帝王院高等学校
叫んで焼いて金髪だらけの副会長
「いつまでもそんな所で何やってんだい、アンタ」

雨が止んだばかりの湿っぽい庭先から隣家を窺っている息子を横目に、割烹着を脱いだ人は腰を下ろす。

「さっき、すんこン家に外人が居たんだよ。物凄い美形の」
「外人だぁ?さっきの奴らの仲間じゃないだろうね」
「や、宅配便みてぇな業者が出てくの見たからよ、すんこも居るんだろうし…大丈夫だとは思うけど…」

夕飯だと集まってきた離れに住んでいる祖母と、従業員達も居間に揃ったので会話は打ち切りだ。

「俺、先に端切れ集めてくっから。皆、先に食ってて」
「実習で使うんだっけ?今日、業者が持ってきたサンプルも要るんなら店に置いてるよ」
「おー」

雨戸を閉め、居間に戻った男は襟足を掻きながら、学校に必要な教材を纏めつつ息を吐いた。


「…然し、たった二週間会わないだけであんなに変わっちまうもんかね、我が弟子はよ」

今夜は新月だ、と。
誰かが呟いた気がする。











流星群はまだ、後。








「ちょ、待…っ!何処触っ、」
「はいはいはーい、暴れない暴れな〜い」
「大人しくしてたら痛くしないからね〜」
「泥船に乗ったつもりで、お兄さん達に任せなさ〜い」
「大船の間違いやないかーい」

太陽の悲鳴がスタッフルームから響いてくるが、腹を抱えて笑い転げている健吾以外は見向きもしていない。

「騒がしい…」
「仕方ねーっしょ、株変動にしか興味がない誰かさんと違って、浮き足立ってんだかんよ(´∀`)」
「…泥船かよ。腕上げたな、あの三人。オモロすぎるぜ」
「相変わらずベタなネタがお好きだね、ユーヤきゅん(・∀・)」

ぷ、と珍しく口元を押さえている裕也を冷めた目で見つめている要と健吾を余所に、隼人は耳掻き片手で、

「あは。終わったら、膝枕二回減らす代わりに耳掃除させてやろー」
「うわ、タイヨウ君の耳掃除!(*´∀`*) 読者サービスが微妙っ」
「良くあの隠れサディストにそんな事を頼めますね。おぞましい」
「サブボスってば太股は思いの外やわこいんだよねえ、肉付き最悪の癖に」
「オレは綿棒派だぜ」

素早く裕也の膝の上に頭を乗せた健吾は、無表情の裕也に綿棒を握らせて胸をときめかせた。

「でっけーの見つけたぜ」
「あっあっ(つд`)」
「ごごご主人様っ、一体何処を触られて?!」
「フォンナート、余所見してねぇでそこのソース寄越せ」

太陽の心配は誰もしない、かと思えば唯一そわそわしているスヌーピーは心配げだが、真剣に焼きそばを焼いている金髪に睨まれている現在、ご主人様を助ける事は許されないらしかった。

「然し…まっさか、お宅が紅蓮の君に参ってるなんてねぇ?」
「何の話だか判んねぇな。口動かす前に手を動かせカス」
「そんな事言って良いのかなぁ、高坂くーん?…バラされたくなけりゃ白百合の弱味教えろ」
「ほざけ雑魚が。下らねぇガセ流したら、その鼻へし折るぞゴルァ」
「ひっ」

凄まじい笑顔の日向に、勝ち誇った表情だったスヌーピーは沈黙し、大人しく青海苔を準備していた熊が肩を震わせる。

「月日は残酷だわ。ちょみっと前まで、どえらい可愛かったのんに、みっちゃん…」
「みっちゃん?」
「ほーよ、光姫ちゃん」

光の早さで熊を殴り飛ばした日向が無表情でマヨネーズを掴み、無言でキャップを取り外した。
ピクピク痙攣している金髪熊は、そのまま動かなくなったらしい。チーン。

「レジスト瞬殺かよ…!やっぱパネェっ」
「…太一、お前は本当にただの馬鹿だよ」
「平田弟、テメェの片割れ沈めてこい」
「光王子さん、こんなんでも兄貴なんで…それはちょっと…」
「だったら埋めてこい」

ミツヒメ、つまり成長期前の抱きたいランキング一位殿堂入りを果たした日向は、それを人生の汚点と公言して憚らない。

「いや、その、だから」
「俺様命令だ」
「………ハイ。」

兄を縛り上げた弟がスゴスゴ外に出て行き、日向の不機嫌さも些か解消された様だ。

「何様だよ高坂日向…」
「はん、何か言ったか変態」
「変態じゃねぇ!エルドラド舐めんなゴルァ!」
「っつーかさー。姫っつったら、北緯も何かあったっしょ?(゜Д゜)」
「…ケンゴさんもあるっスよね」

