのは、「カイちゃん」。それは太陽でも自分でもない、別の名前。

「全部、無くす。義兄様も兄貴も全部。どっちかを選ぶなんて一生出来やしねぇんだ。弱いから」
「…何が言いてぇか知りたくもねぇ」
「どうにかしてくれ。俺の気が変わらない様に」
「…」
「俺がルークを選ばない様に」

俊に見放される事よりも、自分が俊を裏切る事の方が恐い。あんなに楽しかった今までが、全て嘘になってしまうのが恐い。

「なぁ、…何でもするから助けてくれ。俺がちゃんと総長から見放されるまで、助けてくれよ」
「何で見放されるんだ。テメェの頭ん中、常にネガティブじゃねぇか」

肩から顔を上げた日向が、真っ直ぐ見つめてくる。言うのを躊躇って、ゆっくり口を開いた。

「総長は、アイツに惚れてる」
「まさか」
「俺には判る。ルークに惹かれない人間は居ない」
「贔屓目だ」
「俺が愛してるくらいだからな」

眼球から零れた雫が、落ちる。
驚きもしない日向は無表情のまま、見つめてくるだけ。

「あの人じゃないなら誰だって一緒だ。あの人から愛して貰えないなら、俺には何の価値もない。義兄様だけが俺の全てだったんだ。だって俺には、他に何もなかった」
「違う、だろ」
「いやだ。総長でも、あの人の関心を奪われるのは我慢出来ない。どうせ俺のものにはならないんだから、…壊すしかないじゃないか、なぁ?」

まるで。
可哀想なものを見るかの様な、痛々しい眼差しだった。


「同情してくれてんの」

綺麗な顔だ。
綺麗なブロンドだ。いつ見ても、綺麗だ。けれどそれだけ。

「お前の目だけは、抉り取ってしまいたいほど気に入ってんだ。知ってたか、高坂」
「帝王院に似てるからとか、ほざくつもりかよ」
「ぶは!その通りだぜ、だからンな馬鹿にした顔やめてくんね?」

立ち上がれば、蜂蜜色の目が追ってくる。



「俺に生きる価値がない事くらい、十年前から判ってっから。」

また。
何処かから、陽気なアニメソングが届いてきた。

←いやん(*)(#)ばかん→
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