帝王院高等学校
├FINAL┤☆クム様より
真夏の陽炎の夢
「暑い・・・真夏日ですか?猛暑ですか?陽炎が見えますけど・・・ちょーぅゆらゆら〜」
大好きな某バンドのライブのため県外遠征。服を間違えた。
ライブだからと気合を入れすぎました、ハイ。反省してます。
金髪にピンクメッシュ。
モカブラウン?オリーブ?よく分かんないけどそれくらいの色のツナギの袖を腰に巻きつけて結ぶ。
上は黒の半袖のカットソー。シルバーアクセサリーとかピアスとか付ければ、完全不良スタイル。
みんなが怖がってよって来ません。
大丈夫だよー!お兄さん怖くないよー!心の中で叫んでも、効果は全く無いようです。
それにしても・・・
「暑いってば・・・。」
手にしたペットボトルの水も無くなりかけ。
自動販売機で新しいのを買わねば、とフラフラ。その時足が縺れて、自分より少し小さい人とぶつかった。
微かに「ヒッ。」と聞こえたのは気のせいだ。じゃないと睨んでしまいそうだ。
・・・不良だからではない、暑いからだ。もう一度言おう、暑いからだ。決して不良だからなのではない。
「ごめんなさい・・・。暑くてふら付いてました。」
と謝った。
・・・不良じゃないからガンなんて付けません。
その時、ヤバい、と思った。一生に何度かの“ヤバい”のヤバいだ。
「ヤベェ。」
「えっ?!」
呟くと、振り返った顔。
あー・・・オデコ広ぇ、いいな。ちょっと頂戴。
そう思ったのを最後に意識はバイバイ。気絶なんて・・・初体験です。
◆◇◆
オデコが濡れてる感じがする。そして冷たい。
・・・オデコ?でこ?広かったなぁ・・・。
「あれっ?」
「おはようございます。」
オデコで目覚めた俺の目に飛び込んできたのは広いオデ・・・男の顔。
ちょっとオデコの広い平凡。そしてちなみに膝枕体制。
「あれぇ?」
「大丈夫ですか?」
「俺ってば倒れちゃった感じ〜?」
「はい。」
返事ともに渡されたミネラルウォーター。俺のために買ってくれてようだ。
この不良スタイルの俺に。しかも怯えずに公園で膝枕まで。
「ありがとう。」
自然と笑みも零れるものだろ。
「い、え。別に。」
力の入らないヘニャリとした笑顔でお礼言うと、僅かに赤らむ顔。ちょっと芽生える悪戯心。
「俺のこと怖くないのぉ?」
ゆらりと手を伸ばして、火照っている頬に掌を当てる。
「いや、あの。えーと・・・。」
答えを探すように宙を彷徨う目。
「怖かったんでしょー?でぇも、今は全然ビビッてなぁいね?」
「あははー、ちょっとね、最近周りに多くて・・・駄犬が。」
「ん?」
“駄犬”のセリフの瞬間、吹いたブリザード。
きっと彼はドSです。ちょっとなんだか負けそう・・・
「駄犬、かぁ。」
「どうかしましたか?」
「とぉっても懐かしくて甘ぁい響き。その言葉に含まれる親愛の情。羨ましかったぁ。」
「へっ?」
少しだけ呼びさまされた懐かしい記憶。
一時も忘れたことはないけど。
「なんでもないよん♪あのさ、名前教えて?ちょっとした記念にさ。」
「・・・あー。」
「ダメかな?あ、ちなみに俺は崎村楓。よろしく〜」
「・・・山田太陽。太陽って書いて、ヒロアキ。」
「ヒロアキかぁ。そっか、看病ありがとね。気分良くなった。」
そう言って起き上がろうとした時、パリーンッと何かが割れる音がした。
「あ、俊。」
知ってる名前に少しドキリとする。
そんな筈は無いけど。
「ハァハァ・・・ちょっと目を離した隙に・・・さすがタイヨー!!不良をキャッチアンドリリースにょ!!あ、やっぱりリリースは駄目にょ。しっかりホールドォォ!!」
やっぱり違った。ただの黒髪オタクだった。
声は、似ている気がするけど。
「俊、何言ってんの?この人は熱中症、俺は看病。」
「あの日会ったアイツが忘れられない。たった一度の看病が俺の心を支配する。そんな心情のままふらついた繁華街。不良に絡まれている制服姿の男子高生。八つ当たりのつもりで不良を蹴散らすと、絡まれていたのはあの日、看病してくれたアイツだった!!!萌ーー!!運命の出会いにょー!!そこのツンデレ不良攻め、ねちっこくタイヨーを攻めるなりぃぃ!!」
