帝王院高等学校
お日様VSお日様、雑草日和

「ぅ、わっ!」
「へぇ、…逃げ足だけは早いね?」

にやにや笑う男の眼に唾を飲み込みながら、その言葉通り挨拶代わりの拳を間一髪避けた自分に拍手を送りたい気分に陥った。

「ほわっ」
「ひゃははは!スゲースゲーっ、体育科並みの俺の身体能力に付いてきやがるコイツ!」
「くっ」

殴られ掛けては逃げ、蹴られ掛けては逃げ、猿の様に飛び跳ねる様が余程面白いのか、腹を抱えた男が動きを止めた。
ゲーマーの機敏さが救いか。アクションシューティングもやり込んできた自分よ、万歳。動体視力と0.7の視力は比例しないのだ。

「はぁ、はぁ、けほっ」
「マジスゲーや、いや〜褒めたげる(∀) カナメにだってそんな避けられた事ねぇし!」
「そらどーも、高野君」
「ひゃは、良いねぇ君って。何か嫌いじゃないな〜、俺の名字ちゃんと覚えてるしさー(^O^)」
「遊んでんじゃねぇよケンゴ、お前が片付ける言ったんだぜ」
「アイヨ、ユーヤって本当KY(≧▼≦)=З」

しなやかな長身、細目のベルトを三つ巻き付けたスラックスのポケットに両手を突っ込んだフレッシュグリーンを横目に、雰囲気の変わったオレンジを真っ直ぐ見つめる。

「あー…と、俺、二人に何かしましたかねー」
「いーや、別に(∀) だからさっきユーヤが言ったっしょ? 俺ら、君に個人的な恨みはないの。もし恨んでたら正々堂々闇討ちするし!b(´∀`)」
「胸張って言う事じゃねぇな、それ」

親指を立てる健吾に肩を竦める面倒臭げな裕也が、一歩離れた。

「ケンゴ、早く終わらせろ」
「ヤル気無いにも程がねぇか、ユーヤ〜?( ̄^ ̄#)」
「無理抜かすな、眠い。…全部任せた」
「俺だってマジ眠いっつーの(Тωヽ) 今日はサバスだから子守唄聞きてぇなぁ、…総長の」

ふわりと欠伸を発てる二人が、刹那佑壱の表情と重なる。両腕を広げた男の、まるで太陽の様な明るいオレンジが舞った。


「ねぇ山田タイヨウ君。クラシック、好き?」
「は?…いや、あんまり知らない、けど」
「だったら丁度良いや、今から君にぴったりな曲をプレゼントしたげる(´Д`*)」

創作クラシックなんだ、と。囁く様な声音が鼓膜を震わせた。

「月が隠れる夜は外に出ちゃ駄目(・_・| 暗黒の魔王が現われるから…」

こんな今にも逃げ出したくて堪らなくなる様な人間が、何故幹部止まりなのだろう。佑壱も確かに怖いけれど、此処まではない。


「ねぇ」
「っ」
「俺が怖い?山田タイヨウ君。でもさぁ、起きてるだけマシなんだ俺もユーヤも」
「何…?」
「隼人は完璧アウトだろーね。あの子、頭オカシイからさぁ(_´Д`)=З」

ただの一時も、初めて至近距離であの赤い瞳を見た時からたった一度でも、こんな風に泣きたくなる様な恐怖は得なかった。


「君にプレゼントをあげる。
  子守唄じゃなくて、ハイテンポな今日と言う日の夜にぴったりな曲を、ね」

きっと、あの大きなワンコの方がずっと怖いのだ。俊が隣にいたから優しいだけで、実際は彼の方がずっと怖くて、

「灼熱の太陽は夜に別れを告げ、月は今日と言う日に別れを告げるのでしょう。眠る様に宇宙に抱かれ、独り」

ああ、きっと神帝はそれよりもずっと恐ろしい筈だ。魔王城の玄関にも辿り着かないままゲームオーバーだなんて、涙も出ない。
大袈裟にお辞儀するオレンジを見つめながら、頭は嫌に冷えている。
(けれど)

「…俺に恨みがないなら、誰かに頼まれたのかなー、高野君?」
「テンポはフォルテ、スタイルはフーガ。コンマスはこの私、高野健吾が務めさせて頂きます」
「あはは、やっぱ黙秘権的な?ま、君達が従わざる得ない相手なんて高が知れてるけどねー…」
「聡明な町娘は狂った犬に食い殺されてしまうのでしょうか。」


唇には笑みを。瞳には暗い光を。
(けれど知ってる)
(助けたい姫様は、もっと怖いのだ)


「カッコ悪いんじゃないかなー。天下のカルマが中央委員会に跪くなんて、庶民苛めるなんて」
「それでは暫しお時間を頂戴致しましょう」
「あはは、叶二葉の手先になったんだ、君。…ダッセ」


(だけど、ねぇ)
(君は聞いたら笑うだろうか)

(だって、ねぇ)



「そいつあんまり煽るな、オレらに選択肢なんざねぇんだよ。あの人を失わない為なら、ミジンコにだろうが跪いてやる」
「藤倉君、君が一番まともだと思ってたんだけどな」
「そら、どうも?」
「あはは、やっぱその髪はただの雑草系みたいだねー」
「…交響曲45番、」




あ、と呟く暇もなかった。





「ヨーゼフ=ハイドン、嬰ヘ短調、








告別』」



目前に、お日様。




(見せたいものがあるんだ、俊に)


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あきゅろす。
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