帝王院高等学校
美形の三枚目姿もきっと格好イイんです
「うわぁああああん!」

凄まじい音を発てたドアから、暴走特急が駆け込んできた。丁度買い出しを終えたばかりの要が素早く避ければ、油断していたらしい隼人に被害が及ぶ。

「うっほおう」
「うひゃひゃひゃひゃ!(´艸`) 何だよハヤト、変な声っしょ!」
「うわぁああああん!うわぁああああん!」

鍛えているが細い隼人の腰に、体当たりした巨大がグリグリ抱きついている。笑い転げている健吾を無表情で叩いた裕也がゴミ袋片手に、隼人に泣きつく背中を蹴った。

「何やってんだ、オメー」
「うっうっ、ユーヤさぁん」
「…こら、気安く抱き付いてんじゃないわよお、この野郎めえ」
「痛ぁ!!!あわあわ、ハヤトさんっ、痛いです痛いです、ごめんなさぁい!」

黒い笑顔で獅楼を踏みつけた隼人が、痛がる獅楼に拳を鳴らす。余りの事態に動きを止めていたメンバーも、いつもの事だと作業を再開した。
とりあえず今は、さっさと片付けてランチタイムまでに店を開く必要があるのだ。バイトリーダーが出勤したら引き継ぎを済ませ、榊が戻るまで手が空いている何人かが手伝いをする。暗黙の了解だ。

「シロ〜、昨夜の集会サボって何やってたんだよ(*´Д`)」
「違いますよ!サボったんじゃなくて、アイツの所為なんですっ」
「アイツ?(◎∀◎)」
「…むっきぃー!アイツ、アイツがっ、…っ、嵯峨崎零人が悪いんだぁあああああ!!!」

またもや泣き崩れた獅楼が近場のソファを殴り、無表情の北緯から素早く蹴り上げられる。

「店内の物を壊したら、金玉ひねり潰されるよ。カナメさんから」
「ひぃ。すすすすいませんでした、カナメさんっ」

想像の中、艶やかな笑顔でゴキゴキ骨の音を響かせる要の右手に、涙を引っ込めた獅楼は綺麗な土下座を見せた。
カルマの会計役でもある要は、俊には財布の紐ゆるゆるの癖に基本ケチの守銭奴である。様々な資産運用でかなり稼いでいるのだが、彼自身は物欲が薄いらしく、稼ぐのが好きなだけで無駄遣いはしない。

「カナメなら言いそうっしょ(*´Д`) 『今度無駄に騒いだら、貴様の実家に身の代金要求しますから。そのつもりでいなさい』」
「狂言誘拐するつもりっスかあ、カナメちゃん?こっわ」

入隊したての頃、まだメンバーと折り合いが悪くしょっちゅう喧嘩していた隼人は、要が大切にしていた『ぬいぐるみ』を壊し、所属プロダクションに身の代金を要求された事がある。
因みに、俊がゲーセンで取った景品だ。

「だったら次は、『加賀城なら2億くらいふっかけても良いでしょうし』だぜ」
「カナメカナメ(*´Д`) 顔がマジ過ぎてオッチャン泣きそ(つД`)」
「カナメならマジでしそーだぜ」

笑えないので全員が顔を逸らした。青ざめた獅楼も大人しく立ち上がり、ふらふらカウンターに腰掛ける。

「何サボってんだよシロ、お前も手伝えよな」
「そーだぞー、新入り働けー」
「うっ。いつまで新入りなのかなぁ、おれ…」
「仕方ねーだろ、入隊試験が難し過ぎて新しい奴が入んないだから」

入隊してから一年が経つ獅楼が、未だに新入りであっても仕方ない話だ。
年々、高校卒業だの就職だので減っていくメンバーに反し、入ってくる人員は少ない。入隊当時は体も小さく気も小さかった獅楼だが、喧嘩の腕前が上がっても玩具扱いは変わらない様だ。

「うっうっ。おれ、大変だったのに…」
「うっせーよシロップ、働けボケ」
「シロップ邪魔。向こう行け」
「うっうっ」

百戦錬磨のメンバーらから邪険に扱われ、挙げ句にジョウロを投げつけられた。
見やれば呆れ顔の北緯が外を指さし、

「お前は花壇の水やり。俺も肥料やるから、ついてこいよ」
「ホークさぁん」
「何か話があるなら聞いてやるから」
「うわぁああああん」

北緯と獅楼の入隊時期は大して変わらない。頭が良い北緯は佑壱の同級生でクラスメートでもあった為、一目置かれているので立場的には獅楼より上だ。

「あー、うっせー。川南オトートはバカシロに甘いんだよねえ」
「うひゃ。何だかんだ言って、オメーもシロップには甘いじゃんか(´∀`) 他の奴だったら触った瞬間フルボッコにするじゃんよ(*´Д`)」

