帝王院高等学校
★英雄、白日に笑う☆クム様より
授業終了を告げるチャイムが鳴った。

眼鏡を掛けた親友に声を掛け、ジュースを買いにいこうと立ち上がった。

そのとき、無機質で柔軟性など皆無なはずの教室がグラリと歪み、



「タイヨーッ!!!」



と焦ったような親友の声を聞きながら意識が途切れた。





◆◇◆





現実味が無い青白い空間。



視線を前に向けると、カルマの総長と恐れられる親友が居た。

後ろには赤髪ワンコ、黒髪ワンコ、金髪ワンコ、橙髪ワンコ、緑髪ワンコが従っている。



そんな派手な連中の中に居ても、一際強く輝いているような親友。

これで(自称)平凡腐男子と言うのだから詐欺だ。





「俊。」



親友の名前を呼ぶ。

それに反応をして、首を少しだけこちらに回す。



違和感を覚えた。



いつもなら、名前を呼べば眼鏡を光らながら笑顔で走り寄ってくるはずだ。

しかし、今は総長の風格のまま、全くこちらに来ようとしない。



「しゅーん♪俊ちゃん、こっちへおいで〜。」



いつものようにヘラヘラとした笑顔を浮かべてみるが、あまりの雰囲気の違いにすぐ
引っ込める。



「タイヨー。」



態勢は変わらないまま掛けられた声。

もう一言も発することができない。



「やっぱり、俺たちは住む世界が違うと思うんだ。」





喉の奥に氷を詰められたかもしれない。

寒くて、苦しい。



「それに、オレと居ても危険なことばかりだ。」



「俊、待って…」



やっと声が出た。

この先に待つ言葉を少しでも遅らせたくて。



「タイヨー、ここでバイバイだ。」



少しづつ遠くなっていく親友だった後ろ姿。





「俊、俊!!待って、俺はっっ!!」





走っても走っても縮まらない距離。

嫌だ、嫌だ、嫌だ。

もう、灰色の世界のなか一人で生きていく勇気はもう無いよ。





◆◇◆





「タイヨー、大丈夫なり?」



目を開けると、鋭い目付きに黒縁の眼鏡。

保健室だと思われる白い天井に壁。



「しゅ、ん…?」



「タイヨーどうしたにょ?怖い夢でも見たにょ?唸されてたなり。」



涙が流れていたのだろう。

指を目元に持ってきて掬うような動きをした。



「タイヨーの涙…。めったに泣かない強気平凡の涙なり!初めて見る涙に攻め'sはキュンッ…ハアハアっ。タイヨー!いざゆかん!攻め'sを探しに行くなり!!」



いつものように1人で興奮して保健室から出ていこうとした。



その背中がさっき見た後ろ姿と重なる。



思わず俊の制服の裾を掴んだ。



「タ、タイヨーが僕の服の裾を、ハアハアッ。オタクでも良いかしらん?満足させれるかしらん?」



「あ、あはははー。なんだかなーついつい掴んじゃった。ごめんねー」



震えしまっている手をばれないように慌てて離した。

しかし、カルマのボスにはお見通しらしい。

素早く隠そうとした手を捕まれてしまった。



「タイヨー、手が震えている。怖い夢でも見たのか?」



誰もが震え上がるような鋭い視線。

その視線をまともに受け、なぜか安堵した。



「俊。」



確かめるように名前を呼んだら、視界がどんどん滲んできた。



「俊、俊、俊、俊。」



情けないなぁ、なんて思っても涙は止まらずに、ただただ名前を呼んだ。



「うん。」



「俺はさ、俺は、俊のワンコみたいにケンカも強くないし、料理もできないし、物凄い金持ちでもないんだ。」



「うん。」



「俺は、平凡だし、普通なんだ。」



何を言っているんだろう。

俊を困らせるだけなのに…。



「本当に一緒に居てもいい?こんな俺でも良い?俺を、俺を親友、」



最後まで言う前に、暖かいものに包まれた。



「俺はタイヨーに助けられたんだ。初めての友達で、初めての親友なんだ。俺の世界が鮮やかになったのはタイヨーのお陰なんだ。」



真っ直ぐに見つめられて涙が止まった。



「タイヨーの傍に居ていいのか、俺のほうが日々不安だ。タイヨーが居なかったら、俺はもう生きていけない。」



ホストも真っ青なセリフだ。



「俊、」



「なーに?」



いつものオタクに戻った親友が答えた。



「大好き。」



その言葉を聞き、俊の眼鏡が割れ、鼻血を出す。

見慣れた光景だ。

それが今は無性に嬉しい。



「あーぁ、もう仕方がないなぁ。スペアはどこ?」



「タイヨー」



制服をまさぐっていると、意識を失っていたはずの俊に声を掛けられた。



「僕もタイヨーが大好きです!!」



そう言って、凶悪な顔を両手で隠した。



ああ、どうしよう。

こんなにうれしい告白は初めてかもしれない。



俺が初めて告白した相手は、不良で、そのボスで、平凡腐男子だけど…

俺にとっては、灰色の世界から助けてくれたヒーローだ。



<おわり>

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