帝王院高等学校
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君の心にはもう別の誰かが住んでいて。
その眼差しが僕を映していない事には気付いていました。


弱い人間なのです。
見放されたら迷わず逝くくらい。
惨めな人間なのです。
本当は全てが怖い。


『俊さん』


貴方は僕を見ている様で、その実全くの他人を視ていました。だから悔しくて、だから悲しくて、だから逃がしてあげたのです。


幸せそうに笑う貌が愛しくて憎かった。誰もの愛を一身に浴びた光の塊が羨ましかった。


夜には君が眩し過ぎるから。
僕には君が眩し過ぎるから。




手を離しましょう。
(弱い男だと君が見放す前に)
手を離しましょう。
(惨めな男だと君が憐れむ前に)

貴方は神聖な樹海の様でした。
大きく包み込む優しさを惜しみなく、惜しみなく、こんな男にすら。



「ね、総長」
「どうした、ケンゴ」
「ユウさんに喧嘩売った茶髪、覚えてる?」
「…どうかな」
「弱い奴には手ぇ出すなって、総長が言ったっしょ。だからユウさんは、肩がぶつかったくらいで殴り掛かってきたアイツを無視したんじゃぞ(´`)」

ステレオスピーカー、心を揺さ振るセレナーデ。
膝の上にママレード、真っ直ぐ見つめてくる『小悪魔』を視た。

「だから、ユウさんは負けたんじゃないんス。あんな弱い奴に手ぇ出す方が、」
「眩しいとは思わないか」
「…へ?(・・;)」
「悪ですら善と信じる、若さが」

天使など何処にも存在しない。
背後から巻き付いてきた『甘えん坊』の腕に息を吐いて、子守唄代わりのお伽噺をしよう。



「人魚姫は泡になりました。けれど本当は、王子様の隣に居る姫を殺し、王子様の愛を手に入れたのです」
「総長」
「俺は王子様か?」
「…俺があの餓鬼を殺すと思ってたんスか、総長」

囁く声音が耳元に。
かぷり、と噛み付かれて笑った。目の前に長い赤、引っ張れば前屈みになった『人魚姫』は眼差しだけに笑みを滲ませ、


「殺したら、アンタ泣いただろ」
「どうかな」
「…例え愛想だろうと、泣いただろ」
「俺は弱虫だからすぐ泣く」
「アンタの獲物を横取りする様な勇気、ないっスよ」

耳を撫でるセレナーデ、君に捧げる祝福の歌。
眠れ眠れ惨めな感情、羨望に追悼歌を。



「生まれ変わるなら、お姫様になりたい」

縋り付いてくる暖かい生き物を撫でた。天使など何処にも存在しない。此処には闇に魅せられた憐れな『狗』ばかり、



何からも囚われず、
何からも奪われず、
何からも惑わされず、
何からも揺さ振られない、

大人の男、なんて。
笑わせる。無邪気な天使は純粋に騙されてくれただろうか。あの無邪気に無尽蔵に注がれる親睦の情を跳ね退け、絶望に歪ませてやりたかった。
飼い主を奪われ嫉みに歪む飼い犬達を見るのが、如何に心地好かったか。



「…無邪気な光は、無慈悲に闇を貫くからな」


君が視ていたのは夢物語だと。
ほら、弱虫だから。伝える勇気など、何処にも。

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