通り掛かった北緯を横目に健吾が宣えば、眉を寄せた北緯が呟いた。誰しも、男の身の上で姫呼ばわりは嬉しくないものだ。

「カナメが蘭姫、北緯が南天姫、光王子のセフレナンバーワンが柚子姫で、俺が何だっけ?かぐや姫?(*´∀`)」
「オメーがかぐや姫っつータマかよ、ケンゴ」

見た目だけ可愛らしい健吾に言い寄る者が居ても、隣に無愛想な裕也が存在する限り高嶺の花。なのでかぐや姫と言う名が付いていた時期もあるが、今では誰もそれを知らないだろう。

「いわゆる右側?姫イコール、オタ用語で受け(´・ω・`)」
「今更、帝王院のホモホモしさに気付いたぜ」
「猿の尻なんか狙ってる物好き居るんだもんねえ」
「レジスト総長が筆頭っすよね、ケンゴさんっ」
「お黙り(ノД`)゜。 糞ランキングなんか滅べば良いっしょ」

健吾自体の素行の悪さと裕也のお陰で、言い寄る人間は減ったが、恨みは飽きるほど買っている。抱きたいランキング上位ではあるが、殺したいランキングでも上位だ。

「あー、抱きたいランキングだっけえ。隼人君は抱かれたいランキングに入ってたよー」
「あ?そんなんあったかよ」
「カナメちゃんも入ってたよー、抱きたいランキング」
「下らない。俺はそんなものに興味ありませんから」
「ユウさんなんかダブルスコアだもんねえ、抱かれたいも抱きたいもランクインしてやんの」
「光姫から白百合に切り替わったの、二年くらい前じゃね?それまで二位は白百合だったっしょ(´・ω・`)」

他人に興味がないカルマ幹部らしくなく、健吾は意外に知っている様だ。

「全然、知らねーぜ」
「俺も知りません」
「ユウさん抱ける奴、いねーだろ」
「総長くらいですね。いっそ抱かれたい」

首を傾げる裕也や要は、告白してくる輩を脅しまくって追い払ってきた達人なので、表向き迫られる事がない。

「総長はエッチしたら優しくしてくれそう(//∀//)」

健吾の呟きに、カフェがピンクに染まった。うっかり何かを想像したらしい日向も、心持ち顔が赤い。

「シーザーって怖いだけじゃないんだな。普段モテそうにねぇけど…」
「ほざけエルドラド、総長は百人切りのお方だぞ」
「次から次に女が寄ってくんだけど、副長とカナメさんが追い払ってたかんな」
「普段着がホスト系なんだよなぁ。だからハヤトさんが服買って来るんだよ、ブランドもんの」
「でも、前に銭湯で見た総長のチンコ…ピンクじゃなかったっけ?」

雑談に花を咲かせるメンバーを横目に、

「確か、この間は柚子姫が二位じゃなかったですか?一年S組でランキング特集しませんでしたかね」
「眼鏡の人が一位だったよねえ。ハヤト君はあんな性悪やだー、勃起しなーい」
「左席的に、抱かれたいランキング一位は殿様だぜ。抱きたいランキングは山田?」
「あは、ユーヤがサブボス狙ってるよお」
「つまり山田姫ですか?馬鹿馬鹿しい、姫がこれほど似合わない人も居ませんね…」
「山田王子」
「あは、あは、あはあはあは」
「ユーヤもハヤトも殺されんじゃね?(つд`) それよりさ、光王子が王子になる前は三年連続一位だったぞぇw 右側ランキング」

健吾は時折、下らないネタを知っていると皆が感心している中、無言で焼きそばを焼き続ける日向の元へ、エプロンを外した佑壱がやってきた。

「何だこの騒ぎは俺も交ぜろ」
「寂しがりやか」
「おう、高坂。豚肉とキャベツともやしは惜しまず使えや。ちょっと味見」
「…意地汚ねぇ」

日向の握る菜箸を前に、あーんと口を開いた佑壱が上目遣いで日向を見つめた。ぼそっと呟きながら、仕方なく一口喰わせた日向に皆がニヤニヤしている。
気付いている日向の眉間に、くっきり皺。

