帝王院高等学校
1.もしも神威が貧乏だったら。
帝王院神威は貧乏だ。
なのに何故か日本が全国、いや、世界に誇る超有名高校の生徒会長などと言う役職に納まっているのには理由がある。

今はただのしがない小説家である父が、帝王院財閥の御曹司だったからだ。
父は小説家になりたい一心で家出したらしい。セレブ育ち故に世間の荒波を知らなかったのだ。



「…何だその設定は」
「旦那様、坊っちゃんが貧しい庶民となる為には致し方無い事でございます。ルーク坊っちゃんの為にお忍び下さい」
「小説家か…。ふむ、ならば今暫し業務は嵯峨崎に任せ私は万年筆を握ろう」
「帝都様、ペンネームはどうなさいますか?」
「みーちゃんで良かろう」



さて、莫大な財産を捨て情熱のままに投稿しまくった父は、今でこそそこそこ連載を任せて貰え始めた作家だ。
然し、ほんの数年前まで全くの鳴かず飛ばず、明日の生活費にも困る様な生活を続け、妊娠した妻に苦労ばかり掛けまくり、



何やかんやで今や父子家庭。
跡継ぎが居ない帝王院から引き抜かれた息子は、父そっくりな超絶美形に成長したが、




「今日は卵1パック59円か…。一人1パックまでとは、面映ゆい」

外見からは想像も出来ない貧乏性だった様だ。
帝王院の制服を優雅に翻し、全寮であるにも関わらず木造二階建のアパートである実家から徒歩通学、途中にある庶民の味方スーパー笑食、通称ワラショクで買い物し帰宅する。

それが帝王院神威、中央委員会会長の習慣だった。
次期帝王院財閥会長とはとても思えない。


「過度の贅沢は身を滅ぼす。…トイレットペーパーは古紙回収で貰おう」
「おや、今日も1パック890円と言う激安明太子は売れ残ってますねぇ。私が小銭を持っていたら買い占めて差し上げたものを…」
「クレジットカード持ってる高校生が何処にいますかー…」
「此処に居ますよ。…おや?そこに見えるは帝王院さん宅のカイカイ?」
「久しいな、山田さん宅の二葉さん」

卵を抱えられるだけ抱えた結果、8パックも独占している神威はアパートの隣にある巨大マンションに住んでいる新婚さんと顔を合わせた。

「新婚さん?!え、ちょ、新婚って何?!」
「パラレルですからね」
「異次元だからな」
「どっちが嫁?どっちが旦那?…あはは、山田さん宅の二葉さん、ってどう言う意味…?」
「うちの旦那様は恥ずかしがり屋の照れ屋でしてね」
「面映ゆい」


さて、いつも混雑しているレジも漸く神威の番が回ってきた。
良く見ればレジのお姉さん、ならぬお兄さんに見覚えがある。



「次の方どーぞ、お待たせしましたなり〜」
「…天の君?」
「59円が一点、…あらん?」

キラキラ眩し過ぎるスマイル0円でバーコードを読み取るエプロン姿、先日入学したばかりの俊ではないか。


「カイちゃん?ワラショクにカイちゃん?はふん、昨日夜更かしし過ぎたかしら、白昼夢が…」
「俺は自宅通学だ」
「そうなの?あっ、カイちゃん卵はお一人様1パック限りにょ!8パックも持ってきちゃめーにょ!」
「良いのよ遠野君!」

如何にもオカ………人の良さそうな店長が赤毛を揺らしながら走ってくる。


「アタシ、イケメン大好き!カイカイはアタシ達のアイドルだもの、卵くらいおまけしてあげて!あっ、インスタントラーメンもおまけよ!」
「店長狡い!私だってカイカイに触りたーい!店内販売のハンバーグ持って帰って!」
「今買ったばかりのサンドイッチ持ってお帰り、坊や。じいさんの若い頃に生き写しじゃないか…ポッ」

わらわら寄ってくる女性達にもみくちゃになった俊の黒縁眼鏡が吹き飛ぶ。








リーンゴーン






神威の左胸で何かが鳴った。



「天の君」
「はふん。眼鏡割れてないかしら?まだバイト3日目にょ、新刊印刷代を稼ぐまでは嫌われて辞める訳にはいかないにょ、めそり」
「俊」

卵もインスタントラーメンもハンバーグもサンドイッチも投げ出し、帝王院が誇る貧乏性会長はバイトレジ打ちの手を握り締めた。





「1パック890円の明太子を買ってやるから、結婚しよう」
「ふぇ?あの高級明太子ですかっ?」
「因みに父はみーちゃんと言う名の小説家だ。アシスタントに使えば良い」
「きゃ、きゃーっ。みーちゃんと言えば官能小説界の俺様会長にょ!ハァハァ、宜しくお願いします!」


そして二人の庶民は末長く幸せに暮らしましたとさ。







「………」
「カイちゃん、どうしたにょ?」
「焼き明太子入り愛妻弁当を作る夢を見た」
「カイちゃんの旦那様は幸せにょ」

←いやん(*)(#)ばかん→
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!