帝王院高等学校
ワンコカフェにはメルヘンが集まります
「離せゴルァ!ぶっ殺すぞ変態クマさんがァ!」

暴れ回る少年を朗らかな笑顔で抱えた男は、凄まじい罵りが聞こえないかの様だ。
立体駐車場から一歩外に出れば全身を湿らす雨、駐車するまでの数分で勢いが増している。

「んー、雷さん遠退いとるみたいだに」
「尻揉むなゴルァ、金玉磨り潰されてぇのかド腐れ野郎ァ!クマさんはクマさんらしくプーさんと蜂蜜舐めてろ!!!」
「ケンゴは照れ屋さんだにー」
「いやーっ、チンコ触んなァアアア!平田弟ォ!兄貴どうにかしやがれボケェ!双子だらァが!(ノД`)゚。」

パーキングに車を停めた兄はすぐにトランクに詰め込んだ健吾を抱き上げ、弟へ鍵を投げた。一階の管理人へ鍵を預けてたばかりの弟は溜息一つ、

「あー、悪い。本物の双子じゃないから。太一は若葉マークだけど、俺は免許持ってねぇの」
「4月生まれと3月生まれの年子だでねー。両親ラブラブで困ったもんだわー」
「兄弟で同級生は双子っつーんだよボケェ!(ノД`)゚。」
「何だよそのやっつけ仕事は。落ち着けよ。腹ぁ括ってくれって、何にもしないから。…多分」

多分、では話にならない。
レジスト総長の可愛いもの好きはある意味有名な話だ。勿論、見た目はともかく性格も朗らかで喧嘩も強いのでそれなりに彼女も居た。

「チンコ触られて落ち着けっかゴルァ!」
「正論だねー」
「太一、少しは自重しろ」
「犯されるー。嫌だー、犯されるより犯したいぃいいい(Тωヽ)」
「変なこと叫ぶな高野!滅茶苦茶見られてるからっ」
「はっはっは、ほんまケンゴは照れ屋さんだにー」
「照れてねぇ!Σ( ̄□ ̄;)」

ホモには強いが彼女持ちには弱い、奇跡の格闘センスを持つ健吾が幾ら暴れ回ろうと、クマさんはビクともしない。男の子の大事な所を揉み揉みされたまま、顔文字も表情も「(´;ω;`)」の健吾を助けてくれる人は居なかった。

「俺っ何かした?!確かに今朝のめざましテレビの星占い11位だったけど!こんな仕打ち…(´;ω;`)」
「牡羊座は1位だがね」
「魚座は2位だったな」
「獅子座は12位ですが何か?!Σ( ̄□ ̄;)」
「シーザーは8月生まれやったねー。知らなんだ?神帝は牡羊座なんだが」

背筋が凍った。
このままもしも敵陣に連れていかれ、人質にされて俊を呼び出すとかそんなドラマチックな事態になってしまったら、どうしよう。

ぐるぐる巻きにされて。
高笑いする二葉からボコボコにされて。
日向のおやつに犯されて。
銀髪ロン毛の憎いあんちくしょうから、内臓を売られてしまう。

助けに来たカルマメンバーもボコボコにされて、二葉が益々高笑い。日向のおやつに佑壱が毎日ドーナツを揚げ、俊は神帝のペット。金属の首輪を付けられ、眼鏡を曇らせて膝を抱える毎日。


『お家に帰りたいにょ、めそり』

いや、ABSOLUTELY相手の抗争などした事もないが。

「総長ー!俺が助けてあげるっしょ!いやその前に助けて総長ーっ!(ノД`)゚。」
「ほー、やっぱし天の君も来とりゃーすか。今夜は全隊呼び出し掛かっとるもんねー」
「…おま、今…何っつった?」

朗らかな口元を見やり、背後の弟が溜息吐くのを聞いた。

「今夜の呼び出し、知らなんだの?」
「腐れクマが!はぐらかすな!テメ、何っつった?!(οдО;)」

鼓膜が悪くなった訳ではないらしい。にんまり笑う気配、「ビンゴ」と呟いた兄に続いて、弟も「やっぱりか」と呟いた。

「どういう事、」
「カマ掛けた訳じゃにゃあでよ。実際会った時にちぃっとみゃあ、素顔見たら判らん奴は居らんがね」
「いつ会ったんだよテメ、何かしたのか?あ?総長に悪戯しても良いのは俺だけなんだよボケェ!(´Д`)」
「何もしとらんよー。ポッキーあげただけだにー」
「テメーが何もしてねぇ筈がねーだらァが!カルマ敵に回して生きていけると思うなやカスがァ(`´)」
「いやマジだって。落ち着けよ高野、舌巻き過ぎ。可愛い面してんだから」
「可愛いで褒めてるつもりかチンカスが!Σ( ̄□ ̄;)」

