帝王院高等学校
5.白雪姫を演ってみないかい?
童話を舐めた帝王院お伽噺シリーズ(いつから)、とりあえずいつもの調子で白雪姫をやってみましょう。


とある帝王院城…では余りにアジアンテイストなので、ティアーズキャノン城にしましょうかね。あれ、いきなり格好良い雰囲気ですね。びっくりしました。嘘ですけど。
そんなティアーズキャノン城に、若く美しい聡明なお姫様が居りました。童話の定番ですね。



「おや、見ない鏡ですねぇ」


…ん?


「はい、皇后様の花嫁道具の一つで、是非とも姫様にお使い頂きたいと」
「笑止。私の美しさなど最早公然の事実ですよ」
「正しく仰る通りにございます」

鏡を運び込んできた兵士と姫の目が突き刺さる。鏡と言うより、透明な箱。

「輝くこの美貌は鏡に映る為ではなく、皆の目の保養となり世の雄達の白ご飯のお供になるべく存在しているのですミアモーレ!
  クーリングオフ万歳」
「因みにクール宅急便で明太子も届いておりますが、こちらも?」
「明太子パスタはパンにも米にも合いますねぇ、はい、判子」
「黒猫ハヤト便は着払いでーす、代引き手数料三万下さーい」
「おや、リーズナブルですねぇ」

息継ぎする間もなくスラスラ宣う白雪姫に、鏡を運んできた従者達は感嘆の息を吐いた。

「キャストが可笑しかねぇか、おい」
「おやピナタ騎士団長、ご機嫌よう」

白雪姫の警護役であるこの国一番の騎士団長が遠い目をしている。確かに彼の意見は正論だ。
何かが間違っている気がするのは、何故。

「白雪姫…しらゆきひめ…しらゆき…しらゆり………あ」
「どうかなさいましたか、ピナタ騎士団長」
「…気にすんな、白百合姫。」


タイトルを間違えました。
白雪姫ではなく白百合姫だったみたいです。すいません。


「鏡よりもお腹が空きました。フレンチトーストを20斤持って来なさい」
「はっ!」

さて、白百合姫の父親である皇帝陛下が近頃再婚した。相手はカルマ国の地味平凡ウジ虫なお妃のご様子。
自分の美貌にしか興味がない白百合姫にとっては、どうでも良い事です。フレンチトーストとロイヤルミルクティー以外に姫が目を奪われる事はありません。
花よりロイヤルミルクティー。団子よりフレンチトースト。
自分の美しさにしか興味がない白百合姫は未だ独身貴族、自分以上の美貌を持つ王子様に出会えていないのです。


それを嘆く影、一つ。



「皇后猊下、申し上げます」
「さくっと報告しなさい、イチ騎士団長」
「白百合姫閣下より例の鏡がクーリングオフされました」

一方、ティアーズキャノン最上階…ではなく地下最下層。
皇帝の癖に引き籠もりなカイルーク陛下を膝に乗せ、せっせっと耳掃除していたお妃が目を…いや、眼鏡を光らせる。

カルマ国から直々に連れてきた(勝手に付いてきた)赤髪の騎士が苦渋の表情を晒し、膝の上でゴロゴロしているニャンコな皇帝をぺちっと弾き落とした皇后がしゅばっと立ち上がった。

「俊、バファリンの半分を俺に寄越せ。有効成分は要らん」
「おのれ、妾の企みに気付いた様ですねィ白百合姫様!」
「年老いた皇帝に子供は姫ただ一人。…闇へ葬れば、ABSOLUTELY国は陛下のものっス」
「俺はまだ18だ」

蹴り落とされてもめげない皇帝が、黒縁眼鏡のお妃に抱き付きながら囁いた。突っ込むポイントがそこなのか気になる所だ。

「初日にクーリングオフされてしまうなんて…!大失敗にょ」
「やはりラインストーンをケチったのが失敗でした。もっとデコっとけば良かったっス」
「おまけの明太子をケチった所為かも!特売380円の明太子だったからかしら?!やっぱりワラショクの高級明太子じゃないとオタクなんか相手にしてくれないにょ!」
「セカンドよりまず俺を相手にしろ、俊」
「カイちゃんっ、暑苦しいからあっちいって!」

貧乏性なお妃様は夏場でも修羅場でも扇風機だけで頑張る腐男子だ。

「エアコンを付ければ良かろう」
「でも電気代がっ」
「俺が払う」
「イチっ、すぐにクーラー付けなさいっ」
「了解っス」

カイルーク陛下のクレジットカードを手にしたお妃が、その後のコミケで煌びやかな新刊を山程用意してきたと言う噂が囁かれた。



「ご機嫌よう。いつ見ても不細工ですねぇ、お義母様」

その一言で地味平凡ウジ虫オタクお妃…ではなく、お妃を溺愛しまくっている皇帝に城を追い出された白百合姫は、全く悲しむ様子もなく意気揚々と森の中を歩いていた。
自分の美貌にしか興味がない白百合姫、オタクにしか興味がない皇帝、ああ、親子そっくりだ。

