帝王院高等学校
★Over worlds end☆冴木炯様より
ふと目が覚めると、目の前を埋め尽くす、

無機質な青。

隣にあった温もりがない。

それだけでどうしてこんなに不安になるんだろう。

寒い。

昨夜は確か包み込まれるようにして眠りに落ちたはずだった。

なのに、あの確かな熱がない。

横向きだった体を仰向けへと向きを変える。

腕で目を覆う。

渇いた笑いが込み上げてきた。

いつからだ。

いつからあの温もり一つで、あの男の存在一つで心が揺らぐようになった。

自分が思っていたよりもあの男の存在は、自分の中でかなりの割合を占めているようだ。

こんなことに今更気付く。

覆っていた腕を退け、仰向けだった体をもう一度横向きにする。

目を閉じる。

あの男のいない世界に用はない。

遠くから幼少期に呼ばれていた名を呼ぶ声が聴こえる。

「おい、アキ。起きろ」

「ん…」

ゆるゆると瞼を持ち上げる。

目の前にあるのは、いつからか心の割合を大きく占めるようになった男の美しい顔。

開けられたカーテンから太陽の光が部屋に降り注ぐ。

ああ、夢だったのか。

「太陽?まだ寝惚けてるのか?」

未だ覚醒していないような俺を覗き込む。

俺は陽光に照らされた男を、寝転んだまま自分の方へ抱き寄せた。

「っ!おやおや、朝から随分積極的ですねえ」

一瞬体を強ばらせたが、直ぐに力を抜いて抱き締めてくる。

ああ。

この腕が、この温もりが欲しかったんだ。

いつか自分の掌からすり抜けていくんじゃないか。

心の何処かで燻っていた不安があの夢に投影されたのか。

「……本当にどうしたんだ」

起きてから一言も喋らない俺を不思議に思ったんだろう。

優しく背中を叩く大きな手の感触に、涙腺が弛んだ。
静かに、ただ静かに温かな雫が頬を伝う。

抱き着いた男の服を濡らしてしまう。

それでもこの温もりから離れたくはなかった。

「怖い夢でも見たのか……?」

普段のこの男からは考えられないような優しい言葉、声音。

怖かったからではない。

この涙は安堵、喜悦から流れたものだ。

今この瞬間、この男の腕の中に居られることへの。

それを伝えたいのに、言葉が出ない。

首を横に振れば、そうかとだけ返された。

「二葉」

搾り出すように発した言葉は男の名前。

「ん?どうした?」

返される優しい問いには答えず、ただただ男の名前を呼んだ。

何度名前を繰り返し呼んだだろう。

背中を優しく叩いていた男の唇が顔中に降り注いだ。
額に、瞼に、頬に、鼻に、唇に。

可愛らしい音を立てながら何度も何度も。

自分が名前を呼ぶ度に。

「二葉………」

唇に施される口付けの合間に名前を呼べば、瞳で続きを促された。

「大好き」

普段は素直に言えない言葉を言ってみるのもいいかもしれないと思えた、そんな朝だった。

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