帝王院高等学校
4.赤ずきんちゃん演ってみよう
帝王院、もしもファンタジーでファンシーな赤ずきんちゃん世界観だったら?



「ユーイチ、ユーイチは居るかしら?」

やっぱ赤と言えば奴ではないか?

「何だ、呼び捨てたぁ好い度胸じゃねぇか。やんのかコラァ」

森と山に囲まれた村の端、山へ続く森の入り口にその家は建っている。

「一々突っ掛からないで下さいよー、仕方ないでしょーよ、パラレルなんだしー」
「煩ぇ、今ちょっと忙しいんだっつーの。カスタードクリームに火ぃ入れてる時は話し掛けんなって、いつも言ってんだろーが」

おやつはカスタードプリンらしい。

「おばあさんが具合悪いみたいなの。だからこのワインとパンと果物を山小屋のおばあさんへ、」
「喧しいわ山田、何で俺がテメーの命令なんざ聞かないかんねん」
「…イチ先輩、何で関西弁やね〜ん」
「煩ぇ、─────お前が行け。」


蹴り出されたお母さん、ではなく山田太陽が今回の主人公に決定、



「うそー、あんな平凡野郎が主人公なんてちょー萎えるー」

しそうな時、クレームが付いた様だ。

「意地悪狐…じゃなくて星河の君、こんな平凡野郎が主人公ですんませんねー」
「監督ー、キャストチェンジー。隼人くんのヤル気が空っぽになったみたいだからー、昼寝する役にして欲しいにょー」

狐耳に尻尾を生やした隼人がゴロリと寝転がり、大木役の裕也と向日葵役の健吾がブーイングらしい。

「ズルいぜ、俺なんかずっと立ちっぱだっつーのに」
「ユーヤはまだマシっしょ!俺なんかずっと空見上げてなきゃなんないんじゃぞ(´Å`)」
「二人も昼寝すればよいじゃんかー、どーせ21番君が主人公の話なんて誰も見ないんだしさあ」
「それも、」
「そうだな(´Д`*)」

「サヨナラ。」

中々に失礼な狐と大木と向日葵を余所に、オカン役を奪った佑壱から押し付けられた赤頭巾をかぶり大きなバスケットを抱えて、チビは歩き始める。



「ナレーション、チビって誰のコトかなー」


平凡はたまに地獄耳だ。


「ああ、赤ずきんちゃん、今日はどちらまでお使いですか?」
「あ、音楽家キリギリス役の錦織君、こんにちは。今日は山小屋のおばあさんの所まで、イチ先輩から押し付けられたお使いに行くんですー」
「貴方も苦労しますね」
「いやはや、毎日意地悪狐から逃げ延びてる錦織キリギリスさんには適いませんとも」
「「…」」

どうやら着衣が乱れているキリギリスは、今の今まで狐から襲われていたらしい。
キリギリスから逃げられてやる事がなくなった狐は昼寝中だ。奴が真面目に働く日は来るのだろうか。


生まれ変わったら蟻になって欲しい所だが。
女王蟻に生まれ変わりそうで怖い。



「心優しい赤ずきんちゃんへ、ほんのささやかなプレゼントを贈りましょう」

愛用のピアノに腰掛けたキリギリスが、繊細な旋律を奏で始める。

「貴方の道行きに幸多からん事を」
「どーも」

ぺこりと頭を下げた赤ずきんちゃんは、そのままBGMを背後に再び歩き始めた。



「どーんな時でもー、レーシングゲームはマリオカートー♪」

BGMはドレミの歌だったらしい。

「みーんな楽しくー、ファミコンしようー♪そーらに太陽〜、ラーメンにはメンマー♪しーんじられなーい、サヤエンドウは皮まで食べられる♪ちゃ、ちゃちゃちゃ♪」
「奴ー隷になればー、レパートリー増えるー、皆まで言うなー、ファイト一発ー♪」
「ん?」

歌声まで平凡な赤ずきんちゃんがノリに乗っていると、歌手レベルな歌声が聞こえてくる。
キョロキョロ辺りを見回せば、


「そーだダブルベッドにー、ラバータイプのコンド●ム、…っしゃ始めましょ、愛の営み〜♪」
「セクハラやないか〜い!」

赤ずきんちゃんはバスケットの中からオカン色の林檎を取り出し、野球ゲームで鍛えた投球フォームを見せた。
しゅっ、と放物線を描いた林檎は忽ち何処かでバコッと音を発て、