「ふむ、鬱蒼とした樹海ですら私の美しさがあれば聖なる森林へ姿を変えます」

カルマ至上主義であるイチ騎士団長の思惑により雇われた暗殺者達が姫と共に城を出たのだが、野性の狼も野性のライオンも野性の不良(?)も逃げ出す姫にビビって、早々に逃げたらしい。
独りぼっちだが全く怖がる様子もない姫は時折華麗なターンを決めつつ、やがてお菓子で出来た山小屋を見付け、

「おや」

愉快な匂いを嗅ぎつけたのかフレンチトーストの匂いを嗅ぎつけたのか、優雅に眼鏡を押し上げた。

「うひゃ、今日も松茸とトリュフの野菜炒めかよ(´Д`)」
「うまそーだぜ」
「なーに、隼人君の松茸に何か文句あんのかあ、馬鹿猿ー」
「もぅ、ご飯の前に喧嘩しちゃ駄目だよぅ、ケンちゃん達ぃ。デザートには水羊羹もあるからねぇ」
「トムヤンクンが出来ましたよ、麻雀卓を片付けて下さい。…あれ?テーブルクロスが見当たりませんね」
「あん?確かイーストが干してたぜ」
「ああ、今日は天気が良かったからな。取り込んで来よう」

お菓子の家のテラスに七人のイケメン発見。庭先には家庭菜園も見えた。
お菓子を食べずに自給自足しているらしい。然し何とも和洋折衷だ。家の見た目は可愛らしいヨーロッパ造りだが、テラスには麻雀卓、軒先には風鈴がチリン。



さて。
愉快に目が無い姫は我が物顔でお菓子の家を乗っ取り、暫く幸せに暮らしていました。


「鏡よ鏡よ鏡さん?世界で一番眼鏡が似合うのは、だ〜れ?」
『はい、それは白百合姫です』
「当然にょ!」
『白百合姫以上の鬼畜攻めは存在しません』
「その通りにょ!」

叫んでから涙で眼鏡を濡らすお妃が、皇帝を弾き飛ばしベッドに潜り込む。

「何で出ていってしまったにょ白百合ちゃん!ぐす、妾が地味平凡ウジ虫オタクだからですかっ!ひっく、だから白百合ちゃんは…!今頃何処の肉の骨とも知れない誰かにっ!めそり」
『まだ1週間やで?そない心配せんでもええんとちゃうんか?アイツめっさ強いし』
「お黙りなさい!白百合ちゃんの寝顔写真を撮影させる為だけに夜業で作ったのにっ、このヘタレホスト鏡が!ダサホストが!」
『ダサホスト言うなや!のびちゃんが俺を閉じ込めたんやろ!』
「白百合姫の寝顔を撮影しあわよくば押し倒してくれると信じてたのにィ!役勃たずがァ!」

一部誤った表現がありました。お詫び申し上げます。

『役立たずってな…アルミホイル貼った透明な箱に俺を閉じ込めただけやんか。覗き穴から丸見えやし、クーリングオフされて当然ちゃうんかい』

呆れ顔のホストが手作りボックスで溜め息を吐いた。


「大変系です陛下!」
「ご報告があるっス、陛下」
「どーしたにょミズタマたん、みゆくたん」
「姫様が見付かった系なんですけど、」
「昏睡状態になってるそうです」

双子の近衛隊員が交互に口を開き、お妃の黒縁眼鏡がヒビ割れた。




「あーあ、だからフレンチトーストの匂いがするキノコは食べちゃ駄目っつったのにー」
「まさかあの地獄茸食ったなんて…(´`)」
「即死しなかっただけ奇跡だぜ」
「大飯喰らいが居なくなって清々しました。何処に埋めましょうか?」
「うめっ?!」
「桜ちゃんがショックで寝込んじまったじゃねぇか」
「寝ている様にしか見えないが、取り込んだばかりの布団を掛けておくか?」

お菓子の家の庭先に勝手に生えた花畑で、性格はともかく見た目は麗しい白百合姫が眠っていた。
白い頬には蝶が止まり、うさぎやら栗鼠やらが看取る様に姫を囲んでいる。


「待ちなさいピナタ騎士団長、それは私のフレンチトーストですよ」

寝言にしてははっきりとした台詞にイケメン達が揃って顔を見合わせ、とりあえず放置する事で一致した様だ。




「ん?」

そこに、白馬の王子様。

「何してんの、父さん。早く行かないと仕入れ間に合わないだろ」
「いやー、何か騒がしいとは思わないかいアキちゃん」

ならぬ、商人達で賑わうキャラバン。ラクダに乗ったアラブの大富豪風の美青年が朗らかに笑い、ラクダを引いていた少年が息を吐く。
この二人親子だが、父親の美貌は息子に伝わらなかったらしい。美人でもなければ不細工でもない、余りに微妙過ぎる少年がラクダの手綱を近場の樹に括り付け、父親が見つめている方向を見た。