すぐにあだ名を付けたがる俊のお陰で、北緯のあだ名はホーク、獅楼はシロップである。

但し、直接獅楼と会話した事がなかった俊は大型犬っぽい獅楼をシロと呼び、北緯の事はキィと呼んでいた。
因みに、猫っぽい見た目からキティを文字ったものだと思われる。

俊は新米当時から北緯にセクハラしていた。
好みが判り易い男だ。

「うっうっ。…ん?カナメさんは何処に行ったの〜?」
「買い出し。コンビニとスーパー回ってくっから、時間懸かるんだろ」
「カナメさん、ユウさんから何か連絡あったっすかねぇ?」
「ちょっとー、何で居ないカナメちゃんにだけ聞くわけー?」
「ハヤトは人徳がないからじゃね?w(*´Д`)」
「言い過ぎだぜケンゴ、幾ら本当の事でも」

頬を膨らませた隼人を鼻で笑う裕也に、見ていた周りが痙き攣った。何かにつけて仲が悪いらしい隼人と裕也は、二人で居る所を見た者が居ない。
そもそも協調性皆無である裕也が、健吾以外と連んでいる光景は稀だ。故に、チャラ三匹が元々裕也の配下にありながら、今や健吾に使われている。

「サブボスも帰ってこないしー、ボスはケータイも置いてってるしさあ。つまんないー」
「サボってんじゃねーよハヤト、デケェ奴は力仕事しろ(`´)」
「あは。隼人君の長過ぎる足はあ、スポットライトの下を歩く以外には使えないのお」
「本気で使えねーぜ」

黒烏龍茶を啜った裕也がそっぽ向きながら吐き捨て、ペットボトルが詰まった資源ゴミの袋を持ち上げる。笑顔で固まった隼人を余所に、肩を竦めた健吾が外を指さす。

「ちょ、あれ!Σ( ̄□ ̄;)」
「あ?」

全員が外を見やり、痙き攣った。


「うわぁっ、離せぇえええ!!!」
「テメ、逃げんな」
「ユーさんユーさんユーさぁあああんっ、助けてぇえええ!!!」

真っ赤なポルシェを背後に、ホスト顔負けのイケメンが獅楼を羽交い締めにしている。

「めっちゃ腹立つな!何で佑壱呼ぶんだよっ」
「ぎゃーっ、何しに来たんだよぉ!」
「あん?んなもん、責任取りに来たに決まってんだろうが」

佑壱にそっくりな、男前。
何故か左頬が無残に腫れているが、それよりその、今からデートにでも行くかのようなジャケットは何ですか。

「うへあ?何なのー、これえ」
「何で前ABSOLUTELYヘッドがこんな所に…(´ー`A;)」
「のび太…遠野は何処だ!強姦は趣味じゃねぇから、お宅の息子を貰いに来たぞ畜生!」

長閑な陽気のこの真っ昼間に、そんな大きな声でする会話ではない。
全員が涙目の獅楼を凝視している中、



「…とにかく中に入って下さい、恥ずかしい」

買い物袋を携えた要が、壮絶に痙き攣りながら呟いた。















「おや?」
「どうかなさいましたか、閣下」

鳴ったかと思えば切れた携帯に、ネクタイを緩めながら首を傾げる。
ハンドルを握る運転手がミラー越しに尋ねてくる声に肩を竦め、曖昧に首を振った。

「どうやらメールの様です。いけませんね、メールも電話も同じ音だと判り辛い」
「回線ではないとなると、大した用ではないでしょう」
「ふふ。サボっている最中に回線なんか繋げませんよ。陛下以外には、私を呼べる人間など居ない」

いや。
唯一、太陽だけは例外だ。昨夜渡した携帯からは、二葉のプライベート回線に繋がる。
広い地球の中、衛星から届く電波を防ぐ手立てはない。

「ああ、やはり。小間使いからの業務連絡でしたよ」
「そうですか」

空気を読んで、それ以上聞いてこない運転手にゆったり笑い、携帯を閉じた。

「それにしても、良い天気ですねぇ」

兄である文仁の嫁、二葉にとっては義理の姉に当たる女性は、世界的に有名な占い師である。
某著名人や芸能人など、方々で活躍している顧客を持ち、自身も各国を放浪している自由人だ。

