帝王院高等学校
★クム様より
「もう、やめてくれ。」



心が軋むようだ。



「タイヨー…」

「もう、嫌なんだ!!こんなの!」


そう言い、足元に落ちていたモノを拾い上げ、顔の前に掲げた。


「っっ!!タイヨー、ソレを離せ。馬鹿な事を考えるな!それは、それは…」


その危険な行動を止めようと必死に叫ぶ。





「それは、僕達が夜なべして必死で書き上げた同人誌にょぉぉぉおおお!!!!」






太陽が涙目でギリギリと握り締めているのは、「Junkpot Drive」という名の雑誌。
表紙にはキラキラした平凡が、平凡なのにキラキラしている男が、美・黒髪ストレートに眼鏡を掛け、学ランを着ている男に押し倒されている絵が描かれている。



同人誌を持つ手に力が入り、どんどんと変形していく“強気平凡”と“鬼畜風紀委員長”。

二人の行く末―破られる―を阻止するために必死で手を伸ばす俊。

その様子を見て、太陽は最後に叫んだ。


「何で毎回毎回、“深夜の生活指導(R18)”のモデルが俺とあのド鬼畜変態白百合閣下なんだよーー」


そして、同人誌を破り捨てようとしたその時、一陣の風が吹き、いつの間にか同人誌は黒髪オタク(大)の手に渡っていた。


その不思議な現象に「またか…」とため息を吐いた太陽は、知らない間に、鬼畜風紀委員長のモデルになった“ド鬼畜変態白百合閣下”の腕の中に居た。



「カイちゃーん!タイヨーが、僕達の汗と涙の結晶を破棄しようとするにょぉぉお!!」

「案ずるな、俊。宝はすでに奪還した。イベントに出すなり、MOEの君を辱めるなり好きにするが良い。」


泣きながら抱きついてくるオタク(小)の頭を撫でながら、クシャクシャになってしまった同人誌の皺を必死で延ばしているオタク(大)。
もとい、万能な神様。


「おや、なぜ私の腕の中に相変わらず美しくない顔の持ち主のあなたが居るのでしょう?ところで、誰が“ド鬼畜変態”ですか。そんなに可愛らしくないことを言っているので、裸に剥いて押し倒したくなります。」

「あははー、取り敢えず離してください。てゆうか、ドコまで地獄耳なんですかー。」


女神も羨むような麗しい笑顔を浮かべた黒髪美形が、腕の中に閉じ込めた太陽を愛でるように話し掛けている。



太陽は後ろに抱きついている鬼畜を見、ダブルオタクを見、盛大に溜め息を吐き、呟いた。



「カオスやないか〜い!!」



このカオスをいち早く打開する策は無いだろうか、と辺りを見回し目に入ったのは…


「カイちゃん!この皺を加工したら、ちょっとエッチくなって良い感じにならないかしらん?」


そう呟き、眼鏡の奥を爛々と光らせたオタク。


一か八か…


「し、しゅーん!俊君、俊様、天皇貎下ー!!お、俺をここから連れだして(ゝ∀・)・・・オエッ。」


平凡が言っても一切の萌要素を含まない言葉に吐き気を催しながら言ったところ、今まで騒いでいたオタク(小)の動きが止まった。


「…俊、どうかしたか?」


オタク(大)が話し掛けるが、完全に動きは止まっている。
生きているのか心配になるほどだ。





「…助けたら、」

「え?」


微動だにしなかった俊が、やっと声を発した。


「助けたら、他に何かあるなり?」

「えっと…」


太陽がどう答えれば良いのか言い淀んでいると、俊が吠えた。


「萌ーー!!ってするような、“タイヨーからのハグ券”とか、“タイヨーからのチュー券”とか、“二葉先生との特濃の絡みを見せてくれる券”とかは無いのか聞いてるにょー!!!」

「俊、キスなら俺が…」

「カイちゃんは黙ってるなり!!タイヨー!!」


オタク(大)死す。


「えと、えと、わかった!!俺からのハグ&キス券20枚綴りでどうだ!!」


太陽は俊の勢いに押され、叫び返してしまった。
このカオスを抜け出すために。

そして、その返事を聞いた俊は…


「きゃーっ」


眼鏡を割り、いや自然と割れて、鼻血を吹き出してしまった。


「ダメか…」


作戦は失敗かと溜め息を吐き出した。

取り敢えず、さっきから嫌味の一つも言わない後ろの鬼畜をなんとかしようと思い、声を掛けようとしたとき、視界がぐるりと回り、誰かに横抱きされた。


「俊…?」

「安心しろ太陽。」


それは、出血多量と器物破損を乗り越えた俊だった。


「あれー?いつの間に…しかも本名だし。」

「太陽は俺が幸せにする。他の攻め’Sには任せられない。」


太陽に優しく囁きかけた。

そのあまりの男前っぷりに、太陽は顔を真っ赤にし、俊の胸に顔をうずめるほかどうしようもなくなってしまった。


「はははははっ。悪く思うなよ、俺様攻め(候補)、鬼畜攻め。どうやら萌の神に愛されたのは俺だったらしいなァ。」


そして、ビシッと二人に指を突き付けた。


「萌の神に愛されたくば、攫われた平凡受けを助けに来い!!来なければ、俺はこれからタイヨーと萌萌ランデブーだぁぁぁ!!!」


ぷはーんにょーん


萌の神に愛されたらしい俊は、平凡太陽を抱えたまま、人外のスピードで走り去ってしまった。






その次の日、帝王院では、意気消沈な神様と、なぜか怒り狂っている女神が、至る所で目撃された。

(くそっ!あんなに長時間腕の中に居たのに、何で俺はキスの一つもしなかったんだっ!!)

(俊…俺よりMOEの君の方が良いのか…?)

←いやん(*)(#)ばかん→
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あきゅろす。
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