「あ!女性が倒れてるっ」
「いやー、あれは確か白百合姫じゃなかったかなー」
「親父は此処で大人しくしてて、俺ちょっと見てくるから!」
「父さんに大人しくしてろだとー?偉そうに、父さんは黙ってたら死んじゃうんだよー」
「直ちに黙れ」

母親似の冷たい眼差しに晒され、美青年は無言で唇にチャックした。老いては子に従え、いやいや、キレたら家族の誰も長男には逆らえません。長男だけが腹黒くもなく平凡に育った様に見せ掛けて、鬼畜が逃げ出すSに成長していました。

「いってらっしゃーい」

羊の皮を被った…いやいや、平凡の皮を被った夜叉です。逆らえません。



「大丈夫ですかお嬢さん!」
「あ?何だお前(´`)」
「ワラショクの激安弁当の匂いがするねえ」
「見た目も匂いも安っぽい訳ですか」
「カワイコちゃんがやって来た。イースト、お茶出してやれ」
「桜の上から退け、ウエスト。手元が狂って茶葉とお前を間違えそうだ」
「セイちゃんっ、お湯を人に掛けたら駄目だよぅ!」

商人の息子は賑やかな小人達、ならぬイケメン達をぽかんと見上げ、頼んでもないのに倒れたお嬢さんが毒きのこを食べて死んでしまった(寝てしまった)事を説明された。
好物の緑茶を受け取りつつ、怒濤の展開に半分現実逃避している商人の息子は、仕入れ品に毒消しがあったかな、と首を傾げ、


「あ、昼飯用に持ってきた売れ残りのフレンチトーストが入っ、んんんーっっっ」

胸元からちょっぴり潰れた不細工な売れ残りパンを取り出して、呼吸困難。
七人のイケメン達が硬直する。

「騒がしいですねぇ、お昼寝していた私を起こすなんてもう怒りましたよ。ロイヤルミルクティーでも寄越しなさい」
「─────っ?!」
「おや、何とも残念なお顔ですねぇ王子様。私の美しさに目が眩みうっかり欲情したんですか?致し方ありませんね」
「なっなっなっ」
「然し腐っても猊下と言う諺がある様に、」
「腐っても鯛じゃなっかっけ?(´`)」
「潰れてもフレンチトーストの素晴らしさは不変ですよアモーレ」
「はいぃいいいっ?!」

唇を押さえ真っ赤な顔で後退る平凡商人の息子を、ガシッと掴む、白魚の手。健吾の突っ込みはイマイチ切れがない。
美しい姫は美しい微笑を浮かべ、


「では行きましょうか」
「何処に?!」
「王子様とお姫様のラストは宮殿での結婚式でしょう?今から父上の城を乗っ取りに参ります」
「はーっ?!」
「大丈夫ですよ、ちょっと猊下におねだりすれば陛下の意見などきっぱり無視して直ぐ様ハネムーンですからねハニー」
「誰がハニー?!誰と誰がハネムーン?!」
「さ、早く我々のスイートホームへ行きましょう、王子様」
「きゃー」



こうして、商人の息子のキス(無理矢理)で目を覚ました白百合は、心配の余り黒縁眼鏡を800個割っていた皇后猊下から歓迎のクネクネダンスオールナイト(26時間)を送られ、全く心配してなかった皇帝陛下を脅し(主にオタク母の力を借りて)ティアーズキャノン城を征服。

平凡商人の息子との婚約会見を優雅に華々しく開き、801個目の眼鏡を割った皇后猊下のデジカメフラッシュを浴び、幸せに暮らしましたとさ。



「ぎゃー」
「おやおや、初夜だと言うのに照れ屋さん」
「たーすけてー」
「大丈夫ですよ、めくるめく快感の世界へ誘って差し上げますからねぇ、ダーリン」
「きゃー」
「ミアモーレ!」


その日以降、ティアーズキャノン城には悲鳴が響き渡り、



「タイヨー王子ちゃん、早くお孫さんのお顔を見せてちょーだい!」
「面映ゆい」
「もう妊娠してるかも知れませんねぇ。そう言えば最近吐き気が…、フレンチトーストを30斤下さい」
「白百合先生っ、まさか赤ちゃんが?!」
「面映ゆい」


「…死にたい奴から吊されてみる?」


「「「すみませんでした」」」

←いやん(*)(#)ばかん→
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