帝王院高等学校
 ├3┤☆クム様







ゾクリッ


悪寒とも快感ともつかない感触が背を這った。
微かに聞こえたのは、荒々しすぎる追悼歌。
美しく冷たい音。

背を流れる汗が止まらない。


「・・・俊、さん?」


今すぐ走って戻りたい。
まだ間に合う。
今ならきっとこの声が俺を包んでくれる。
ただ、そうすれば二度と


「逃げられない、かなぁ。」


それとも、すでに離れた猫の事など興を削いだだろうか。
所詮俺は、多く擦り寄ってくる中の一匹にすぎない。


「やべぇ・・・泣きそー、とか乙女発言してもいいかなぁ。」


両手で顔を覆うと、聴覚以外の感覚はすべてシャットアウトされ、よりオーケストラが響いた。
しばしその音に身を任せていたが、それは突然止んだ。


「あーぁ、終わっちゃった。黒猫に捧げられた追悼歌。」


あの人の意識の中に“楓”は居ないかもしれない。
それでも、切に願う。



時の女神に口付けを。
留まりを知らない流れに愛を。
我が身ならばいくらでも切り売りしよう。
欲という名の願いを叶えてくれるなら。
女神よどうか、流れよどうか、この一時だけを掬って私にくれないだろうか。
女神が決まりを破れないというなら盗みに行こう。
流れが止まれば腐敗するというなら、その腐敗ごと飲み込もう。
でなければ・・・




「俺ヲ忘レナイデ。」



でなければ我が身は悪魔に売り渡し、魔の契約を行おう。
時を支配し流れを止め、あの美しき闇に我が身を映す。
秩序などもう関係ない。
腐敗などもう無意味だ。
あの闇の一画に“私”という名の永遠を。
満月だろうと新月だろうと決して変わらぬ永遠を。




「俺って詩人の才能あるかも。」


脳内で考えた詩に自画自賛。
しかし、それのおかげで少し頭が冷えた。


「俊さん。確かに俺は、そこに居るだろう番犬くん達には勝てないや。・・・だけどね、」


自然と笑みが浮かぶ。


「俺も大概狂ってるんだぁ。だからね、多くの中の一匹なんて許さない。“狂猫”なんて、新しいジャンルも素敵でしょ?」


新幹線の窓から見える月に微笑む。


「俊さん、大好き。“また”ね。」


忘却の彼方、泣き喚く猫は、満月と新月にのみ狂喜する。
己を流れに捕られぬように。
己の狂気を逃さぬように。

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