帝王院高等学校
★桃色吐息☆若月わかめ様より
「タイヨー…俺は気付いた」


 突然テーブルでイチの手作りおでんを軽く…いやタップリ5人前食していた俊が、テーブルに行儀悪く肘を付き指を組んで箸を持ったままそんな事をシリアスに言う。心なしか陰影が深く思えるのは気のせいか。ハードボイルド…?


「何に?」


 俊の思いつきはいつでも突然だ。今更何を言われても驚かな…くはないけど、それほど動揺はしなくなった。俺ってこんなに順応能力高かったかな。

 内心乾いた笑いを洩らしながら、鍋の中のカスを探るように箸を潜らせる。あ、昆布。


「タイヨーに見合う理想の攻を見つけるには、ただ待っているだけではダメなんだということに気付いたにょ!」
「あーハイハイ」

「そこで!僕はお見合いに行こうと思うにょ!!」
「あーハイハイお見合いね…ご飯あるかな…先輩ーご飯残ってます?」

「無い。生大根ならあるぞ」
「生で食ってどうすんですか」

「僕は生でも良いにょ!お刺身の下に敷いてあるアレは食べられるもの?」
「普通は食べないだろー」


「よーし、追加のおでん出来たぞ!鍋どけろー」

「「わーい!」」


 モクモクモクモク





「あーおなか一杯…あれ、俊は?」

「総長ならお弁当持ってモモ狩りに行ったぞ」
「今秋やないかーい、って、あれ…さっき何か言っていたような…」

「何だ、総長に何かあったのか!?」
「いや……そう言えば、見合いに行くとか、なんとか……」


「見合い!?どういうことだコラ!!そ、総長が見合い…?」


 何か計り知れないショックを受けているイチのことは放っておき、腕を組んでうーんと唸りながら考える。なんでモモ狩り。


「…………あ、萌え狩りか!?」


 そうか、萌えがなんたるかについて理解できないから、頭の中で都合よくわかる言葉に変換されてしまったのか…と言うことは、俊が行くのは美形の場所…!でもダメだ!俊は皆に狙われて…!


「俊が危ない!!」


 ダっと咄嗟に箸を掴んで駆け出した。
 その後をイチが慌ててキッチンから追いかける。


「おい山田、弁当ー!あ、やべ、噴いてる噴いてる!」


 危うく噴き零すところだった火を止め、しっかり後片付けと戸締りを確認すると、総長にプレゼントされた真っ白な新婚さんエプロンを脱ぎ、弁当を持って部屋を出た。









「ハァハァ、萌え狩りにょ。萌えが僕を呼んでるにょ!」


 弁当という名の5段お重を片手に、キョロキョロとメガネを光らせていると、前方から見知った和風美人が悩ましげに歩いてくるではないか!


「ああ、あの微笑を向けられながら鞭で打たれたいっ!」
「あの長いおみ足を包む靴になりたいっ!ああ、むしろ跪いてあの冷たい美貌に顔を踏まれたい…!!」


 勿論、俊ではない。

 気付かなかったが隣りに居たらしい大きなワンコが、頬を紅潮させ夢見るようにキラキラと目を輝かせ、その美人を見つめている。

 かく言う俊も…。


「ハァハァ、先生!先生!白衣を着て下さい!スーツを着て下さい!貴方なら女王様でも構いませんっ!」


 鼻水を垂れ流しながら異常に荒い息で草葉の陰からこちらに歩いてくる美形…叶二葉を見つめている。

 脳内では馬を打つ鞭をパシンパシンと慣らし素肌の上に白衣を着てネクタイを締め、足を組んで玉座に座る妖艶な二葉が形成されようとしていた。


「ハァハァ、何だか良く判らないものになってしまったにょ…色んな意味で怪しいにょ二葉てんてー」

「誰が怪しいのですか?」


 スっといつの間に真横に来ていたのか、耳元で囁かれ思わずオタクは飛び上がった。


「おい、今なんか生首が飛ばなかったか…?」
「よせよ、怖いじゃねーか…」



「落ち着きなさい天の君」
「落ち着いていられないにょ!腹黒攻めキタ!美人腹黒攻めにょ!美人腹黒×平凡…!ハァハァ、タイトルは【放課後保健室】!」



 放課後怪我をしたサッカー少年タイヨーが保健室を訪れると、何故か裸白衣の二葉先生が!その白く滑らかな素肌にドキンと胸を高鳴らせるタイヨー!攫われるようにベッドにイン!『貴方を待っていました』『せ、先生…俺…』。



「キャァアア!準備万端過ぎます先生ー!どんだけやる気満々なんですか先生ー!」
「………」

「そ、そしてそして、椿の花がポトリと落ちるにょ!」
「……天の君…」

「何故か万年布団に変わったベッド!散らばる着物!同じお布団の中で二人裸族!キセルを吸う二葉てんてー!シクシク泣くタイヨー!うぅ…そして二葉てんてーは言うにょ…『実は私達、兄弟なんです』」

「どんな設定やねん!」


 思わず突っ込みを入れてしまった二葉…かと思いきや、ゼェゼェと息を切らせたタイヨーだった。まさかの二葉先生黄金の右手で突っ込み!?と思った俊はなんとなくガッカリしたが、背後で中途半端に上げた右手をサっと背中に隠した二葉には気付かなかった。