「アキ、林檎食わせてくれんならウサギちゃんに剥いて欲しいなー」
「こんにちは、意地悪狐のお兄さんの意地悪虎さん」
「あい?俺、虎なんだ?」

兄弟揃って金髪だからだろう。

「アキ、此処から先は人気が無い山道だぜ?何なら俺が付き添って、」
「逆に身の危険を感じるので失礼します自治会長、サヨナラ」
「ちょ、待てって!誰も草むらに連れ込んでヤっちまおうなんて言ってねぇだろ!」
「そう言う正直なトコ、結構好印象ですねー」
「え、そうか?」

晴れやかな笑みを浮かべ照れた様な表情を滲ませた虎は、



「カモン、猟師役の図書委員長。」
「呼んだか、赤ずきんちゃん役の左席副会長」
「猟師は普通ラストに出演する所すいませんが、そこの変質者を撃ち殺しておいて下さい。主に俺の為にー」
「アキ?!」
「了解、任せろ副会長。…悪いな、ウエスト自治会長。これも職務だ」
「ちょ、ちょ、ちょ、イースト、待て、落ち着け、俺とお前の仲だろーが!」
「そう、猟師と虎の間には深い溝がある様だな」



銃声音が響いた。



「ふ、峰打ちだ。」
「クラッカーを至近距離で放つとわ…やるな、図書委員長」
「恐れ入ります、口内炎の君」

バタンと倒れた虎に見向きもしない赤ずきんちゃんはそのまま森の奥へ進み、



「本当に静かだな…」

ひっそりと静まり返った薄暗い森を見渡し、何処か不安げに呟く。
然し神は、心優しい(※虎以外には)赤ずきんちゃんを見捨てなかった様だ。



「ぁ〜、こんにちはぁ、赤ずきんちゃぁん」

ふわふわ、ふわんふわん、小さな羽で花の妖精が飛んでくる。
甘い小豆色の髪はふわふわ天然パーマで、ぷくぷくとした小さな手をひらひら振っている。

「あ、桜の妖精さん、こんにちは」
「赤ずきんちゃん、もしかして山小屋のおばぁさんのお家へ行くのぅ?」

バスケットを覗き込んだ掌サイズの妖精へ、コクリと頷いた。

「そーだよ、ちょっとお使いでねー」
「此処から先はだぁれも居ないよぅ、一人じゃ危ないよぉ。狼さんやライオンさんが出るんだぁ」
「あー、うん、狼には慣れてる…気がするから、大丈夫さ」


何せ家にボスワンコ。


「でもぅ、」
「それより、妖精さんこそ気を付けなよ?そんなに小さいんだから危ないよ」

自分より小さい妖精に出会った赤ずきんちゃんは満面の笑顔だ。このままチビずきんちゃんで終わるのかと諦めモードだったのが、今や遥か昔の話になっている。


「本当に気を付けねぇ」
「アリガト、じゃ、またなー」
「ばぃば〜ぃ」

妖精からのプレゼントなのか、ひらひら桃色の花弁が舞い落ちてきた。
薄暗い森を淡く優しく綻ばせる桜の花弁に、不安だった心が解れてくるから不思議だ。



「丘を越え行こうよ〜、口笛吹きつ〜つ〜♪ふ、ふしゅー、ふー…」

赤ずきんちゃんは口笛が吹けない。


「ふー、ふー!…鳴らない」
「誰だ、喧嘩売ってやがる奴は」

やっぱり鳴らない口笛に肩を落とせば、山小屋までもう少しと言う分かれ道の反対側から、黄金の獅子がやってきた。

「テメェか、この俺様に喧嘩売りやがった命知らずは…」
「いや、別に今のは猫が威嚇する時の真似じゃなくて…」
「ガタガタ煩ぇ、…覚悟は出来てんだろうなぁ?」

完全なる言い掛かりで拳を鳴らすライオンが詰め寄ってくる。
後退りまくった赤ずきんちゃんは、然し背後の大木に背中を奪われ、キッと振り返った。

「藤倉っ、ちょっと邪魔!…と思ったら、本物の大木やないか〜い」
「逃がすと思ってんのか、テメェ」
「ひ、ひぃ、だから誤解なんですー、光王獅子!」
「煩ぇ、黙って死ね」
「きゃー」

涙目の赤ずきんちゃんが今まさにライオンの餌食になりそうな時、



「日向ぁ、…俺のフレンチトースト食ったの、テメェだなぁ?」

とんでもなく悪役チックな声音と共に、目前のライオンが青冷めた。

「あ、近所で一番のお金持ちの貴族役の人だー」

因みに本物の貴族はライオンの方だが、見た目貴公子な男から半ば乗っ取られてしまったらしい。
井戸端会議好きな近所のオバチャン達とオカンワンコが話していた様な覚えがある。