暴れ回る健吾に流石のクマさんも眉を寄せ、見えてきた商店街のアーケードを潜る。弟の宥め言葉など聞いちゃいない。

「その喧嘩買ってやらァ!全隊率いて潰してやらぁレジスト如きが!(`ω´)後悔すんなやDT野郎ァ」
「カルマに喧嘩なんか売らんよ。シーザーに睨まれたら死んでまうがね」
「死ね!滅びろ!この手で滅ぼしてやるァ!」

声と垂れ眼だけがそっくりな兄弟の片割れ、ノーネクタイのブレザー熊さんの脱色し過ぎて白に近い金髪に陽光が煌めく。

「ケンゴは暴力的であかんね、折角めんこいのが台無しだが」
「マジ潰すマジ消すマジ許すまじ、カナメにチクる。総長にセクハラしたって言ってやるっしょ(`´)」
「うっわ、マジで頼むから神崎には言うなよ?!うち一回アイツに潰され掛けてんだからっ」
「ハヤトもめんこいねー」

とうとう弟が額に手を当てれば、商店街の中央、目的地直前で見慣れた長身が待ち構えていた。


「ネギ坊主、出待ちご苦労さん」
「誰が葱だ」

ぴたりと暴れるのを止めた健吾が、恐々振り返る。凄まじい無表情さが威圧感を与えまくるイケメンは、残念ながら相棒だ。

「太一、お前は本気で馬鹿だよ。アウェイでは穏便に…」
「こんくらぁでキレる奴は居らんでしょ?紅蓮の君の底が知れるっつーもんだがね。なぁ、ネギ坊主?」
「うぜ」

物凄く呆れた様な溜息を吐いた裕也が、コキリと首の骨を鳴らす。

「何やってんだオメーはよ」
「ユ、ユーヤきゅん…グーテンターク(*´Д`)」
「ダセー目に遭ってんじゃねー。何やってんだオメーはよ」
「二回も言わないでぇ(ノд<。)゜。誘拐されたの!俺は悪くないっしょ!(ノД`)゚。」
「ダセー。いっぺん死んだ方が良いぜマジで」
「まぁまぁ、痴話喧嘩はよしてちょーよ」

漸く健吾を下ろした男は、相変わらずニコニコ笑いながら、カフェから出て来るメンバーへ目を向けた。

「痴話喧嘩じゃねー」
「見捨てないでダーリン!(ノД`)゚。痩せ細るぞぇorz」
「他人の振りだぜ」

そっぽ向く裕也に、全身で構ってオーラを発揮する健吾は半狂乱で、解散は嫌だぁと噎び泣いた。M1目指そうなどと叫んでいる所を見ると、漫才ペアの様だ。

「おんや?ありゃあ、時の君とちゃーか」
「太一、太一。神崎も居る、物凄い笑顔の神崎がっ」
「ヨーヘー、おみゃーさんもミーハーだに」
「ミーハーじゃねぇ!神崎にされたアレを忘れたのかテメェはよぉ!」

偽双子が見やる先、カフェ入り口で隼人に抱っこされているちびっこが目を丸くしていた。
危ないから、と言う意味不明な理由でうっかり抱き上げられている太陽と言えば、背後から持ち上げられているだけだが、足が地面に付いていない。

「お腹、苦しい、って!下ろしてくんないかなー、ハヤちゃん」
「えー、どーしよっかなあ」
「意地悪しないの」
「えー」
「…頭突き食らいたいならいいけど?」
「すいませんでした」

ジト目で睨む太陽からパッと手を離し、解放された太陽がしゅたっと着地する。

「凄い…ハヤトさんにあんな台詞…」
「何者だよ…」
「馬鹿、この間のポスター見ただろ?」
「でもあのポスター顔にモザイク入ってたぜ?」
「カナメさんが敬称付けで呼んでる相手なんざ、総長副総長くらいだろ…?」

背後で感心した様なカルマメンバーの拍手とひそひそ話が上がり、半ば涙目の平田弟が瞬いた。

「あの子、思い出せん」
「時の君だがね」
「帝君じゃねぇよな?神帝と紅蓮の君とシーザーだろ?」
「ちゃうって、時の君はエルドラドの飼い主だに」
「エルドラドは太一のクラスのフォンナートだろ?キレたら超ヤベェ」

何処かで見た様な気がするらしいが、太陽の余りにも平凡過ぎる顔立ちは記憶に残らないらしい。Fクラスには見えない朗らかな笑みを浮かべた熊さんが、太陽を見つめ「ちっこいめんこい」と呟いた。
危険な台詞だ。