その顧客の一人に、日本人政治家が居た。

「…ふふ。天気予報より当たるそうですよ」
「え?」
「タロットカード如きに頼るなんて、情けないですねぇ」

但し、義姉が占い師として働いていたのは数年前まで、だ。今は母親の名を語り、二人の娘達が遊び感覚で商売していた。
知らぬは客ばかり。ぼったくり甚だしい料金ながら、年々増える客は、信者じみた人間が多いと言う。

「占い、ですか?自分は信じていませんが…」
「78枚、天地156種類。たったそれだけの結果に、命を預ける馬鹿が居るそうですよ。まぁ、あんなものは好き好きですけどねぇ」
「閣下には無用の産物ですね」
「文化の違い、と言っておきましょう。否定はしませんが、合理的ではない」

その昔、魔女と謳われたヴィーゼンバーグの血を引いているからか、姪二人のタロット占いは恐ろしいほど良く当たるそうだ。
左脳現実主義の二葉には、ままごとにしか思えない。

「天気予報より当たるなら、人間はたった12種類に分けられる」
「?…あ、星占いですか」
「イギリスでの私は、ヴァーゴと呼ばれています。乙女座だと言うだけの理由でね」

軽やかに駆けていた車体からスピードが落ちる。

「お待たせ致しました閣下、この辺りで間違いないと思われますが…」
「ええ。記憶通りです」
「降りられますか?」

焦げ臭い匂いが漂う街並みを、僅かに開けた窓越しに眺める。水浸しの地面、焼け落ちた建物、剥き出しの鉄柱が黒ずんだ状態で佇んでいた。

「…いや、戻りましょう」
「宜しいので?」
「ええ。それより、この近くに政府高官の家はありましたっけ」
「それでしたら、外務大臣邸宅があります」
「外務省…ね。ふふ、グレアムの名が友好的に働いてくれるでしょうねぇ」
「このまま向かわれますか?」

凄まじい惨状だ。
オフシーズンは誰も居ないらしい別荘地でも、幾らかは民家があっただろう。高台にある建物の幾つかが焼け焦げていて、最も被害が大きい建物は原型を残していない。

「…村井?」
「閣下?」
「ああ、いえ。真っ直ぐ向かって下さい。早く帰らないと、臍を曲げる人が居ますのでねぇ」

無意識に握り締めていた携帯から手を離し、遠ざかる景色から顔を逸らした。


深夜の火災。
もし眠っていたなら、助かりようがない状態だ。あの惨事であの時間、生きている方が可笑しい。


村井。
辛うじて残った表札に記された文字。昨日は気付かなかったそれ、違和感、疑問、そして、罪悪感。

そもそも、表札などあっただろうか?


「…そう言えば、キング側の円卓に異変があったと言いましたね」
「はい。その件については調査中です。ただ、昨夜開かれたのは間違いないかと」
「学園内はキングの力が強過ぎる。悟られぬよう、くれぐれも注意なさい」
「御意。我が組織内調査部の名に誓い、必ずやお役に立ちます」
「期待していますよ」

グレアムの中枢、ステルシリープラントと呼ばれる企業には細分化すると20近くの部門がある。
海外外交がメインの対外実働部を筆頭に、公安の役目を担う組織内調査部などだ。

「とある日本人宅に、対外実働部の人間が入り込んだと言う話がありますが、中央情報部には通達がない」
「変ですね。各部署の活動履歴は必ず報告がなされる」
「秘密裏に動かされた隠密、と考える方が筋が通る」
「まさか。プライド高いあの部署が、陛下以外の命で動くなど、」
「有り得ない事ではない。対外実働部の前局長は、マスターネルヴァですよ」

社内トップの部署であり、最高幹部に位置する立場。専務、常務クラスに当たるそこには、今は佑壱の名前だけが残されている。
実務は代理の社員が行っていた。

「然し、ネルヴァ元帥はキング退任の折り退職なされたのでは?」
「それだけキング=ノアの名が生きている証拠でしょう。残念ながら、ルーク=ノアを恐れる余り憎む者も多い」

雲間に太陽が隠れ、窓に己の顔が映る。鳴り響いた携帯には目も向けず、ミラー越しに笑いかけた。


「…裏切りには死を以て償わせます」

なんて醜い顔だ。

←いやん(*)(#)ばかん→
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あきゅろす。
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