「うめぇ」
「不味いっつったらマジ殺してんぞ」
「辛子マヨ派なんだよ、俺ぁ」
「あ?」
「総長は明太マヨラーだけどよ」

そんな視線にオカンは全く気付かなかった様だ。幹部等がピナイチだのイチヒナだのアイコンタクトを交わしている中、

「さっきの話だけどよ、健吾ぉ。裏ランキングとかあったな、確か」
「うひゃ!何でンな事知ってんの?つか、副長もそんなんキョーミあるんスか?( ̄□ ̄;)」
「馬鹿言え、聞いてもねぇのに獅楼が逐一報告して来やがるんだ」
「あー、獅楼はそーゆーの好きそーっスね(´・ω・`)」

榊率いるメンバーが料理を次々運び込み、テーブルの上に並べていく。料理の準備は粗方終わったらしく、飾り付け部隊や買い出し部隊も一息吐こうと麦茶が振る舞われた。

「よし、腹拵えすんぞ。高坂が焼きそば焼いてくれっから、紙皿と割り箸配って適当に食っとけ」
「あー腹減ったー」
「今の内に食っとかないと、総長の食べ残しなんか期待出来ねぇもんなぁ」
「うぉ、お握りも食って良いっすか?!」
「具無しの方は良し」

一心不乱に食糧へ飛び付く一同を余所に、蟹BBQとクレープが尾を引いている幹部らは麦茶だけで乾杯だ。

「此処に居ると、何かしら食べてばかりですよね、いつも…」
「成長期の効果なんざ微々たるもんだぜ。デブる」
「つーか、裏ランキングってなにー?」
「ハヤト知らねーの?( ̄ー ̄) カナメも?」
「隼人君は自分以外キョーミないもんねえ」
「聞いた事はありますが、興味がないので何とも…。ユウさんはご存じなんでしょ?」
「殺したいランキング一位が俺、二位が叶、三位が隼人」
「ユウさんが一位なんスか?(*´∀`*) ハヤトが一位じゃなくて?」
「ユウさんが強いからだぜ、多分」
「裕也ぁ、ガッコの大半はABSOLUTELYのメンツだぜ?あちらさんからすれば、目障りだろうよ俺は」

チラリと日向を一瞥した佑壱に、軽く頷いた裕也が振り返る。
焼きそばとお握りに飛びついていた皆も茫然自失、片眉を跳ね上げた佑壱が紙皿に焼きそばを盛り付けながら肩を竦めた。

「でもなぁ、不思議とうちの奴らから嫌われてねぇんだよな…」
「いいい、イチ先輩!」

涙目の太陽が顔を真っ赤にして怒鳴るが、日向に紙皿を手渡している佑壱は顎を逸らしただけだ。

「馬子にも衣装」
「アンタ、アンタって犬はーっ!」
「服は総長が持って来るまで待ってろ」

トランクス一丁の太陽を無表情で眺める佑壱の頭を、同情の眼差しを太陽へ注ぐ日向が叩いた。

「んだ、そのイカレた格好は…。左席の格が落ちんだろ」
「煩ぇ、総長命令だから仕方ねぇだろ」
「シュンの、だ?」
「おうよ。じゃなかったら、そもそも此処に山田なんざ連れてきやしねぇ」

カラースプレーで銀色に染められた前髪、短い襟足には金髪のエクステ、時折赤いメッシュが入っているそれは背中に届くほど長い。

「うう、何でこんな目に…」
「ごごごご主人様ッゴフ!」
「うへぁ?!フォンナート先輩っ?!」
「あ、あは、あはあは、あっ、あは」

デコにうっすら汗を滲ませたパンツ姿の太陽と言えば、麦茶を吹き出したスヌーピーに肩を震わせ、声が出ないほど笑い転げている隼人に目を吊り上げた。
時刻はそろそろ八時を指そうとしている。

「一体これはどういう事なのか説明して下さいよっ、イチ先輩!」
「っつってもなぁ、俺もあんま知らねーんだわ」
「はっ?」
「だから、」
「俺が説明しよう。」

何の気配もなく開いていたドア先から響いた声に、店内は沈黙に包まれた。

「…総、長?」
「待たせたなァ、俺の可愛いワンコ達」

ラズベリーカラーのサングラス。
肌寒い夜を知らせる薄手のダウンジャケットもボトムも白、ショートブーツだけが真っ赤で、


「今夜は月明かりがないから、遅くなった」

但し。
銀髪である筈の髪は、日本人の大半がそうである黒だ。だから、皆が、日向までもが目を見張ったのは仕方なかったのかも知れない。

「しゅ、ん?」
「うん。…ただいま、タイヨー」

緩やかにサングラスを外した男の儚い笑みは、仄かに赤く染まる目元を隠しきれなかった。

←いやん(*)(#)ばかん→
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