「私は末広がりの八枚焼いて下さいとお願いしましたよねぇ、高坂君。…なのにラッキーセブンな七枚しか見当たらない上に、シェフである貴方が居ないのは何故でしょうか、うふふ」
「ふ、二葉…、ご、誤解だ」
「五階も六階もあるか、…何で俺のフレンチトーストが一枚足りねぇのか、是非ともお教え願いてぇんだがなぁ?」
「スゴ、本物の二重人格だー」

赤ずきんちゃんは、表情こそ麗しい微笑を浮かべたまま口調と声音を変える器用な貴族に感心した。
ライオンから睨まれたが、何だか危ない気がしない。

「こ、焦がしたんだよ!テメェが早くしろ早くしろ煩ぇから、オーブンの温度間違えちまったんだっつーの!」
「…へぇ、私のフレンチトーストを焦がした、と?」
「わ、悪かったよ。謝ってんだから良いだろうが、今だって新しい食パン買いに出ただけだしよ、」
「あははははは、………この役立たずが、食パンを切らす駄ライオンには躾が必要だよなぁ?」
「ぎゃー」



ライオンの悲鳴に赤ずきんちゃんは合掌した。



「ふぅ、お腹が空きました。非常食のフレンチトースト十枚でも食べますか」
「携帯フレンチトーストなんかあるのかー。…なら何で光王獅子に焼かせたんだよ」
「おや、これはこれは赤ずきんちゃんではありませんか。あんまりに目立たない容姿をされているので、うっかり気付きませんでした、もきゅもきゅもきゅ」

フレンチトーストをはむはむしながら可愛らしく首を傾げる貴族に、出来れば一生気付いて欲しくなかった赤ずきんちゃんは乾いた笑みを滲ませる。
ライオンのお墓を作ってやりながら、


「死んでねぇっつーの。…失礼なチビだな、テメェ」
「…誰がチビだと?」

失言ライオンを素早く蹴り飛ばし、遣り遂げた笑顔だ。


「ナイスショット」
「有難うございます」
「で、また何故こんな山道に?」
「ちょっとお使いでー」
「ふむ、それはそれはお疲れ様です。是非とも道中、狼やらライオンやらに襲われないようお気を付けて」
「今まさにライオンを退治したばかりなんで、恐れるものはありませんー」

何せ狼には慣れてる。
フレンチトーストを片手に、もう片手でライオンを引き摺って行く貴族を見送って、間もなく目的地の道をひた歩いた。


森が途切れ、視界が開ける。
眩しさに目を細めて、小高い丘に建った小屋へ小走りに近付いた。

「ばーちゃん、俺だよー、赤ずきんちゃんだよー」
「自分で赤ずきんちゃんって言うなんてっ、正しくタイヨーにょ!ささ、早く入って来なさいっ」
「お邪魔しますー」

いつも通り、ではない様な気がするおばあさんの声に首を傾げつつ、まぁ良いかと小屋のドアを開く。
バスケットを抱え直し、こんもり盛り上がったベッドへ足を向けて、


「ばーちゃん、風邪引いたんだって?大丈夫かい?」
「けほけほ、ふぇ、大丈夫にょ、けふけふ、タイヨーが来てくれたからすぐ治るなりん」
「ばーちゃん、風邪引いたから声が変わってるんだなー。梅で作ったワイン持って来たから、飲みなよ。喉の通りが良くなると思うよー」
「頂くにょ」

ベッドのブランケットが持ち上がり、ぬぅっと手が伸びてくる。
グラスを手に取った赤ずきんちゃんは片眉を上げ、伸びてきた手がバスケットごと布団の向こうに消えたのを見た。


「ばーちゃん、何でいきなり髪染めてんの?」
「ふぇ、それは可愛いタイヨーに見飽きられたくないからにょ」
「ばーちゃん、何で眼鏡なんか掛けてんの?」
「ふぇ、それは可愛いタイヨーが良く見えるよ〜になり」
「ばーちゃん、…大量のパンと林檎と桃が一瞬で無くなったのは気の所為かなー?」
「ふぇ、お腹空いてたにょ、ぷはーんにょーんっ、平凡受けお代わりィ!」

