帝王院高等学校
├4┤★六七匹目
「……………ぐすっ、ずず、ずびっ」
「な、なぁ、ンな泣くんじゃねぇよ」
見る者の庇護欲を煽る泣き声が響いている。
傍らには片膝を付いた美形の姿があり、膝を抱えている後ろ姿を慰めているらしい。
「とにかく早く尻を隠しやがれ、風邪引くぞ」
「ぐすっ、ずず、ずびっ」
半ケツ赤毛が膝を抱えてぐずぐずしているが、それを慰めているらしい金髪が見るからに焦りまくっている。
その左手に、ペットボトル。
「通気口があって良かったじゃねぇか。誰のか知らんが、飲み掛けのコーラで流してやったからよ、証拠隠滅も完璧だろうが」
「…コーラ?ぐすっ」
「おう、あそこの柵の向こうのテーブルの上にスナック菓子と置いてあったぜ」
日向の指差す方向を見やった佑壱は、然し急激に硬直した。
見れば、てんこ盛りポテチとうんめー棒の山が見える。
「そのコーラ、…何て書いてある?」
「あン?コーラ赤毛兄、クソウゼェ名前じゃねぇか」
「………」
沈黙した佑壱に、ピンチを乗り越えた所為か、何だか優しくなったらしい殿下が鼻を鳴らし、
「ゼロなんざこの俺様がちょっと本気を出しゃ、一発ゴートゥーヘルだ」
「こ、こ、こ、」
こっこっ、喘いでいる佑壱を一瞥した殿下はその無駄に整った顔へ嘲笑を滲ませ、お前も兄貴に苦労すんな、などと労りのお言葉を述べてらっしゃいます。
このままピナイチ編突入かしらと思われた矢先、しゅばっと立ち上がったワンコが震え始めるのに片眉を跳ね上げた。
「高坂ぁあああああ!!!!!」
近寄った佑壱が肩を掴み、何だかイチピナの雰囲気だ。
近年稀に見る真剣な表情で日向を見つめ、
「コーラZEROは総長の代名詞だろーがぁぁあああああ!!!」
「あ」
ピシッ、光王子は急速に硬直した。
「どっ、どうする、どうするよ俺!考えろ、嵯峨崎佑壱ぃ!マズいぞ、どう考えてもマズいじゃねえかぁあああっ!!!」
「ま、ま、待て、今からコーラZEROをロット買いすんぞ!ダースじゃ間に合わねぇだろ!」
「寧ろ製造工場ごと買い取れっ!総長がキレたら殺されんぞ!」
「任せとけ!
セキュリティライン・オープンっ、コード『ディアブロ』より、日本全国のコーラZERO製造元を買い取る旨申し伝える!」
指輪を高々突き上げた王子に、縋り付くワンコの期待の眼差しが注がれたが、
『エラー、萌逃亡制御により、現在ご指定のコードは利用頂けません』
「「は?」」
『大人しくダブル俺様攻めのリバをお楽しみ下さい』
ブツっと途切れた回線にブチっとキレた二匹は、揃って中指を突き立てた。
中々に思考回路が似ているらしい。
「巫山戯けんじゃねぇぞボケ!」
「ざけんなハゲっ、意味不明な事を抜かしやがって…!」
「セントラルライン・オープンっ、コード『ベルハーツ』の命令に背くなら殺戮対象にすんぞ!」
「シークレットライン・オープンっ、コード『ファースト』だ、やんのかコラァ!」
今から戦争を起こしそうな勢いではあるが、
『エラー、セントラルライン並びにシークレットラインは現在、マスター萌皇帝の命により封鎖中です』
「「え」」
『コード:ベルハーツの殺戮対象にコード:萌皇帝を設定し、コード:ファーストの反逆を通告致します』
「ま、ま、待て!俺様のはただのジョークだジョークっ、シュンシュンを殺戮対象にすっかよ!逆に殺されるわっ!」
「わ、悪かった!大人しくしてっから、総長にチクんのは勘弁してくれ!」
「「「ぎゃーっ!!!」」」
