帝王院高等学校
脇役だからっていつも控えめとは限らない
「カルマ」
「まりも」
「モニュメント」
「とんずら」
「ライクアヴァージン」
「いやいや、マドンナかよ!(∀)」

城レベルを軽く越えたとんでもない建物の、北東離宮最上階。
一般クラスの素行が宜しくない若者が集まる事で有名な屋上には、並んで寝転がる二人の姿があった。

「はいはい、ユーヤの負け!ヒャッフォー、藤倉ユーヤくん一気呑みしますぅ!ひゅーひゅーだよー(>Д<)」
「ただの烏龍茶ですが。ユーヤじゃなくてヒロナリですが」
「胃が荒れる!(~Д~) 裕也よりユーヤのが覚え易いからな…」
「いやいや、総長の物真似似てねぇから」

鮮やかなオレンジ色の所々跳ねた髪を踊らせながら、ブレザーもシャツも脱ぎ飛ばし健康的な褐色の肌を晒している少年がケラリと腹を抱えた。

「一気一気一気っ、飲んだり〜吐いたり〜ラジバンダリー!(/∀/)」
「っ、ぷは。…あン?げ、この烏龍茶甘えぞ?!ケンゴっ、オレのペットにシロップ入れやがったなっ」
「だってクリームは流石にバレるでしょー(´∀`) 甘さの分だけ優しさが含まれてます」
「バカだ。バカがいる」

一方、眠たそうな整った顔に呆れを滲ませているフレッシュグリーン色の髪の少年は、空になったペットボトルを掲げ短い息を吐く。

「あー、ゲロマズ…」
「あはー、ごーめんねぇ」
「はい出た、ハヤト二号」
「きゃっ。あんな奴と一緒にすんじゃねぇや、あんな気違い野郎とよぉ(T_T)」
「同族嫌悪か。押し倒してくる野郎野郎片っ端から締め上げてる狂犬病患者」
「お前にだけは言われたかねぇや、ハニーと総長の前だけブリッコしやがって(´Д`)」

暫し無言で睨み合った二人はおもむろに拳を固め、バキボキと骨ロックコンサートを開始する。
オレンジの髪を一度掻き上げた少年がフレッシュグリーンに向かって踵を振り上げた時、



「馬ァ鹿、遅ェや!ヽ(´▽`)/」
「ぐはっ」
「オレの背後は狙わない方が良かったな?」
「がはっ」
「つまり、ケンゴの視界内は」

フレッシュグリーン…藤倉裕也の背後、給水塔の影から現れた複数の男達がたった一人によって倒れた。
オレンジの髪を手櫛で整え、脱ぎ捨てていた黒いシャツを羽織りながら高野健吾は笑みを深める。呆れた様な眠たそうな曖昧な表情で傍観者を決め込むつもりらしい裕也は、自分が狙われた事になど興味がない様だ。

肩に羽織っただけのシャツと鮮やかなオレンジを靡かせた健吾が、両腕を広げ言うには、



「交響曲第73番、」
「テメーコラぁっ、Sクラス落ちがデケェ顔してんじゃねぇぞ!」
「テメー藤倉裕也ィイ!」
「ハイヨ、うわ久々まともに呼び掛けられたぜ相棒」

全ての男達が裕也を睨め付けるが、すぐにそれは地に伏せる。
指揮者の如く両腕を広げリズムを刻んだ男は、



「ヨーゼフ=ハイドン、二長調、…。」

笑みを排除し、まるで風の様に大気へ溶けた。


「あーあ、気違い野郎が」
「なぁに、相棒がヤられそうになってっから助けたまでっしょ(o^∀^o) 有難いと思えや」
「つーかよ、」

無残にも一人残らず倒れ散った恐らく上級生だと思われる不良らを覗き込みながら、裕也は耳を掻く。

「こいつら全部、ケンゴ目当ての物好き野郎じゃねぇかよ」
「はっはっは、馬鹿抜かせ。俺様は総長にしか抱かれたくにゃい(∀)」
「いやいや、瞬殺したじゃねーかお前。おホモだち相手にゃ最強なオメーがよ」
「ンだコルァ、喧嘩売ってんのかユーヤぁ!おじちゃんも怒るんじゃぞ、ああン?!」

胸元を掴まれた裕也は短く息を吐き、

「ゴールデンウィークに彼女と旅行行くんだ、オレ」
「んなっ?!Σ(@Δ@)」
「向こうがダチ連れてく言ってんだわ、結構可愛い系のフリーな子だっけかな」
「ΣΣΣ( ̄□ ̄;)」
「やっぱ相棒と一緒の方が良いよな、なんて考えてたオレがバカだったみてーだな」