「高野、連絡取れないから事故かと思ったよー」
「うわーん、お祖父ちゃーん(ノД`)゚。」
「誰がお祖父、おわ!」

ぎょひーんと飛んできた健吾を小柄ながら太陽が受け止め、ニコニコ笑っている巨体へ目を向ける。状況は判らないが、こうなったら仕方ない。

「えっと…こんにちは?」
「ちわー。ケンゴがゲーセンで絡まれとったの見たで、保護してきたでよぃ」
「す、すいません、うちの役員がお世話になりました?」
「ええよー。ちゅーか、時の君も休日ブレザー派だね?うんうん、素肌の上に着るのもオツだに」
「や、これは俺のじゃなくて…」
「ほなら、フォンナートから借りとりゃーすか?」
「えっと、そうじゃなくて…」
「サブボスのブレザーはあ、魔王のブン盗ったんだよお」

カルマと平田兄弟が凍り付き、戸口で煙草を吹かしながら眺めていた榊の眼鏡がずれ落ちる。

「待て、魔王っつったら、まさか…」
「そー、榊マスターの大っ嫌いなあ、貴公子サマー」
「え?何この状況?叶先輩ってそこまで嫌われてるんですか?いや、俺も嫌いだけど…」
「サブボスはー、眼鏡のひとの婚約者でえ、ボス公認のバカップルなのー」
「コラコラ神崎君?」
「マジでか?!おい山田、アイツの弱味握ったら教えてくれ!頼む!いや、山田君!是非!」
「さささ榊さん?!ちょ、痛い痛い、」

ぱちん、と。
ガクガク揺すぶられ、口笛と同じく、鳴らない指を鳴らそうとした太陽に隼人すら沈黙したが、カフェ脇の室外機裏から出て来たイケメンには関係なかったらしい。

「やめろ、ご主人様が可哀想だろう」

榊の手から素早く太陽を奪った美形は、素早くサングラスを外しながらカルマ一同へ睨みを利かせた。

「…いつから付いてきてたんですか?」
「最初からずっとっス。バスの時もタクシーの時も、車で追い掛けました」
「免許…」
「一昨日正式に」
「いーなー」

エルドラドだ総長だと、ひそひそ囁き合うカルマメンバー、神妙な面持ちである。
但し免許証を見せて貰った太陽が噂の主を羨ましげに見上げると、鼻を押さえた茶髪はバシバシと室外機を叩き、榊の足蹴りを食らったらしい。

「フォンナート先輩、あの二人ご存じです?叶先輩の話をした瞬間から固まってるんですけど…」
「デカいのがFの平田太一、細い方が弟の洋二。弟は電機技能専修、三年っス」
「えっ、あの人もFクラスなんですか?」

道理で見た事がない筈だと、チャラ三匹と仲良く話しているイケメン弟を横目に、近づいてきた巨体を見上げた。

「おみゃーさん何ちゅー所から出て来よるの?裏御三家の名が泣くがね」
「裏御三家?」
「祭美月、李上香、続いて俺がFのトップ3と呼ばれてまして…」

照れた様に頭を掻く美形に、背後がどよめいた。エルドラド総長の名は伊達じゃないらしい。太陽からすればただのストーカースヌーピーだ。
どうやら今までは、二葉が怖くて出て来れなかった様だが。

「あー、うん、判りました。とりあえず先輩方、中に入りません?」

何処からどう見ても、レザージャケットにレザーパンツの茶髪はイケメンだ。が、残念ながらスヌーピー柄の傘を小脇に挟んでいる。
似合わない。

「俺はただの犬なのでお構い無く、ご主人様」
「ご主人様…おみゃーさん、エルドラドのトップだろぃ」
「テメェこそレジストはどうした。相変わらず高野の尻追い掛けてんのか、あ?」

睨み合うプーさんとスヌーピー、いやいや、そんなメルヘンな状況ではない。
とりあえず今は、昼過ぎの商店街で視線を浴びまくった状況を、どうにかせねば。

「あの…悪い目立ち方してるんで、皆さん中に…」
「人数だけのおみゃーさん方には負ける気がせんがー」
「はっ、馬鹿の寄せ集めの癖に意気がるなよ」
「あの…」
「良いぞー、やれやれー!」
「どっちが勝つか賭ける奴この指とーまれ!」
「どうせカルマ最強!ギャハハ」
「………」

オレンジジャージ三匹を眺めた太陽が沈黙し、隼人と健吾がスススと太陽から離れた。


「近所迷惑ですよ」

要が溜息を吐き、睨み合う総長二人を殴り付けたのは優しさとしか言えまい。舌打ちした太陽のデコがきらりと光っていたとか何とか。
平凡の頭突きは危険だ。

←いやん(*)(#)ばかん→
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