正座し機械音声相手に土下座しそうだった二匹は、ガチャンと開いた入り口からポイっと投げ込まれた何かに目を丸くする。
「痛!(ノд<。)゜。」
「ぐっ、完敗だぜ…」
「勘弁してやー!職員会議があんねんやんか、遅刻してまうやろー!」
うさ耳、魔女っ子、ホスト。
───何だこのバリエーションは。
「ぎゃーっ、光王子が居るっしょ!!!Σ( ̄□ ̄;)」
「何でこんな所に…つか、何かあそこの壁濡れてるみたいだぜ」
「通気口発見!あかんなぁ、頭も入らへんサイズやわ…八方塞がりやないか…」
ズササっと壁ぎわまで後退ったうさ耳の足元、魔女っ子は濡れている壁の一部分に首を傾げ、教師は嵌め込まれた小さな格子窓を蹴り開けようとしたが諦めた様だ。
何故濡れているのか知らないだけ、彼らは幸せかも知れない。
「………先々代マジェスティ、その出で立ちは何だよ」
「裕也、健吾、お前らの趣味をとやかく言うつもりはねぇが、せめて俺の見えない所でやりやがれ」
「誤解やで副会長!これは俺の趣味とちゃうんやーっ!どうせなら粋なジャージとか機能的な服が着たかったんやで、ほんまは!」
「副長、オレの趣味は古城巡りっス。…つか、そっちこそそのカッコ何なんスか?」
「うひゃひゃひゃ、二人揃ってコスプレかよ!(//∀//) 高校生の癖に恥ずかしっ!(^mm^)」
日向と佑壱は、まずうさ耳を絞め殺す事にしたらしい。
「ぎゃーっΣ( ̄□ ̄;)」
「きゃーっΣ(´Д`*)」
うさ耳の悲鳴に、妖しい悲鳴が重なった。揃って振り向いた一同は、爛々と光輝く、光王子よりも輝く眼鏡を見たのだ。
「ふぇっふぇっふぇ!我が計画実現は近いにょ!」
「「「総長っ!」」」
「シュンシュン〜っ!」
「こら、のびちゃん!先生は職員会議があるんですよっ!」
「やっかましいにょ!そこで大人しく萌完遂まで見届けるが良かろうっ、ではさらば!」
マッハで消えたオタクを見送った一同は一気に肩を落とし、
「………今夜は飲むか、高坂」
「………コーラしかねぇけどな」
「総長のおやつ届かねぇ…!(;´∩`)/ ユーヤ、あのポテチ取って(~Д~)」
「面倒臭ぇ、副会長が一番腕長いだろ、取って貰えば良いぜ」
所変わって、
「何だこれは」
「テレビくんだよー、かっわいいだろ、カイ君」
「ほう、面映ゆいマスコットだ。俊の部屋で三匹ほど飼うか」
「いや、ペットじゃないからねー」
「ヒナ、カノ、イチと名付けるのはどうだろう」
「アハハ、………カイ君にとって、副会長も会計も書記もただのペット扱いみたいだねー」
何やら冷えきった笑みを零す太陽の姿と、何やら思案げな美形の姿がある。
「ふぇっふぇっふぇっ、捕獲じゃァアアアアア!!!!!」
「面映ゆい」
然し、突如巻き起こったハリケーンによって中央委員会生徒会長は検討虚しく服を剥がれ、硬直する太陽の前で惨劇が繰り広げられる。
「む!」
そして悪魔が振り向いた。
「…」
「…」
「コマンド、逃亡…っ」
素早く逃げようとした勇者は、然し悪の皇帝…いや、萌のオタクの前では余りに力不足だった様だ。
ガシッとブレザーの裾を掴む、何か。
振り向いた平凡は沈黙する。
「てへ☆」
「………アハハ」
「うふふ」
「アハハ」
「タイヨー」
「俊」
見つめあうと素直にお喋り出来ない雰囲気だが、
「コスいっとく?」
「助けてー」
見つめあった時点で、アウトだ。
六匹目逝っとく?
七匹目逝っとく?
←いやん(*)(#)ばかん→
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