ふっ、と大袈裟に気落ちした溜め息を零し、態とらしく視線を逸らせば、胸元を掴み上げていた手が離れ、オレンジ頭がガクリと膝を崩した。


「先生ェ、俺…っ、恋愛がしたいです…!」
「本当に扱い易い男だぜ、」


健吾、と。
親友にして幼馴染みの落胆した背中を叩きつつ名を呼ぼうと開いた唇は、然し尋常ではない気配を察して健吾ごと飛び退ける。



「ぉわっ!(~Д~)」
「何だぁっ?!」

派手にコンクリートで顔を打ち付けた健吾を庇う様に立ち上がったフレッシュグリーンの髪が、冷や汗を滴らせた。



「…ほう、この俺の前で不純同性交遊か」

低い低い地を這う声音に無駄が一切存在しない痩身の体躯、絶対零度の女神的な美しさを秘めたまるで人形の様な男が、不敵な笑みを滲ませて佇んでいる。

「ぎゃあああッ、白百合が出たぞぉおおおおおッ!南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏、成仏を〜何卒成仏を〜!」
「ケンゴ、お前ジャーマン生まれ育ちの無神論者だったろ」
「俺、所詮日本人だし。ドイツ語より顔文字のが得意じゃし(∀)」
「…何いちゃついてやがる、ダニ共」

全てが凍る様な声音に、二人は揃って乾いた笑みを浮かべた。

「ど、何処から降って湧いたんじゃい、このお方は…」
「あんま、聞きたかねぇな」

殴り掛かった所で勝てる様な気がしないこの圧倒的な威圧感は、何。物凄い誤解をしているらしいが、訂正した所で無駄だろう。




逃げるしかない。



「この私から逃げるおつもりですか藤倉裕也君、高野健吾君?」
「いや、はっはっは、…まだ死にたくないな〜って…(((=Д=)」
「アンタに捕まったらカナメに絞め殺されそうなんで、見逃して下さい」
「あははははは!」

モバイルパソコンを片手に突如笑い始めた男が眼鏡を押し上げ、ぴたりと動きを止めた。



「良いでしょう。交換条件を飲むなら考えて上げます」
「「条件?」」
「お二人共、今期の帝君が誰かご存じですか?」
「はい?そんなん、会長と副長と隼人っしょ?(´Д`*) 白百合の旦那はまたまた二番手のご様子、心中お察し申し上げ候(^_^A;)」
「ジジイかよ、ケンゴ。…で、それが何スか?」

二人の怪訝げな表情は、然しすぐに驚愕の表情へ擦り変わる。
眼鏡を押し上げ、酷く愉快げに笑った鋭利な美貌が生々しく思えるのは、何故。



「一つ、相違点があります。確かに古文が壊滅的に不得意な私は相変わらず学年次席に甘んじていますが、今年度の一年帝君は神崎君ではないのですよ」
「はぁ?!じゃ、カナメがついに下剋上?!この間まで二点差で二位だったカナメが漸く…!(ノд<。)゜。」
「唾が飛びまくってんぞ、ケンゴ」

我が事の様に騒ぎ立てる健吾と、眠たそうな表情に僅かだけ喜びの色を滲ませた裕也に、然し二葉は笑みを深めただけだ。


「ふふふ、愉快な事この上ないですねぇ。高等部入試で満点を叩き出した人間など三名しか存在しないと言うのに、ですよ」
「満点?!カナメが満点?!」
「はぁ?総長が居なくなってからまともに飯も食わなかったカナメの奴が?」
「一人目は紫水の君…現在の紫の宮こと東雲村崎教諭、二人目は神の君。我が主にして帝王院の血が作り出した、生ける神です」

ついには感動の噎び泣きでコンクリートに屈み込んだ健吾を余所に、裕也は珍しく表情を引き締めた。
何か歯に引っ掛かる物言いだと眉を寄せ、視線だけで問い掛ける。



「三人目、鷹翼中学出身の遠野俊。今期の一年帝君にして、入試満点合格の外部生です」
「外部生が?冗談でしょ、幾ら鷹翼っつったって、去年うちを受けた鷹翼の超優等生は呆気なく落ちた筈だ」
「流石藤倉君、神崎君に並ぶほど情報源が広い。けれど、紛れもなく今年度新入生代表は『出席日数不足』の鷹翼卒業生です」

誰かが何処かで唸る声を聞いた様な気がする。
ゆるりと背を向けた二葉が校舎内へ続くドアノブに手を掛け、



「カルマが誇る幹部の貴方達が逃げ出したくなる私を、膝で蹴り上げてくれた中々に愉快な子です」
「蹴り…」
「ぅ、嘘だぁ…(;-_-)」
「ただねぇ、少々触れ過ぎたんですよ、あの子は」

ギギギと耳障りな音を発てて開いた扉の向こうから、風紀委員会のバッジを着けた生徒が数人入ってきた。
健吾が気絶させた男達を担ぎ上げ、二葉に一礼して出ていく。



「…誰だって触りたいのに触れないものがあるでしょう?例えばルーブルの絵画の様に」
「は?」
「ルーブルっつっても…」
「私は、我が主の持ち物であるこの学園全ての秩序を護る立場です。…風紀を乱す存在は等しく全て排除する立場ですからねぇ」

風紀を乱した輩を冷たい眼差しで眺めていた二葉の横顔が、すぐにいつもの愛想笑いを滲ませ、



「交換条件を飲むなら、お二人にはお願いがあります。恐らく、悪い話ではないでしょう」
「悪いも何もなぁ…(=Д=;)」
「だから具体的にどう言う、」
「貴方達にあの外部生をどうこう出来るとは考えていません。ですから、」



一際強い風が吹き抜けた。








「初代外部生を排除して下さい。」

←いやん(*)(#)ばかん→
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