帝王院高等学校
★夜明け前☆若月わかめ様より
追いかけても追いかけても追いつけない。
貴方はずっと途方も無い。
風が流れる、雲が去る。
夜の帳が下りてゆく。
こんな明るい街中じゃ、眩しくて星も見えないと誰かが言った。
ロマンチストじゃあるまいし、星なんて見てなにが楽しいのかと、下らない、吐き捨てた言葉は口に出さぬまま…ただ小さく息を吐く。
むき出しの顔を冷たい空気が刺すように寒い…冬の日だった。
貴方に会えなくなるなんて、この時はまだほんの少しも思って居なかった。そんな哀れなやつだった。
「イチ」
何処までも貴方の傍に居続けたい。
貴方が呼んだ時すぐに飛んでいける距離にずっと居たい。
だから貴方の隣に並びたい。
そう思う俺は…あまりに、無謀だろうか…。
信用されたい、信頼されたい、傍にいたい。
共に居たい、隣に立ちたい、追いつきたい。
貴方に。
ただ、貴方に。
貴方と言う存在に、近づきたい。
死の瞬間まで貴方の声を聞かせて欲しい。
名前を呼んで。
子守唄のように囁いて。
触れて欲しいなどと高望みはしないから。
ただ呼んで。
スタートダッシュは完璧に、風のように駆け抜けて。
鳥のように翼を広げ貴方を追いかけるから。
俺の知らないとこに行かないで。
駆けても駆けても貴方に追いつけない。
どれだけ早く駆けようと、どれだけ早く飛んだって、貴方はあまりに遠すぎて。
追いつきたい、近づきたい。
いつだってあんたの隣に立って。
あんたの何も見逃したくない。
全速力で駆け抜ける。
力尽きて足が折れても貴方を追いかける。
やがて立ち止まってしまっても。
きっとただ、笑うだけ。
やはり貴方はこんなにも、途方も無い。
風が流れる、雲が去る。
星が瞬き、貴方が去る。
高ぶりだけが渦巻いて、興奮だけが冷めていく。
寂しさだけが込み上げて…ゆっくりと、沈んでく。
貴方が去る。この瞬間が、一番嫌い。
手を伸ばす事が禁忌だと知っている。
あんたを縛る事はきっとできないと解ってる。
けれどどうか。
見えないところに行かないで。
追いかけても追いかけても追いつけない。
貴方はずっと途方も無い。
全速力で追いかける俺がバカみたいじゃないですか。
全速力で貴方を探す俺がバカみたいじゃないですか。
ゆっくり貴方は後ろを歩き、俺に話しかけていたってのに。
俺はあんたの背中すら見れない。
「イチ」
「イチ」
貴方はきっと俺を置いて行く。
貴方はきっと皆捨てて、行ってしまう。
待っていてはくれない。振り返る事はきっとしない。
いつか居なくなる事を恐れてた。必死に皆、あんたを引きとめようとしているのに気付いてますか。貴方の枷になりたいと、誰もが思っていると知ってるか。
けれど貴方を縛る事はきっとできないと、皆誰もが思ってる。
そして貴方は気付かない。そして貴方はあまりにアッサリ、消えてしまう。
そう言う人なんですあんたは、そう言う人ですよあんたは。
残されることばかり考えて、俺だけが焦燥していたけれど。
ともに行く事を思い描けないのは何故か。
それが俺と貴方との差なのだと、ずっと前から判ってる。
←いやん(*)(#)ばかん→
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