何やら正輝と同じ匂いのするセリフを吐き、ビシィッと指差された。未だにヒロアキ君の膝の上から退くことができないまま。
ちょっと怖いです。
無意識にヒロアキ君の服の裾を掴んでいた。
「ぷはーんにょーん!!ワンコ攻めも大好物です!!なんならワンコ受けも萌萌にょ〜!!・・・じゅるり。今すぐタイヨーに・・・」
「俊、どーする?その先がどうしても言いたいなら、吊るしてからにしよっか?」
「ごめんなさいっ。」
初めて見ました。スライディング土下座。
見事です。
そして、ヒロアキ君のドSっぷり素晴らしいです。近年まれにみるドSと・・・ドMでした。
そのドM確定の人物がスライディング土下座のまま頬を紅潮させ、ヒロアキ君を上目遣いで伺っている目に見覚えがある気がした。
酷く、愛おしい人に。
「そこのオタク君はさぁ、名前何て言うの?」
極めて平静を装って。ただ少し、興味が湧いただけだというように。
「ハァハァ。ワンコで不良で腹黒さんにょ?初めましてっ!!僕は遠野俊、腐も恥じらう15歳です!!」
「遠野俊・・・か。」
疑いの芽が育つ。
「すいません、ウチの俊が・・・。あの、えと、崎村さん?」
「ん?ああ、何でもないよ。ていうか、楓でいーよ。俺もヒロアキ君て呼んでるし。」
「え゛、いつどこで?!」
「さっきから、in心の中で。」
ハァハァと怪しい息遣いしかしなくなったオタク君。たまに“じゅるりっ”なんて聞こえてくる。
やっぱり、同姓同名の他人かな?そんな運良く会うわけ無いよね。
「ボースー、サブボスー。完璧隼人くんが迎えに来たよー。ボスー?サブボスー?平凡くーん、21番くーん!」
さすがにそろそろヒロアキ君の上から退かないとなぁ、と思ったとき、誰かを呼ぶ声。
「神崎!こっち。」
ヒロアキ君が答える。
チラリと見えた、高い身長。メッシュ金髪、足長、見たことある顔。
「モデルさんだぁ。」
最近テレビでも引っ張りだこのモデル。顔だけじゃないと評判だ。
「あー!ボス発見。ついでにサブボスも発見!!」
「俺の扱い地味に酷いねー。」
乾いた突っ込みが入るが、それに気を取られてる余裕が無くなった。
目が合った瞬間から殺気がビシバシ、痛い。
「サブボスー?そこのサブボスより特徴無い顔は誰ー?どっかで見たことある気がするんだけどー。」
ヒロアキ君に話し掛けてるのに、俺からは一切目を離さない。
ちょっと、ほんのちょっと苛立つ。
「特徴無いとか言う割りには覚えてるんだねぇ?」
バカにするようにやり返す。
ちなみに、未だに退けられないヒロアキ君の上でだ。
「あはっ、腹立つ。・・・サブボスー、巧く避けてね?」
そう言うやいなや、走りだし俺の顔を狙って来た。
「っ!!危ねー・・・。」
そのまま避ければヒロアキ君にも何かしら被害が出そうで、反射で体を抱き込み、ベンチから転がり降りた。
「ヒロアキ君大丈夫?」
上にのしかかった形になり、安否を問う。オタクの悲鳴も聞こえたが無視だ。
「はい、邪ー魔っ!」
答えを聞く前に掴み上げられ、木に背を強か叩きつけられた。
「・・・ぅっげほっ。」
痛ぇ。
「なぁにやってんのアンタ?ウチのサブボスに手ぇ出すつもりー?微妙な趣味してるねぇ。」
「あははー、俺酷い言われよう。」
「こんなんでもぉ、一応ウチのサブボスだから、手ぇ出さないでくれるー?」
顔は笑いながら締め上げられていく。苦しい痛いし、うざいし。
苛立ちが募る。
「放せよカス。事情も知らないでごちゃごちゃ抜かさなーい。痛いんですけどー。」
わざと、意識して、馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「うわぁ、ムカつくー。一回死んどけ。」
「・・・ちょっ、神崎!?やめっ!!」
ヒロアキ君の制止は一切効果無く、腕が振り上げられ、美しい顔が歪む。惨めにやられたくは無い、とより強く睨み付けた。
すると、そのモデルの顔を思い出した。テレビや雑誌以外で、どこかの騒ぎの中で。