「ゴホンッ、おや凡人風情がこの私の前で漫才ですか、私を笑わせるなど百億万年早い」
「誰が漫才か!貴方に構ってる暇はありません!俊!ちょっと俊!?俺の相手を見つけるとか何言って…アレ?」


 居ない。


「ほう、私の前で堂々と不純同性交遊の計画ですか…」
「はいはい」

「しかも相手は貴方如きうだつの上がらない凡人とは、相手も哀れと言うもの…」
「おーい俊ー!あ、あんなところに!」

「…………」


 聞いてない。

 二葉の言葉など全く聞いている様子はなく、ダっと駆け出してしまったタイヨー。皮肉に口を開いていた二葉は、心に冷たい風が突き抜けていった。


「………仕方が無い、学院の風紀を取り締まる者として、仕方なく…シカタナク、見届けましょう…別に気になるわけでは決して…」


 ブツブツ誰も聞いていないと言うのに愚痴るように呟きながら、タイヨーが消えて行った方へと足を向ける二葉…。
 俊が居たらきっとこう叫んだだろう。


 ツンデレ!





「二葉てんてーはダメにょ。実は禁断の兄弟愛だなんて…!タイヨーがかわいそうにょ!」

 その設定は全て自分の妄想だと言うことは忘れている。しかも途中から保健室は全く関係なかった。設定自体意味がわからない。


「シュンシュンー!」
「ピナタ!?」


 光王子こと高坂日向が何故か茂みの中からこんにちは。見事に着こなした制服は着乱れながらも、だらしなさなど全く感じさせない。それすらもお洒落のようだ。腰パンされたズボンのベルトをカチャカチャと止めながら、ニコニコと嬉しそうに笑っている。


「はう!もしや林の中でチワワとジャーマンスープレックス!?キャー!僕は腕拉ぎが得意ですー!」
「シュンシュンになら48手全部試しても…」

「待ってください高坂様ー!」

 言いかけた日向に、茂みの中から突然出てきたチワワがガッシリ腰にしがみつき声を遮った。


「おお!」


 目を見開き喜ぶオタク。


「放せこのっ!」

 引き剥がそうと相手の肩に手を掛けたとき、悲劇は起きた。


 ズル。


「キャアアァア!!!」
「だああぁあ!!!」
「ぅぶっ…」


 オタクの悲鳴が響き渡る。高坂日向を襲った悲劇…それは…。


「キャーキャーキャー!!!」
「し、シュンシュン!違っ…これは…」

「ウアァアアン、気持悪いにょー!」


 ドス、気持ちいいくらいの右ストレートが必死にズボンを上げようとする日向の鳩尾に決まった。


「おぐっ…!」
「ウワァアアン、モザイクトーンが無いなら黒ベタでー!」


「ま、待ってシュンシュンー!カムバーック!」


 ダっと泣きながら走り去る俊。痛みに悶えながらも追いかけようとするが、足を取られ無様に地面に突っ伏す。

 振り返れば気を失っているらしいチワワがズボンを掴んだままで…必死にズボンを上げようと引っ張っているところ、一人の平凡が小走りに横切った。


「………」

 あれは光王子こと高坂日向……え、ていうか何で丸出し…?


「何見てんだよ!!ぶち殺すぞてめぇ!」

 うわ、目があった!でもそんなスッポンポンじゃ怖くない!石投げても良いかな…。


「ッハ!それより俊だ!」


 石を拾おうとするのを止め、ダっとスピードを早め後を追う。

「でも意外とお尻は可愛かったな…」


 箸を片手に走りながらポツリ、タイヨーは思った。



 その少し後叶二葉がその横を通り過ぎる。

「おや、校内で堂々と下半身露出とは…変態ですか?」
「もう変態でも何でも良いから、これをどけろぉお!」

 このチワワ、見かけによらず力が強かった。いや、むしろ気を失っても掴んでいるとは執念の成せる業か…。


「ふむ、不純同性交遊の現場でしたか…」
「どっちでも良いからタスケテチョーダイ!」

「まぁ良いでしょう。これは貸しですよ」
「っく、でけぇ貸しだよ…」


 ようやく下半身を隠せた日向だが、去り際の俊の言葉にズーンと暗くなる。下半身を見られた事は仕方が無い。事故だ。いずれ見せたいとか思っていた。いやむしろシュンシュンの下半身が見たい。できれば尻を拝みたい。いや全身あますとこなく弄りたい。

 そんな事を思っていたが…。


「気持悪いって言われた…ショック…」


 誰に言われてもそりゃぁ相当ショックだが、好きな子から言われたら尚更…ショックは計り知れない。

「ハァアア…」


 盛大な溜め息を吐く日向の横、いつの間にか居るのは気を失っているチワワ以外は居なかった。秋の冷たい風が身に沁みる…。





「ワァアアン!」


 あんなに可愛かったピナタが、ピナタが…いつの間にあんなに大人になって…!でも、でも…僕のとなんか違ったにょ!気持悪かったにょ!変態さんにょ!象さんのお鼻は大きかったにょ!色が違ったにょー!!

 怖かったっっ!!!


「大人なんてっ!」

「し、俊っっ!」


 何で乙女走り!?気のせいか少女漫画みたいな背景になってる!?
 ようやく追いついたけど…何か深く考えたくない事を口走ってるし!

 声かけたいけど、かけられないよっ!!


 一瞬だけ大切な親友を赤の他人にしたタイヨーだった。






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