がばっ、と布団を剥いで起き上がったおばあさんから、やはりがばっ、と襲われ掛けた赤ずきんちゃんは、



「病人がいきなり起き上がんな、熱が上がるだろー」
「ふぇ?えっと、あにょ、」

黒縁眼鏡なおばあさんをベッドに叩き付けて、体温計を手に、

「熱計るから口開けて」
「ふぇ?えっと、あにょ、あーん」
「42度?!全く、どうしたらこの熱で元気なんだよー」
「うぇ、だってタイヨーがお見舞いに来るってイチからメールがあったから…」
「だからって黒髪をわざわざ白髪にしなくたっていいじゃんよー。お洒落する必要ないだろ、孫が見舞いに来るくらいでさー」
「白髪じゃなくて、銀髪なり…。昨夜来た狼さんが銀髪だったにょ」
「狼?!」

危険な台詞に目を見開き、ベッドに張り付けたおばあさんの体をペタペタ触る。

「怪我はない?!大丈夫だったかい?!」
「はふん、ハァハァ、そ、そんなに触られたらっ、うっかりアレやコレがフライハイ!」
「怪我は…ないみたいだ。良かった」

ほっと安堵の息を吐いた赤ずきんちゃんに、動悸息切れが激しいおばあさんはきょとりと首を傾げた。


「タイヨー、心配そう?僕は大丈夫にょ、お風邪はお薬飲んだら治るにょ!昨日お風呂上がりにネサフして冷えちゃっただけなり」
「ネサフ禁止ー。じゃなくて、狼なんか家に入れたら駄目じゃん。今回は無事だったから良かったものの、」
「俊」

無用心なおばあさんの家には鍵なんて付いていない為、ノックもなくドアが開く。
二人揃って戸口を見やり、赤ずきんちゃんは青冷め、おばあさんは眼鏡を輝かせた様だ。


「ひ、ひぃ、お、狼っつーかっ、近所で一番の王様っ、神帝陛下!」
「ふぇ?王様?違うにょ、カイちゃんは俺様攻めですっ。男は皆狼なんですっ」

知らない者は居ない神帝の人知を越えた美貌が赤ずきんちゃんを睨み、興奮したおばあさんに近付いてひょいっと抱き上げる。

「何だこの人間は」
「僕の可愛いお孫さんのタイヨーですっ。ベッドから起き上がれなくなった僕のお見舞いに来てくれたにょ」
「ばーちゃん、何でこんなほったて小屋に神帝が?!」

遠野俊、最高傑作の山小屋は、段ボールと拾ってきた木の枝が原材料だった。

「えっと、あにょ、昨日の夜、ネサフしてたらいきなり入って来て、いきなりお嫁さんになれって言われたなり」
「初夜は済ませた。そなたが俊の身内と言うならば、俺の孫も同然と言える」

起き上がれなくなったのはネサフ冷えでも何でもなく、初夜の後遺症らしい。
愕然と口をパクパクさせる赤ずきんちゃんの前で、


「此度は大儀だ、ゆるりと寛いで行くが良かろう」

偉そうに吐き捨てた王様は、そのままお姫様抱っこでおばあさんを抱いたまま出ていき、



「な、な、な、…何だったんだ?!」
「すいません、郵便局ですー」

茫然自失の赤ずきんちゃんへ、手紙を片手にした郵便配達のお兄さんが声を掛ける。


「あ、川南兄」
「何だか招待状系なお届けものです、ハンコかサインが必要系かなー」
「あ、ハンコ無いんでサインします」
「あざーす」

受け取った封筒には、神帝陛下の結婚式を報せる招待状が入っていたとか何とか。





「おう、遅かったな。総長は大丈夫そうだったか?」
「大丈夫ってゆーか、…何か女王様になるみたいです、イチ先輩」
「はぁ?あ、何か昼間に手紙が来てたぜ。神帝が漸く結婚するらしいぞ、満月の夜に挙式たぁ、やるじゃねぇか」
「………先輩、神帝の子供になるんですねー」
「何ごちゃごちゃ言ってんだ、とっとと手ぇ洗ってプリン食え。風呂入ったら着替えて城に行くぞ、夕飯はそっちで済ませっか」
「………」





愉快な森の仲間達…否、カルメンと一部の貴族がその夜、煌びやかな帝王院城で暴れ回ったと後に風の噂で聞いた様な気がしないでもない。



「…現実逃避、現実逃避」
「おや、またお会いしましたね、赤ずきんちゃん」

冷めた目でそれを眺めながらチビチビ料理を味わっていた赤ずきんちゃんが、何処ぞの貴族にお持ち帰りされたとか何とか言う話は、神帝の花嫁が光らせまくったデジカメに記録されていると、まことしやかに囁かれているそうだ。




何はともあれ終了。

←いやん(*)(#)ばかん→
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