『綺麗な黒だ。』
「・・・番、犬?」
「はぁ?」
「ああ、あははっ、あははははーっ!!あの時の番犬君じゃん!!」
次から次に笑いが出て止まらない。
俺を異常だと思ったのか、モデル犬は手を離した。
「何こいつ?きもーい。ボス、サブボスー行こうよー。」
「楓、さん・・・?どうしたの?」
疑いの芽は育ち、育ち、育ち・・・確信に変わった。
「俊さんは元気ー?」
視線を後ろのオタク・・・もとい俊さんに送る。
その言葉にモデル犬も俺を思い出したのか吠えてきた。
「てめぇ、あの時俺等から総長奪ったヤツか。」
「酷い言い掛かりだなぁ。俺はナンパされただけなのにー。」
クスクスと笑いながら、余裕が出来た俺はヒロアキ君に手を伸ばした。
「ヒロアキ君、大丈夫?」
「・・・あ、ありがとう。」
ヒロアキ君を引っ張り上げ、そのままの勢いを殺さず自分の腕に閉じ込めた。
「ちょいちょいちょい!!何やってんの?!」
「きゃーっ!!・・・ゲフッ」
オタ・・・俊さんの悲鳴?をBGMにヒロアキ君の抵抗。でも、これくらいなら押さえ込むのは楽勝。
「ヒロアキ君、本当に看病ありがとぉね。助かっちゃった♪」
「サブボスから離れろ。」
余裕があるからこれは無視。
それよりも、ヒロアキ君のジーンズの後ろポッケに入っている何か堅いもの。
「また来たら、遊んでくれる?」
「わ、わかったから、放して!」
そうモゾモゾしている間に気付かれないようにそれを抜き取る。
何かのゲームみたいだ。
「何この状況・・・。」
「ふふ、ごめんねー。ちょっとギュってしたかっただけー。」
そう言い、やっとヒロアキ君を放した。
「サブボスー大丈夫だったぁ?後ろの貞操は・・・ごめんなさい。」
土下座する犬と戯れるヒロアキ君。
「これで文句無いでしょーワンコ君。つーか、飼い主一人増えて良かったね♪」
「うるさいお口ー。その口、特徴無い顔と一緒に傷だらけにリメイクしてあげよっかぁ?」
少しだけ殺気の薄れた様子に笑える。
「遠慮しときまーす。」
そう言い、俊さんが居るほうに足を進める。
手には、昨日買った猫がモチーフの指輪。目にはピンク色のガラスがはめ込んである。
「オタク君、騒がしくしてごめんねぇ。」
俺が“オタク君”と言うと、微かに安堵の色を見せるワンコ、と、何故かヒロアキ君。
「とんでもないですにょ!!不良×平凡。ヤンデレワンコ×不良。パラダイスでしたっ!!」
「ふふっ、パラダイスなら良かったぁ。」
二人に気付かれないように、無理矢理指輪を握らす。
俊さんはその指輪を一瞥すると、眼鏡がズレ、あの頃と同じ視線で。呟くようなあの頃と同じ声で。
「綺麗な黒だ。」
ああ、だからこの人は・・・
人を惹き付ける。嫌味なほど。
その魅力に引きずられそうになるが、引きちぎるように振り切る。
「・・・ヒ、ロアキ君、俺帰るね。」
「え?!・・・はぁ。」
「ありがと。また縁があったら・・・ね。」
縁なんて仕掛けるものだけどね、なんて言葉は呑み込んで、3人から見えなくなるぐらいまで公園の奥に進んだ。
やっと1人になって、息をつく。耳を擽る風が気持ちいい。
口を開く、サワサワと木の揺れる音に乗せて、
「ニャンコの首輪のお返し。それと、また、会いに行くから。今度はヒロアキ君のカセットを返しに。」
届くように。
常人ならばきっと届かない囁きも、
「俊さんなら聞こえてるよねー。俺のこと知らない振りしたんだ。聞こえてなきゃ、許さないから。」
きっと、聞いてくれる。
「次は、ちゃんと、俺に会ってね。」
姿は偽らなくて良いから。あの眼差しを、声を頂戴?
◆◇◆
後日、勲塔学園の生徒寮で、
「ベストエンディングが出ない。しかも、リバ設定まであるとは…“イケナイ関係〜秘密の風紀委員〜”恐るべし。」
と呟きながら、ベーコンとレタスを大量に買い込む楓が見られたとかそうでないとか・・・。
←いやん(*)(#)ばかん→
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